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★オーベリー村、蜥蜴神編★
88:芋の、話?
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「大変だぁっ! ぼっ、僕ぅうっ!! 食べられちゃうぅうぅぅっ!!!」
部屋に入るなり叫んだ俺を、グレコとギンロが白い目で見る。
グレコは既に寝巻きに着替えているし、ギンロはソファーの上でのべ~っと横になって寛いでいて……
つまり二人とも、緊張感の欠片も無い姿である。
「え……、何言ってるの? 幻覚でも見た??」
「食当たりでもしたか?」
なっ!?
酷いよっ! 二人ともっ!!
ギンロはさっきと同じ事言ってるし!!!
「台所でシシ婆さんが、誰かと話してたんだ! それも人間じゃない、大鎌を持った豚みたいな大男!! か、皮を剥いて……、丸裸にするって!!!」
ガクガクと震えながら、必死に訴える俺。
さっき、胃の中のものは全部下から出たはずなのに、口から何か飛び出てきそうだ。
「豚みたいな大男? お孫さんかしら?? いったい何の種族なのかしらね??? それよりモッモ、人間じゃないって……、そりゃそうでしょうよ。人間なんて、この大陸にはいないはずよ。まさかシシさんの事、人間だと思っていたの?」
小馬鹿にしたようにクスッと笑うグレコ。
えっ!? どういう事!??
グレコは、シシ婆さんも人間じゃ無いって言いたいの!?!?
てか、人間が、この大陸にいないって……、えぇえっ!?!??
訳が分からず、パニックになる俺の脳内。
「何か、聞き間違えたのではないか? 我もいるというのに、皮を剥いでモッモを食べようなどとは……、さすがに無謀であろ」
自信たっぷりな様子でドヤるギンロ。
そりゃまぁその通りだとは思うけど……
でも、あっちはギンロがフェンリルだって知らないしっ!
ギンロがめちゃくちゃ強い剣士だって事も、あっちは知らないわけだしっ!!
「でも! だって!! 聞いたんだもんっ!!! 聞き間違いじゃないもんっ!!!!」
信じてよグレコ! ギンロ!!
信じてくれないと……、泣いちゃうぞっ!!!
「そんな事言ったって……、どうするのよ? 今からここを出るの?? せっかくベッドで眠れるのに???」
そう言って、ベッドに横になり、布団にくるまるグレコ。
絶対にそこから出る気無いでしょっ!?
「ふむ。大事ないと思うが……。心配ならば、モッモよ、今宵は我が隣で眠ろうか?」
プルプルと震える俺を見て、ギンロは優しくそう言った。
「そうしてぇっ!!!!!」
二つ返事で答える俺。
ギンロ優しいっ! 一緒に寝ようっ!!
俺とギンロは、一つのベッドに並んで寝転んだ。
ちょっぴり狭い気もするが、ギンロの温もりをすぐそばに感じられるので、かなり安心出来る。
ギンロが掛け布団は必要無いと言うので、俺は身を守るようにして、布団を自分の体に巻き付けた。
これで良し……、皮なんか剥がれて堪るかってんだっ!!!
「ん、解決したならいいけど……。それよりモッモ! あなた、シシさんに自己紹介する時に、自分の事をピグモルだって言いそうになったでしょう!? 絶対に駄目だからねっ!! 今後は絶対に、自分がピグモルだなんて、死んでも言っちゃ駄目よ!!!」
突然、説教を始めるグレコ。
「え……、なんでさ?」
ロールキャベツみたいになった俺は、布団の中から顔だけを出して問い返す。
「なんでって、忘れたの? ピグモルがどうして絶滅したか……。ピグモルはね、野蛮な異種族の手によって、愛玩奴隷にする為に乱獲されたのよ。それなのに、見ず知らずの相手に対して、自分はピグモルだ~なんて……。言わない方が絶対にいいじゃないの」
あ~……、う~……、んんん~……
まぁ、他種族から乱獲されたっていうのは聞いた事あるけれど、それは過去の事だしなぁ。
その他種族、異種族ってのも、どんな相手なのか分からないし……
てか、まだ絶滅してませんよ!
ピグモルはちゃんと、生きてますよっ!!
「我も、異種族と関わる折には、自らを獣人と偽っておる。無論、無駄な争いを避ける為だ。モッモよ、お主もこの先旅を続けるにつけ、何か策を考えねばならぬな」
なるほど、そうだな……
ギンロみたいに、獣人です! で通じればいいんだけど、ピグモルに似た獣人が、この世界にいるのかどうか……
「大丈夫よ。この先モッモは、私の【従魔】って事にして旅するから」
あ~、なんかさっき、そんな事を言ってたね。
でも、えっとぉ……?
「その、『じゅうま』って何? どんな生き物なの??」
グレコに尋ねる俺。
「従魔はつまり、主人に付き従い、使役する魔物の事よ。魔力を有する者の中には、自分の身の回りの世話をさせる為に、魔力の無い獣に魔法で知性を持たせて、使役させる者がいるの。私の里では習慣化して無かったけれど、かつていたハイエルフの国では、従魔を持つ事が一般的だったらしいわ。だから、モッモはそうね……、野ネズミの従魔でいいんじゃないかしら?」
ほぉ~、なるほど、そんな事が……
でもなんだろう、俺今、凄く複雑な心境なんだけど。
「ふむ、それでいいのではないか? 従魔ならば、他者との関わりも極力避けられるであろう。全ては主であるグレコが対応する故、モッモ、お主は終始、黙っておれば良い」
ギンロはグレコの案に賛成のようだ。
うん、まぁ……、言っている事は分かるんだけどね。
俺の身の安全を守る為には、きっとそれが最適解なのだろう。
でもやっぱり、なんだろうな……
とっても良い案なんだろうけど、なんだかとっても……、とってもとっても、複雑だな。
モヤモヤとした違和感を抱えたまま、俺達の会話は終了した。
朝が来た。
光を遮るものがない草原の朝は、思っていた以上に明るく、眩しい。
そしてその眩しさが、今の俺の目にはかなり堪える。
窓から差し込む陽光に、俺は思わず目を細めていた。
昨晩、一つのベットの上で、ギンロと共に、ギンロにくっつく形で俺は眠りについた、のだが……
結局、あの台所の光景が頭から離れずに、ほとんど眠れなかったのだ。
なんかこう、これまでの傾向から鑑みるに俺は、旅先だとほとんど寝られない確率が非常に高い。
これは全くもって良く無い事なので、今後の為にも早急に改善策を考えねばなるまい。
まだベットの中でスヤスヤと眠る二人を、恨めしそうに見つめる俺。
すると窓の外から、ザッザッザッという、妙な音が聞こえて来た。
体に巻き付けていた布団から這い出て、眩しい陽光を手でかわしつつ、窓の側に立ち、外を見る俺。
そこにいるのは、何やら巨大な鎌を手に持った、大きな大きな生き物。
あぁあっ!?
あれは昨日のっ!??
台所でシシ婆さんと、俺を食べる相談をしていた、巨体豚人間ではっ!?!?
推定身長2メートル半、筋肉モリモリなその肉体は横幅がかなりあって、体重は間違いなく100キロを超えているだろう。
黒いデニム地のオーバーオールを身につけ、頭には麦わら帽子を被り、首には薄汚れた手拭いを下げているその姿は、まさに牧場主といった出立である。
そのお顔は昨晩見た通りの豚っ鼻で、一見すると豚顔の人間なのだが、顔の側面にある耳はやはり三角形の豚のものだった。
や、やっぱり……、人間じゃ無いんだな……?
豚人間……??
それとも、豚の獣人、とかなのだろうか???
ゴクリと生唾を飲む俺。
警戒しつつも、何をしているのかと相手を注視していたところ、どうやら彼は牧場仕事の真っ最中のようだ。
干していた藁束を鎌で細かく切り刻み、それを手押し車に乗せて、牛舎へと運んで行った。
しばらくすると戻って来て、井戸から水を汲み、家の周りの小さな畑に水を撒き始める。
するとそこへ、何処からともなく小さな小鳥が飛んで来て、彼の肩に止まった。
その小鳥に対して彼は、なんとも優しそうな顔で微笑んだのだった。
……う~ん、なんだろうな。
もしかして、昨晩のは、やっぱり聞き間違いなのかしら?
その後も、グレコとギンロが起きるまで俺は、何かと忙しそうに仕事をする巨体豚人間の姿を、見るともなく眺めていた。
「わっはっはっはっ! それは、お前さんの話ではねぇよぉ!! 芋の話だべ!!!」
芋の、話?
「んだぁ~、エッホは芋の皮がたいそう嫌いでのぉ。ツルッツルの丸裸に剥かにゃあ、食べられねんだわ。けんど、お前さんは昨晩、皮のついたままの芋でも美味そうに食っとっただろう? それをエッホに、小せぇのに偉いもんだわ~と、話しとったんだえ」
芋の、皮??
「芋の皮は剥くもんだべ!? おいは何も間違っちゃおらんべ!」
あ~、なるほど~、………そういうことね。
朝食の席で、シシ婆さんと、孫息子のエッホだと紹介された巨体豚人間に、大いに笑われる俺。
隣のグレコも、その横のギンロも、ほら見てみろと言わんばかりに、含み笑いをしている。
「それに、肉が食いたきゃもっとでかい奴を捌くべさ? お前さんは小ぃ~こすぎて、腹の足しにもならねぇべ。わっはっはっ!」
あはははは~。
笑えな~い、エッホさん、笑えないよそれ~。
聞くところによると、豚っ鼻のこのお二人、【ハーフオーク】という種族らしく、人間では無いとのこと。
【オーク】という種族は、前世の知識の中にも情報が残っていて、猪のような外見の種族だと記憶している。
ハーフオークは、つまりオークと他種族との交配種らしく、完全なるオークとは異なるのだとか。
故に、巷ではパントゥーと呼ばれる事もあると、エッホさんが教えてくれた。
「しかしまぁ、お前さんら、南から来たってか? あのおっかねぇ森に住んでんだべ?? ほれ、虫だらけんの……???」
おそらく、あの巨虫の森の事を言っているのだろう、エッホさんの表情はめちゃくちゃ険しい。
「あ~、えっと……。私たち、住んでいたわけでは無いんです。ちょっと……、立ち寄っただけで」
言葉を濁すグレコ。
さすがに、クロノス山のその向こうにある幻獣の森から来ました~♪ なんて、言えるはずが無い事は、俺でも理解出来る。
「んだども、あの森に立ち寄るたぁ、よほどの腕っ節なんだろうのぉ」
そう言ってエッホさんは、チラリとギンロを見た。
ギンロは、朝食の甘い蒸しパンが気に入ったのか、夢中で食べている為に、その視線には気付いていない。
するとグレコが……
「あの、実は……、私たち、北にある港町ジャネスコに向かう予定なんです。それで……、そこへ至るまでの間に、村や町はありますか?」
姿勢を正し、緊張した面持ちでエッホに尋ねた。
実のところ俺達は、港町ジャネスコに向かう、という目的こそ明確だけれども、そこに至るまでの道筋というか、どれくらいの距離があって、どれだけの日数がかかるのかとか、全てにおいて何も知らない。
グレコ曰く、エルフの隠れ里で情報をくれた元遠征隊の者の話によると、「4、5日かかる」との事らしいが……
さすがにその4、5日を、全て野宿(キャンプ)で乗り切るという事は避けたいと、グレコは考えているようだ。
やはり屋内で、ベッドで眠る事の心地良さは、何物にも変え難いという事だろう。
……まぁ俺は、ベッドがあろうが無かろうが、何か不安要素があると眠れないのだけどね。
小心者だから仕方がないよね~、はははは~。
「あぁ、村なら二、三あるでなぁ。おいも昨日、一番近くの村まで出掛けとったでよ。馬車で半日ほど行ったとこさ、猫型の獣人が暮らす村だべ。そこで良けりゃ、おいが馬車を出してやるで、食べたら行くかぁ?」
ん? おぉっ!?
馬車ですとぉっ!??
「いいんですか!? やったぁ♪」
「助かります、ありがとう!」
「かたじけない、エッホ殿」
予期せぬエッホの申し出に、喜ぶ俺とグレコ、ぺこりと頭を下げるギンロ。
いや~、良かった良かった~。
港町ジャネスコまではまだまだ距離がありそうだし、ずっと歩いて行くのかなって、かな~り心配してたんだよな。
ほら俺、一応最弱種族だから、体力も無いし、ついでにそこまでガッツがある方でも無いからさ。
いや~! 良かった良かった~!!
ホッと一安心し、胸を撫で下ろす俺。
その時だった。
何やらズボンのポケットが、ゴソゴソっと動いて……
んん? なんだ??
何かがポケットの中に……、はっ!?
わっ、忘れてたっ!!?
そう、俺のズボンのポケットには、あの植物型魔物、マンドラゴラが入ったままだったのです。
まさか、鳴き叫ぶのか!?
今ここでっ!!?
やっ、やめっ……、やめてくれぇえっ!!??
一人、あわあわと狼狽える俺。
しかしながら、マンドラゴラが鳴き叫ぶ事はなく。
ドキドキしながら、そっと視線を下に向けると……
ん? あれ??
なんか……、萎れてない???
ポケットから覗くマンドラゴラの頭に咲いている紫色の花が、知らない間に縮んで萎んで、力無く垂れ下がっていた。
部屋に入るなり叫んだ俺を、グレコとギンロが白い目で見る。
グレコは既に寝巻きに着替えているし、ギンロはソファーの上でのべ~っと横になって寛いでいて……
つまり二人とも、緊張感の欠片も無い姿である。
「え……、何言ってるの? 幻覚でも見た??」
「食当たりでもしたか?」
なっ!?
酷いよっ! 二人ともっ!!
ギンロはさっきと同じ事言ってるし!!!
「台所でシシ婆さんが、誰かと話してたんだ! それも人間じゃない、大鎌を持った豚みたいな大男!! か、皮を剥いて……、丸裸にするって!!!」
ガクガクと震えながら、必死に訴える俺。
さっき、胃の中のものは全部下から出たはずなのに、口から何か飛び出てきそうだ。
「豚みたいな大男? お孫さんかしら?? いったい何の種族なのかしらね??? それよりモッモ、人間じゃないって……、そりゃそうでしょうよ。人間なんて、この大陸にはいないはずよ。まさかシシさんの事、人間だと思っていたの?」
小馬鹿にしたようにクスッと笑うグレコ。
えっ!? どういう事!??
グレコは、シシ婆さんも人間じゃ無いって言いたいの!?!?
てか、人間が、この大陸にいないって……、えぇえっ!?!??
訳が分からず、パニックになる俺の脳内。
「何か、聞き間違えたのではないか? 我もいるというのに、皮を剥いでモッモを食べようなどとは……、さすがに無謀であろ」
自信たっぷりな様子でドヤるギンロ。
そりゃまぁその通りだとは思うけど……
でも、あっちはギンロがフェンリルだって知らないしっ!
ギンロがめちゃくちゃ強い剣士だって事も、あっちは知らないわけだしっ!!
「でも! だって!! 聞いたんだもんっ!!! 聞き間違いじゃないもんっ!!!!」
信じてよグレコ! ギンロ!!
信じてくれないと……、泣いちゃうぞっ!!!
「そんな事言ったって……、どうするのよ? 今からここを出るの?? せっかくベッドで眠れるのに???」
そう言って、ベッドに横になり、布団にくるまるグレコ。
絶対にそこから出る気無いでしょっ!?
「ふむ。大事ないと思うが……。心配ならば、モッモよ、今宵は我が隣で眠ろうか?」
プルプルと震える俺を見て、ギンロは優しくそう言った。
「そうしてぇっ!!!!!」
二つ返事で答える俺。
ギンロ優しいっ! 一緒に寝ようっ!!
俺とギンロは、一つのベッドに並んで寝転んだ。
ちょっぴり狭い気もするが、ギンロの温もりをすぐそばに感じられるので、かなり安心出来る。
ギンロが掛け布団は必要無いと言うので、俺は身を守るようにして、布団を自分の体に巻き付けた。
これで良し……、皮なんか剥がれて堪るかってんだっ!!!
「ん、解決したならいいけど……。それよりモッモ! あなた、シシさんに自己紹介する時に、自分の事をピグモルだって言いそうになったでしょう!? 絶対に駄目だからねっ!! 今後は絶対に、自分がピグモルだなんて、死んでも言っちゃ駄目よ!!!」
突然、説教を始めるグレコ。
「え……、なんでさ?」
ロールキャベツみたいになった俺は、布団の中から顔だけを出して問い返す。
「なんでって、忘れたの? ピグモルがどうして絶滅したか……。ピグモルはね、野蛮な異種族の手によって、愛玩奴隷にする為に乱獲されたのよ。それなのに、見ず知らずの相手に対して、自分はピグモルだ~なんて……。言わない方が絶対にいいじゃないの」
あ~……、う~……、んんん~……
まぁ、他種族から乱獲されたっていうのは聞いた事あるけれど、それは過去の事だしなぁ。
その他種族、異種族ってのも、どんな相手なのか分からないし……
てか、まだ絶滅してませんよ!
ピグモルはちゃんと、生きてますよっ!!
「我も、異種族と関わる折には、自らを獣人と偽っておる。無論、無駄な争いを避ける為だ。モッモよ、お主もこの先旅を続けるにつけ、何か策を考えねばならぬな」
なるほど、そうだな……
ギンロみたいに、獣人です! で通じればいいんだけど、ピグモルに似た獣人が、この世界にいるのかどうか……
「大丈夫よ。この先モッモは、私の【従魔】って事にして旅するから」
あ~、なんかさっき、そんな事を言ってたね。
でも、えっとぉ……?
「その、『じゅうま』って何? どんな生き物なの??」
グレコに尋ねる俺。
「従魔はつまり、主人に付き従い、使役する魔物の事よ。魔力を有する者の中には、自分の身の回りの世話をさせる為に、魔力の無い獣に魔法で知性を持たせて、使役させる者がいるの。私の里では習慣化して無かったけれど、かつていたハイエルフの国では、従魔を持つ事が一般的だったらしいわ。だから、モッモはそうね……、野ネズミの従魔でいいんじゃないかしら?」
ほぉ~、なるほど、そんな事が……
でもなんだろう、俺今、凄く複雑な心境なんだけど。
「ふむ、それでいいのではないか? 従魔ならば、他者との関わりも極力避けられるであろう。全ては主であるグレコが対応する故、モッモ、お主は終始、黙っておれば良い」
ギンロはグレコの案に賛成のようだ。
うん、まぁ……、言っている事は分かるんだけどね。
俺の身の安全を守る為には、きっとそれが最適解なのだろう。
でもやっぱり、なんだろうな……
とっても良い案なんだろうけど、なんだかとっても……、とってもとっても、複雑だな。
モヤモヤとした違和感を抱えたまま、俺達の会話は終了した。
朝が来た。
光を遮るものがない草原の朝は、思っていた以上に明るく、眩しい。
そしてその眩しさが、今の俺の目にはかなり堪える。
窓から差し込む陽光に、俺は思わず目を細めていた。
昨晩、一つのベットの上で、ギンロと共に、ギンロにくっつく形で俺は眠りについた、のだが……
結局、あの台所の光景が頭から離れずに、ほとんど眠れなかったのだ。
なんかこう、これまでの傾向から鑑みるに俺は、旅先だとほとんど寝られない確率が非常に高い。
これは全くもって良く無い事なので、今後の為にも早急に改善策を考えねばなるまい。
まだベットの中でスヤスヤと眠る二人を、恨めしそうに見つめる俺。
すると窓の外から、ザッザッザッという、妙な音が聞こえて来た。
体に巻き付けていた布団から這い出て、眩しい陽光を手でかわしつつ、窓の側に立ち、外を見る俺。
そこにいるのは、何やら巨大な鎌を手に持った、大きな大きな生き物。
あぁあっ!?
あれは昨日のっ!??
台所でシシ婆さんと、俺を食べる相談をしていた、巨体豚人間ではっ!?!?
推定身長2メートル半、筋肉モリモリなその肉体は横幅がかなりあって、体重は間違いなく100キロを超えているだろう。
黒いデニム地のオーバーオールを身につけ、頭には麦わら帽子を被り、首には薄汚れた手拭いを下げているその姿は、まさに牧場主といった出立である。
そのお顔は昨晩見た通りの豚っ鼻で、一見すると豚顔の人間なのだが、顔の側面にある耳はやはり三角形の豚のものだった。
や、やっぱり……、人間じゃ無いんだな……?
豚人間……??
それとも、豚の獣人、とかなのだろうか???
ゴクリと生唾を飲む俺。
警戒しつつも、何をしているのかと相手を注視していたところ、どうやら彼は牧場仕事の真っ最中のようだ。
干していた藁束を鎌で細かく切り刻み、それを手押し車に乗せて、牛舎へと運んで行った。
しばらくすると戻って来て、井戸から水を汲み、家の周りの小さな畑に水を撒き始める。
するとそこへ、何処からともなく小さな小鳥が飛んで来て、彼の肩に止まった。
その小鳥に対して彼は、なんとも優しそうな顔で微笑んだのだった。
……う~ん、なんだろうな。
もしかして、昨晩のは、やっぱり聞き間違いなのかしら?
その後も、グレコとギンロが起きるまで俺は、何かと忙しそうに仕事をする巨体豚人間の姿を、見るともなく眺めていた。
「わっはっはっはっ! それは、お前さんの話ではねぇよぉ!! 芋の話だべ!!!」
芋の、話?
「んだぁ~、エッホは芋の皮がたいそう嫌いでのぉ。ツルッツルの丸裸に剥かにゃあ、食べられねんだわ。けんど、お前さんは昨晩、皮のついたままの芋でも美味そうに食っとっただろう? それをエッホに、小せぇのに偉いもんだわ~と、話しとったんだえ」
芋の、皮??
「芋の皮は剥くもんだべ!? おいは何も間違っちゃおらんべ!」
あ~、なるほど~、………そういうことね。
朝食の席で、シシ婆さんと、孫息子のエッホだと紹介された巨体豚人間に、大いに笑われる俺。
隣のグレコも、その横のギンロも、ほら見てみろと言わんばかりに、含み笑いをしている。
「それに、肉が食いたきゃもっとでかい奴を捌くべさ? お前さんは小ぃ~こすぎて、腹の足しにもならねぇべ。わっはっはっ!」
あはははは~。
笑えな~い、エッホさん、笑えないよそれ~。
聞くところによると、豚っ鼻のこのお二人、【ハーフオーク】という種族らしく、人間では無いとのこと。
【オーク】という種族は、前世の知識の中にも情報が残っていて、猪のような外見の種族だと記憶している。
ハーフオークは、つまりオークと他種族との交配種らしく、完全なるオークとは異なるのだとか。
故に、巷ではパントゥーと呼ばれる事もあると、エッホさんが教えてくれた。
「しかしまぁ、お前さんら、南から来たってか? あのおっかねぇ森に住んでんだべ?? ほれ、虫だらけんの……???」
おそらく、あの巨虫の森の事を言っているのだろう、エッホさんの表情はめちゃくちゃ険しい。
「あ~、えっと……。私たち、住んでいたわけでは無いんです。ちょっと……、立ち寄っただけで」
言葉を濁すグレコ。
さすがに、クロノス山のその向こうにある幻獣の森から来ました~♪ なんて、言えるはずが無い事は、俺でも理解出来る。
「んだども、あの森に立ち寄るたぁ、よほどの腕っ節なんだろうのぉ」
そう言ってエッホさんは、チラリとギンロを見た。
ギンロは、朝食の甘い蒸しパンが気に入ったのか、夢中で食べている為に、その視線には気付いていない。
するとグレコが……
「あの、実は……、私たち、北にある港町ジャネスコに向かう予定なんです。それで……、そこへ至るまでの間に、村や町はありますか?」
姿勢を正し、緊張した面持ちでエッホに尋ねた。
実のところ俺達は、港町ジャネスコに向かう、という目的こそ明確だけれども、そこに至るまでの道筋というか、どれくらいの距離があって、どれだけの日数がかかるのかとか、全てにおいて何も知らない。
グレコ曰く、エルフの隠れ里で情報をくれた元遠征隊の者の話によると、「4、5日かかる」との事らしいが……
さすがにその4、5日を、全て野宿(キャンプ)で乗り切るという事は避けたいと、グレコは考えているようだ。
やはり屋内で、ベッドで眠る事の心地良さは、何物にも変え難いという事だろう。
……まぁ俺は、ベッドがあろうが無かろうが、何か不安要素があると眠れないのだけどね。
小心者だから仕方がないよね~、はははは~。
「あぁ、村なら二、三あるでなぁ。おいも昨日、一番近くの村まで出掛けとったでよ。馬車で半日ほど行ったとこさ、猫型の獣人が暮らす村だべ。そこで良けりゃ、おいが馬車を出してやるで、食べたら行くかぁ?」
ん? おぉっ!?
馬車ですとぉっ!??
「いいんですか!? やったぁ♪」
「助かります、ありがとう!」
「かたじけない、エッホ殿」
予期せぬエッホの申し出に、喜ぶ俺とグレコ、ぺこりと頭を下げるギンロ。
いや~、良かった良かった~。
港町ジャネスコまではまだまだ距離がありそうだし、ずっと歩いて行くのかなって、かな~り心配してたんだよな。
ほら俺、一応最弱種族だから、体力も無いし、ついでにそこまでガッツがある方でも無いからさ。
いや~! 良かった良かった~!!
ホッと一安心し、胸を撫で下ろす俺。
その時だった。
何やらズボンのポケットが、ゴソゴソっと動いて……
んん? なんだ??
何かがポケットの中に……、はっ!?
わっ、忘れてたっ!!?
そう、俺のズボンのポケットには、あの植物型魔物、マンドラゴラが入ったままだったのです。
まさか、鳴き叫ぶのか!?
今ここでっ!!?
やっ、やめっ……、やめてくれぇえっ!!??
一人、あわあわと狼狽える俺。
しかしながら、マンドラゴラが鳴き叫ぶ事はなく。
ドキドキしながら、そっと視線を下に向けると……
ん? あれ??
なんか……、萎れてない???
ポケットから覗くマンドラゴラの頭に咲いている紫色の花が、知らない間に縮んで萎んで、力無く垂れ下がっていた。
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ありがとうございます
主人公の神代理人(かみしろ りひと)はクラスの異世界転移に巻き込まれた。
転移前に白い空間にて女神イシュタスがジョブやスキルを与えていたのだが、理人の番が来た時にイシュタスの顔色が変わる。「貴方神臭いわね」そう言うと理人にだけジョブやスキルも与えずに異世界に転移をさせた。
ジョブやスキルの無い事から早々と城から追い出される事が決まった、理人の前に天照の分体、眷属のアマ=テラス事『テラスちゃん』が現れた。
『異世界の女神は誘拐犯なんだ』とリヒトに話し、神社の宮司の孫の理人に異世界でも生きられるように日本人ならではの力を授けてくれた。
ここから『異世界でたった1人の日本人、理人の物語』がスタートする
「『異世界でたった1人の日本人』 私達を蔑ろにしチート貰ったのだから返して貰いますね」が好評だったのですが...昔に書いて小説らしくないのでしっかり書き始めました。
最強の職業は解体屋です! ゴミだと思っていたエクストラスキル『解体』が実は超有能でした
服田 晃和
ファンタジー
旧題:最強の職業は『解体屋』です!〜ゴミスキルだと思ってたエクストラスキル『解体』が実は最強のスキルでした〜
大学を卒業後建築会社に就職した普通の男。しかし待っていたのは設計や現場監督なんてカッコいい職業ではなく「解体作業」だった。来る日も来る日も使わなくなった廃ビルや、人が居なくなった廃屋を解体する日々。そんなある日いつものように廃屋を解体していた男は、大量のゴミに押しつぶされてしまい突然の死を迎える。
目が覚めるとそこには自称神様の金髪美少女が立っていた。その神様からは自分の世界に戻り輪廻転生を繰り返すか、できれば剣と魔法の世界に転生して欲しいとお願いされた俺。だったら、せめてサービスしてくれないとな。それと『魔法』は絶対に使えるようにしてくれよ!なんたってファンタジーの世界なんだから!
そうして俺が転生した世界は『職業』が全ての世界。それなのに俺の職業はよく分からない『解体屋』だって?貴族の子に生まれたのに、『魔導士』じゃなきゃ追放らしい。優秀な兄は勿論『魔導士』だってさ。
まぁでもそんな俺にだって、魔法が使えるんだ!えっ?神様の不手際で魔法が使えない?嘘だろ?家族に見放され悲しい人生が待っていると思った矢先。まさかの魔法も剣も極められる最強のチート職業でした!!
魔法を使えると思って転生したのに魔法を使う為にはモンスター討伐が必須!まずはスライムから行ってみよう!そんな男の楽しい冒険ファンタジー!
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