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★オーベリー村、蜥蜴神編★

107:最大級落雷 !!

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 ミシッ、ベキベキベキッ!!!

 周りの木々をいとも簡単に薙ぎ倒しながら、巨大トカゲはクンクンと鼻を動かして、肉の在処を探っている。

 あぁあぁぁぁっ!? 
 やばいっ!?? 
 このままだと喰われるぅうぅぅっ!???

 恐怖のあまり、一歩も動けなくなる俺。
 姿が透明だから、そうそう見つかるわけではないと高を括っていたのだが……

『こっちかぁ~?』

 巨大トカゲは、ピンポイントで俺の立っている方向へと頭を向けてきた。

 ぎょえぇぇぇぇ~!!!!!

 顔の作りこそバーバー族と同じだが、その迫力や大蛇のごとし。
 巨大な爬虫類特有の、鋭い爪に鱗がびっしりの前足をズンズンと踏み出し、こちらへと近づいてくる。

 な、な、な、何か……、何かをどうにかしないとぉっ!??

 もはやパニック状態以外の何ものでもない俺は、腰にぶら下げていた万呪の枝を取り出して、巨大トカゲに向かって構え、両手でギュッと握りしめた。
 
 な、何か、のろ、のろのろ、呪いを……
 そ、そうだっ! とりあえず、小さくしちゃえっ!!

 精一杯、頭の中で念じる俺。

 小さくなれっ! 小さくなれっ!! 小さくなれぇぇっ!!!

 だがしかし……、巨大トカゲは巨大なまま。
 1ミリたりとも縮みやしない。

 なぜだっ!? 呪いが効かないっ!??

『ぬ~ん、見えぬ……、見えぬが、そこにおるなぁ?』

 ひぃいぃっ!? ばれてるぅっ!??

 あまりの恐怖に、体中から汗が噴き出て、前歯はカタカタと小さく音を立てながら震えている。
 静かな森の中で、見えないにしてもそこに何かがいると気付かせるには充分なほど、俺は自らをアピールしてしまっていたようだ。

『ふんふん……、鼠のような匂いじゃ~。鼠はそうじゃなぁ……、舌の上で転がして、ゆっくりと噛んで味わうのが美味い』

 美味くないっ! そんなの全然美味くないっす!!

「モッモ、どう? いた??」

 はっ!? グレコっ!??

 突然のグレコの声が聞こえて、俺は辺りをキョロキョロする。
 しかし、どこにもグレコの姿はない。

「ん? お~い、返事してぇ?? あ……、耳飾りだよぉ~? モッモ~??」

 あっ! そっか!! 絆の耳飾りっ!!!
 だがしかし……
 この状況では声が出せないっ!!!!
 どうにか、どうにか奴の気を逸らして逃げないと!!!!!

 足元をキョロキョロと探って、なんとなく良さそうな石を拾い上げる俺。
 これを、巨大トカゲの後ろ側へ投げれば、きっと後ろに獲物がいるって勘違いして、奴はあっちへ行くはずだっ!
 よぉ~し、投げるぞぉ~、投げるぞぉ~、……えいっ!!

 すると、俺の投げた石は、真っ直ぐ巨大トカゲの額に向かっていって……

 ベシッ!!!

『ぬがっ!? 何奴じゃぁっ!??』

 だぁあぁぁぁぁぁっ!? しまったぁっ!??

『もう容赦はせぬぞ……、姿が見えぬのなら、片っ端から食い荒らしてやるぅっ!!!』

 巨大トカゲは、無数の鋭い牙が生えた口を大きく開けて、周りの木々や地面の土諸共に、ガブガブと食べ始めた。

 はっ!? そんなの反則っ!??

 ベキッ! バキバキバキッ!! 
 ベキベキ……、ボキボキボキボキッ!!!

 巨大トカゲの口の中で、無残にもただの木屑と化していく木々。
 土は掘り起こされて、どんどんと足場がなくなって……、巨大トカゲの口はもうそこだ。

 あんな風に食われたら、俺の柔らかジューシーなお肉なんて一瞬でミンチになっちゃう!?!?

 思わず後ずさりをした俺は、例のごとく、ローブに足が引っかかって……

「おふぅっ!?」

 豪快に後ろへ倒れ込み、その拍子にローブが脱げて、姿が露わになる。

『ぬがぁ~!? そこにおったか、鼠めぇ~!!!』

 巨大トカゲの鋭い目が、ギロリと俺を睨みつける。
 そして、俺が立っている地面ごと食おうと、無数の鋭い牙が光る大きな口をグワッ! と開けた。

 ……あぁ、もう駄目だぁ。

 本日二度目の死を覚悟し、そっと目を閉じる俺。

 大丈夫、神様にもらった時空の指輪があるから生き返れる。
 三分前に戻って、巨大トカゲの尻尾を踏む前に、グレコたちの所へ引き返せばいいんだ。
 生き返っても、死んだ記憶と痛みが残るらしいが……
 お願いします、ミンチになどせず、一思いに飲み込んで下さい。
 ……アーメン。

『ぬぎゃあぁぁぁぁぁっ!!!!!』

 断末魔の叫びが響き渡る。
 さらば、俺のピグモル生よ……

「モッモ! 無事かっ!?」

 体を大きく揺さぶられて、俺はハッと我に返った。
 そこにいるのは、白いローブに身を包み、手には魔導書と杖を持った……

「カービィっ!?」

 どうなったのかと体を起こし、辺りを見回す俺。

「モッモ! 危なかったわね!!」

 隣には、弓矢を構える、髪の毛真っ金金のグレコ。

「離れていろっ!」

 前方で、こちらに向かってそう叫んでいるのはギンロ。
 いつものように、両手に剣を握っているのだが……、何やらその二本の剣の様子がおかしい。
 二本の剣にはメラメラと、青く燃え盛る炎が宿っているのだ。

『ぬぐぅ~、小癪な……。全員まとめて喰ってやるぅっ! ぬがぁあぁぁっ!!』

 雄たけびを上げた巨大トカゲの体には、既に焼き斬られた跡がある。

「……あれは?」

「おいらのとっておき、魔法剣だっ! 巨大トカゲの肉は分厚い、そしてバーバー族は火に弱い。その両方を考慮して、ギンロの剣に火炎魔法をかけたのさっ!!」

 そう説明したカービィは、最後にキラーン☆という効果音が入りそうな、グッドなスマイルで、俺に向かってウィンクをした。

 ……魔法剣。
 なにそれいいなっ! カッコイイなぁっ!!

 俺たちの目の前で、ギンロは次々と巨大トカゲに攻撃をしかけていく。
 ちょうど、心臓を狙っているのだろうと思われる場所を、集中的に斬りつけていく。
 そのたびに、青い炎が燃え上がり、巨大トカゲは悲鳴を上げた。
 カマーリスに比べれば、でっぷりと太った巨大トカゲの動きはかなり鈍く、ギンロは踊るようにその攻撃をかわしている。

 そして、遂に……

「見えたっ!!」

 えぐれ返った巨大トカゲの肉の中から、ドクンドクンと、脈打つ心臓が姿を現した。

『ぬぎゃぎゃぎゃぎゃぁっ!!!』

 奇声を上げて、痛みにもがき、何とか心臓を守ろうとする巨大トカゲの両手を、ギンロは容赦なく斬り落とす。
 そして……

「カービィ! 今だっ!!」

「ほいさっ! 最大級メギストス落雷ケラベノス !!」

 ギンロの合図で、準備を万端に整えていたカービィが、魔法を行使した!
 呪文に導かれて、空から三本の雷の矢が現れ、巨大トカゲの心臓を貫いたっ!!
 
『ぬぐっ……、がっ……』

 巨大トカゲは、雷によるショックで心臓の鼓動が止まり、ドシーン!! と地響きを立てながら横向けに倒れた。

「や、やったぁ……」

 何もしていない俺が、ポツリと漏らす。

「ふぅ~……、強敵であった」

 ギンロが額を拭う。

「よし、とりあえず……、再生しちまう前に、心臓を取り出そう」

「……はっ!? 再生するのっ!??」

「ん~、おそらくな。トカゲ科の生物は再生力に優れているし、あいつはその中の頂点に立つ蜥蜴神だ。念には念を、だ」

 なるほど、そういうことか。
 確かに、カマ―リスを倒した時は、すぐに石化が始まったけど……
 あの巨大トカゲは倒れただけで、石化する気配もない。
 念には念を、だな!

「おいし、そう……」

 ……ん? グレコ、何か言ったかい??
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