素材鑑定士見習いの徒然なる日常 〜愛されスピーの村外研修〜

玉美-tamami-

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エルフ族にピクシー族にドワーフ族

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 トントントンと、軽快に階段を下りるスピー。
 何やら美味しそうな匂いが漂ってくる二階を覗くと、ヒロトが台所に立って何かを作っている最中だった。

「……あぁ、スピー。荷物は片付いたのかい?」

「はい。あ、いえ……、特に片付ける物もないので、とりあえず置いてきました」

「はははっ! まぁ、ゆっくりでいいんじゃない? それより、お腹空いてないかい? パンケーキだけじゃ足りなかったろ?」

 そう言ってヒロトは、魔法で火をつけた釜戸式の鉄板の上で、何やらスピーが見た事のない料理を作っている。
 それは、香ばしくて、甘辛い匂いを放つ、見た目は具沢山のパスタの様な食べ物だ。
 スピーは、別段空腹を感じてはいなかったものの、初めて見るその食べ物に、とても興味を惹かれていた。

「よし、出来たっ! じゃじゃ~ん! 僕特製の異界いかい料理、ソース焼きそば!!」

 大皿に盛りつけられたそれは、焼きそばだ。
 茶色いソースが絡んだ麺に、キャベツのような葉物野菜と、タマネギのような球根野菜、そして薄切りの豚バラ肉が入ったシンプルな焼きそば。
 
「さ、テーブルについて。食べてみて♪」

 ヒロトに言われるままに椅子に座って、差し出されたフォークを受け取り、小皿に分けられた焼きそばを口に運ぶスピー。
 
 ぱくっ……、ズルズルズル、もぐもぐもぐ、ごくん……

「おぉっ!? 美味しいぃ~!?」

 初めて食べる焼きそばに、スピーは目を潤ませながら感動する。

「はは、気に入ってもらえて良かったよ! 僕はなかなかに料理下手でね、これくらいしか作れないんだ」

「これほ作れふならじょうほうですよぉっ!?」

 例によって、口の中いっぱいに焼きそばを詰め込んだまま、スピーは答える。
 お腹が減っていたわけではなかったはずなのだが、なかなかに止められない焼きそばの美味しさに、スピーは次々とお代わりをした。
 すると、チリリンと鈴の音がしで……、誰かが店の扉を開けて中に入ってきたようだ。

「お? 戻って来たようだね」

 ヒロトの言葉に、口をもぐもぐさせながらも、スピーは階段の方を見やる。

「あの鍛治師の親父ったら、いっつもコルトの胸ばっか見てるんだよっ!? 変態変態ド変態っ!!」

 プリプリと怒っている、少女の声。

「まぁでも、それで安く売ってもらえんだから、いいじゃねぇか?」

 ケタケタと笑う、男の声。

「えぇっ!? そりゃ~ダッグはいいよねっ!? コルトの爆乳のおかげで、道具を定価の半分で売ってもらえたんだからさ~あっ!?」

 さらに憤慨する、少女の声。

「ふふふ、大丈夫よマロー。私は気にしていませんわ」

 落ち着いた声色の、大人の女の声。

「コルトが良くてもマローは嫌なんだよぅっ!!」

 引き下がる様子のない、少女の声。

 そのような三人の、騒がしい会話がしばらく続き……
 タンタンタン、ドスドスドス、という二種類の階段を上る足音と、パタパタという小さな羽音が聞こえたかと思うと、声の主たちはヒロトとスピーがいる二階へと揃って上がって来た。

 最初に姿を現したのは、金髪にグリーンの瞳を持つ、高身長の人型の女だ。
 白い肌に尖った耳、大人びた表情にむちむちの体。
   上半身には、魅惑的な大きな果実が二つ実っている。
 目の色に良く合う、深緑色の服を身に着けて、顔には眼鏡をかけている。
 つまるところ彼女は、エルフ族の者だ。

「あら? マスターヒロト、お帰りだったのです……、ね……。そっ、そのっ!? そこにいるのはぁっ!?」

 スピーの姿を発見したエルフ族の女は、顔を真っ赤にして取り乱す。
 するとその後ろから、パタパタと軽い羽音を鳴らしながら、小さな小さな、スピーよりも小さな、人型の生き物が現れた。
 人間離れした薄ピンク色の肌に、青い瞳。
   お人形のようなフリルのついた白い服を着ていて、背中には虫のような半透明の羽が四枚生えている。
   顔立ちは可愛らしい女の子で……、この少女は、妖精のピクシー族の者だ。
 
「どうしたのコルト!? ヒロトさ……、まっ!? モフモフ!?」

   ピクシー族の少女は、その針ほどに小さな指で、スピーの事を指してそう言った。
   最後に現れたのは、ドスドスという重たい足音に相応しい、ずんぐりむっくりな体つきの、低身長の男。
   見るからにドワーフ族である彼は、褐色の肌に整った顔立ちで、ドワーフ族にしては珍しく、真っ赤な瞳をしている。
   ボロ切れのような繋ぎの作業着を着ており、頭にはバンダナを巻いていた。

「なんだよ騒々しいなぁ……、って、えぇっ!? なんだそのモフモフはぁあっ!?」

   ドワーフ族の男も、スピーを見てモフモフと言った。
   三人は三人共、スピーを目にし、揃って驚きの声を上げて、身動きが取れないまま小刻みにプルプルと震えている。

「やぁ、お帰りみんな。こちらはピグモルのスピー。今日から新しく仲間になる事になったのさ♪」

   ニコニコとしながら、スピーの頭を撫でるヒロト。
   そのヒロトの不意の行動に、スピーは思わず体を震わせた。

   ピグモル族は、五感がとんでもなく優れている。
   視覚、聴覚、嗅覚、味覚、そして触覚が、それぞれおよそ人の十倍は優れていると言えるだろう。
   その為に、全身が毛で覆われ、その毛の一本一本が触角とでも言えようピグモルにとって、他者に前置きなく触れられるという事は、本来ならば飛び上がって驚いてしまうほどの衝撃なのである。
   今現在スピーも、ヒロトに撫でられた頭の先に、説明しようがない、声を出す事も出来ないほどのゾクゾク感を感じているのだった。

「ピグモル族!? あのっ!? あの幻獣種族のですかっ!?」

「そうさ。街で偶然出会ったんだ~♪」

「偶然って……、ヒロト様っ!? まさかそのモフモフを飼うつもりなのっ!?」

「まさか、飼うなんてとんでもない。一従業員として、僕たちと一緒に働いてもらうよ♪」

「働いてもらうって!? 正気かよヒロト!?」

「勿論♪ みんなも歓迎してくれるだろう?」

   三人の驚きっぷりと、その口調から、何やら来てはいけなかったのではないだろうか? と不安になるスピー。
   だがしかし……

「勿論ですわっ! 念願のモフモフのお仲間ですものっ!!」

   エルフ族の女は、恍惚とした表情でスピーを見つめる。

「わ~いっ! モフモフだぁあっ!!」

  ピクシー族の少女は、部屋中を飛び回って喜ぶ。

「へへっ、ちょうど可愛い弟子が欲しかったところだぜ! 歓迎するぞ、スピー!!」

   ニヤリと笑うドワーフ族の男にそう言われて、スピーはホッと安堵する。

「あ、えと……。よいしょ……。僕、ピグモルのスピーです! ここフーガへは、故郷の村の発展の為に、村外研修として来ました! これから一年間、よろしくお願いします!!」

   出来る限り堂々と、ハキハキと挨拶をして、スピーはぺこりとお辞儀をした。

「はぁあん! なんて可愛らしいのでしょうっ!? スピーさん、私はリーフエルフのコルトと申します! よろしくお願い致しますわ!!」

  そう言うとコルトは、ドキドキしながら手を出して、スピーに握手を求めた。

「あ、はいっ! よろしくお願いしますっ!!」

「あはぁ~あん! なんて小さくて柔らかい手なのでしょう!? あぁもう……、いつ死んでもいいですわ~!!」

   あまりのコルトのデレデレぶりに、顔には出さなかったが、スピーは内心かなり引いていた。

「ピクシー族のマローだよ♪ 見ての通り小さいけど、結構力はあるのっ! それにしても、あんたみたいなモフモフが家族の一員になってくれるなんて、マローはとってもハッピーだよ♪ よろしくね♪」

「こちらこそ、よろしくっ!」

   自分より小さな従業員がいるとわかったスピーは、なんだかちょっと安心した。

「俺の名前はダッグ! ドワーフ族と魔獣族のハーフだ! 満月の夜には狼になっちまうから気をつけろっ!」

「えっ!? そうなんですかっ!?」

「……ぐふっ、嘘だよぉっ! だっはっはっはっはっ!! 中身も見た目通りの可愛さだなぁ~おいっ!? 魔獣族とのハーフには違いねぇが、変化した事はねぇから安心しろっ! だっはっはっはっはっ!!」

   豪快に笑うダッグを見て、今後この人の言うことには嘘が含まれているかも知れないから注意しよう、とスピーは真面目に思うのだった。
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