素材鑑定士見習いの徒然なる日常 〜愛されスピーの村外研修〜

玉美-tamami-

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責任持てっ!!

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「お~い! 帰ったぞぉ~!!」

   スピー達がゲイルと話し込んでいると、階下から声がした。
   どうやら、ワリオサとトードが朝市から帰ってきたらしい。

「お、親方とトードさんが帰ってきたっすね」

   ゲイルは立ち上がり、階段を降りて一階に向かう。

「とりあえず……。今のゲイルの話だと、ワリオサさんは悪い奴じゃなさそうだ。その子が学会とか、その他の闇市なんかに売り飛ばされたりする事は無いだろうから、安心していいよスピー」

   ゲイルの話を聞いて既に安心しきっていたスピーは、ヒロトの言葉にコクコクと頷く。
   すると、ドダダダダダッ!! という地響きにも似た足音と共に、ワリオサが二階に駆け上がってきた。
   そして、スピーの上にいる小さな生き物を目にするや否や……

「うおぉおおぉぉっ!? 本物かぁあぁぁっ!?」

   黒いサングラスを外した下にある、とてもつぶらな瞳を真ん丸にして、大声で驚いた。

「わ……、ワリオサさん、こんにちわ」

「……こんちわ~」

「こ……、こんにちわ」

   挨拶はしたものの、ワリオサのあまりの勢いと迫力に、ヒロトもダッグもスピーも少々引いてしまう。

「ちょ!? ……もっとよく、見せてくれ」

   ゆっくりと、妙に腰を曲げた低い姿勢で、スピーに近付くワリオサ。
   スピーは、ちょっぴり怖いなと思いつつも、ここは下手に動かない方がいいと感じ、ソファーの上でジッとする。

   ワリオサは、スピーの頭の上にいる小さな生き物に顔を近付けて、かなりの至近距離でそれを見る。
 しかしながら、それは小さな寝息を立てながらスヤスヤと心地良さそうに眠っているだけで、体をキュッと丸めたままピクリとも動いてくれない。
   ワリオサが、そのままの姿勢で固まる事数分……、彼はこう言った。

「こいつぁ……、なんだ?」

   眉間に皺を寄せ、首を傾げるワリオサ。

「……え?」

   ワリオサの予想外の言葉、その仕草に、スピーもヒロトもダッグも固まってしまった。





「ガッハッハッ! なるほど幼生かぁっ!? そりゃ~お前さん……、わしに分かるはずがねぇっ! ガッハッハッハッハッ!!」

   大口開けて笑いながら、二人掛けのソファーにドカッと座るワリオサ。
   
「では、ワリオサさんが探していたというのは……、成体の鉱石ドラゴンなんですね?」

   ヒロトが問い掛ける。

「いかにもそうだ! わしが知っているのは、こんなちみっちぇ~ドラゴンじゃねぇっ!! わしがまだ子供だった頃、故郷の村で、何度か空を飛ぶ鉱石ドラゴンを見た事があってな。そりゃ~もう、威厳に満ちたドラゴンだった。大きな翼を広げ、背中に輝く宝石を背負い、悠然と空を行く様はまさに王者……。そんなわけで、あいつらがシスケビアノ山脈に住んでいる事は確かだ。最近はなかなか姿を現さねぇが、もしまだそこに住んでるんなら、わしが守ってやらにゃ~と思ってな。ま、とは言っても、ゲイルが色々とカッコつけた話をしたようだが、そこまで大それた気持ちは持っちゃいねぇよ」

   ワリオサの言葉に、ヒロトはなんとなしに頷く。

「それで……。お前さん、そいつをどうするつもりだぁ?」

   呑気な声で尋ねるワリオサに、スピー達三人は揃って「えっ!?」と声を発する。

「どうするって……。ワリオサさんの掘り出した屑石から出てきたので、ワリオサさんに返そうかと……」

「返すっ!? わしにかっ!? 冗談言うんじゃねぇやい!! そんなもん……、わしに返されても困る」

   まさかのワリオサの言葉に、スピー達三人は揃って「えぇぇ~!?」と声を発した。

「えぇってお前さんら……。屑石を貰っていったんはそっちじゃねぇか。好きにすりゃ~いい」

   笑うワリオサ。

「いや、でも……。鉱石ドラゴンの幼生ですよ!? こう言っちゃなんですが、学会にしろ飼育師ギルドにしろ、売れる先はいくらでもありますし、金額もかなりの値になるはずです。おそらく億単位……。なのに、本当にいいんですか、手放してっ!?」

   不意に出たヒロトの言葉には、ワリオサのみならず、ダッグもスピーも顔をしかめる。

   なんだこいつ、どこかに売る気なのか? と、ワリオサは思っているし、馬鹿かこいつ、何言ってやがんだ!? とダッグは呆れている。
   スピーに至っては、ヒロトさんてそういう人だったんだ……、と、幻滅していた。
   
   そんな三人の心の声が届いたのか……

「……いやいやっ! 僕はそんな事しませんよっ!? 世間一般の話をしたまでですっ!!」

   と、ヒロトは必死に弁明した。

「……お前さんがそいつを売るとは思えねぇし、わしもそいつを金に変える気はねぇ。しかし、かと言って、シスケビアノまで返してやるにはちょいと手間がかかるし、幼生である以上、そのまま山に返せば死んじまう。誰かがある程度まで育ててやんなきゃならねぇだろう。鉱石ドラゴンは、ドラゴン種の中でも珍しく、子育てをすると言われているからなぁ。むしろ、そいつがどうして一人っきりで、そんな屑石なんぞに埋まっていたのか……。親はいったい何処へ行ったのか、わしはそっちの方が気になる」

 ワリオサの言葉に、ダッグは考える。
 どうやらこのワリオサは、目の前にいる鉱石ドラゴンの幼生には全く興味がないらしい。
 いや、興味がないどころか、その言葉の端々からは、面倒な事を押し付けないで欲しい、といった雰囲気さえ漂っている。
 つまり、この鉱石ドラゴンの幼生は、屑石から掘り出したこちら側が面倒を見なければならない……、という事になる。

「それじゃあ、俺たちがこの鉱石ドラゴンを貰っても構わねぇんだな?」

 突然に口を開いたダッグに対し、ワリオサは一瞬キョトンとするも……

「あぁ、構わねぇ。だが、出来れば悪いようにはしないでやって欲しい。もし……、もし仮に、国の学会や飼育師ギルドの連中に売りつけるってんなら、ちょっと考えるところはあるが……」

 歯切れの悪いワリオサ。
 彼自身も、どうすればいいのかわからずにいるようだ。

 鉱石ドラゴンを守る為に、彼らを探しにシスケビアノ山脈まで行った事は確かだが、まさかその幼生を持ち帰ってしまうなどとは、ワリオサ自身、夢にも思っていなかった。
 王都からシスケビアノ山脈の入り口までは、馬車で急いで向かっても七日はかかる距離だ。
 馬車を借りるにも金がかかるし、いくら鉱石ドラゴンの幼生を山に返す為とはいえ、少々割に合わない。
 それに、この幼生は見た所、まだ一人では生きていけないほどに幼い。
 親がいない以上、誰かが代わりに面倒を見なければ、山に返したとて他の魔物に捕食されるか、運良くそれを免れたとしても、すぐさま飢え死にしてしまうだろう。
 かと言って、今目の前にる鉱石ドラゴンの幼生を育てる自信は、ワリオサにはなかった。

「……よし! スピ―、お前が育てろ!!」

 ダッグのこの言葉には、言われたスピ―も、ヒロトもワリオサも驚いた。

「えっ!? ぼっ!? 僕がっ!? 育てるぅっ!?」

「ダッグ……、いくらなんでもそれは無理じゃないかな?」

「……お前さん、ドラゴン飼育師の職業認定資格でも持ってるんか?」

 ワリオサに尋ねられて、スピ―は思い切り首を横に振る。
 
「飼育師の資格なら、ヒロトが持ってるだろ?」

「いや……、持ってはいるけど……。実際に育てた事なんてないよ」

「いいんだよ別に。魔物の幼生なんて、食っちゃ寝してるだけなんだから。ドラゴンだってそう変わんねぇだろ? 見てみろよこいつ、ずっと寝てんぞ?」

 スピ―の頭にいる鉱石ドラゴンの幼生を指さすダッグ。
 それを見て、「確かに……」とヒロトが呟く。
 鉱石ドラゴンの幼生は、ここへ来てからというもの、一秒たりとも目を覚まさずに、さも気持ちよさそうにスヤスヤと眠り続けているのだ。

「お前さんらが育てるというのならば、充分に育った頃合いを見て、わしと共にシスケビアノに返しに行く、という事も出来る。それでいいのなら、わしはその案に賛成じゃ」

 無責任に笑うワリオサ。

「よし! 決まりだな!!」

「えっ!? えっ!? そんな、僕っ!?」

「四の五の言うなスピー! 屑石からそいつを取り出したのは他でもないお前だ。責任持てっ!!」

 ニヤリと笑ってそう言ったダッグに、スピ―は困惑しながらも、返す言葉が見つからなかった。
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