素材鑑定士見習いの徒然なる日常 〜愛されスピーの村外研修〜

玉美-tamami-

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やらないよりはやってみる

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   宝石モグラ団のギルド本部前、黒い軽トラに乗り込んだヒロト、ダッグ、スピーの三人を、ワリオサ達が見送る。

   スピーはどこか浮かぬ顔で、軽トラの荷台にある木箱にちょこんと腰掛けた。
   その頭の上には、先ほどと変わらず眠り続ける鉱石ドラゴンの幼生がいる。

   まさか、こんな事になるなんて……
   僕が、ドラゴンの子どもを育てなきゃならないなんて……
   大丈夫かなぁ?

   そんなスピーの気持ちを察したのか、ヒロトが声をかける。

「ドラゴン種は、寿命は長いけど成長が早い。おそらくだけど、一年もすれば、一人で生きていけるほどには成長するはずだよ」

   そう言ったヒロトは、励ましたつもりらしいが、スピーは余計に不安になる。
   一年も、このドラゴンの世話をしなければならないなんて……
   大事な大事な村外研修中だというのに……

「そうかそうか。ならば一年後、お前さんらと共に、その子をシスケビアノに返しに行こう」

   気楽に笑うワリオサを、スピーは訝しげに睨む。
   しかし、元が可愛いだけに、睨んだとてそうは相手に受け取られないだろう。

「あぁ、それで決まりだ。頑張って育てろよ、スピー!」

   ドンッ! とダッグに背中を叩かれて、スピーの体は大きく揺れた。
   ……良い人だと思ったのに、案外無責任だよな、ダッグさん。
   心の中でそう思うスピーだが、その思いを言葉に出す事など出来ず……

   大層納得した顔で頷き合うヒロト、ワリオサ、ダッグを前に、スピーは小さく頷いた。

「ガッハッハッ! 良い楽しみが出来たっ! こりゃ~、頑張って働かにゃならんっ!」

「ははっ! またもし何かありましたら、ご連絡ください。僕たちで良ければ、なんでも鑑定させてもらいますので!」

   爽やかに笑うヒロト。

「おうっ! また頼むとしようっ!!」

「ありがとうございました~!」

「ヒロトさん、また来てくださいねっ!」

「ありがとっすぅっ!!」

   ワリオサとトード、ベルナードにゲイルの四人に見送られて、スピー達は宝石モグラ団のギルド本部を後にした。





   ブロロロロ~

   七色の煙と光を発しながら、黒い軽トラが街を行く。
   運転席のヒロトは上機嫌で、小さく鼻歌を歌っている。
   荷台に座るダッグは、早起きした為か舟を漕いでいた。
   スピーはというと……、未だ拭いきれない不安と、心の中で戦っていた。

   するとヒロトが……

「スピー、こっちに座ってみるかい?」

   運転席から荷台に繋がる小さな窓を開けて、助手席を指差してそう言った。
   軽トラは人が歩くのと同じくらいのスピードしか出てない。
   だから、窓から運転席側へと移る事は、特に危険ではないが……
   スピーは一瞬戸惑いつつも、断る理由も思い浮かばないので、腰掛けていた木箱を踏み台にして、窓を潜り抜けて、運転席のある車前方へと移り、ヒロトの隣の助手席に座った。
   
   助手席から見える街の景色は、荷台から見えるものとは随分違って見えた。
   それもそのはず、スピーは先程までずっと、下を向いてばかりだったのだ。
   道行く人々、立ち並ぶ建物、そこにある様々な色を目にして、スピーは少しばかり気が紛れた。  

「不安かい?」

   不意にヒロトに尋ねられ、スピーは答えに迷うも、小さくコクンと頷いた。

「うん、そうだよね。誰だって、初めての事は不安なものさ……。でも、長年生きてきた僕の経験からすると、何事も、やらないよりはやってみる。それが一番大切な事なんじゃないかな……、と、僕は思う」

   ヒロトの言葉に、スピーはハッとした。
   その言葉は、約一年前に、スピーが自分の家族に告げた言葉によく似ていたからだ。





   およそ一年前の春。
   スピーが暮らすピグモル族の村で、次の年の村外研修の参加者を募る集会が開かれた。
   研修先は五ヶ所。
   それぞれの研修先に四人ずつ、計二十人のピグモルが、村外研修に参加出来るとの事だった。

   村外研修に参加する為の条件は三つ。
   一つ目が、外界の成人年齢である二十歳を越えている事。
   二つ目が、一年間事前学習を受けて、外界知識を身につけている事。
   そして三つ目が、家族の了承が得られている事、だった。

   スピーは友人であるラナと共に、村外研修に参加する事を、生涯の一つの目標としていた。
   そして、スピーもラナも無事に成人。
   一年間、村での事前学習を受けて、外界知識も身につけた。
   そして最後にスピーは、自分も村外研修に行きたい、外の世界を見てみたい! と、家族に告げたのだ。
   しかし……

「お前には無理だ。人一倍体力のないお前に、村外研修なんて出来るはずがない! 父さんは反対だ!」

   父親はそう言った。

「お前を村の外にやるなんて絶対に嫌だよ。熱が出たらどうする? 怪我したらどうするのさ? 母さんは反対だ!」

   母親もそう言った。

   しかし、スピーは諦めなかった。
   スピーが目標とするピグモルの若者は、その昔、その身一つで世界を見て回り、数々の敵と勇敢に戦って、生きてこの村へと帰ってきたのだ。
   自分も、そんな男になりたいと、スピーはずっと思っていた。
   だから……

「出来ないとか、怪我したらどうするのとか、そんなんじゃないんだ! 僕は、外の世界が見てみたい! 出来るかどうかじゃない……、僕はやりたい、やってみたいんだ! やりたい事をやらずに一生を終えるなんて、そんなのは嫌だ! 僕の未来は僕が決める! やれるかやれないかじゃない……。やってみる事が大切なんだっ!!」

   スピーの言葉、その意思の強さに、両親は村外研修を認めてくれたのだった。





   スピーは、頭の上で眠る鉱石ドラゴンを、そっと手で包み込み、膝の上へと降ろした。
   暖かくて柔らかい、小さな命だ。

   この子を育てる……、出来るかどうかは分からないけれど、やらないよりはやってみる方が絶対いいに決まってる。

   そう思う事で、スピーの心の中から少しだけ、不安な気持ちが消えていった。

「僕が、守ってあげるからね」

   昨晩と同じ言葉を、今度は違った意味で、口にするスピー。
 
「その粋だ! 大丈夫、スピーは一人じゃない。僕たちみんなでその子を育てよう。僕はドラゴン飼育師の資格も持っているから……、経験こそないけれど、知識はあるから安心して。大丈夫、なんとかなるよ!」

   はははと笑うヒロトの横顔を、スピーは安堵の目で見つめる。

   そうだ、僕はもう一人じゃなかったんだ。
   ヒロトさんがいてくれる、コルトさんもマローさんも……、ダッグさんだって、口ではあんな事言っていたけど、きっと困った時は助けてくれるはずだ。
   大丈夫、なんとかなるよね!

   スピーはそっと、眠る鉱石ドラゴンの背を撫でた。
   ツルンとした肌触りの赤い鉱石が、とっても気持ち良い。

「それにしても……。ワリオサさんの人柄には驚かされたな。まさか、あそこまで良心的な人だったなんて……。噂もあてにはならないね~」

   ヒロトの言葉に対し、スピーは……

「世の中には、お金より大事な物がある。そういう事ですよね?」

   そう言って、ニヤリと笑った。

「ん? はははっ! 全くもってそうだねっ!!」

   ヒロトは大きな声を上げて笑い、軽快にハンドルを回すのだった。
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