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2 もう村にはいられない
「遅いな、ディエゴ⋯」
家の裏手に広がる森のひらけた場所で、僕達はいつも武器や魔法の稽古をしている。そのいつもの場所で鍛錬に付き合うと約束してくれたディエゴを待ちながら剣を振って、どのくらいの時間が経っただろうか。
素振りの手を止めた時、ガサリと草を踏みしめる音がした。「ディエゴ?」と待ち人の名を呼んで振り返ったけれど、姿を現したのは別の人物だった。
「よう、ルーイ。剣の稽古か?精が出るな」
「カッツェにセリヤ⋯どうしたの?こんな村外れの森に来るなんて」
カッツェとセリヤは年子の兄弟で、ディエゴと同じ僕の昔馴染みだ。揃って黒髪黒目の彼らは子どもの頃から上背があったけれど、成人した今ではすっかり立派な体格になった。背が低くてひょろひょろの僕には、そんな彼らがすごく羨ましい。
「ルーイに渡したい物があって家まで行ったんだけど家に居なくてよ。ヘレンおばさんにお前がいる場所教えてもらってここに来たんだ」
「そうだったんだ。僕に渡したい物って?」
「俺達、今日が魔物討伐の初参加だったんだ。ほら、これ」
カッツェによって広げられた僕の手のひらの上に、兄弟からそれぞれ色の違った石をひとつずつ乗せられる。
「これって魔石?」
「ああ。カッツェが渡した赤い魔石が火属性で、俺からの水色のやつが氷属性だぜ」
「俺達がそれぞれ最初に仕留めた魔物から取れたやつなんだ。ルーイに貰ってほしくてよ」
「え⋯そんな記念の大事な魔石、僕なんかが貰ったら悪いよ。大事に取っておいたほうが⋯」
「んなこと言わずに貰ってくれよ。ルーイお前、ずっと討伐に出たがってただろ?この魔石使って一緒に魔法の特訓しようぜ!そんで腕を上げて俺達と討伐に出るんだ」
「そうそう。遠慮なんかされちまったら逆にこっちが寂しい気持ちになるぜ。俺ら昔からの仲間なんだしさ」
「⋯ありがとう、2人とも。それじゃあ有り難く受け取っておくね」
気づかってくれた友達に笑顔を見せると、カッツェはそれまで握っていた僕の手をパッと離して、隣のセリヤともども照れくさそうな表情になった。
「あっ、そうだ。カッツェもセリヤも、ディエゴをどこかで見かけなかった?お昼ご飯を食べたらここで剣の鍛錬に付き合ってくれる約束だったんだけど⋯」
「ディエゴなら来ないわよ」
村道のほうからやって来て僕に声をかけたのは、最近ディエゴと噂になっているロジーナだった。彼女は金髪碧眼の凄みのある美人だ。今みたいに身体の線があらわになるワンピースを着ていると15歳にはとても見えないほど大人っぽい。
「ロジーナ」
「ディエゴならさっきまでアタシと熱~い時間を過ごしてたわよ。ルーイ、アンタとの用事そっちのけでね。ディエゴは今日はここに来れないみたいだから、親切にアタシが伝えにきてあげたの」
「マジかよロジーナ!とうとうディエゴの野郎とヤッたのか?お前ずっとアイツに猛アタックしてたもんな」
「さあ?それは淑女の口からはとても言えないわ。そんなことより、カッツェもセリヤもまた人の目を盗むみたいにコイツに会いに来たのね。おばさんから何度も止められてるってのに」
「ばっ、何言ってんだロジーナ!」
「ル、ルーイ、違うからな!?」
「⋯⋯いいんだ2人とも。知ってるから、僕」
この兄弟が、彼らの母親から僕と遊ぶのを禁じられているのを知っている。けれどそれはカッツェとセリヤの母親だけじゃなくて、他の友達の家もみんなそうだ。
だから友達はみんな親にバレないようにこっそり会いに来てくれる。僕がかつて村を追われた父さんの息子で、家族の中で僕だけが父さんに似て弱いから⋯⋯
僕を見てイヤな顔をしないのはディエゴの母さんだけだったから、ディエゴは毎日のように僕と遊んでくれたんだ。こんな僕を、哀れに思って。
でもそれも今日で終わりなのかもしれない。今まで僕との約束を1度だって破ったことがなかったディエゴが、ロジーナと会うのを優先した。幼馴染の僕よりずっと大切な存在が、彼にはできてしまったんだ。
「カッツェにセリヤ。大事な魔石を僕にくれてありがとう。それにロジーナも⋯ディエゴのこと、知らせてくれてありがとう。⋯僕、ちょっと用事を思い出しちゃったからもう行くね」
「「ルーイッ!!」」
「フン、いい子ぶっちゃって。そーゆーとこが余計にムカつくのよ」
今すぐどこか1人になれる場所に行きたくて、僕は自分に隠蔽魔法をかけてその場から駆け出した。ロジーナには子どもの頃から嫌われているから追いかけて来ないだろうけれど、おばさんに怒られるかもしれないのにわざわざ会いに来て大事な魔石を渡してくれたカッツェとセリヤは、友達として僕のことを放っておいてはくれないだろう。彼らには足の速さで敵わないから、逃げるなら魔法で姿を隠すしかない。
森の中を3人といた場所から反対方向にしばらく走ると、ふだんはほとんど人の通らない小さな泉のほとりで、誰かが言い争う声がした。
「いい加減にしておくれよルアン!アタシの息子たちがまたコソコソとアンタの息子のルーイに会いに行っちまったんだよ!」
「そ、それは⋯成人したって言っても彼らはまだ15歳だよ?まだまだ友達と遊びたい年頃じゃないか」
「はっ。なに寝言ぬかしてんだいルアン。アンタがその昔アタシ達に何をしたか、覚えてないとは言わせないよ!」
あれは父さんと、僕の友達の母親達だ。彼女達はみんな殺気立っていて、5人で父さんを取り囲むようにして詰め寄っている。今さっき怒鳴っていたのはカッツェとセリヤのおばさんだ。
「だ、だけど、ルーイだけ友達と遊んじゃダメなんて可哀想で言えないよっ。それに、悪いのはぜんぶ僕なんだ⋯ルーイは何も悪くないのにっ⋯」
「ああ。ルーイには酷なことをしちまってると思ってるよ。だが父親のアンタが、かつてこの村でそれだけのことを仕出かしたんだ」
「そうよ!それにルーイは昔のルアンにどんどん似てくるじゃない。このままじゃいずれ、あの子も同じことで村を追われることになるわよ!」
「そ、そんなっ⋯⋯ルーイが、あの子が都会でやっていけるわけないのにっ⋯⋯」
まだ言い争いは続いていたけど、僕はそれ以上聞いていられなくてまたその場から逃げ出した。
僕と父さんが村の一部の住人から冷たくされるのは戦う力が弱いからだと思ってたけれど、そうじゃなかったんだ。
父さんは若い頃に何か重大な罪を犯してしまったらしい。そして同じ罪を、いつかは僕も犯してしまうかもしれないの⋯⋯?
『都会はアンタにとって恐ろしいところだよルーイ。とても1人で生きていける場所じゃない』
昔、自分の弱さがイヤになった僕が村を出たいと呟いたときに、母さんに言われた言葉が頭をよぎる。
だけどたとえ野垂れ死んでしまっても、僕はこの村を出なければいけない。みんなに迷惑をかけるわけにはいかないし⋯⋯何より僕がいつか罪を犯す姿を、大好きなディエゴにだけは見られたくなかった。
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