小さな村の弱い僕

しそみょうが

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4 氾濫は月イチ(ディエゴ視点②)

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この村の大人の半数以上は、都会でいうところのS級冒険者くらいの戦闘力があるのだと村の学校で教わった。俺は現役の冒険者ってやつを見たことがないが、ルーイの母親のヘレンおばさんが結婚してこの村に来る前は、王都で名うての冒険者だったと聞いている。

学校では、深い山の中にぽつんとひとつだけ存在する、この村の成り立ちも教わった。

教科書には、かれこれ800年ほど前に国家転覆を企んだ呪術師がこの山で古の禁術を使ったせいで、この山に頻繁に魔物の氾濫を起こすダンジョンが3つも誕生したのだと書かれてあった。

それぞれ村から数kmくらいの距離にあり、現在『東のダンジョン』『西のダンジョン』『南のダンジョン』と呼ばれているダンジョンだ。

山にできたダンジョンから氾濫した魔物の群れは地上に向かい、あらゆる生物を喰らい建物や田畑を蹂躙したそうだ。一時期は国の人口が半分までに減り、当時の王家は苦肉の策で国中の奴隷の中から人並み外れた力を持つ者達を選りすぐってこの山に送り込んだ。そして氾濫しまくる魔物の討伐と、そのための拠点となる村の開拓を命じたのである。

ご先祖様達の多大な犠牲と苦労の果てに、村が現在の形に近づくまでに100年の月日を要したという。それから更に200年後の賢王の統治の元で奴隷制度は撤廃され、この村の住民達も奴隷身分から解放された。

しかしスタンピードは変わらず起こり続けるわけで、王の提案によりこの村を何者も干渉できない治外法権の地とし、いっさいの税を免除する代わりに引き続き氾濫する魔物の駆除を村に依頼したのだ。 

その頃の村人達は過酷な山の生活で鍛えられており、頻繁に起こるスタンピードを抑えるなんて朝飯前になっていた。

山で取れる魔物の肉や素材は都会に持っていくと高値で売れる。食うに困らない上に誰にも縛られない自由な暮らしが手に入るため、村人達は王の提案をふたつ返事で受け入れたという。

スタンピードはだいたい月イチ、3つのうちのどれかのダンジョンで起きる。極稀に2つ同時に起きたりもする。ダンジョンは感知魔法が得意な村人が当番制で観測していて、スタンピード発生の兆候をダンジョン見張り当番が察知すると、そのダンジョンに最寄りの広場の結界をわざと部分的に消滅させて魔物達を村におびき寄せるのだ。

今回は東のダンジョンが氾濫したから東の広場の結界を消滅させて解放状態にしている。

そうすると広場に集まった村人達の匂いに釣られた魔物達がいっせいにこの村に押し寄せるので、それを待ち構えていた討伐参加者が狩りまくるのだ。待っていれば獲物があっちからやってくるので入れ喰い状態である。

ちなみに村を逸れて山を降りようとする個体はテイマーの爺さんが山に放したフェンリルの親子のおやつになるため地上にたどり着くことはない。

「わりいディエゴ、手がすべった!」

巨大なメタルリザードが俺めがけて飛んできたのをひょいとよけると、カッツェとセリヤの兄弟がチッと舌打ちした。こいつらは今日が討伐初参加だが、互いにガキの頃からルーイを巡って熾烈な争いを繰り広げているライバルだ。当のルーイは気づいてもいないが。

「おっと俺も手がすべっちまった!」

俺が反撃で投げた5本のナイフを2人が躱し、ちょうどナイフの軌道上にいた肉屋のトニオおじさんのケツに5本とも刺さった。

「痛えなオイ!!ナイフ投げたの誰だコノヤロー!!」

「カッツェとセリヤが投げたの見たぜ」

俺が嘘を教えるとトニオおじさんは問答無用とばかりに2人の兄弟に殴りかかった。カッツェとセリヤは俺を罵りながらトニオおじさんに応戦し、あっという間に血の気の多い他の村人達を巻き込んでの大乱闘に発展した。トニオおじさんのケツは治癒魔法が得意な村人が後で元どおりに治してくれるだろうから問題はない。

討伐中は毎度こんな人対人の乱闘騒ぎが勃発するのが恒例だった。乱闘に加わったやつはペナルティで広場の後片付けをしなけれぱならない決まりなので俺は乱闘には参加しない。さっさと魔物を狩って早く帰り、討伐に参加できずに泣いているだろうルーイを慰めてやりたいからだ。きつい口調で討伐に行くのを止めたのも詫びなければ。

ルーイもこの村で生まれ育っているから村の外の人間に比べれば強いはずだが、この村の大人達の乱闘騒ぎに巻き込まれても自衛できるほどの強さが無ければ討伐への参加は認められない。俺が守りながらであれば参加は許されるだろうが、それじゃあルーイは納得しないだろう。ルーイは自分の力で討伐に参加して強さを示したいのだ。

腹の立つことに村の一部の大人達からルーイは冷遇されている。それを自分が弱いせいだとルーイは思い込んでいるのだが、本当のところは違うのだ。



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