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7 別荘にご招待
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僕とシオン兄様はカエリオン公爵家の馬車に乗せられ、王都を離れ40分ほどの郊外にある見知らぬ屋敷に連れて来られた。
シオン兄様にちょっかいをかけて来た輩の屋敷⋯にしては、いささかこぢんまりとしているな?と思っていたら、それもそのはず。ここはアンドリューが個人で所有している別荘であった。
「ここに客人を招いたのは君と君の兄上が初めてだよ」
「それは光栄の至りだけれど⋯どうして僕らはここに連れて来られたんだ?」
「君の兄上に降りかかった問題を私が解決する対価として、ここでの休暇に付き合ってもらいたくてね。ジュリアスが留学に行ってしまって、この夏の私には遊んでくれる男友達がいないんだ」
「そりゃ世話になるのはこっちだから構わないけど⋯いいのか?その」
「問題ないよ。ジュリアスにバレたら『メルローの兄上に執拗に言い寄る生徒が子爵家に押しかけてくるかもしれないから問題が解決するまで別邸に連れ出した』って建前にしておくさ」
こうして問題解決の対価としてアンドリューの休暇に付き合うことになった僕達兄弟は、彼の護衛の人達に手伝ってもらって用意されたゲストルームに荷物を運び入れた。
雑木林の中にぽつんと佇む平屋の別荘にひと部屋だけ存在するゲストルームで僕と兄様は同室なのだが、部屋は広々としていてベッドも2台あり、クーラーっぽい魔導具も完備されていて申し分ない好待遇である。
すぐに使用人のおばあちゃんが冷えた果実水と茶菓子を持ってきてくれて、その後でやって来たアンドリューが「僕は少しやることがあるから、夕食まで兄弟水入らずでゆっくり寛いでいて」と言って、兄様の頬の腫れに効く薬と、流行りの娯楽小説やボードゲームなんかをどっさりと置いて行った。
「あっ。兄様がお好きな冒険小説の最新刊がありますよ!」
「えっ、本当か!?最新刊が出ていたなんて知らなかったな。メルローが読んだら次に貸してくれ」
「僕は前々から気になっていた作品があるのでそちらを読みますから、兄様がお先にどうぞ」
「そうかい?悪いな。ありがとう」
ホクホク顔で本を手に取り読み始める兄様。大好きな小説で彼の気が紛れたようでホッとする。
アンドリューと僕達兄弟は行きの馬車が別々だったから、馬車に揺られている間も僕はシオン兄様と2人きりだった。その時はまだ前日のショックが尾を引いていて、平素は快活な兄様が言葉少なで、昼食にと渡されていたランチボックスも黙々と食べたのだ。
急に別荘に連れて行かれて面食らいはしたが、アンドリューには感謝しかない。これは本腰入れて何か特別な御礼を考えなければ⋯!
◇◇◇◇
「シオン兄様、起きてください。朝食の時間だそうですよ」
「う~ん⋯⋯悪いけど朝食はパスで⋯⋯おやすみ⋯⋯」
「待って待って、お休みになる前にせめてお怪我の具合を確認させてください」
「⋯⋯もらった薬⋯効いてるからだいじょぶ⋯⋯おやすみ⋯⋯僕はもう限界だ⋯⋯」
そう言い残してすやぁと夢の世界へ旅立ってしまった兄様は、どうやら明け方まで何冊もの本を読み耽っていたようだ。わかりますよ兄様。時間を気にせず好きなだけ好きな本を読み倒せるって最高ですよね。兄様は特に学園ではストレスフルな生活を強いられていたようだから、幸せそうな彼の寝顔を拝見することができて僕も嬉しいのだった。
昨夜の晩餐も美味しかったけれど、朝食も格別だった。パンからデザートまで僕の好物ばかり。すっかりおもてなしされてしまっている。
食後の紅茶を飲んでいると、アンドリューから散歩に誘われた。
「今日は昼過ぎから所用で出かけてくるけれど、それまでは空き時間なんだ。この辺りを散策でもしないか?」
「いいね。少し歩きたい気分だったんだ」
休暇だってのにアンドリューが出かけなければならない所用とは、まず間違いなく兄様の件だろう。彼の僅かな空き時間くらい、いくらでも付き合おうではないか。
「西のほうに歩いて行くと湖があってね。ボートにも乗れるそうだよ」
「うーん。湖⋯ボートか⋯」
僕は前世で経験して知っている。避暑地じゃない水場で夏に乗る船のたぐいは、涼しそうに見えて全くそうじゃないことを。どこまでも凪いだ海で乗ったシーカヤックは、身体にちっとも水がかからず太陽にじりじりと炙られて、オールを漕ぎながら茹で上がりそうだった。
ここは涼しい公爵領と違って王都とほぼ気温が変わらず暑いのだ。だが他でもないアンドリューが乗りたがっているのだし⋯⋯
葛藤している僕を見てアンドリューが悪戯っぽく笑う。
「心配しなくても、私は何もしないよ?メルロー」
「へ?何もしないって⋯君はボートに乗りたいんじゃないのか?」
言った後で、はたと気付く。
アンドリューは、公爵領の湖で若い頃の公爵が僕の父様に手を出したエピソードを気にした僕が、湖に足を運ぶのを躊躇していると思っているのか?
「なっ⋯違うぞアンドリュー、君が僕に手を出すだなんてこれっぽっちも思っちゃいない。ここは公爵領みたいに涼しくないからボートに乗るのは暑いだろうなって悩んでいただけでっ」
「ははっ。私も別にボートに乗りたいわけではないよ。ただ無理やり連れて来たわりにこの辺りは観光向きじゃないから、君が退屈しているんじゃないかと気がかりだったんだ」
「いいや?僕は筋金入りのインドア派だからね。じゅうぶん満喫させてもらっているよ。シオン兄様も良い気分転換になったみたいで、君には感謝してるんだ。本当に」
「そうかい?それなら良かったよ」
アンドリューにまた揶揄われてしまった。僕のほうが精神的にはずっと年上だっていうのに⋯⋯
「そうだ、アンドリュー。ひとまずここの庭園を見せてもらいたいな。ここに到着したときにちらっと見て、良い庭だなって思ったんだ。それから近くを散策しよう」
「ああ。ではそうしようか」
シオン兄様にちょっかいをかけて来た輩の屋敷⋯にしては、いささかこぢんまりとしているな?と思っていたら、それもそのはず。ここはアンドリューが個人で所有している別荘であった。
「ここに客人を招いたのは君と君の兄上が初めてだよ」
「それは光栄の至りだけれど⋯どうして僕らはここに連れて来られたんだ?」
「君の兄上に降りかかった問題を私が解決する対価として、ここでの休暇に付き合ってもらいたくてね。ジュリアスが留学に行ってしまって、この夏の私には遊んでくれる男友達がいないんだ」
「そりゃ世話になるのはこっちだから構わないけど⋯いいのか?その」
「問題ないよ。ジュリアスにバレたら『メルローの兄上に執拗に言い寄る生徒が子爵家に押しかけてくるかもしれないから問題が解決するまで別邸に連れ出した』って建前にしておくさ」
こうして問題解決の対価としてアンドリューの休暇に付き合うことになった僕達兄弟は、彼の護衛の人達に手伝ってもらって用意されたゲストルームに荷物を運び入れた。
雑木林の中にぽつんと佇む平屋の別荘にひと部屋だけ存在するゲストルームで僕と兄様は同室なのだが、部屋は広々としていてベッドも2台あり、クーラーっぽい魔導具も完備されていて申し分ない好待遇である。
すぐに使用人のおばあちゃんが冷えた果実水と茶菓子を持ってきてくれて、その後でやって来たアンドリューが「僕は少しやることがあるから、夕食まで兄弟水入らずでゆっくり寛いでいて」と言って、兄様の頬の腫れに効く薬と、流行りの娯楽小説やボードゲームなんかをどっさりと置いて行った。
「あっ。兄様がお好きな冒険小説の最新刊がありますよ!」
「えっ、本当か!?最新刊が出ていたなんて知らなかったな。メルローが読んだら次に貸してくれ」
「僕は前々から気になっていた作品があるのでそちらを読みますから、兄様がお先にどうぞ」
「そうかい?悪いな。ありがとう」
ホクホク顔で本を手に取り読み始める兄様。大好きな小説で彼の気が紛れたようでホッとする。
アンドリューと僕達兄弟は行きの馬車が別々だったから、馬車に揺られている間も僕はシオン兄様と2人きりだった。その時はまだ前日のショックが尾を引いていて、平素は快活な兄様が言葉少なで、昼食にと渡されていたランチボックスも黙々と食べたのだ。
急に別荘に連れて行かれて面食らいはしたが、アンドリューには感謝しかない。これは本腰入れて何か特別な御礼を考えなければ⋯!
◇◇◇◇
「シオン兄様、起きてください。朝食の時間だそうですよ」
「う~ん⋯⋯悪いけど朝食はパスで⋯⋯おやすみ⋯⋯」
「待って待って、お休みになる前にせめてお怪我の具合を確認させてください」
「⋯⋯もらった薬⋯効いてるからだいじょぶ⋯⋯おやすみ⋯⋯僕はもう限界だ⋯⋯」
そう言い残してすやぁと夢の世界へ旅立ってしまった兄様は、どうやら明け方まで何冊もの本を読み耽っていたようだ。わかりますよ兄様。時間を気にせず好きなだけ好きな本を読み倒せるって最高ですよね。兄様は特に学園ではストレスフルな生活を強いられていたようだから、幸せそうな彼の寝顔を拝見することができて僕も嬉しいのだった。
昨夜の晩餐も美味しかったけれど、朝食も格別だった。パンからデザートまで僕の好物ばかり。すっかりおもてなしされてしまっている。
食後の紅茶を飲んでいると、アンドリューから散歩に誘われた。
「今日は昼過ぎから所用で出かけてくるけれど、それまでは空き時間なんだ。この辺りを散策でもしないか?」
「いいね。少し歩きたい気分だったんだ」
休暇だってのにアンドリューが出かけなければならない所用とは、まず間違いなく兄様の件だろう。彼の僅かな空き時間くらい、いくらでも付き合おうではないか。
「西のほうに歩いて行くと湖があってね。ボートにも乗れるそうだよ」
「うーん。湖⋯ボートか⋯」
僕は前世で経験して知っている。避暑地じゃない水場で夏に乗る船のたぐいは、涼しそうに見えて全くそうじゃないことを。どこまでも凪いだ海で乗ったシーカヤックは、身体にちっとも水がかからず太陽にじりじりと炙られて、オールを漕ぎながら茹で上がりそうだった。
ここは涼しい公爵領と違って王都とほぼ気温が変わらず暑いのだ。だが他でもないアンドリューが乗りたがっているのだし⋯⋯
葛藤している僕を見てアンドリューが悪戯っぽく笑う。
「心配しなくても、私は何もしないよ?メルロー」
「へ?何もしないって⋯君はボートに乗りたいんじゃないのか?」
言った後で、はたと気付く。
アンドリューは、公爵領の湖で若い頃の公爵が僕の父様に手を出したエピソードを気にした僕が、湖に足を運ぶのを躊躇していると思っているのか?
「なっ⋯違うぞアンドリュー、君が僕に手を出すだなんてこれっぽっちも思っちゃいない。ここは公爵領みたいに涼しくないからボートに乗るのは暑いだろうなって悩んでいただけでっ」
「ははっ。私も別にボートに乗りたいわけではないよ。ただ無理やり連れて来たわりにこの辺りは観光向きじゃないから、君が退屈しているんじゃないかと気がかりだったんだ」
「いいや?僕は筋金入りのインドア派だからね。じゅうぶん満喫させてもらっているよ。シオン兄様も良い気分転換になったみたいで、君には感謝してるんだ。本当に」
「そうかい?それなら良かったよ」
アンドリューにまた揶揄われてしまった。僕のほうが精神的にはずっと年上だっていうのに⋯⋯
「そうだ、アンドリュー。ひとまずここの庭園を見せてもらいたいな。ここに到着したときにちらっと見て、良い庭だなって思ったんだ。それから近くを散策しよう」
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