とある令息が幼馴染とくっつくまでの経緯

しそみょうが

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9 これは駄目なやつ

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シオン兄様の件に決着が付いたことを告げられたのは、その日の晩餐の席だった。

庭で水かけ合戦をした後に出掛けていったアンドリューが話を付けてきてくれたのだ。

学園でシオン兄様を愛人にしようとした輩は、なんと以前にアンドリューのお茶会に乱入して11歳の僕に「女になれ」なんて不埒な暴言を吐いたホロウ伯爵家のグレゴリー⋯ではなく、彼の年子の兄のゲイナードという人物であった。

兄弟揃ってエルベリー子爵家の子息を相手にやらかし、どちらともカエリオン公爵家から怒られたせいか、当主のホロウ伯爵は問題ばかり起こすゲイナードとグレゴリーをまとめて修道院に叩き込み、比較的マシな3男を後継にすると即決したそうだ。

それを聞いたシオン兄様は号泣していた。もちろん安堵の涙である。

僕にちょっかいをかけた弟のグレゴリーが公爵家からお叱りを受けたのを彼の兄のゲイナードが知らないわけがないのに、ゲイナードがシオン兄様を愛人にしようとしたのは間接的には祖母のせいなのだ。かつて2歳の僕に『淫売になる』と言い放った母方の祖母である。

僕にも兄様にも婚約者がいまだに不在なのは我が家が訳アリだからに他ならないのだが、兄様を憐れに思った祖母が、シオン兄様は僕と違ってカエリオン公爵家とは絶縁状態にあると社交界で言い触らした。  

もし兄様の未来の伴侶が不貞を働いたとしても、公爵家がしゃしゃり出てくることはないから兄様と婚約しても安心ですよと祖母はアピールしたかったようだが、それは裏を返せばシオン兄様には公爵家の後ろ盾がないと吹聴しているのと同じである。祖母の蒔き散らした噂を真に受けたゲイナードがシオン兄様に接近してしまったわけなのだ。

「我が家の息がかかった伯爵家に、私のひとつ年上の子女がいるんだ。今日そちらとも話をつけてきたよ。じきに釣書きが送られてくるだろう」

「⋯⋯⋯」

「⋯⋯⋯」 

釣書きといえば婚約者。でも、どっちの?

僕と兄様の沈黙の意味に気付いたアンドリューが「彼女はシオン殿の婚約者候補だ」と付け加えた。

いやまあ、そうじゃないかと思ったけどさ。アンドリューも僕も僕の婚約者については触れぬまま、話題は別なものへと移った。


◇◇◇◇


翌日は結局、近くの湖で貸しボートに乗ることになった。

読書を堪能し睡眠もたっぷり取り、悩みの種が消え去った兄様は元気を取り戻し「できれば帰る前にこの辺りを散歩したい」とのことで、昨日アンドリューから聞いていた湖の貸しボートの話をしたところ、兄様が飛びついたのだ。

今日は薄曇りで帽子いらず。昨日よりは涼しいのが救いだ。

湖は有名な観光名所というよりは地元民の憩いのスポットという感じで、貸しボートは既に何そうか出払っていたが、僕らが2艘借りてもまだいくつかは残っていた。

僕とアンドリューで1艘、兄様と護衛騎士でもう1艘に乗り込む。ボートが初体験だと言う兄様はめちゃくちゃにはしゃぎ、騎士からオールを奪ってカヌー競技みたいな速度で漕いでいた。 

毎年シオン兄様が祖父母とバカンスに出かけていた期間、僕とアンドリューは公爵領の避暑地にいて、湖でボートに乗った覚えがある。だが兄様と比べて体力のない僕は、小1時間ほどアンドリューと交代でオールを握っただけでヘロヘロになってしまった。 

貸し時間の終わりが近づき、船着き場の桟橋に戻る。ボートを降りる直前に、アンドリューが僕の名を呼んだ。

「メルロー」

「なんだい?」

「私は君の婚約者を探すつもりはないから」

「あ、うん。わかった」 

うっかり足を踏み外しそうになった僕の手を取って、アンドリューは僕をボートから桟橋へと引き上げてくれた。

 
これは駄目だと、僕は思った。

アンドリューには婚約がほぼほぼ内定している相手がいるのに、彼の思わせぶりな態度にどんどん心が乱されている。このまま落ちてしまえば確実に泥沼だ。


◇◇◇◇


僕のために用意された麦わら帽子はアンドリューの別荘に置き去りにして王都に戻ると、それから数日のうちに彼の好みそうな物を見繕い、御礼の品としてカエリオン公爵家にしこたま送り付けた。

そして僕自身は父様の許可を得て領地に移った。王都から馬車で4日ほどの領地は父方の祖父母と代官が運営していて、学園入学の16歳までは祖父母の屋敷に住まわせてもらう。

『いずれ領主となる兄の補佐をするために領地で学びたい』というのが名目だ。学園卒業後にそうするつもりだったのを早めたのは、あれ以上アンドリューと接触して彼を好きになるのが嫌だったからだ。



「おお。話には聞いておったが、本当にミシェルの若い頃にそっくりだな」

「あらまあ本当」

生まれてから一度も孫の顔を見に来なかった祖父母がどんな人達なのか不安だったが、彼らは何というか、我が道を行く趣味人であった。

領地の運営の大半は代官が担っていて、それ以外の時間は祖父はひたすら絵を描き、祖母は狩猟に出て領地の農作物を荒らす魔獣を撃ちまくっていた。

「私が作った中でも出来の良い剥製を、毎年シオンとメルローに送ってたのだけれど、ミシェルはタウンハウスに飾ってくれているかしら?」  

どうやら祖母は孫の誕生日に魔獣の剥製を贈ってくれていたようだ。父様が物置に恐ろしげな剥製を押し込めているのを見た覚えがある。僕は曖昧に返事をして御礼を伝えておいた。

代官に領地の政を学び、祖父の絵のモデルをつとめ、祖母が狩ってきた魔獣の解体を手伝っていたらあっという間に月日は過ぎて、僕は貴族の子弟が通う学園に入学するために王都へと戻った。



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