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桔梗
53 違和感
茉白side
「....琥珀、寝ちゃった......。」
安心したようにましろんに頬を擦り寄せて眠る横顔に、思わず触れた。
雪のように白い肌に、ほんの少し桃色に火照る頬。少し口角の上がった口は、なにか良い夢でも見てるのかもしれないと思えるほどに嬉しそうだった。
そんな琥珀に、俺の心の中にはモヤモヤが残った。
こんな可愛い琥珀、誰にも見せたくない。
そんなどす黒い感情が渦巻いていく。自分の心なのに制御できなくて、俺は思わず琥珀からましろんをとりあげた。
ましろんを床に投げるように置き、抱きつくものがなくて目を瞑りながら何かを、ましろんを探すようにぐずぐずしだす琥珀を見て、俺の中のどす黒い感情が増えたような気がした。
ましろんにも、ぬいぐるみにも俺は、嫉妬したのか。
そんな言葉を自分に吐いて、自嘲した。
でも、嫉妬するもんはしてしまったのだ。ていうか、そもそもこんなに琥珀が可愛いのが悪いんだから。
そう自分を納得させ、琥珀のさまよっていた腕の中に俺は入った。
当時はましろんと俺は同じ大きさだったのに、今は俺の方が大きいのか、俺を抱きしめると何やら琥珀はもぞもぞと俺の体をいじくり始めた。
「ちょ、...琥珀...?」
そうして何やらもぞもぞ動くこと数分、ようやく安心したのか、琥珀はまた嬉しそうに口角をほんのりとあげて規則的な寝息を吐いた。
それは、俺が、琥珀を包み込むように抱っこするような体制だった。
そしてふと、昔の記憶が蘇る。
三年前、琥珀がある日突然公園からいなくなって、施設まで探しに行った時、その夜、琥珀は施設に着いた途端疲れてしまったのか、俺に抱きついて眠ってしまった。
その時も、今のように俺の服をぎゅっとにぎって、離さなかった。
「....ふふ、変わらないね。琥珀」
そんな琥珀に、俺はましろんに嫉妬していたことも忘れて、絹のように柔らかく細い髪にそっとキスを落とした。
......もちろん、寝れないけど。
とっとと寝てしまいたい。このまま琥珀の温もりに包まれて、そして夢の中で琥珀とたくさん遊びたい。
でもまだ一日の最後にお風呂が残っている。
琥珀を起こすのは執事さんが来てからにしても、俺まで寝てしまえば執事さんにげんこつをくらうことまちがいなし。
そしてふと、夕食のときのことを思い出した。
父親が琥珀に向けるあの表情。いつもしかめっ面で目すら合わせてくれない父様が、目を細めて琥珀を慈しむように朗らかな表情で見つめていた。まるで琥珀のことを本当の息子のように優しく微笑むその顔は、俺はこれまでほとんど見たことがない。
父さんは、どうして琥珀にはそんな顔をしたんだ?
茉白にとって、父はいつも厳しい言葉ばかり投げる存在だった。
「跡取りなのだから」「女性と結婚しろ」「家のために身を尽くせ」
そう言われ続け、反発してきた日々。
笑みを見せるどころか、冷たい視線を受けることの方が多かった。
だからこそ、目の前で琥珀にだけ向けられる優しさは、茉白の心に小さな違和感を芽生えさせた。嫉妬ではない。ただ、納得できないのだ。
琥珀が嬉しそうに頬を染めているのを横目に見ながら、茉白はそっと父を見上げたとき、そのほんのひととき、父の表情から厳格な当主の仮面が外れ、ただの「父親」としての温もりがにじんでいるように見えたのだ。
もし、俺が椿さんとの婚約破棄をしたいと言わなかったら、父様はあんな表情を琥珀に向けなかったのだろうか。
父様は、琥珀に対してどう思っているのだろう。
父様から見れば、息子が連れてきたのは孫の顔も見せることが出来ぬ男の子で、しかも息子はその子と結婚したいから、婚約者との婚約を破棄したいと言う。
それでも、琥珀に対して笑って見せたのは、父様なりの信条だろうか。
胸の奥で小さく疑問が膨らんだが、今は口に出さず、小さく寝息をこぼす琥珀の頭をそっと撫でた。
外では執事さんがお風呂を急かして呼ぶ声がする。
メイドさんたちが浴槽の準備にタオルを持って走る姿が想像できた。
琥珀を起こさなければと思うと同時に、こんなにぐっすり眠ってるのだから、抱き抱えてお風呂に連れて行ってもいいんじゃないかと思う。
でも、今の非力の俺にはそんなことできない。抱き抱えてしまったら、きっと琥珀に怪我をさせてしまう。
今の自分は琥珀をただ起こして、眠気でぐずぐずする可愛い琥珀を手を繋いでお風呂場に連れていくだけ。
「将来はぜったい、だっこして連れていくんだ」
今できた新しい目標に俺は火を灯して、琥珀の肩をゆすった。
「....琥珀、寝ちゃった......。」
安心したようにましろんに頬を擦り寄せて眠る横顔に、思わず触れた。
雪のように白い肌に、ほんの少し桃色に火照る頬。少し口角の上がった口は、なにか良い夢でも見てるのかもしれないと思えるほどに嬉しそうだった。
そんな琥珀に、俺の心の中にはモヤモヤが残った。
こんな可愛い琥珀、誰にも見せたくない。
そんなどす黒い感情が渦巻いていく。自分の心なのに制御できなくて、俺は思わず琥珀からましろんをとりあげた。
ましろんを床に投げるように置き、抱きつくものがなくて目を瞑りながら何かを、ましろんを探すようにぐずぐずしだす琥珀を見て、俺の中のどす黒い感情が増えたような気がした。
ましろんにも、ぬいぐるみにも俺は、嫉妬したのか。
そんな言葉を自分に吐いて、自嘲した。
でも、嫉妬するもんはしてしまったのだ。ていうか、そもそもこんなに琥珀が可愛いのが悪いんだから。
そう自分を納得させ、琥珀のさまよっていた腕の中に俺は入った。
当時はましろんと俺は同じ大きさだったのに、今は俺の方が大きいのか、俺を抱きしめると何やら琥珀はもぞもぞと俺の体をいじくり始めた。
「ちょ、...琥珀...?」
そうして何やらもぞもぞ動くこと数分、ようやく安心したのか、琥珀はまた嬉しそうに口角をほんのりとあげて規則的な寝息を吐いた。
それは、俺が、琥珀を包み込むように抱っこするような体制だった。
そしてふと、昔の記憶が蘇る。
三年前、琥珀がある日突然公園からいなくなって、施設まで探しに行った時、その夜、琥珀は施設に着いた途端疲れてしまったのか、俺に抱きついて眠ってしまった。
その時も、今のように俺の服をぎゅっとにぎって、離さなかった。
「....ふふ、変わらないね。琥珀」
そんな琥珀に、俺はましろんに嫉妬していたことも忘れて、絹のように柔らかく細い髪にそっとキスを落とした。
......もちろん、寝れないけど。
とっとと寝てしまいたい。このまま琥珀の温もりに包まれて、そして夢の中で琥珀とたくさん遊びたい。
でもまだ一日の最後にお風呂が残っている。
琥珀を起こすのは執事さんが来てからにしても、俺まで寝てしまえば執事さんにげんこつをくらうことまちがいなし。
そしてふと、夕食のときのことを思い出した。
父親が琥珀に向けるあの表情。いつもしかめっ面で目すら合わせてくれない父様が、目を細めて琥珀を慈しむように朗らかな表情で見つめていた。まるで琥珀のことを本当の息子のように優しく微笑むその顔は、俺はこれまでほとんど見たことがない。
父さんは、どうして琥珀にはそんな顔をしたんだ?
茉白にとって、父はいつも厳しい言葉ばかり投げる存在だった。
「跡取りなのだから」「女性と結婚しろ」「家のために身を尽くせ」
そう言われ続け、反発してきた日々。
笑みを見せるどころか、冷たい視線を受けることの方が多かった。
だからこそ、目の前で琥珀にだけ向けられる優しさは、茉白の心に小さな違和感を芽生えさせた。嫉妬ではない。ただ、納得できないのだ。
琥珀が嬉しそうに頬を染めているのを横目に見ながら、茉白はそっと父を見上げたとき、そのほんのひととき、父の表情から厳格な当主の仮面が外れ、ただの「父親」としての温もりがにじんでいるように見えたのだ。
もし、俺が椿さんとの婚約破棄をしたいと言わなかったら、父様はあんな表情を琥珀に向けなかったのだろうか。
父様は、琥珀に対してどう思っているのだろう。
父様から見れば、息子が連れてきたのは孫の顔も見せることが出来ぬ男の子で、しかも息子はその子と結婚したいから、婚約者との婚約を破棄したいと言う。
それでも、琥珀に対して笑って見せたのは、父様なりの信条だろうか。
胸の奥で小さく疑問が膨らんだが、今は口に出さず、小さく寝息をこぼす琥珀の頭をそっと撫でた。
外では執事さんがお風呂を急かして呼ぶ声がする。
メイドさんたちが浴槽の準備にタオルを持って走る姿が想像できた。
琥珀を起こさなければと思うと同時に、こんなにぐっすり眠ってるのだから、抱き抱えてお風呂に連れて行ってもいいんじゃないかと思う。
でも、今の非力の俺にはそんなことできない。抱き抱えてしまったら、きっと琥珀に怪我をさせてしまう。
今の自分は琥珀をただ起こして、眠気でぐずぐずする可愛い琥珀を手を繋いでお風呂場に連れていくだけ。
「将来はぜったい、だっこして連れていくんだ」
今できた新しい目標に俺は火を灯して、琥珀の肩をゆすった。
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