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桔梗
49 ママが遺したもの
「感動してるところ恐縮ですが、これらは結局どうされるのですか?」
茉白くんは象の脚を触りながら答えた。
「やっぱり地下がいいと思うんだけどさ、部屋入れなくなるのはすごく嫌だ」
「わがまま言わず早くどちらか決めてください」
ピシャリと言い放つ執事さんに、茉白くんははぁ、とため息つきながらも結局地下に大きな家具たちを運ぶことを選んだ。
「......で、ここに来たと」
「そう、いいよね?」
「いやここ、俺の部屋なんだけど」
そうして、使用人たちが大慌てで家具を運び出している間、茉白くんはいる場所がないからと朱来さんの執務室にやってきていた。
「......お、お、おじゃま......です、か....」
「んーん、そんなことない。琥珀くんなら大歓迎だからね。あ、そうだ。茉白、楓呼んできて」
「え!お兄様の奥さんなのに?俺に呼ばせるの?」
「いいから、ほら早く」
茉白くんはお兄様には逆らえないのか、しぶしぶ部屋を後にする。
僕は茉白くんが部屋から出ていく背中を眺めながら、どうしたらいいか分からず身を縮こませた。
執事さんは家具搬出の指揮をしており、この場にはいない。
それにいくら茉白くんのお兄さんといえど、初対面の人と2人きりでどうしたらいいか分からない。
僕はただただ、よく磨かれた床の大理石を眺めることしか出来なかった。
「急に俺と二人きりなんて、緊張しちゃうよね。」
俯いてばかりの僕にも、そう優しく声をかけてくれた朱来さんは、椅子から立つと僕と目線を合わせるようにしゃがんだ。
「実はずっと渡したかったものがあるんだ。君はこれを、見たことがあるんじゃないかな?」
そう言われ、ゆっくりと顔を上げる。朱来さんのまっすぐで男性らしい力強い手。その上には柔らかな薄桃色のハンカチと、琥珀のペンダントが置かれていた。
僕は、目を見開いた。
薄桃色のハンカチは少し色褪せていて、ところどころ糸がほつれている。だがそんな中でも隅の刺繍だけは、くっきりと残っていた。
そこには、【Kohaku】と滑らかな自体で縫われている。
そのハンカチに、僕は見覚えがあった。
僕はそれらにゆっくりと小さな指先で触れ、持ち上げた。
琥珀のペンダントは重量感があり、光に透かせば、視界が山吹色に染まり刻印がよく見えるようになる。
【Hanabi.Yodai 20○○.12.25】
花妃と、耀大。
それは、ママとパパの名前だった。
「偶然、ネットで売られているところを見つけたんだ。それは、君のものだろう?」
遠い昔、とある日の記憶を思い出す。
まだ僕が話せずに、ベビーベッドの上から覗く彼らをぼんやりと見て、よく笑っていた気がする。
カーテンの間から差す太陽の光が暖かくて、その日も僕は柔らかなブランケットと薄桃色のハンカチをぎゅっと握りしめて眠っていた。
遠くから響いてきた声が、僕の耳を通り抜ける。
『琥珀、ハンカチを離さないね。洗うために離すと、すぐ泣いちゃう』
『......それほど、大切なのね』
『そう言う君も、琥珀のペンダントを肌身離さず持っているよね』
『......宝物、だから。あなたが私に、永遠の愛を誓ってくれたものでしょう?』
琥珀の宝石には、こんな石言葉がある。
長寿、繁栄。
そして、永遠。
永遠の愛と祝福を、パパはその石に込めて、プロポーズの日にママにプレゼントしたのだ。
琥珀はただ、それらを胸元に大事に抱えて、嗚咽を漏らした。
母親が大切にしていたもの。両親が僕のために、プレゼントしてくれたもの。
彼らは空の上から二人並んで、僕のことを見ていてくれるだろうか。
きっと、明るいパパがママのことをからかって、素直になれないママは怒りながらも耳が紅くなっているだろう。
琥珀のペンダントを首から下げて。
彼らからもらう愛情はずっと永遠で、暖かかった。
ずっとずっと、あの時が続けばって何度も思っていた。
でも今は、茉白くんが隣にいてくれたから、今の僕がいる。
僕と茉白くんも、ママとパパのような関係に、なれたらいいな。
「楓さんは、お兄様になんてプロポーズされたの?」
「えっ...!!」
茉白は執務室の扉によりかかりながら、ふと疑問に思い尋ねた。
楓さんはその質問に、耳まで紅く染めた。そしてふりふりとワンピースを揺らして「えと......あの、ね......その......」と言いかけて「やっぱり無理っ!!」と手のひらで顔を覆ってしまった。
どうやら兄は楓さんにとても魅力的なプロポーズをしたらしい。
扉の向こうから聞こえてくる小さな嗚咽と、啜り泣く声。
今は、入っちゃいけない。
何となく、そんな気がした。
茉白くんは象の脚を触りながら答えた。
「やっぱり地下がいいと思うんだけどさ、部屋入れなくなるのはすごく嫌だ」
「わがまま言わず早くどちらか決めてください」
ピシャリと言い放つ執事さんに、茉白くんははぁ、とため息つきながらも結局地下に大きな家具たちを運ぶことを選んだ。
「......で、ここに来たと」
「そう、いいよね?」
「いやここ、俺の部屋なんだけど」
そうして、使用人たちが大慌てで家具を運び出している間、茉白くんはいる場所がないからと朱来さんの執務室にやってきていた。
「......お、お、おじゃま......です、か....」
「んーん、そんなことない。琥珀くんなら大歓迎だからね。あ、そうだ。茉白、楓呼んできて」
「え!お兄様の奥さんなのに?俺に呼ばせるの?」
「いいから、ほら早く」
茉白くんはお兄様には逆らえないのか、しぶしぶ部屋を後にする。
僕は茉白くんが部屋から出ていく背中を眺めながら、どうしたらいいか分からず身を縮こませた。
執事さんは家具搬出の指揮をしており、この場にはいない。
それにいくら茉白くんのお兄さんといえど、初対面の人と2人きりでどうしたらいいか分からない。
僕はただただ、よく磨かれた床の大理石を眺めることしか出来なかった。
「急に俺と二人きりなんて、緊張しちゃうよね。」
俯いてばかりの僕にも、そう優しく声をかけてくれた朱来さんは、椅子から立つと僕と目線を合わせるようにしゃがんだ。
「実はずっと渡したかったものがあるんだ。君はこれを、見たことがあるんじゃないかな?」
そう言われ、ゆっくりと顔を上げる。朱来さんのまっすぐで男性らしい力強い手。その上には柔らかな薄桃色のハンカチと、琥珀のペンダントが置かれていた。
僕は、目を見開いた。
薄桃色のハンカチは少し色褪せていて、ところどころ糸がほつれている。だがそんな中でも隅の刺繍だけは、くっきりと残っていた。
そこには、【Kohaku】と滑らかな自体で縫われている。
そのハンカチに、僕は見覚えがあった。
僕はそれらにゆっくりと小さな指先で触れ、持ち上げた。
琥珀のペンダントは重量感があり、光に透かせば、視界が山吹色に染まり刻印がよく見えるようになる。
【Hanabi.Yodai 20○○.12.25】
花妃と、耀大。
それは、ママとパパの名前だった。
「偶然、ネットで売られているところを見つけたんだ。それは、君のものだろう?」
遠い昔、とある日の記憶を思い出す。
まだ僕が話せずに、ベビーベッドの上から覗く彼らをぼんやりと見て、よく笑っていた気がする。
カーテンの間から差す太陽の光が暖かくて、その日も僕は柔らかなブランケットと薄桃色のハンカチをぎゅっと握りしめて眠っていた。
遠くから響いてきた声が、僕の耳を通り抜ける。
『琥珀、ハンカチを離さないね。洗うために離すと、すぐ泣いちゃう』
『......それほど、大切なのね』
『そう言う君も、琥珀のペンダントを肌身離さず持っているよね』
『......宝物、だから。あなたが私に、永遠の愛を誓ってくれたものでしょう?』
琥珀の宝石には、こんな石言葉がある。
長寿、繁栄。
そして、永遠。
永遠の愛と祝福を、パパはその石に込めて、プロポーズの日にママにプレゼントしたのだ。
琥珀はただ、それらを胸元に大事に抱えて、嗚咽を漏らした。
母親が大切にしていたもの。両親が僕のために、プレゼントしてくれたもの。
彼らは空の上から二人並んで、僕のことを見ていてくれるだろうか。
きっと、明るいパパがママのことをからかって、素直になれないママは怒りながらも耳が紅くなっているだろう。
琥珀のペンダントを首から下げて。
彼らからもらう愛情はずっと永遠で、暖かかった。
ずっとずっと、あの時が続けばって何度も思っていた。
でも今は、茉白くんが隣にいてくれたから、今の僕がいる。
僕と茉白くんも、ママとパパのような関係に、なれたらいいな。
「楓さんは、お兄様になんてプロポーズされたの?」
「えっ...!!」
茉白は執務室の扉によりかかりながら、ふと疑問に思い尋ねた。
楓さんはその質問に、耳まで紅く染めた。そしてふりふりとワンピースを揺らして「えと......あの、ね......その......」と言いかけて「やっぱり無理っ!!」と手のひらで顔を覆ってしまった。
どうやら兄は楓さんにとても魅力的なプロポーズをしたらしい。
扉の向こうから聞こえてくる小さな嗚咽と、啜り泣く声。
今は、入っちゃいけない。
何となく、そんな気がした。
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