僕は冒険者になりたい! 〜ハズレ枠のS級スキル持ちの僕はパーティー追放されたけど、可愛い女の子とイチャラブしながら冒険者を目指します〜

猫民のんたん

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第29話 僕は逃亡者じゃない!?

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 アナグニエ副学長は白い蛇の図体をゆっくりしならせる。僕らの出方を窺っているのか、僕らが恐怖に怯えるのを楽しんでいるのか。何にせよ、考える時間が貰えるのはありがたい。

「ラディアさん、小麦粉は持ってる?」

 僕の唐突な質問に、ラディアさんはキョトンとする。

「は、え? 持ってますけど、こんな時に料理でもするんですか?」
「うん、まあ。とりあえず、小麦粉を貸してくれないかな」
「え、はい……」

 僕はラディアさんの背中のリュックを漁らせてもらう。僕らは外出時に、貴重品といくつかの道具を持ち歩けるよう、いつも小さめのセカンドリュックを背負っている。
 ラディアさんは外でも料理を作るつもりなのかな。簡単な調理道具が入っていた。他に使えそうなのは、ロープとかポーション類か。

「……何を企んでいるかは知らぬが、退路は無いぞ。二人まとめて押し潰してやろう!」

 アナグニエ副学長が長い胴体をしならせながら、僕らへ向けて白く巨大な蛇腹を押し付けてきた。

「いまだ! 『バブルシャワー』! そして【創薬】!」

 僕は左手から無数の泡を産み、右手に小麦粉を持って【創薬】を唱える。

「現れろ! 『プルーフ・リキッド』!」

 僕の両手が光ると、目の前に飛ばした無数の泡が半透明な液壁に変わった。そこへアナグニエ副学長の蛇腹が当たると、途端に液体は白一色に染まる。

 『プルーフ・リキッド』は、普段はドロドロした液体だ。けれど、衝撃を受けると固くなるという特殊な液体なんだ。材料は水と小麦粉。僕が魔法で生み出した水と、ラディアさんから貰った小麦粉を使って【創薬】を発動させたんだ。これで少しはもってくれたら……。

 そう考えたけれど、アナグニエ副学長の力の方が強かったようだ。『プルーフ・リキッド』で作った壁にヒビが入る。

「この程度じゃダメか……【創薬】!」

 もう一度【創薬】を発動し、僕とラディアさんを包み込むように『プルーフ・リキッド』を作り出す。

 僕らの前にあった白壁が砕け、蛇腹が僕らの身体を襲った。

「うぐぅっ……!」

 僕らは窓を突き破り、アナグニエ副学長の部屋から放り出された。

 なんて衝撃だ。これが伝説のモンスター『エインガナ』の力なのか!

 僕らはそのまま、アカデミーの池に落ち込んだ。

「ぶはぁっ! ラディアさん、大丈夫?」
「は、はい! なんとか大丈夫です!」

 僕が池から顔を出して、ラディアさんの安否を確認した。すぐにラディアさんの声が返ってくる。ラディアさんも無事だったようだ。落下地点にアカデミーの池があって助かった。
 それに、『プルーフ・リキッド』が無ければ、打ち付けられた衝撃で死んでいたかもしれない。苦肉の策だったけど、なんとか上手くいってよかった。

 僕らは泳いで池から上がる。アナグニエ副学長の部屋を見ると、大蛇となったアナグニエ副学長が破った窓からヌルヌルと這い出してくるのが見えた。

 このまま走って外に行けば、もしかしたら逃げられるかもしれない。だけど……。

「ラディアさん、本館に戻ろう。あいつを街に出すのは危険すぎる。僕らで何とかするしかない」

 僕の言葉に、ラディアさんは何も言わずに頷いた。アナグニエ副学長の標的は僕らだ。街の人たちを巻き込む訳にはいかない。
 それに、アカデミー内は入り組んでるし、隠れる場所もいっぱいある。たしか、アナグニエ副学長の固有スキル【消失半減】は薬物の効果を少しずつ無くしていくと言っていた。時間を稼げば、変身が勝手に解けるかも。

 僕はそう考えて、ラディアさんと一緒に本館の一階へと逃げ込んだ。

「フフフ……どこに行こうと言うのかね?」

 アナグニエ副学長は巨大な身体をくねらせながら窓から降りる。あの様子なら、すぐに僕らの後を追ってくるはず。アナグニエ副学長に追いつかれる前に、部屋に身を隠そう。

 僕らは実験室の扉を開けて中に転がり込んだ。そして、音を立てないように気をつけながら素早く閉める。壁伝いに扉から離れると、壁に背をつけたまま息を整えた。

「はぁー……これで少しは時間が稼げると良いけれど」

 もしかしたら、アナグニエ副学長はあと何回か変身できる程度の材料を持ってるかもしれない。しかし、こんな大層なモンスターに変身出来るだけの材料が、そんな大量に手に入るとは思えない。元のアナグニエ副学長の戦闘力は大したことないのだから、時間を稼げれば勝機は十分にある。

 背中の壁越しに、ズルズルと這いずる音が聞こえる。僕らは、じっと息を潜めてアナグニエ副学長が通り過ぎるのを待った。そこで、ラディアさんの身体に蒼色のオーラが現れる。

「あっ……!」

 ラディアさんが、小声で叫んで口に手を当てた。ラディアさんの固有スキル【加速する熱意】が発動してるんだ。戦闘開始から一定時間が経ったために、勝手にオーラが出現し、ステータスが上がったようだ。

 しかし、今はタイミングが悪い。

 もう日が落ちて、部屋は月明かりにぼんやり照らされてるだけ。壁越しだから見えないとは思うけれど、オーラのせいで部屋がほの明るくなった気がする。バレないといいけれど……。

 僕らが実験室の両端にあるドアへ警戒をしていると、突然、背後の壁が吹き飛んだ。

「うわっ!」
「きゃあ!」

 不意打ちを受け、僕らは瓦礫やら机やらと共に実験室の反対側へ打ち付けられた。

「フフフ……そんな大きなオーラを発して、私が気が付かないとでも思ったのかね。エインガナの眼は、生物の持つオーラや魔力といった人間の目に見えないものをとらえるのだ。壁など何の障害にもならぬ」

 アナグニエ副学長が不敵に笑いながら、ぶち破った壁から頭を覗かせてきた。

 くっそ……、僕らがここに居ることは、初めから気付いていたのか。……まずい。今ので相当なダメージを受けたぞ。身体が動かない……。

「ラディア、さん……!」

 僕はなんとか動く腕を動かし、瓦礫をどける。ラディアさんは、ぐったりとした様子で瓦礫の中に埋まっていた。

「はぁ……はぁ……ラディアさん、今、助けるから……うぐっ……はぁ……!」

 痛む身体を無理やり動かし、僕は瓦礫をどけた。そして、ラディアさんを瓦礫の中から引きずり出す。ラディアさんの身体からはまだオーラが出ていた。よかった。とりあえず、生きてはいるようだ。しかし、目を覚ます気配がない。

「フフフ、勝負ありかな、ハルガード。頼みのラディアがそんな状態で、君もボロボロではないか」

 言って、僕らを嘲笑うアナグニエ副学長。巨大な身体を伸ばして、天井付近から僕らを見下ろしていた。

 まさに、万事休すだ。ラディアさんは辛うじて息があるとは言え、こんな重体だ。僕も、もはや満足に動けない。時間も全然稼げなかった。それに、『プルーフ・リキッド』は多分もう通用しない。次は、その手のバリアを張られても問題なく僕らを叩き潰せるくらいの力で攻撃してくるだろう。

 どうすれば、どうすれば……?

 僕は必死で頭を働かせる。すると走馬灯のように、昔の思い出が僕の脳裏をめぐった――
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