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第一章 いざ、竜狩りへ
007 ザックスの反撃
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「はぁ……、はぁ……」
白髪の後ろ髪を揺らしながら、ザックスは石橋を駆ける。
早鐘を打つ心臓。大地を揺らす衝撃。翡翠色の悪魔が、壁越しにこちらを睨みつけているのを感じると、焦燥を禁じ得なかった。
大きな衝撃に、ザックスの体が一瞬だけ宙に浮く。多少よろめきながらも、背後の大門から出来る限り遠ざかろうと、ザックスは必死だった。
ザックスが橋の中腹まで差し掛かった頃、背後から轟音が鳴った。石の雨が降り注ぎ、ザックスは橋へと打ちつけられる。
「―――っ!」
突っ伏して丸くなり、苦悶の表情を浮かべながら、石の雨をやり過ごした。石雨が止むと、背後から轟雷のごとき雄叫び。
大門を突き破った巨大な竜頭が、鎌首をもたげながらザックスを見下ろしていた。
「あのでけぇ扉を頭突きでぶち抜いたってのか? くそったれ……っ!」
翡翠竜は唸り声を上げながら、左右に首を振る。その様は、扉から突き出した首が引き抜けずにもがいているように見えた。
「はん、この間抜けっ! 格好の標的じゃねぇか」
好機。ザックスは起き上がって腰に携えたガン・ソードを引き抜いた。
指ぬきグローブをはめた手でグリップをしっかりと握る。ガン・ソードを脇に挟み込み、大きな銃口を竜の方へと向けた。
「今度はとっておきをお見舞いしてやるぜ。覚悟しなっ!」
ほくそ笑み、銃身の下部から空になった魔力莢を取り外して石畳に投げつける。腰につけたポーチから替えの魔力莢を取り出すと、舐めるような動作で素早く装填した。
グリップを脇にはさみながら、左手をトリガー部分へと移す。額にかけたゴーグルをおろし、銃口を竜の額へと向け狙いを定めた。
「くたばりやがれぇぇぇぇっ!」
少年が左手でトリガーのついたグリップを引くと、銃口へ魔力が集まり紫色に輝きだした。先ほどよりもひときわ多くのエネルギーを注ぎ込んで、トリガーを引く。放たれた紫光の球は竜の額へ向けて一直線に駆けだした。
群青色の瞳が光球を視認するのとほぼ同時。飛び出したエネルギー弾は爆音と共に紫色の粒子を飛び散らしながら爆ぜた。
「なん、だと……?」
再び、魔力障壁によって阻まれた渾身の一撃は、中空で紫色の光鱗をちらつかせて消えていく。対する竜は、引いてダメならとその巨体を大扉へ押し当て、難なく破壊しながらその全身をあらわにした。
圧倒的な存在。人類の叡智を集めて作られた武器をもってさえ傷ひとつ付けられず、堅牢な大扉をもってしても防げないその行軍。竜こそが、この世界の覇者たる所以だった。
『ところで、ザックス。よもや見紛うことはねぇと思うが、緑色の竜はもう1種類いる。そいつは翡翠竜といって、長い首と尾を持ち、四足で歩く巨大な竜だ。額に生える二本の角は、市場で高い値がついていてな、良い稼ぎになる。鉄壁の魔力障壁を繰るそいつは、一筋縄では倒せねぇ。だから、もし出会っても絶対に手を出すな。警戒心が非常に強い翡翠竜は、こちらが手出ししなきゃあ、絶対に襲ってこない。やれない相手じゃあないが、狩るにはそれなりの準備が必要だ』
「……おせぇよ、クソハゲ」
今さら思い出した金言に悪態をついた。
「なーんか、おかしいと思ってたんだよな。翼竜っていう割には四足で走るし、魔力が無いっていう割には魔力障壁が飛び出してくる。アレがこいつ自身の仕業だっていうんなら、ここも沼地なんかじゃねぇよな、きっと」
ようやく合点がいき、ザックスは自分が見当違いなところへたどり着いてしまった事に気が付いた。
「しかしまぁ、ここまで来ちまえば大丈夫だろう。あいつの図体じゃあ、どうやったってこの橋は渡れねぇだろうし」
森と遺跡を繋ぐこの大橋は、人間が渡るために作られたもの。せいぜい、人が往来できる程度の広さと頑強さがあるくらいで、竜が渡ることなど想定外も甚だしい。
ザックスは、さっさと見切りをつけて、対岸へ向けて足を踏み出した。
「ガォァァァ!」
こともあろうに、翡翠竜は自身が渡れるかどうかなど構うことなく強く前足を踏み出す。その力に大扉が難なく破壊された手前、橋が抗えるはずがあろうか。竜の足元から亀裂が走ると、端から崩れ落ち始めた。
「あんの馬鹿野郎! 何てことしやがる!」
慌てて駆けだすが、地割れは無慈悲に容赦なくザックスを飲み込んだ。重力に翻弄されるまま落下を始める最中、翡翠竜もまた重力に引かれるままに落下していた。
橋の下は滝から流れ落ちた水が溜まる壺になって――いるかと思いきや、そうではなかった。
「ぐはっ!」
元は橋の形をしていた瓦礫と共に、ザックスは大地へと叩き付けられた。
辺りは霧で包まれているものの、水が溜まっている様子はない。滝壺は別な場所へ水を排出し、ここは逃げ場を無くした蒸気が留まるのみとなっていた。
「ちっくしょう……。あの野郎、自分ごと落ちて俺の逃げ場を無くしやがったな」
「グルルルル……」
霧の中から唸り声が降ってくる。ぼんやりと、琥珀色の双角と翡翠色の肌がザックスの視界をちらついていた。
「そのくせ、テメェは魔力障壁で無傷ってか。ふざけた野郎だぜ」
ザックスの呟きに反応し、うすぼけた双角が近づいてきた。群青色の瞳が光を発し、ザックスはガン・ソードを構える。
かくなる上は、戦うしかない。
白髪の後ろ髪を揺らしながら、ザックスは石橋を駆ける。
早鐘を打つ心臓。大地を揺らす衝撃。翡翠色の悪魔が、壁越しにこちらを睨みつけているのを感じると、焦燥を禁じ得なかった。
大きな衝撃に、ザックスの体が一瞬だけ宙に浮く。多少よろめきながらも、背後の大門から出来る限り遠ざかろうと、ザックスは必死だった。
ザックスが橋の中腹まで差し掛かった頃、背後から轟音が鳴った。石の雨が降り注ぎ、ザックスは橋へと打ちつけられる。
「―――っ!」
突っ伏して丸くなり、苦悶の表情を浮かべながら、石の雨をやり過ごした。石雨が止むと、背後から轟雷のごとき雄叫び。
大門を突き破った巨大な竜頭が、鎌首をもたげながらザックスを見下ろしていた。
「あのでけぇ扉を頭突きでぶち抜いたってのか? くそったれ……っ!」
翡翠竜は唸り声を上げながら、左右に首を振る。その様は、扉から突き出した首が引き抜けずにもがいているように見えた。
「はん、この間抜けっ! 格好の標的じゃねぇか」
好機。ザックスは起き上がって腰に携えたガン・ソードを引き抜いた。
指ぬきグローブをはめた手でグリップをしっかりと握る。ガン・ソードを脇に挟み込み、大きな銃口を竜の方へと向けた。
「今度はとっておきをお見舞いしてやるぜ。覚悟しなっ!」
ほくそ笑み、銃身の下部から空になった魔力莢を取り外して石畳に投げつける。腰につけたポーチから替えの魔力莢を取り出すと、舐めるような動作で素早く装填した。
グリップを脇にはさみながら、左手をトリガー部分へと移す。額にかけたゴーグルをおろし、銃口を竜の額へと向け狙いを定めた。
「くたばりやがれぇぇぇぇっ!」
少年が左手でトリガーのついたグリップを引くと、銃口へ魔力が集まり紫色に輝きだした。先ほどよりもひときわ多くのエネルギーを注ぎ込んで、トリガーを引く。放たれた紫光の球は竜の額へ向けて一直線に駆けだした。
群青色の瞳が光球を視認するのとほぼ同時。飛び出したエネルギー弾は爆音と共に紫色の粒子を飛び散らしながら爆ぜた。
「なん、だと……?」
再び、魔力障壁によって阻まれた渾身の一撃は、中空で紫色の光鱗をちらつかせて消えていく。対する竜は、引いてダメならとその巨体を大扉へ押し当て、難なく破壊しながらその全身をあらわにした。
圧倒的な存在。人類の叡智を集めて作られた武器をもってさえ傷ひとつ付けられず、堅牢な大扉をもってしても防げないその行軍。竜こそが、この世界の覇者たる所以だった。
『ところで、ザックス。よもや見紛うことはねぇと思うが、緑色の竜はもう1種類いる。そいつは翡翠竜といって、長い首と尾を持ち、四足で歩く巨大な竜だ。額に生える二本の角は、市場で高い値がついていてな、良い稼ぎになる。鉄壁の魔力障壁を繰るそいつは、一筋縄では倒せねぇ。だから、もし出会っても絶対に手を出すな。警戒心が非常に強い翡翠竜は、こちらが手出ししなきゃあ、絶対に襲ってこない。やれない相手じゃあないが、狩るにはそれなりの準備が必要だ』
「……おせぇよ、クソハゲ」
今さら思い出した金言に悪態をついた。
「なーんか、おかしいと思ってたんだよな。翼竜っていう割には四足で走るし、魔力が無いっていう割には魔力障壁が飛び出してくる。アレがこいつ自身の仕業だっていうんなら、ここも沼地なんかじゃねぇよな、きっと」
ようやく合点がいき、ザックスは自分が見当違いなところへたどり着いてしまった事に気が付いた。
「しかしまぁ、ここまで来ちまえば大丈夫だろう。あいつの図体じゃあ、どうやったってこの橋は渡れねぇだろうし」
森と遺跡を繋ぐこの大橋は、人間が渡るために作られたもの。せいぜい、人が往来できる程度の広さと頑強さがあるくらいで、竜が渡ることなど想定外も甚だしい。
ザックスは、さっさと見切りをつけて、対岸へ向けて足を踏み出した。
「ガォァァァ!」
こともあろうに、翡翠竜は自身が渡れるかどうかなど構うことなく強く前足を踏み出す。その力に大扉が難なく破壊された手前、橋が抗えるはずがあろうか。竜の足元から亀裂が走ると、端から崩れ落ち始めた。
「あんの馬鹿野郎! 何てことしやがる!」
慌てて駆けだすが、地割れは無慈悲に容赦なくザックスを飲み込んだ。重力に翻弄されるまま落下を始める最中、翡翠竜もまた重力に引かれるままに落下していた。
橋の下は滝から流れ落ちた水が溜まる壺になって――いるかと思いきや、そうではなかった。
「ぐはっ!」
元は橋の形をしていた瓦礫と共に、ザックスは大地へと叩き付けられた。
辺りは霧で包まれているものの、水が溜まっている様子はない。滝壺は別な場所へ水を排出し、ここは逃げ場を無くした蒸気が留まるのみとなっていた。
「ちっくしょう……。あの野郎、自分ごと落ちて俺の逃げ場を無くしやがったな」
「グルルルル……」
霧の中から唸り声が降ってくる。ぼんやりと、琥珀色の双角と翡翠色の肌がザックスの視界をちらついていた。
「そのくせ、テメェは魔力障壁で無傷ってか。ふざけた野郎だぜ」
ザックスの呟きに反応し、うすぼけた双角が近づいてきた。群青色の瞳が光を発し、ザックスはガン・ソードを構える。
かくなる上は、戦うしかない。
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