最強竜殺しの弟子

猫民のんたん

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第一章 いざ、竜狩りへ

034 窮地

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「痛ってぇな、こんちくしょう」

 ザックスは、ガン・ソードを杖代わりにして立ち上がる。すると、

「ギィイイィ」「ギャア」「グゥゥ」

 三頭のワイバーンが、ザックスを取り囲んでいた。

「ちっ……アイツ、まんまとコイツ等が固まっているところへ俺を落としやがったな」

 ザックスがこめかみについた毒を袖で拭いながら、悪態を吐く。

 そこで、ザックスは違和感を覚えた。

「なんだ……どうなってやがんだ?」

 ザックスは左目あたりを触ろうと腕を持ち上げるが、左手は手首からだらりと垂れて動かなかった。

「まさか、あの時に触れた毒か!」

 棘尾を受け止めた際、僅かに触れた毒が、ザックスの目と左手首を麻痺させていた。

 左目を開けられず、左手でガン・ソードを握ることも出来ない。そのうえ、三頭のワイバーンに囲まれているこの状況。

「おいおい、マジかよ……」

 呟き、ザックスは戦慄した。

 開いている右眼には、のそりと歩みながら、大口を開けてザックスへと迫るワイバーンの姿が映し出されていた。

「へっ……こいつは、流石にやべぇな。だがよ」

 ザックスは左わきにガン・ソードを挟み、開いた右手で魔力莢を交換する。

 こんな状況に立たされてなお、シニカルな笑みを浮かべて、ワイバーンをひと睨みした。

「簡単に食われてやるザックス様じゃねぇぜ? 俺を食えるもんなら、食ってみやがれ!」

「ガアァァア!」

 ワイバーンの口が、頭上から落ちてくる。

 ザックスは右手にガン・ソードを持ち直し、左斜め前方へ素早く飛んだ。

 ガチンと歯音を鳴らし、ザックスの居た場所でワイバーンが空を食う。

「こっちだ、木偶の坊!」

 すれ違いざまに、ザックスはガン・ソードを片手で薙ぐ。

 同時に身体を捻って回転力も加え、渾身の力で側頭部を打ち付けた。

「ギィ!」

 短い悲鳴を上げて、ワイバーンがよろめく。

 ザックスは着地すると、大きな影がザックスの背後から覆いかぶさった。ザックスが振り向くと、そこには別のワイバーンが足を振り上げ、ザックスを踏みつぶさんとする姿があった。

「ガァ!」

 ワイバーンの発声と共に、巨大な足が落とされる。

 ザックスはガン・ソードの銃口を向けるも、弾くことは叶わず、そのまま下敷きとなった。

 だが、ガン・ソードが突っ張り棒の役割を果たし、ザックスが押しつぶされることは無かった。

「その足をどけやがれっ!」

 ガン・ソードを脇に抱えて押し倒された状態で、ザックスはトリガーグリップを引き下げる。

 足と銃口の狭間から紫色の光が漏れ出すと、ザックスは指にかけたトリガーを引いた。

 爆発と共にザックスを押さえつける足は上空へと押し返され、ワイバーンはバランスを崩す。

 態勢を立て直そうとザックスが身体を起き上がらせた矢先。三頭目のワイバーンの牙が襲い掛かった。

「次から次へと、オラァ!」

 ガン・ソードを持ち上げ、襲い来るワイバーンの口の中へ乱暴に放り込む。

ザックスをかみ砕こうとした牙はガン・ソードに阻まれガチンと音を立てて動きを止めた。

 そのまま、ザックスがトリガーを引こうとしたその時だった。

「ぐぁっ!」

 背後から爪が襲い掛かり、ザックスの脇腹が穿たれた。

 ザックスはガン・ソードから手を放すと、突き立てられた爪によって押し倒された。

「この……くそっ……!」

 ザックスは、自身を押し倒したワイバーンを下から睨みつける。

 ワイバーンは首をぶるぶると振るい、両翼を広げていた。最初に側頭部を強打したワイバーンだ。

 ゴトっと、硬いものが地面に落下した音がザックスの耳朶を打った。先ほど咥えさせたガン・ソードが、ザックスの脇に横たわっている。

 ズンッと、それを踏みつけるようにワイバーンの足が乗せられた。

 そして、三頭のワイバーンの顔が、ザックスを覗き込む。

 鎌首をもたげて、口を半開きにしながら息巻いているワイバーン。

 ザックスは身動きが取れず、その凶悪な顔を眺めていることしかできない。

 絶体絶命。

「くそったれ……こんなところで……!」

 ザックスが恨み言をこぼし、ザックスを地面に押しつけるワイバーンが口を開いた。

 ワイバーンの表情には、特別な感情など一切なかった。

 単に、獲物である人間を食す。それだけ。

 この世界は、食うか食われるか。ただそれだけの単純な摂理が、彼らの掟だった。

 開けた口がゆっくりと迫り、ザックスは死を覚悟する。


「ゴァ……」

 口を開いたまま、ワイバーンの顔が視界から消えた。
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