最強竜殺しの弟子

猫民のんたん

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第一章 いざ、竜狩りへ

035 王者とは

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 そのすぐ後、ザックスの横に目を剥いたワイバーンの首が落ちた。

「ふんっ、これだけの人間に囲まれて悠長に食事とは、呑気なものだな」

 ワイバーンの背後から、聞きなれた憎まれ口が飛び出した。

「ネルビス、てめぇ……」

「まったく、油断をしているからこうなる。我々がいなければ、本当に彼奴らの餌になっていたぞ、ザックス」

 白銀の刃が煌めいた。ワイバーンの背後から見慣れた銀髪が顔を覗かせる。

 仏頂面で鼻を鳴らすネルビスが、堂々たる姿でワイバーンの背に立っていた。

 ザックスがネルビスの姿を右眼に収めると、続けざまに二頭のワイバーンがその横で倒れ伏し、地面を揺らした。

「旦那、こっちも終わりやしたぜ」

「ご無事ですか、ザックスさん」

 倒れたワイバーンの後ろから二人の男が顔を出す。デブがネルビスへ報告して、黒髭がザックスを心配そうにのぞき込んだ。

「ザックス、立てるか?」

 言いながら、ザックスを押さえつける巨体をネルビスが蹴った。ワイバーンの亡骸は力なく地面に倒れ、黒い土煙をあげた。

「ああ、何とか、な……」

 ザックスは傍に落ちているガン・ソードを右手で掴み、杖のようにして立ち上がる。

「ふん、随分とボロボロじゃあないか……おい、ザックス。そのシミは、まさか奴の毒を浴びたのか?」

 ネルビスはザックスの様子を見るや、その異変に気が付いた。

 ふらふらと立ち上がったザックスの左目は開かず、左手首より先は力なく垂れたままだった。

「おい、誰か。奴に解毒剤をつけてやれ」

「へい」

 大男が鎧の隙間に手を突っ込み、褐色の容器を取り出した。

 あまり大きくない容器のふたを捻り開けると、黒色の軟膏が詰まっていた。

「なんだぁ、こりゃ」

「ワイバーンの毒を中和する薬です」

 そういうと、大男はグローブを填めたまま指に軟膏を少量すくいとる。

 そして、ザックスの手首とこめかみ辺りに、丁寧に延ばしていった。

 ザックスは、とりあえずされるがままに大人しくしていた。が、内心で意外と繊細な奴だなと不謹慎ながら思っていた。

「どうですか?」

「どうって……どうもしねぇな」

「痛かったり痒かったりしませんか?」

「いや、別に」

「なら、大丈夫です」

 ザックスには大男の質問の意図がいまひとつ読み取れなかったが、大男は安心した様子で頷くと、瓶をしまった。

「この解毒剤は、すぐに効果が出るものではない。まあ、現状では気休めみたいなものでしかないが、つけないよりはマシだろう」

 ネルビスが代わって説明する。そのまま言葉を続けようとしたが、上空の気配に気付いてはっと空を見上げると、ネルビスは声をあげた。

「どうやら、呑気に話している暇はないぞ。全員、散会せよ!」

 上空を羽ばたいていた傷持ちのワイバーンは翼の動きを止め、ネルビス達がたむろしている所へ垂直に降って来る。

 団員たちは、急いで方々へと駆けた。

「くっ……!」

 駆け出そうとして、ザックスはおぼつかない足取りでよろけた。

 それを見て、ネルビスはすぐさま駆けだす。

 ワイバーンの巨大な足がすぐそこにまで迫って来ていた。

「馬鹿たれ、何をしている!」

 ネルビスが跳躍すると、そのままザックスを肩に乗せあげるようにして体当たりした。

 一瞬遅れて、ワイバーンの足がザックスの居た空間を押しつぶす。

 ワイバーンの着地による風圧も加わり、ザックスとネルビスは吹き飛ばされるようにして、空を舞った。

 黒の地面を転がる二人。ネルビスはすっくと立ちあがると盾を構え、横で倒れているザックスを見下ろした。

「動けぬのなら無理をするな。ここは我々だけで戦う。貴様はそこで見ているがいい」

「んなわけ、ねぇだろ……俺だってまだやれるぜ!」

 ザックスはゆっくりと立ち上がると、口もとを指で拭う。

 ぺっ、と口に溜まる血を吐き出すと、ガン・ソードを引きずるような形で構えた。

「ふん、威勢は良いが、足手まといにだけはなるなよ」

 視線をワイバーンに戻し、ネルビスは傷持ちのワイバーンを見据えた。

「かつての部下を、何のためらいもなく踏みつけるか……」

 傷持ちの足元には、踏みしだかれた仲間の亡骸。

 親玉である竜の顔には、微塵も悲哀の念など感じられなかった。

「俺は以前、お前のボスを殺した。ボスは、お前をかばって深手を負った。お前を逃がすために」

 ネルビスの顔が憤怒に染まっていく。

 鋭い眼光を傷持ちのワイバーンへと向けた。

「貴様は、奴の志を受け継いでいるのか? お前のボスは、何のためにお前を助けたのだ? お前は自分の手下を何だと思っているのだ?」

 ネルビスは鋼鉄剣『シグムンド』を強く握りしめる。

「貴様に、群れを従える資格などない。今、この場で仲間ともども葬り去ってやる!」

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