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第一章 いざ、竜狩りへ
038 エピローグ/竜追い人として
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「ただいま戻ったぜ、親父!」
ザックスは木製扉を勢いよく開け放ち、大手を振って自宅の玄関に上がり込んだ。
「おう、遅かったじゃねぇか、ザックス。こんな時間まで何してたんだ?」
台所ではビゴットが、翡翠竜の燻製肉を捌いている所だった。
既に日は傾き、夕闇が辺りを包み込もうという頃で、ビゴットは夕食の準備をしていたのだった。
「お邪魔しますわ、ビゴットさん」
ザックスの後ろから、マーブルがひょっこりと顔を出す。
「マーブルも一緒か。すまねぇな、来るのがわかってりゃあ、それなりにもてなす準備をしてたんだが」
「いえいえ、お気になさらずに」
マーブルが腰辺りで後ろ手を組み上機嫌で入ってくるのを、ビゴットは頭を撫でながら見ていた。
「お前ら、二人ともどうした? やけに機嫌が良いようだけれども」
「よくぞ聞いてくださいましたわ!」
マーブルが目を輝かせながら、小走りでビゴットに詰め寄る。
そしてビゴットの分厚い胸筋に寄りかかるようにして迫ると、下から小顔を覗かせた。
ビゴットは、マーブルの興奮した様子に何事かとたじろいでしまっている。
「聞いてくださいまし! ザックスが、今日、ついに、ワイバーンを狩ってきたのですわ!」
「お、おう……それより、ちょっと離れてくれや」
ビゴットは、喜びに溢れる顔で見上げてくるマーブルの肩を掴むと、そっと引きはがす。
咳払いをひとつすると、落ち着いた様子で筋肉質な腕を組みながらマーブルに尋ねた。
「ワイバーンって、おめぇ……確か、ネルビスって奴のところに依頼に行ったんじゃねぇのか?」
「ええ。行って、ザックスに協力するようお願いしたのですわ。依頼は引き続きザックスが受け持つという形で、ネルビスさんが協力してくれたんですの」
「なんだって、そんなまどろっこしいことを……」
「ほーらな! やっぱり、親父はそんなこと考えてなかったみてぇだぜ」
ザックスがどかりと椅子に座り、腕を頭の後ろで組みながら言い放った。
「そんなことって、何だ?」
ビゴットが不思議そうにマーブルを見やる。
「え?」
ビゴットの態度に、マーブルがきょとんとして首を傾げた。
「ビゴットさんは、ザックスの武器がワイバーン狩りに不利だと分かっていて、敢えてその依頼を振ったのではなかったんですの?」
「ああ、まあ不利だとは思ってたが、アレくらいの竜なら何とか狩れるだろうと考えてはいたな……」
だが、とビゴットは顎を撫でながら付け加える。
「それが、どうしたってんだ?」
「マーブルが、『俺が単独でワイバーンを狩れないことを知ってて、誰かと協力して依頼を達成することを目論んでた』って話してたんだよ。親父のことだから、そんなまどろっこしいことなんて考えてやしねぇだろ? どうせ、何も考えずに俺に無理難題を吹っかけやがったんだよ」
ザックスがしたり顔でマーブルを見やる。
マーブルは気まずそうに、上目遣いでビゴットへ視線を投げかけた。
「ああ、なるほどな……」
ビゴットは、顎を撫でながら、どうしたもんかと思案した。
少し逡巡すると、ややあってビゴットが口を開く。
「ま、てめぇの実力を過大評価して、出来もしねぇワイバーン狩りの仕事を押し付けた俺が悪かった、てぇことで良いか?」
「ぉおん?」
ザックスはガタと椅子を鳴らし、テーブルへ肘をついて身を乗り出した。
「おいおい、今自分で言ったじゃあねぇか、ザックス。『俺に無理難題を吹っかけやがった』って聞こえたぜ? お前自身、出来っこねぇって思ってたんだろ?」
「あぁ? んなわけねぇだろ! あんな小物くれぇ、全っ然余裕だったぜ!」
「強がんなよ。弱く見えるぜ?」
「んだとコラ!」
ビゴットの挑発に乗せられ、顔を真っ赤にして今にも噛みつきそうな形相でザックスが吠える。
対するビゴットは余裕そうな面持ち。半目でザックスを見下しながら言った。
「まあ、まだまだ実力不足なお前にしては、よく頑張ったと思うぜ。お前、誰かと協力して依頼をこなすなんて発想すら無かっただろうしな」
ビゴットは、マーブルの頭にぽんっと手を置いた。その目はまっすぐにザックスを見据えている。
「仲間を持つってのは、悪いことじゃあねぇ。ひとりで突っ走るしか能の無かったお前が他人と足並み合わせられるようになっただけでも、随分成長したと俺は思うがな」
マーブルが、置かれた手に驚いてビゴットを見上げる。
そこには、穏やかな表情を浮かべる父親としての顔があった。
「なに気取ってんだよ、クソハゲ! テメェ、いっぺんぶっ殺してやるから覚悟しやがれ!」
ザックスは頭に血を昇らせ、ビゴットの表情の変化になど一切の関心も向けていやしなかった。
ビゴットは、マーブルを見下ろしながら、
「これからも、宜しくしてやってくれ。あんな馬鹿だが、まあ、そのぶん竜追い人としての伸びしろには期待できるってもんだ」
二カッと歯をむき出し、ビゴットは笑う。
ビゴットの言葉には、信頼の念が込められていた。ザックスにガン・ソードを託し、これから竜追い人として活動する息子を任せる、と。その意を真摯に受け止めてマーブルは、「ええ、こちらこそ宜しくですわ」と微笑みながら、はっきりとした言葉でビゴットに返した。
「くたばれ、クソ親父!」
まるで空気を読めないザックスが、ビゴットに向けてガン・ソードを振りかざしテーブルを蹴って飛びかかった。
夕暮れのうすぼんやりとした森で。
空には、一等明るい星が煌めき始めていた。
静寂が包み込む森の中にある大樹の家から突如、鈍い音が響き渡った。
それと同時に、ザックスは窓を突き破ってエントランスを越え、階段の上を仰向けに舞っていた。
ザックスは木製扉を勢いよく開け放ち、大手を振って自宅の玄関に上がり込んだ。
「おう、遅かったじゃねぇか、ザックス。こんな時間まで何してたんだ?」
台所ではビゴットが、翡翠竜の燻製肉を捌いている所だった。
既に日は傾き、夕闇が辺りを包み込もうという頃で、ビゴットは夕食の準備をしていたのだった。
「お邪魔しますわ、ビゴットさん」
ザックスの後ろから、マーブルがひょっこりと顔を出す。
「マーブルも一緒か。すまねぇな、来るのがわかってりゃあ、それなりにもてなす準備をしてたんだが」
「いえいえ、お気になさらずに」
マーブルが腰辺りで後ろ手を組み上機嫌で入ってくるのを、ビゴットは頭を撫でながら見ていた。
「お前ら、二人ともどうした? やけに機嫌が良いようだけれども」
「よくぞ聞いてくださいましたわ!」
マーブルが目を輝かせながら、小走りでビゴットに詰め寄る。
そしてビゴットの分厚い胸筋に寄りかかるようにして迫ると、下から小顔を覗かせた。
ビゴットは、マーブルの興奮した様子に何事かとたじろいでしまっている。
「聞いてくださいまし! ザックスが、今日、ついに、ワイバーンを狩ってきたのですわ!」
「お、おう……それより、ちょっと離れてくれや」
ビゴットは、喜びに溢れる顔で見上げてくるマーブルの肩を掴むと、そっと引きはがす。
咳払いをひとつすると、落ち着いた様子で筋肉質な腕を組みながらマーブルに尋ねた。
「ワイバーンって、おめぇ……確か、ネルビスって奴のところに依頼に行ったんじゃねぇのか?」
「ええ。行って、ザックスに協力するようお願いしたのですわ。依頼は引き続きザックスが受け持つという形で、ネルビスさんが協力してくれたんですの」
「なんだって、そんなまどろっこしいことを……」
「ほーらな! やっぱり、親父はそんなこと考えてなかったみてぇだぜ」
ザックスがどかりと椅子に座り、腕を頭の後ろで組みながら言い放った。
「そんなことって、何だ?」
ビゴットが不思議そうにマーブルを見やる。
「え?」
ビゴットの態度に、マーブルがきょとんとして首を傾げた。
「ビゴットさんは、ザックスの武器がワイバーン狩りに不利だと分かっていて、敢えてその依頼を振ったのではなかったんですの?」
「ああ、まあ不利だとは思ってたが、アレくらいの竜なら何とか狩れるだろうと考えてはいたな……」
だが、とビゴットは顎を撫でながら付け加える。
「それが、どうしたってんだ?」
「マーブルが、『俺が単独でワイバーンを狩れないことを知ってて、誰かと協力して依頼を達成することを目論んでた』って話してたんだよ。親父のことだから、そんなまどろっこしいことなんて考えてやしねぇだろ? どうせ、何も考えずに俺に無理難題を吹っかけやがったんだよ」
ザックスがしたり顔でマーブルを見やる。
マーブルは気まずそうに、上目遣いでビゴットへ視線を投げかけた。
「ああ、なるほどな……」
ビゴットは、顎を撫でながら、どうしたもんかと思案した。
少し逡巡すると、ややあってビゴットが口を開く。
「ま、てめぇの実力を過大評価して、出来もしねぇワイバーン狩りの仕事を押し付けた俺が悪かった、てぇことで良いか?」
「ぉおん?」
ザックスはガタと椅子を鳴らし、テーブルへ肘をついて身を乗り出した。
「おいおい、今自分で言ったじゃあねぇか、ザックス。『俺に無理難題を吹っかけやがった』って聞こえたぜ? お前自身、出来っこねぇって思ってたんだろ?」
「あぁ? んなわけねぇだろ! あんな小物くれぇ、全っ然余裕だったぜ!」
「強がんなよ。弱く見えるぜ?」
「んだとコラ!」
ビゴットの挑発に乗せられ、顔を真っ赤にして今にも噛みつきそうな形相でザックスが吠える。
対するビゴットは余裕そうな面持ち。半目でザックスを見下しながら言った。
「まあ、まだまだ実力不足なお前にしては、よく頑張ったと思うぜ。お前、誰かと協力して依頼をこなすなんて発想すら無かっただろうしな」
ビゴットは、マーブルの頭にぽんっと手を置いた。その目はまっすぐにザックスを見据えている。
「仲間を持つってのは、悪いことじゃあねぇ。ひとりで突っ走るしか能の無かったお前が他人と足並み合わせられるようになっただけでも、随分成長したと俺は思うがな」
マーブルが、置かれた手に驚いてビゴットを見上げる。
そこには、穏やかな表情を浮かべる父親としての顔があった。
「なに気取ってんだよ、クソハゲ! テメェ、いっぺんぶっ殺してやるから覚悟しやがれ!」
ザックスは頭に血を昇らせ、ビゴットの表情の変化になど一切の関心も向けていやしなかった。
ビゴットは、マーブルを見下ろしながら、
「これからも、宜しくしてやってくれ。あんな馬鹿だが、まあ、そのぶん竜追い人としての伸びしろには期待できるってもんだ」
二カッと歯をむき出し、ビゴットは笑う。
ビゴットの言葉には、信頼の念が込められていた。ザックスにガン・ソードを託し、これから竜追い人として活動する息子を任せる、と。その意を真摯に受け止めてマーブルは、「ええ、こちらこそ宜しくですわ」と微笑みながら、はっきりとした言葉でビゴットに返した。
「くたばれ、クソ親父!」
まるで空気を読めないザックスが、ビゴットに向けてガン・ソードを振りかざしテーブルを蹴って飛びかかった。
夕暮れのうすぼんやりとした森で。
空には、一等明るい星が煌めき始めていた。
静寂が包み込む森の中にある大樹の家から突如、鈍い音が響き渡った。
それと同時に、ザックスは窓を突き破ってエントランスを越え、階段の上を仰向けに舞っていた。
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