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第六章 親の願い
51話 岩壁の母
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オーデルの町が築かれているのは、セラーラ地方の中央に広がるナルシャと呼ばれる山地の中だ。ズミの中でも歴史の古い町だと聞いたことがあるけど、どうしてこんな場所に町を作ろうと思ったのか、なんて考えてしまうほどに険しい地形をしている。
パーティルやサダナムのように城壁に囲まれているということはないが、岩場やところどころに築かれた石塀に阻まれて町へ入る道は自然と絞られる。階段だらけの街道の入口は、まるで登山口のようだ。
故郷の村に一番近い町であり、幼い頃は何度も訪れることがあった……その思い出の中の景色と比べて、僕はその入口の景色に思わず足を止めて驚いてしまう。
そこには物々しい雰囲気で武装した警備兵の姿があった。しかしパーティルやサダナムとは違って、黒髪の警備兵だ。てっきり町には難なく入ることができると思っていたのに、存外にそこで足を止められてしまう。
目の青い僕の顔を見て警備兵が呼び止める。面倒だなと思いながらも、混血ではあるけどトレンティアの関係者ではないことをいつものように説明する。
しかし警備兵達はこそこそと何かを相談していて、簡単に通してはくれない。
「ルベル村の出身だ。しばらくジンク地方へ移動していたけど帰省してきたところ」
そう伝えても警備兵は相談を続けた。やがて話が決まったらしく、付いてこい、と僕に向かって言って一人が移動を始めた。
一体どこへ連れて行かれて、何をされるのか分かったものではないが、こんな所で同胞と険悪になって町に入れなくなっても困る。その場はそれに従うしか選択肢はなかった。
仕方なくそれについていく。伴っているジュリとフェリアのことを他の警備兵がじろじろと不躾に見てきたのは、ズミ人相手であってもなかなかに気分が悪かった。
警備兵に連れられて町中の坂道を上っていく。ジュリの表情も不安そうだった。その道行きは一体どこまで行くのかと、途中で不審に思うほど町の奥へと食い込んでいく。進むたびに後ろを振り向くと、坂の上から見下ろす町並みがいやに壮観だ。
長い道を進み、切り立った町の中でも高い位置にある石造りの建物に通された。二階建ての建物と、天井が開け放された広い囲いとが連なっているような不思議な場所だ。
一階は酒場のような机の並んだ内装で、そこで休憩をしているふうな男の姿がいくつか見えるが、そこを通り過ぎて二階に案内される。
二階は広い部屋に机や棚が多く並んでいて、奥には何か書類仕事をしている様子の人間が一人いた。
おやと思ってその顔を見たのは、それが女性だったからだ。四十歳から五十歳ぐらいと見える壮年の女性が、きりとした表情で何かの書類を見つめている様子だ。
「ルヴァークさん。トレンティア人の血を引く者が町に入りたいと言うので念の為に連れてきました。ルベル村の出身と言っているので、今確認をとっています」
僕を連れてきた警備兵が女性にそう報告をした。ルヴァークと呼ばれた女性は書類から視線を上げ、僕を見たようだ。やがて椅子から立ち上がり、僕達の方へ近付いてじろじろと観察してくる。
僕はそこに突っ立ったままそれに甘んじる。横には警備兵が警戒態勢を解かないまま控えている。
こちらもその女性を観察させてもらうと、黒に染めた長いスカートの腰にどうやら剣が携えられている。鎧を着ている様子はないが、女性が町中で帯剣しているとは珍しい。興味深くそれを見ていると、やがてルヴァークは口を開いた。
「親はトレンティアの軍人ですか?」
そう尋ねてきた声色は重く鋭いものだったが、物腰は丁寧なようだ。僕は首を横に振る。
「子どもの頃に捨てられた孤児だ、親は分からない。ルベルにいるアルドという医者に育てられた」
そう言うと、ルヴァークは怪しんでいる視線をぱちりを上げて僕の顔を見た。
「ほう、アルド殿が」
どうやらアルドを知っているようだ。思わず僕は安堵のため息を小さく零す。
身元の潔白を信じてもらえる可能性が高まった安堵もあるが、アルドを知ってる人間がいるということは、彼がまだこの地に健在である可能性も高いということだ。
「まあ、今身元の確認をしているようですから、すみませんがしばらくここで待ってください。あなたはもう持ち場に戻りなさい」
そう言って傍らに控えていた警備兵に指示をする。彼もそれ以上特に怪しむ様子もないらしく、短く返事をしてさっと階下へ降りていった。
どうやら町の有力者らしいルヴァークの信用は得られたようだ。身元の確認とやらが済むまではここに拘束されるようだが……。
しかし身元の確認というのは一体何をしているのだろうか。まさかルベルまで行って村民に話を聞きにでも行ってるのか? だとすればその確認が済むまで四半日はかかるだろう、それまでここで突っ立って待っていろとでも言うのだろうか。
ルヴァークは話は済んだとばかりに机に戻り、僕達を放置して書類仕事を再開してしまった。何か会話が始まる様子もないし、せめてどこか腰掛ける場所ぐらい提供してくれてもいいだろうに、なんて思うが何の案内もなされない。
一階には椅子がたくさんあったが、二階には応接間らしいスペースもない。仕方なく僕は近くの壁に体をもたれさせてため息をついた。
近くで不安そうな顔をしていたジュリが、何もなさすぎる沈黙に耐えかねたようにぽつりと口を開いた。
「なんか、すごい町ですね」
「昔はこんな物々しくなかったんだけど。この地域でもトレンティアの侵攻が前より激しくなっているのかもしれない」
僕は相槌を打つようにそう答えた。会話を聞いたらしいルヴァークの視線が一瞬こちらを向いたが、口を挟んでくることはなかった。
この地域でトレンティアの侵攻が激しくなっている……とすれば、アルドも苦しい思いをしているのではないかと少し胸がざわつく。
しかしオーデルの街の様子を見るに、ここはまだトレンティアの支配が及んでおらず、しかも仮に侵攻を受けた時には抵抗せんとする体制が見て取れる。その態度自体はレジスタンスとして希望が持てるものでもあった。そのせいで混血の見た目を警戒されたのだから、当然複雑ではあるが……。
この待機時間は夜まで続くのだろうかと思えたが、思いのほか展開は早く進んだ。しばらくすると階下から足音が上がってきて、現れた者は僕の姿を見つけて明るい声を上げたのだ。
「ヨン? やっぱりヨンだよな!」
驚いて振り向くと、そこには見覚えのある顔があった。名前を記憶の中から掘り起こすのには、少しだけ時間がかかった。いつか温泉に入った集落で再会した同郷の青年、ティガル・キルーグだ。
近くなのだから同郷の者に会う可能性は当然高いだろうが、よりによって彼と会うとは意外だ。ティガルは前に会った時と同じように、剣と弓、革の鎧でしっかり武装している。
「ティガル……! どうしてここに」
僕も驚いた声でそう言う。彼は疲れたような顔で笑った。
「いやお前も大概だが俺もさすらいの身というか……、結構あちこちに行ってるもんでな。ここで会うとは奇遇だ。アルティヴァ・サーシェ、同志との出会いに感謝を」
すっかり慣れた口ぶりでそう挨拶をし、僕の前に立って右手を差し出してきた。僕も少しだけ嫌味っぽく笑ってからその手を取る。
「サーシェ、あなたの凱旋を心から喜ぼう」
その様子を見ていたルヴァークが顔を上げてやっと口を開いた。
「レジスタンスだったのですか?」
変わらず重く鋭い口調だ。僕はそちらを振り向いて、肯定してもいいのだろうかと一瞬迷う。その間に代わりにティガルが答えた。
「彼は確かにルベル村で育った、親のいない孤児です。トレンティア軍の関係者じゃないことは俺が保証します。それからレジスタンスで、えーと確か、でも単独で動いてるって言ってたか」
ティガルはそう言いながら僕を窺い、ルヴァークは少し眉を寄せて不機嫌そうにした。
「そうならそうと早く言いなさい。サーシェ、同志との出会いに感謝します。しかし単独で? ずっとそうなのですか」
彼女に問われて、僕はそちらへ向き直る。
「サーシェ。セラーラではヘラムス隊、ジンクへ移ってからサガン隊、ヒューグ隊と移動している。この目の色ではいろいろと差し障りがあってね……。ヒューグ隊を抜けてからは単独……というか一人の仲間と同行して、直近ではパーティルでの戦闘に参加した。こちらにトレンティア軍が来るかもしれないという話を聞いて帰ってきたところだ」
堂々と経歴を語った僕を見て、ルヴァークはやっと興味を示したようだ。深い色の瞳でじっと僕の目を見つめている。
そんな詳しい話はティガルにもしたことがなかった。初耳だった彼も驚いた顔で僕を見ていた。
「ああそういえば仲間の人いたよな。あの、フードの……」
「ああ、今はいない」
僕は端的に答えた。ティガルは不思議そうに僕と、後ろに控えているフェリアの顔とを交互に見やった。
確か彼に語った設定では、フェリアがパウルの妻ということになっている。なぜ妻だけいるんだろう、と不思議に思っているのだろうが、今詳しく説明する気にもならなかった。
ティガルのことは置いて、ルヴァークがゆっくりと口を開く。
「パーティルで……。噂には聞いています、激しい戦いのすえ、一度はトレンティアに支配された町でズミ人の自治権を勝ち取ったとか。非常に興味深いです、ぜひとも詳しく話を聞かせてもらえますか」
彼女の重い声を聞くたびに、僕の気分も重く引き締まっていく。この町にはまだトレンティアに抗おうとする意地が見て取れる……。想定外に出会えた仲間と、僕もレジスタンスの一人として情報の共有はしておきたい。
しかし、と思いとどまって視線をやったのはジュリの方だ。
「それは構わないが……、旅をしてここには着いたばかりだ。女達を休ませたい、ひとまず宿をとらせてくれ」
ルヴァークは無表情のままじっと僕を見つめて、すぐに静かに頷いた。
「分かりました。あなたの目の色を見て渋る宿屋がいるかもしれません。私が紹介状を書きましょう」
「ありがとう、心遣いに感謝する」
ルヴァークはすぐに紙を机の上に出し、さらさらとペンを走らせた。確かに町に入るだけでもこれだけ苦労するのだ、何もなければ宿をとれたかも分からない。ここへ至ってこうまで目の色が不利になるなんて、と繰り返し自分の身にうんざりとしてきた。
ルヴァークは簡単に書き終えた紹介状をこちらへ差し出した。僕はそれを受け取るために彼女の机の前まで歩み寄る。
「名乗っておきましょう。私はメラ・クロルハ。ルヴァークはトレンティアに殺された夫の名前ですが、ここではそう呼んでください」
紹介状を手渡す際にルヴァークはそう名乗った。その重たい名乗りと共に紙を受け取る。その紙面には僕の身元を保証してくれる簡潔な文章と共に、メラ・クロルハ・ルヴァークという記名がされている。
「僕の名前はヨン。あなたがこの町のレジスタンスの隊長か?」
そう聞くとルヴァークは少し考えるように目を逸らした。
「正式に取り決めがあったわけではありませんが、まあ、そう理解していただいて差し支えはないと思います。ヨン、我々はあなたを歓迎します。落ち着いたらまた訪ねてきてください」
そこでルヴァークは椅子から立ち上がり、僕と握手をした。女性のものとは思えないような力強く、その表面の皮膚も硬い手だった。よく見ると背も僕より少し高い。
レジスタンスとして夫の名前を名乗っている理由も、普通は普段着になどしない黒い服を着ている意味も……、その手が重く語っている。
話が決まればすぐに宿屋へ向かうべく、ジュリとフェリアに合図をしながらその建物を後にする。
「じゃあヨン、また」
ティガルもそう軽く挨拶をしてきたので、僕も適当に片手を上げて一旦別れた。
やっと宿屋に落ち着いて荷物を下ろす。ジュリと部屋を分けたのでまた狭い一人部屋だ。しかし荷物の大半はフェリアが背負っていて、彼女はジュリの部屋に入ってしまったので、あちらの荷物に用があるときはジュリの部屋を訪ねなければいけなかった。
小腹が空いたのでフェリアの背中に詰め込んでいた保存食を頂戴しに行こうかと思った矢先、部屋の扉が控えめに叩かれた。
開けるとジュリが……まるで僕の腹を読んだように堅パンの袋を持って立っていた。その狙ったかのような気遣いに思わず感動する。
「忙しいかもしれませんけど少し休みませんか」
ジュリは少し緊張したような顔でそう言った。どうやら僕が、荷物を下ろせばすぐにでも出かけていくと思ったのだろうか。僕が曖昧に頷くと、ジュリは部屋の中へと入ってきた。フェリアは置いてきたらしい。
椅子が一つしかないのでジュリに譲り、僕はベッドの上に腰掛けてパンを齧った。ジュリも乾いたパンを両手で持ってもそもそと口を動かす。
いつものごとく自分から話を始めない僕を見て、ジュリが控えめに喋り始めた。
「さっきの、ルヴァークさんに話をしにいくというのは、もう今日のうちに行くんですか?」
「そうだな。僕としてはそれより早くルベルに行きたいけど……、町にいる部隊長からの呼び出しはさすがに無下にできない」
そう答えると、ジュリはぱちりと目を瞬かせた。
「そう……ですか。お父様のこと、気がかりですもんね」
まるで意外だとでも言いたげな口ぶりだ。僕は呆れた表情を浮かべてやる。そもそもズミに帰ってきた目的は親の安否を確かめるためというのが第一だ。目の前にレジスタンスの仲間が現れたからといってそれが変わるわけではない。
「それはそれとして、こうも本格的なレジスタンスが町にいて、読み通りトレンティア軍がここを通過しようというのなら戦いが起こるだろう。その時は加勢することになるだろうけど」
それは特段そのつもりで来たわけではないにしろ、想定の範囲内のことでもある。僕はそう呟くように言った。ジュリの顔が不安に翳る。
「あの、今はパウルさんもいませんし、あまり無茶はしないでくださいね」
身を案じてくれているのか、そんな言葉をかけてくる。僕はパンを噛みながら言葉に迷った。
「……最善を尽くすさ」
結局そんな答えを言って、ジュリの顔の不安の色を強めてしまった。自分で戦う力を持たない彼女にとって、戦争はどうしても怖いものでしかないだろう。そんな風に怯える様子を見て想像をした。
この町で戦闘が起こることを想定するなら……、パーティルとは違って、今度はこちらが攻められる側である。侵略者が敵国の町に情けをかけるとは思えない、戦う力を持たない市民や市街をも巻き込んだ残酷な戦場になる可能性も十分にある。宿部屋に隠れていたとしても戦火に巻き込まれないとは限らない。
僕だって好き好んで戦争をしたいわけではないが、しかしレジスタンスとして武器を握った以上は……、嫌だと言ってはいられない。自分の身が多少の危険に遭うのは覚悟の上だ。
だけどこの少女がもし戦闘に巻き込まれて怪我をしたり、命を落とすようなことがあれば、と……。その可能性まで想像が巡って、思わず腹の底にゾッとした感覚が走った。
では彼女を危険な目に遭わせないためにはどうするべきなのか、と考えてみたところで明確なものはない。僕は兵士である以上戦わなければいけない。守りたい女がいるからと言って逃げるわけにはいかない。一人で避難させるような場所の当てがあるわけでもない。
怯える彼女に言える気の利いた言葉も思いつかなくて、僕はなんとなく窓の外へ視線を外した。
「そういえば、君はなぜズミへ帰ってきたんだ? パウルとトレンティアの王都にいたほうが安全ではあっただろうし、勉強をしたかったんじゃないのか」
そんなことを小言っぽく言ってしまう。考えてみれば、そんなに焦って戦地へ戻ることもなかっただろうに、と。
……いや、パウルと二人きりにさせるのは、それはそれで嫌だけど……、彼女の身の安全を考えるなら、悔しいが僕よりパウルが伴っていた方が良かっただろう。
ジュリは、え、なんて戸惑うような声を上げて、数秒黙った。なんとなく気まずくて僕も目は合わせない。
「……それは、ヨンと……」
ぽつりと出てきた自分の名前を聞いて、思わずどきりとする。僕と、何? その先を期待する気持ちがどうしても膨れてしまう。
しかしなかなかその続きが来ない。どうして? 言葉に迷っている? 躊躇っている? ……恥ずかしがっている?
沈黙の時間が一瞬続くごとに期待が高まっていく。やがて彼女は言い切った。
「ヨンがまた怪我をするかもしれないと思ったから……」
がくりと期待が折れる音がした。……いや、その気遣いはそれはそれで嬉しいけど。僕は自分の胸を撫でながらその鼓動を落ち着かせ、やっとジュリの顔に向き直った。彼女はバツが悪そうに目を背けていた。
「だ、だから、大丈夫です。ヨンが怪我をしたらまた治療をするので。そのために私も覚悟は……しておきますから。無茶して即死するのだけはナシでお願いします」
まるで責めるような調子でそう言ってきた。僕は額を押さえてため息をつく。
「……分かったよ」
そう答えると、ジュリはもそもそとパンを食べる口を急がせたようだ。狭い部屋で二人きり、なんとなく気まずい沈黙が流れて、僕も早めに出かける準備をし始めた。
すぐにでもルベルに、父に会いに行きたい気持ちは早るが、まずはレジスタンスとしてルヴァークとの対話をしなければならない。
パーティルやサダナムのように城壁に囲まれているということはないが、岩場やところどころに築かれた石塀に阻まれて町へ入る道は自然と絞られる。階段だらけの街道の入口は、まるで登山口のようだ。
故郷の村に一番近い町であり、幼い頃は何度も訪れることがあった……その思い出の中の景色と比べて、僕はその入口の景色に思わず足を止めて驚いてしまう。
そこには物々しい雰囲気で武装した警備兵の姿があった。しかしパーティルやサダナムとは違って、黒髪の警備兵だ。てっきり町には難なく入ることができると思っていたのに、存外にそこで足を止められてしまう。
目の青い僕の顔を見て警備兵が呼び止める。面倒だなと思いながらも、混血ではあるけどトレンティアの関係者ではないことをいつものように説明する。
しかし警備兵達はこそこそと何かを相談していて、簡単に通してはくれない。
「ルベル村の出身だ。しばらくジンク地方へ移動していたけど帰省してきたところ」
そう伝えても警備兵は相談を続けた。やがて話が決まったらしく、付いてこい、と僕に向かって言って一人が移動を始めた。
一体どこへ連れて行かれて、何をされるのか分かったものではないが、こんな所で同胞と険悪になって町に入れなくなっても困る。その場はそれに従うしか選択肢はなかった。
仕方なくそれについていく。伴っているジュリとフェリアのことを他の警備兵がじろじろと不躾に見てきたのは、ズミ人相手であってもなかなかに気分が悪かった。
警備兵に連れられて町中の坂道を上っていく。ジュリの表情も不安そうだった。その道行きは一体どこまで行くのかと、途中で不審に思うほど町の奥へと食い込んでいく。進むたびに後ろを振り向くと、坂の上から見下ろす町並みがいやに壮観だ。
長い道を進み、切り立った町の中でも高い位置にある石造りの建物に通された。二階建ての建物と、天井が開け放された広い囲いとが連なっているような不思議な場所だ。
一階は酒場のような机の並んだ内装で、そこで休憩をしているふうな男の姿がいくつか見えるが、そこを通り過ぎて二階に案内される。
二階は広い部屋に机や棚が多く並んでいて、奥には何か書類仕事をしている様子の人間が一人いた。
おやと思ってその顔を見たのは、それが女性だったからだ。四十歳から五十歳ぐらいと見える壮年の女性が、きりとした表情で何かの書類を見つめている様子だ。
「ルヴァークさん。トレンティア人の血を引く者が町に入りたいと言うので念の為に連れてきました。ルベル村の出身と言っているので、今確認をとっています」
僕を連れてきた警備兵が女性にそう報告をした。ルヴァークと呼ばれた女性は書類から視線を上げ、僕を見たようだ。やがて椅子から立ち上がり、僕達の方へ近付いてじろじろと観察してくる。
僕はそこに突っ立ったままそれに甘んじる。横には警備兵が警戒態勢を解かないまま控えている。
こちらもその女性を観察させてもらうと、黒に染めた長いスカートの腰にどうやら剣が携えられている。鎧を着ている様子はないが、女性が町中で帯剣しているとは珍しい。興味深くそれを見ていると、やがてルヴァークは口を開いた。
「親はトレンティアの軍人ですか?」
そう尋ねてきた声色は重く鋭いものだったが、物腰は丁寧なようだ。僕は首を横に振る。
「子どもの頃に捨てられた孤児だ、親は分からない。ルベルにいるアルドという医者に育てられた」
そう言うと、ルヴァークは怪しんでいる視線をぱちりを上げて僕の顔を見た。
「ほう、アルド殿が」
どうやらアルドを知っているようだ。思わず僕は安堵のため息を小さく零す。
身元の潔白を信じてもらえる可能性が高まった安堵もあるが、アルドを知ってる人間がいるということは、彼がまだこの地に健在である可能性も高いということだ。
「まあ、今身元の確認をしているようですから、すみませんがしばらくここで待ってください。あなたはもう持ち場に戻りなさい」
そう言って傍らに控えていた警備兵に指示をする。彼もそれ以上特に怪しむ様子もないらしく、短く返事をしてさっと階下へ降りていった。
どうやら町の有力者らしいルヴァークの信用は得られたようだ。身元の確認とやらが済むまではここに拘束されるようだが……。
しかし身元の確認というのは一体何をしているのだろうか。まさかルベルまで行って村民に話を聞きにでも行ってるのか? だとすればその確認が済むまで四半日はかかるだろう、それまでここで突っ立って待っていろとでも言うのだろうか。
ルヴァークは話は済んだとばかりに机に戻り、僕達を放置して書類仕事を再開してしまった。何か会話が始まる様子もないし、せめてどこか腰掛ける場所ぐらい提供してくれてもいいだろうに、なんて思うが何の案内もなされない。
一階には椅子がたくさんあったが、二階には応接間らしいスペースもない。仕方なく僕は近くの壁に体をもたれさせてため息をついた。
近くで不安そうな顔をしていたジュリが、何もなさすぎる沈黙に耐えかねたようにぽつりと口を開いた。
「なんか、すごい町ですね」
「昔はこんな物々しくなかったんだけど。この地域でもトレンティアの侵攻が前より激しくなっているのかもしれない」
僕は相槌を打つようにそう答えた。会話を聞いたらしいルヴァークの視線が一瞬こちらを向いたが、口を挟んでくることはなかった。
この地域でトレンティアの侵攻が激しくなっている……とすれば、アルドも苦しい思いをしているのではないかと少し胸がざわつく。
しかしオーデルの街の様子を見るに、ここはまだトレンティアの支配が及んでおらず、しかも仮に侵攻を受けた時には抵抗せんとする体制が見て取れる。その態度自体はレジスタンスとして希望が持てるものでもあった。そのせいで混血の見た目を警戒されたのだから、当然複雑ではあるが……。
この待機時間は夜まで続くのだろうかと思えたが、思いのほか展開は早く進んだ。しばらくすると階下から足音が上がってきて、現れた者は僕の姿を見つけて明るい声を上げたのだ。
「ヨン? やっぱりヨンだよな!」
驚いて振り向くと、そこには見覚えのある顔があった。名前を記憶の中から掘り起こすのには、少しだけ時間がかかった。いつか温泉に入った集落で再会した同郷の青年、ティガル・キルーグだ。
近くなのだから同郷の者に会う可能性は当然高いだろうが、よりによって彼と会うとは意外だ。ティガルは前に会った時と同じように、剣と弓、革の鎧でしっかり武装している。
「ティガル……! どうしてここに」
僕も驚いた声でそう言う。彼は疲れたような顔で笑った。
「いやお前も大概だが俺もさすらいの身というか……、結構あちこちに行ってるもんでな。ここで会うとは奇遇だ。アルティヴァ・サーシェ、同志との出会いに感謝を」
すっかり慣れた口ぶりでそう挨拶をし、僕の前に立って右手を差し出してきた。僕も少しだけ嫌味っぽく笑ってからその手を取る。
「サーシェ、あなたの凱旋を心から喜ぼう」
その様子を見ていたルヴァークが顔を上げてやっと口を開いた。
「レジスタンスだったのですか?」
変わらず重く鋭い口調だ。僕はそちらを振り向いて、肯定してもいいのだろうかと一瞬迷う。その間に代わりにティガルが答えた。
「彼は確かにルベル村で育った、親のいない孤児です。トレンティア軍の関係者じゃないことは俺が保証します。それからレジスタンスで、えーと確か、でも単独で動いてるって言ってたか」
ティガルはそう言いながら僕を窺い、ルヴァークは少し眉を寄せて不機嫌そうにした。
「そうならそうと早く言いなさい。サーシェ、同志との出会いに感謝します。しかし単独で? ずっとそうなのですか」
彼女に問われて、僕はそちらへ向き直る。
「サーシェ。セラーラではヘラムス隊、ジンクへ移ってからサガン隊、ヒューグ隊と移動している。この目の色ではいろいろと差し障りがあってね……。ヒューグ隊を抜けてからは単独……というか一人の仲間と同行して、直近ではパーティルでの戦闘に参加した。こちらにトレンティア軍が来るかもしれないという話を聞いて帰ってきたところだ」
堂々と経歴を語った僕を見て、ルヴァークはやっと興味を示したようだ。深い色の瞳でじっと僕の目を見つめている。
そんな詳しい話はティガルにもしたことがなかった。初耳だった彼も驚いた顔で僕を見ていた。
「ああそういえば仲間の人いたよな。あの、フードの……」
「ああ、今はいない」
僕は端的に答えた。ティガルは不思議そうに僕と、後ろに控えているフェリアの顔とを交互に見やった。
確か彼に語った設定では、フェリアがパウルの妻ということになっている。なぜ妻だけいるんだろう、と不思議に思っているのだろうが、今詳しく説明する気にもならなかった。
ティガルのことは置いて、ルヴァークがゆっくりと口を開く。
「パーティルで……。噂には聞いています、激しい戦いのすえ、一度はトレンティアに支配された町でズミ人の自治権を勝ち取ったとか。非常に興味深いです、ぜひとも詳しく話を聞かせてもらえますか」
彼女の重い声を聞くたびに、僕の気分も重く引き締まっていく。この町にはまだトレンティアに抗おうとする意地が見て取れる……。想定外に出会えた仲間と、僕もレジスタンスの一人として情報の共有はしておきたい。
しかし、と思いとどまって視線をやったのはジュリの方だ。
「それは構わないが……、旅をしてここには着いたばかりだ。女達を休ませたい、ひとまず宿をとらせてくれ」
ルヴァークは無表情のままじっと僕を見つめて、すぐに静かに頷いた。
「分かりました。あなたの目の色を見て渋る宿屋がいるかもしれません。私が紹介状を書きましょう」
「ありがとう、心遣いに感謝する」
ルヴァークはすぐに紙を机の上に出し、さらさらとペンを走らせた。確かに町に入るだけでもこれだけ苦労するのだ、何もなければ宿をとれたかも分からない。ここへ至ってこうまで目の色が不利になるなんて、と繰り返し自分の身にうんざりとしてきた。
ルヴァークは簡単に書き終えた紹介状をこちらへ差し出した。僕はそれを受け取るために彼女の机の前まで歩み寄る。
「名乗っておきましょう。私はメラ・クロルハ。ルヴァークはトレンティアに殺された夫の名前ですが、ここではそう呼んでください」
紹介状を手渡す際にルヴァークはそう名乗った。その重たい名乗りと共に紙を受け取る。その紙面には僕の身元を保証してくれる簡潔な文章と共に、メラ・クロルハ・ルヴァークという記名がされている。
「僕の名前はヨン。あなたがこの町のレジスタンスの隊長か?」
そう聞くとルヴァークは少し考えるように目を逸らした。
「正式に取り決めがあったわけではありませんが、まあ、そう理解していただいて差し支えはないと思います。ヨン、我々はあなたを歓迎します。落ち着いたらまた訪ねてきてください」
そこでルヴァークは椅子から立ち上がり、僕と握手をした。女性のものとは思えないような力強く、その表面の皮膚も硬い手だった。よく見ると背も僕より少し高い。
レジスタンスとして夫の名前を名乗っている理由も、普通は普段着になどしない黒い服を着ている意味も……、その手が重く語っている。
話が決まればすぐに宿屋へ向かうべく、ジュリとフェリアに合図をしながらその建物を後にする。
「じゃあヨン、また」
ティガルもそう軽く挨拶をしてきたので、僕も適当に片手を上げて一旦別れた。
やっと宿屋に落ち着いて荷物を下ろす。ジュリと部屋を分けたのでまた狭い一人部屋だ。しかし荷物の大半はフェリアが背負っていて、彼女はジュリの部屋に入ってしまったので、あちらの荷物に用があるときはジュリの部屋を訪ねなければいけなかった。
小腹が空いたのでフェリアの背中に詰め込んでいた保存食を頂戴しに行こうかと思った矢先、部屋の扉が控えめに叩かれた。
開けるとジュリが……まるで僕の腹を読んだように堅パンの袋を持って立っていた。その狙ったかのような気遣いに思わず感動する。
「忙しいかもしれませんけど少し休みませんか」
ジュリは少し緊張したような顔でそう言った。どうやら僕が、荷物を下ろせばすぐにでも出かけていくと思ったのだろうか。僕が曖昧に頷くと、ジュリは部屋の中へと入ってきた。フェリアは置いてきたらしい。
椅子が一つしかないのでジュリに譲り、僕はベッドの上に腰掛けてパンを齧った。ジュリも乾いたパンを両手で持ってもそもそと口を動かす。
いつものごとく自分から話を始めない僕を見て、ジュリが控えめに喋り始めた。
「さっきの、ルヴァークさんに話をしにいくというのは、もう今日のうちに行くんですか?」
「そうだな。僕としてはそれより早くルベルに行きたいけど……、町にいる部隊長からの呼び出しはさすがに無下にできない」
そう答えると、ジュリはぱちりと目を瞬かせた。
「そう……ですか。お父様のこと、気がかりですもんね」
まるで意外だとでも言いたげな口ぶりだ。僕は呆れた表情を浮かべてやる。そもそもズミに帰ってきた目的は親の安否を確かめるためというのが第一だ。目の前にレジスタンスの仲間が現れたからといってそれが変わるわけではない。
「それはそれとして、こうも本格的なレジスタンスが町にいて、読み通りトレンティア軍がここを通過しようというのなら戦いが起こるだろう。その時は加勢することになるだろうけど」
それは特段そのつもりで来たわけではないにしろ、想定の範囲内のことでもある。僕はそう呟くように言った。ジュリの顔が不安に翳る。
「あの、今はパウルさんもいませんし、あまり無茶はしないでくださいね」
身を案じてくれているのか、そんな言葉をかけてくる。僕はパンを噛みながら言葉に迷った。
「……最善を尽くすさ」
結局そんな答えを言って、ジュリの顔の不安の色を強めてしまった。自分で戦う力を持たない彼女にとって、戦争はどうしても怖いものでしかないだろう。そんな風に怯える様子を見て想像をした。
この町で戦闘が起こることを想定するなら……、パーティルとは違って、今度はこちらが攻められる側である。侵略者が敵国の町に情けをかけるとは思えない、戦う力を持たない市民や市街をも巻き込んだ残酷な戦場になる可能性も十分にある。宿部屋に隠れていたとしても戦火に巻き込まれないとは限らない。
僕だって好き好んで戦争をしたいわけではないが、しかしレジスタンスとして武器を握った以上は……、嫌だと言ってはいられない。自分の身が多少の危険に遭うのは覚悟の上だ。
だけどこの少女がもし戦闘に巻き込まれて怪我をしたり、命を落とすようなことがあれば、と……。その可能性まで想像が巡って、思わず腹の底にゾッとした感覚が走った。
では彼女を危険な目に遭わせないためにはどうするべきなのか、と考えてみたところで明確なものはない。僕は兵士である以上戦わなければいけない。守りたい女がいるからと言って逃げるわけにはいかない。一人で避難させるような場所の当てがあるわけでもない。
怯える彼女に言える気の利いた言葉も思いつかなくて、僕はなんとなく窓の外へ視線を外した。
「そういえば、君はなぜズミへ帰ってきたんだ? パウルとトレンティアの王都にいたほうが安全ではあっただろうし、勉強をしたかったんじゃないのか」
そんなことを小言っぽく言ってしまう。考えてみれば、そんなに焦って戦地へ戻ることもなかっただろうに、と。
……いや、パウルと二人きりにさせるのは、それはそれで嫌だけど……、彼女の身の安全を考えるなら、悔しいが僕よりパウルが伴っていた方が良かっただろう。
ジュリは、え、なんて戸惑うような声を上げて、数秒黙った。なんとなく気まずくて僕も目は合わせない。
「……それは、ヨンと……」
ぽつりと出てきた自分の名前を聞いて、思わずどきりとする。僕と、何? その先を期待する気持ちがどうしても膨れてしまう。
しかしなかなかその続きが来ない。どうして? 言葉に迷っている? 躊躇っている? ……恥ずかしがっている?
沈黙の時間が一瞬続くごとに期待が高まっていく。やがて彼女は言い切った。
「ヨンがまた怪我をするかもしれないと思ったから……」
がくりと期待が折れる音がした。……いや、その気遣いはそれはそれで嬉しいけど。僕は自分の胸を撫でながらその鼓動を落ち着かせ、やっとジュリの顔に向き直った。彼女はバツが悪そうに目を背けていた。
「だ、だから、大丈夫です。ヨンが怪我をしたらまた治療をするので。そのために私も覚悟は……しておきますから。無茶して即死するのだけはナシでお願いします」
まるで責めるような調子でそう言ってきた。僕は額を押さえてため息をつく。
「……分かったよ」
そう答えると、ジュリはもそもそとパンを食べる口を急がせたようだ。狭い部屋で二人きり、なんとなく気まずい沈黙が流れて、僕も早めに出かける準備をし始めた。
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