サーシェ

天山敬法

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第六章 親の願い

63話 消えていく背中

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 ごそごそと誰かが動く音、そして部屋の中を照らした柔らかい光に誘われるようにして、ゆっくりと目を開けた。
 ……やはり魔力が切れたあとは嫌に深く寝入ってしまう。既に外は真っ暗な時刻のようだ。
 しかし部屋の中は魔法の光に照らされている。体を起こすと、床の上に魔法陣を浮かべていた魔術師がこちらを振り向いた。
「あ……すまん、起こしたか」
 パウルはどこか神妙な声で言う。僕はまだ寝ぼけた頭でその景色を見つめた。床の上に大きな布を敷いて、そこに魔法陣を書き込んでいたようだ。そこに浮かんでいるのは、やはり僕には到底読めない複雑な何かの術式……そしてその魔法陣の上に力無く横たわっている魔道人形の姿。
 そういえば戦後の片付けに追われて頭が回ってなかったが、フェリアは戦いの最中に故障を起こして動かなくなっていたのだ。その時になって思い出した。
「ん、いい。フェリアの修理か……」
 僕はぼんやりと言った。パウルは僕からフェリアの方に視線を戻し、じっと魔法陣を弄っているようだ。
「修理というか……まあ、そうだな。あの時フェリアが動かなくなったのは俺の魔術が作用したせいだ。皮肉なもんだ、今まで解読にあれだけ手間取っていたのに……、あの魔術が効いたことで、最後の鍵は外れた」
 なんとなく暗い声色で、独り言のように呟いている。魔道人形のことは僕には分からない。
「はあ……。だったらどうなるんだ」
 気の抜けた声で尋ねた。パウルは頭を片手で押さえて考え込む。
「どうしようかな。仕組みが分かったところで制作者の意図まで分かるわけじゃないが……、どうもこいつにとってジュリは“友達”らしい。人間の友情を模したコードによって対象に選ばれている。今の俺には、このコードを無効化してこいつをジュリから引き離すことも簡単にできる」
 そんなことを語るのを聞いて、僕はまだぼんやりと思い出す。そういえば最初は、フェリアとジュリを切り離して、フェリアだけを連れて行こう、なんて話をしていた。
 だけど今になって考えれば、ジュリを一人で放り出すなんて……、そんな話はとんでもない。
 しかしパウルが考えていたのは、少し違う話のようだった。
「……なあヨハン、どう思う。命令によって決められた、見せかけだけの友情だ、そいつを解除することはジュリにとって望ましいことだと思うか」
 静かに問うてくる、しかし僕にはその問いに即答することもできなかった。
「そんなこと……、ジュリ本人に聞かないと分からないだろ」
「ああ、そうだな……聞き方を変えようか。俺はフェリアをあいつから引き離そうと思う。それを……許してくれるかな」
 視線すらこちらに向けないまま、その声はいつになく弱々しい声色だ。やっぱりあの戦いの後から様子がおかしい。僕は少しだけ眉を寄せた。
「引き離すって……、どういうことだ。フェリアの記憶の中からジュリを消すとか、そういうことか」
 そう聞くと、パウルは顔を俯けた。いつもは縛っている髪を今は下ろしていて、顔を俯けるとその長い髪がさらりと流れ……その横顔さえも隠してしまった。
「いや、単に物理的にというか……」
 言葉に迷っているような、そんな調子でぽつりと言った。その言葉が示す意味を僕は今ひとつ理解できない。
 物理的に引き離すというと、ジュリとフェリアを別行動させるということだろうか。しかし単純に別の行動をするだけなら、既にしているし、今までもしてきたではないか。たぶん、そういう話ではないのだろう。
 だとしたらなんだ、もっと離す……、それこそフェリアをどこか遠くへ追いやってしまうとか、そういうことなんだろうか。いやまさか、フェリアの存在自体を葬ってしまうつもりだろうか。
 そこまで勘繰って、しかし何と言葉を返すものかと迷ううちに、パウルはまた顔を上げた。しかし視線はやはり僕に向けないままで、何もない空中を見つめている。
「……ヨハン、俺はこの町を出ようと思う」
 そう思い切ったように言った。僕は眉間に皺を寄せて、その横顔を睨むように見つめる。
「それは構わないが、どこか目的地があるのか。もう一度トレンティアに潜入しにいくのか」
 そう言うと、やっとパウルの目がこちらを見た。意外だとでも言うようにそれを丸くして。
「構わないってお前、そんなあっさりと。もう少しは別れを惜しんでくれると思ってたんだが」
 出てきた声は気の抜けたようなものだった。思わず僕も目を開いて首を傾げてしまう。どうやら認識にすれ違いがあるらしい。
「別れ……? 何言ってるんだ、お前が行く場所があるなら僕もついていく」
「ええ? だってでも、お前はここに定住するんだろ。先生から聞いたぞ」
「定住するとまでは言ってない……。オーデルの戦いが終わってもトレンティアとの戦争は終わってないんだから、必要があれば場所は移っていくさ。父さんは……たぶんここに住むんだろうけど」
 そう言い合ったあと、パウルは変な顔で僕を見つめていた。アルドにも、兵士である以上定住は難しいと伝えていたつもりだが……。
 やがてパウルはきりと表情を強めた。
「いや、それは……駄目だろ。せっかく生きて会えたんだし、お前はアルドさんのそばにいてやるべきだ」
 真面目な声でそんな説教を始めたものだから、僕は不機嫌な表情でため息をついてやった。
「僕はレジスタンスだ。戦争も終わってないのに、親がどうこうだなんていつまでも言ってられないだろ。まあ、トレンティアから帰ってきてまで会いにきて……、それはそれで、会えて良かったとは思うけど。これからもまだ僕は戦う。戦争のために必要なら、戦場を移っていく」
 はっきりと言い切ってやると、パウルは呆れたような顔になって肩を竦めた。ほんとに血の気の多い奴だ、と言いたいのだろう。
「そうかよ。だが、レジスタンスの主力はまだこの町にいる。この先どう動くのかは知らんが、お前もレジスタンスを続けるなら、モルズの部隊に合流した方ができることも多いだろう」
「モルズの部隊に合流?」
 あっけらかんと言ったパウルの言葉を、思わず僕は繰り返す。
 ……確かに言われてみれば、もはや僕もパウルもその素顔を晒して今回の戦闘に臨んだのだ。目の青い僕達をよく思わない人間はまだいくらでもいるだろうが……、それでも隊長であるモルズが受け入れるのならその選択肢はあり得る。
 そうなると扱いが難しいのはむしろジュリの方だが……、そこまで考えを巡らせて、はたと気付いた。何か話がおかしい。
「いや待て、お前今、この町を出るって言ったじゃないか。モルズどうこう以前に何か目的があるんだろ」
 言うと、パウルはふいと視線を背けて細く息を吐いた。
「いや、そういうわけじゃない。だけどまあ、とにかく俺はここを離れる。それで、護身用にフェリアを連れて行こうと思ってな。嬢ちゃんと引き離すことになっちまうが……」
 何を言ってるのか……、今いち分からない。いやその口ぶりから察することはできた。だけどその理由が分からない。僕は怪訝な顔のまま言葉に迷っていた。
 やがて、パウルはふっと儚げに笑って、こちらを見た。
「すまん、はっきり言おう。俺は一人でここを出る。お前との同行もこれまでだ」
「……なんで?」
 当然すぐに聞き返す。今まであんなに僕を……手放したくないとまで言ったくせに、なぜ突然そんなことを言うのか、全く分からない。
 パウルは少しだけ目を伏せた。
「……パウル・イグノールが生きていることがクラウスに知られちまった。あいつはれっきとしたトレンティアの正規軍人だ、もう国にばれたも同じだ。……奴らは必ず俺の首を狙ってくる。ズミのレジスタンスも、お前も……もう巻き込みたくない。俺はとにかく一人で身を隠す。悪いが任務どころじゃなくなる。……本当に、悪いが」
 その声は苦しく、思い詰めているようだった。僕は何も言えずに、グリスから聞いた話を思い返していた。
 そうだ、彼はとうに死んだはずの王子、パウル・イグノール。現王はその亡霊に怯え続け、名前を出すことすら躊躇われるという。
 ……それが生きていたとなれば、その王が血眼になってでも彼を、今度こそ亡きものにしようと躍起になることは想像に難くない。
 でも、なんて言葉が胸中で燻った。そうは言ったって、そんな慌てて一人で身を隠す必要まであるだろうか。そう戸惑った僕の胸を見透かしたように、パウルはまた悲しげに微笑む。
「俺についてきちまったら、次から次へとやってくる刺客から逃げ回るだけの日々だ。部隊になんかにいたらとんだ疫病神だし、お前だってそんなことをするより、レジスタンスとしてできることが他にあるはずだろ」
 何も言えないまま、その想像をしてしまった。パウルの命を必死に狙って来るトレンティア軍……、その猛攻から彼を守ってやろうなどと意気込むズミ人は他にいないだろう。彼には逃げ続けるという選択しか、ない。
 僕はその逃亡劇などに付き合うよりも、レジスタンスであるならばモルズの部隊に合流した方がいいだろうと、そういう、いたって合理的なことを言っているのだ。
「……ああ、お前と別れるのは正直名残惜しいぜ。同じ気持ちでいてくれると嬉しいんだがな。だけどまあ、仕方がない。それが最善だ」
 あの戦闘が終わってから、ずっとどこか上の空だった。ずっとそんなことを考えていたのか、なんて愕然とした思いにとらわれる。
 その言葉をひとつひとつ拾って……、僕はやっぱり何も言えなかった。そうだな、それが妥当な判断だ……と頷く言葉すら、口には出ない。
「いつ……。この町を出るって、いつ出るんだ」
 僕はただそう聞いた。引き止める理由は見つからなかったから。パウルは悲しそうな顔のまま目を伏せる。
「本当はあの後すぐにでも出なきゃいけなかったな。こうしてる間にも敵が近付いてきているかもしれん。だけどなあ……、もう少しだけ、お前といたかった、許してくれ。だけどもう決めた。腹をくくった。この夜が明けたらすぐに……」
 僕はベッドの上に座ったまま、目を細めてパウルの顔を見下ろしていた。喉に何かつっかえるものはあったけど、ただ、そうか、とだけ小さく相槌を打った。
 こんな突然別れを告げられるとは思っていなかった……それを突然だと思った僕が呑気なだけだったかもしれない。
 しかし本人が心を決めて腹をくくったと言うのなら、それ以上は何も言うべきではないだろう。
 やがてパウルはゆっくりと顔を上げた。穏やかにさえ見える微笑みを浮かべている。
「お前はまあ……レジスタンスを続けるのかな。何度言ったって無駄かもしれんが、できることなら兵士なんてやめて暮らしたっていいんだぞ。せっかく親もいる、家だってあるんだから。アルドさんだって何も、お前が命張って戦うことを望んではないだろ。それからジュリのこともさ……、結婚してやれとまで俺の立場で言うのはお節介かもしれんが、憎く思ってるわけじゃないだろ。帰る家があって、嫁さん迎えて……、そんな生活の中でもお前ならきっと幸せになれる……、俺はそう思うな」
 しっとりと湿った柔らかい声に、僕は何も言い返せない。……別れの挨拶ぐらい、好きにさせておいてやろう。
「また死んだふりしてほとぼりさまして、十年ぐらい経ったら会えるかな……。その時もまだ戦争続いてるかな……。できたらその時まで生きていような、お互いに。……今までありがとな、ヨハン」
 パウルは愛おしそうに僕の名前を呼んだ。本当に不思議な奴だ。
 やがてフェリアの体の下に敷いていた魔法陣からパウルは手を離す。そこに浮かんでいた金色の光は消え失せ、視界は暗闇に落ちた。小さく足音を立ててパウルは隣のベッドへと歩いたようだ。もう寝ようということらしい。
 この夜が明けたらすぐに彼は旅立つと言う。ジュリやアルドは施療所の仕事で忙しいはずだ、やはり彼らにも話していないのだろうか。
 特段のことがなければ夜は家に帰ってきているはずだが、寝室が別になっているので今は分からない。

 結局朝まで、僕は寝付くこともできなかった。
 朝を迎えて起きて行くと、食卓にはアルドの姿があった。連日施療所で働き詰めになっているせいで、疲れた顔をしている。
「おはよう、ヨハン。今朝にも感謝を、ミュロス・サーシェ……」
 毎朝を迎えられることを太陽の神に感謝する。何気ない、まるで平和な日常であるかのような朝の営み。茶を飲んで、パンを齧って腹の調子を整える。
 パウルは少し遅れて起きてきた。既に髪を括り、フードのついたローブを着込み、腰に長剣を挿したその出で立ちは、すぐにでも出かける気合いが見て取れた。その後ろには冷めた表情のフェリアも伴っている。
「サーシェ。先生、私はもう行きます」
 アルドにかけたその声はやはり神妙で、悲しそうで、だけど少しだけ強い気持ちを帯びているようだった。
 その口ぶりからしてアルドにはもう話していたのだろうか、そんな風に思ったが……違ったらしい。何の話だ、とアルドは驚いた様子で、昨夜の僕と同じようにその話を突然聞いて呆気にとられてしまった。……ジュリは、まだ起きてこない。
「そんな、急に出ていくなんて、いくらなんでも」
 戸惑ったままのアルドに、パウルは儚げに微笑む。
「もう決めたことですので。……ヨハン、先生のことを頼んだぞ。できるうちにしっかり親孝行しとけ」
 そうさっさと切り上げようとするので、僕はむっとして言った。
「ジュリにも挨拶ぐらいしていけよ」
「ああ……、まあお前から適当に言っといてくれよ。フェリアを連れてくから怒るかもしれん」
 そんな気の抜けた声で言って、まるで何気ない仕草で玄関の方へと向かっていく。追いかけるようにしてアルドと共に続いたが、玄関の所で足を止めた。
 アルドはまだ唖然としたまま、家の扉の向こうまで彼を追おうとして、だけど僕が立ち止まったのを見て戸惑って、同じように足を止めた。
 パウルも足を止めて、くるりと振り向いたかと思えば、そのアルドの手を両手でしっかりと握った。
「本当にありがとうございました、先生。どうかお元気で……。サーシェ、ズミの偉大なる神々、神聖なるトレントとその守護者達の甚深な加護があなたを……、あなた達をどうか守ってくださいますように」
 両国の神をいっしょくたにして盛り込んだ祈りには、彼の精一杯の気持ちがこもっていたのだろうか。なんとも乱暴なものだと呆れた気持ちすら起こってくる。
 アルドは返事すらできずに、ただ手を握られるままになっていた。悲しむような表情も浮かべず、彼らしくもなく、祈りの文句を返すことすらしない。
 その手をゆっくりと離して、やがてパウルは僕達に背を向けた。右手を軽く上げて、「じゃあ」なんて気の抜けた挨拶と共に歩き出す。僕はアルドと共に、その背がずっと小さくなるまでそれを見送る……。
 そして突然、アルドは飛び上がるように驚いた。
「パウルさん!」
 その名前を大きな声で呼んだが、彼は振り向かない。アルドはおどおどと戸惑って慌てて、僕の方を振り向いた。
「ヨハン、駄目だ、あのまま行かせてしまっては駄目なんじゃないか? お前はそれでいいのか……」
 今更のように慌てる彼に、僕は困った表情を向けることしかできない。
「駄目って言ったって、本人がああ言うんだから仕方がないだろ……」
 しかしアルドは落ち着かなかった。今度は彼が僕の手を握り、ずいと詰め寄ってくる。
「だが、魔道人形があるとはいえ、一人で旅に出るなんて……、命を狙われる立場だというのが本当なら危険すぎる。頼むヨハン、私ではお荷物になるだけだからどうにもできない……、お前、パウルさんに付いていってくれないか」
「ええ?」
 思わず僕は素っ頓狂な声を上げた。アルドの顔は必死で、その手は震えてさえいる。
「お前は強い。お前ならきっとあの人を守ってくれる。あの人にはお前がいてやらなくちゃ駄目なんだ。私には分かる。だから頼む、どうか!」
 その気迫に僕は圧倒さえされる。一体何をそんなに……、なんて戸惑った気持ちは、しかし口に出すのは憚られた。
 パウルについて行けと……、命を狙われ続けるだろう彼を守れと、父はそう言っている。
 だけど僕にはレジスタンスの兵士という仕事が、なんて話はこの際頭の遠くへ飛んでいってしまった。今僕が迫られている選択は、父の気持ちを汲むかどうかというだけだ。
 しかしパウルはパウルで、僕にやるべきことをやれと言う、父のそばにいろと言う、結婚をして幸せになれと言う。
 急に迫られた選択を前に、僕はうんざりする思いすらした。父はパウルについて行けというし、パウルは父についていろというし、人のことを押し付けあって、あんた達は一体何なんだと。僕は一体どっちの言う事を聞けばいいのだ。
 パウルとアルドのどちらが大事かなんて比べるようなことじゃない。分かっている、僕自身が決めるべきことだ。しかしそんな急に言われたって、なんて情けない恨み言が胸を燻る。
「ここにはいつでも帰ってこれる。だけど今あの人を見失ったらもう二度と会えないかもしれない。早く追いかけないと……」
 結局そんな言葉に焦らされて、僕は考えるよりも早く家の中へと駆け込んだ。追いかけるにしたって丸腰で行くわけにはいかない、大急ぎで身支度をしなければいけなかったから。
 それを追いかけてアルドも家の中でばたばたと準備をし始めた。
「あんまり多くないけどお金、水と携帯食と、他何がいる」
 そう言って硬貨の入った袋を机の上に出す。僕は、何も、と短く答えて自分の支度をした。短剣を胸元に挿し、弓矢を背負い、……懐にはいつかのトレントの葉を御守りのように忍ばせて。
「ああ、でも、そうだ、ジュリさんがまだ……」
 思い出したようにアルドは言う。その名前を聞いても、それでも僕は止まらなかった。荷物を抱えて飛び出すように扉をくぐり、振り返って言った。
「時間がない、適当に言っといて。……ジュリのこと頼むよ父さん。他の男を近付けさせないでね」
 この際なりふりかまってられなくて、そんな本音がつい口をつく。さすがのアルドも目を丸くして、口が閉まらなくなったらしい。……言ってしまったからには後戻りはできない。
 正直どうなるかなんて分からない。本当に慌ただしく、目の前の衝動に駆られて僕は飛び出していく。
 だけど……どちらも諦めたくなんかない。分からなくてもその時は言い切るしかなかった。
「僕は必ず帰ってくるから。父さんと、ジュリの元に……、だから待ってて……!」
 アルドはぐっと両手を組んで、駆け出していく僕の姿に礼をした。
「サーシェ、どうかあなた方にご加護を……」
 その祈りの言葉が彼の挨拶だ。サーシェ、僕は胸の内だけで祈りを返し、前へ進んだ。
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