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第八章 帰るべき場所
94話 交わりの果てに
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夏の夕方、木々の間を通り抜ける重たい風、むっとした湿気の中に、しかしその女は、まるでそこだけに清涼な風を受けているかのように凛と佇む。
どれだけの時を経たのだろうか、その時の間にどれほど歪な因果を抱いてきたのだろうか。向き合う男女の間に流れた時間は、どう見たって平等ではなかった。
若く美しいズミ人の女性に、パウルは向き合い、時間が止まったかのように立ち尽くしていた。
その背中へ静かに声をかけたのは、既に魔剣を抜いているジャックだ。
「……殿下。それは誰ですか」
端的な疑問だ。パウルは振り向きもせず静かに答える。
「魔道人形だ。名前はフェリア……、私の元から逃げ去ったあと、ミョーネがこの場所で作った……。なあ、そうなんだろう?」
そしてそう彼女自身へと問いかける。
魔道人形、突然出てきたその言葉にしかし私もジャックも驚きはしなかった。彼女の佇まいが全身を以てそれを裏付けていた……。
「ええ、そうよ。フェリアは私が初めて作った人形……、いろんな術を試して、この体で魔道人形の研究を深めた。あなたも見たでしょう? 不格好で、無駄の多いコードだらけだわ。だけどだからこそ愛着も湧くというものかしらね」
フェリアは涼しげに微笑みながら、他でもない自分自身を語る。パウルはやや顔を俯けて、呆れたように首を振った。
「お前の執念じみた探究心には未だに驚かされるばかりだよ。まさか人形の中に自分の人格を埋め込んじゃうなんてな……。記憶、思考回路、感情表現、それら全てを膨大な量の言語情報のみで書き込んである、その所業にどれほどの時間と労力がかかったものか……見ただけで気が遠くなったよ。なあミョーネ、なぜそんなことをしたんだ?」
パウルに問われ、フェリアはすっと目を細めて空を見上げた。
「だって、死にたくなかったんだもの」
「人形に憑依して不老不死にでもなったつもりか……馬鹿馬鹿しい。あれだけの探求の果てに、その行為の虚しさを悟ることはできなかった、とでも言うのか? お前の師として、私まで悲しくなってくるよ」
パウルはため息まじりに言う。フェリアは同じ調子で、ただ視線を彼へ向けた。
「……あなたには分からないわ。全てが閉ざされた暗闇の中で、愛するもの全てを奪われ、ただ死んでいくだけの身を噛み締めていた、私の苦しみなんて……」
パウルはゆっくりと頷いた。
「ああ、分からないさ。だけどミョーネはもう死んだ。死んでしまえば何もできない。どれだけの執念をかけたって、人間は神にはなれない……人間が人間を作ることはできない。お前は所詮、人間の真似事をするだけの木偶人形だ。いい加減終わらせよう……」
そう呟くように語ってから、やっとパウルは歩き出した。その指先にゆらりと魔力が漂う。その人形の魔術を解除しようと、術式が込められたのだろう。
それをフェリアも冷めた目で見つめて、しかし彼女は大人しく甘んじようともしないらしい。
その細くしなやかな腕がとったのは、彼女の背中に提げられていた武器。長剣、というには小ぶりな、片手用の細い剣を握っていた。
「まだ終わらないわ。私にはまだやることがあるの。この国に……祖国に、私の子ども達に未来を示さなきゃいけない!」
その表情にも強い戦意が満ちたようだ。人形だとは到底思わせない、気分が悪くなるほど人間じみた顔……。
「殿下!」
ジャックが叫び、駆け出すのと同時にフェリアはその剣を振っていた。まるで木の枝を振るかのごとく軽々しく、目にも止まらないような素早さで……、そこに込められた腕力がどれほどのものなのか、剣が切り裂いていく空気の重さに、ただ見ている私さえ息が止まる心地がした。
その刃は、パウルが空中に張った障壁の魔法陣にぶつかりって激しく火花を散らす。
「ジャック、手を出すな! この女は……私が止める! 私が……終わらせる!」
パウルは同時にそう叫んでいた。今すぐにでもフェリアに魔剣で斬りかかろうとしていたジャックは、主人の命令を受けてびくりとして足を止めた。
フェリアの剣とパウルの魔術の衝突、その勝負は傍目には拮抗して見える。魔道人形故なのだろう、人間のものをはるか上回る怪力、しかしそれに劣らない濃度の魔力を張って見せるパウルの魔術もまた、超人的と言うべきだろうか。
そこに込められた思いの強さがそのまま魔術の強化となって現れているのだろう。曰く、魔法というのは心の力を具現したものであると……。
だが生身の人間には当然限界がある。長期戦になれば追い詰められていくのはパウルの方だ。
その前に彼はその人形を制することができるのか、一歩間違えばたちまちに絶命してしまうような勝負を前に、ジャックはしかし、「手を出すな」と言われた以上、介入を躊躇っているようだ。衝動と迷いに満ちた足取りで、彼らの対峙を見守る。
「何が……子ども達の未来だ! お前が“作った”木偶人形の子どもは……、よりによってヨハンを! お前の本当の子どもを傷付けたんだぞ! あんなものが許されてたまるか!」
込めた魔力の強さの分だけ、パウルはその声も荒げて叫んだ。その瞬間に魔術と剣との衝突は爆発するように弾けて、フェリアの体を仰け反らせる。
しかし怯むこともなく、フェリアはなおも剣を振るう。同じように張り詰めた思いを激昂しながら。
「その名前を呼ぶな! ヨハンは……、ヨハンは死んだのよ! 私だけを一人残して、私を闇の中にたった一人残して! あなたと同じよ、殿下! 私を独りぼっちにしたのはあなたじゃないの!」
「わけのわからないことを言うな! ヨハンは死んでない! それに私の元から勝手に逃げたのはお前の方だろ! なぜなんだ! なぜ私を捨てたんだ、ミョーネ・アルティーヴァ!」
そこに繰り広げられたのは、十五年を跨いだ壮大な夫婦喧嘩であった。私は石を飲むような気持ちで、ただ立ち尽くしてそれを見ている。
……どうしてこうなる前に、こんな命のやり取りではなく、ただの夫と妻として、彼らは話し合うことができなかったのだ?
「あなたが私を捨てたのよ! あんなに……あなたのことを愛していたのに! 私だけを愛していると言ったあなたの言葉を信じていたのに! あなたは他の女と結ばれる未来を選んだじゃないの!」
その言葉と共に振り下ろされた剣は一層に強かった。それはきっと、彼を殺そうとした太刀筋ではない、その思いの丈をただぶつけるだけの……。
パウルはそこに魔力の塊をぶつけて、弾くように軌道を逸らす、しかしその目は愕然として開かれていた。咄嗟の反論も彼の口からは出ないようだ。
彼女が何を言っているのかは、パウルだけじゃない、当時の王室の事情を知っている者からすれば明白だった。
パウル・イグノールは第一に迎えた妃であるミョーネとの間に数年に渡って子どもができなかった、それを受けて後からトレンティア貴族の令嬢を妃に迎え、公にはそれが后妃とされた。
しかしそれとほとんど同時にミョーネも念願の子を孕んだのだから、運命とはかくも皮肉なものだと、当時の私とて思ったのを憶えている。
パウルとミョーネの間にどれほど深い愛情があったのかは誰にも測ることができないだろう。しかし他でもない世継ぎの王子に、子どもができないという事態を無視できない人間はいくらでもいた。
そんなことは、トレンティアの貴族であれば当たり前のことだった。歴史を顧みれば妃を複数持った王の例など枚挙に暇もない。
「……そんな、ことで?」
その思いは呆けたような声とともにパウルから漏れ出した。彼はフェリアから距離を取って引き下がり、見たこともないような蒼白な顔で彼女を見つめている。
フェリアは苦しげに眉を寄せて、しかし口元は笑みの形を作る。
「そう……、あなたにとっては“そんなこと”よ。分かるわけがないでしょうね。父に言われてただひとり、この愛した大地を離れて異国へと差し出された女の気持ちなんて……。ただそこにいるだけで押し潰されるほど寂しかった……、その中であなただけが……私にとっての一筋の光だったのに。あなたの言葉だけが私の世界の全てだったのに。それを裏切られた時の私の思いなんて、あなたは何一つ……分からないのでしょうね」
ゆらりと剣を構えてフェリアはパウルに語る。
「だったら始めから愛さないでほしかった……。最初から最期まで、ただズミの王女でいたかった。だから私は祖国のための未来を選んだ、それだけのことなのよ。だからまだ……、終わらないわ。殿下、この場に現れてしまったのがあなたであったことが本当に悲しい……」
そう言い切った声の最後には、憎悪にも似た強い感情が滲み出ているように思えた。
パウルは愕然としたまま動けないでいた、それをフェリアも追って攻撃しようなどともしない様子に見えた。
睨み合う二人を見て、やがて私は苛立ちに似た思いを募らせる。私達はここまで来て、この夫婦の茶番のような喧嘩をただ見せつけられることしかできないのか?
彼らの間にどれだけ深い愛情があったのか、それを測ることは誰にもできないだろう。だけどそこにどれだけの思いがあったとしても分かるわけがない。愛しただの裏切っただの、そんな痴話喧嘩の果てにこの廃墟があると言うのか? それだけのことのために、一体どれほどの血が流れたと思っているのだ。
言葉にもならないその怒りは、しかしやがて地面を伝って足から這い上がってくるようなおぞましい悪寒にすぐに飲み込まれていった。
それはあまりに突然到来した予感だった。ハッと息を飲んで視線を上げる、その先に同じものを感じたらしいジャックと目が合った。
それが巨大な魔力のうねりだと気付いた、それと同時にパウルの叫び声が聞こえた。
「神聖なるトレント!」
それは血門を開く呪文……、何を意味するのか、それを理解するよりも早く、視界の全てを覆う光と共に、何もかもをかき消すような轟音が私の世界を支配する。思わず目を固く瞑る寸前に、私へと必死な顔で手を伸ばしてくるジャックの姿が見えた気がした。
鳴り響く地響きのような轟音に襲われた中、しかし体を痛みは襲わない。鎧も着ずに私を抱きしめたジャックの体の温かい感触の他には……、とにかく周囲を激しく魔力がうねり、ぶつかり、そうして息を呑んでいる間にさえ擦れ合って行く様子が分かった。
何かとてつもない攻撃魔法に襲われている、その衝撃は確かに感じる……だがそれでも体が傷付かないのは、恐らく保護の術式に護られているからだろう。
そう悟ってすぐに、私は目を開いて自分の両手にも魔力を込めた。突き放すようにしてジャックの体から身を離す。私達を守っているのはトレントの血門術によるパウルの魔法だ、彼に任せきりにはしておけない。
空中に張った障壁魔術はトレントの血の色……、金色の輝きを花火のように散らせている、その内側から私もぐっと力を込めて押すように、破壊魔法を外側へと放つ。衝突の中に衝突を混ぜ込み、包み込むようにそれを鎮めようと。
恐らく足元から襲い来たのだろう、割れた地から噴火のように迸った爆炎魔法は、時間にしてみれば瞬く間に過ぎ去った。
それが夏の空の奥へ抜けていった後、その一瞬にして破壊された若木の森は、それ以前にあった遺跡の景色よりも更に凄惨な戦場の様相を現していた。
「……何、これ」
思わず私が呟いた、その声は呆然としていた。
地面がぱっくりと割れて切り立った崖のように尖った、その中にぽつりと護られた小島の上に私達は立っている。その地割れの奥から爆炎が溢れ出たのだろう、そんな天変地異の如き魔術は……まるで神業だ……。
周囲に茂っていた草木は一瞬にして炭となり、幻想的だった遺跡は黒焦げた景色に塗りつぶされている。
その中でぽつりと立つ人影は数えるほどしかなく……、咄嗟の保護術で私達を守ったパウルはこちらに背を向けて、変わらずフェリアに対峙していた。
フェリアは既にその剣を体の横に下げ、灰の混じった風の中でなおも無傷で佇んでいる。そしてその後ろからゆらりと姿を現したのは、初めて見る姿だった。
十にも満たない幼い子ども……、その様は一瞬で黒焦げになってしまった廃墟に佇むにはあまりにも異様だ。短く切った髪は若々しい艶を持つ黒色、そして幼い顔立ちの上で凛と開かれたのは青い色の双眸……。
「……フェリア、ごめん、遅くなった。また街の中に敵兵が入り込んできていて……」
少年は子どもらしい、朗らかな声で言った。その場にいた誰もが、愕然としてその子の存在を出迎える。
「まさか君の元に敵襲があったなんて驚いた。……僕の魔法を耐えるなんて誰かと思えば……」
その声には、小さく笑いさえ浮かんでいる。フェリアは少しだけ目を伏せて、小さくため息をついたようだ。
「ウィル、加勢は嬉しいけど……、あわや全員消し炭になるところじゃない、もう少し状況を見てから攻撃をしてちょうだい? この人は炭にしてはだめよ、あなたの大切な……お父様なのだから……」
彼女の言葉を拾って、その瞬間に私もそれが何であるかを悟る。魔道人形を作り、その中に自らの人格まで再現したというミョーネ……、その所業はもはや闇の魔女とさえ言ってもいい。彼女にとってはトレンティアのどんな禁忌だって意味をなさなかったのだろう。
黒い髪に青い瞳、パウルを父と仰ぐべき少年には当然心当たりがある。……彼女自身は「死んだ」と言ったその名前の……それに成り代わらんとする歪な被造物が彼の正体だ。
剣を持ったままの片手で彼を愛おしそうに抱き、フェリアはもう片方の手の人差し指をすっと天に向けた。
「トレントの種、そしてほかでもないその血族、それがこのラズミルの地に揃うなんて……、ああ、私はやっと使命を果たせるのね……、サーシェ、ズミの偉大なる神々!」
彼女が口走った言葉の意味を私は理解しない。しようとも思わなかった。ただ目の前で展開されていく、現実とは思い難いほどの壮絶な様相を、受け入れることすら、精一杯で。
「ええイグノール殿下、私はまだ終わらないわ、この地で新たな物語を始めるのよ、私達ズミの民の夜明けを……この手で! 愛しいあなた、どうかそのために跪きなさい!」
勢いよく声を張り上げ、フェリアはウィルから手を離してその剣を振った。
パウルはまだ、時間が止まったかのようにその場に立ち尽くしていた。その顔は蒼白で、じっとりと滲んだ汗が顎を伝って滴り落ちていく……、咄嗟に使った血門術は、あれだけの魔法を防いで見せたのだ、どれほどの血を減らしただろうか。
「勇猛なるフォス!」
もう手出しは無用などとは言っていられない、主人の危機にジャックは血門を開いて猛進する。
フェリアが振り下ろした剣を、無防備なまでに受けようとしていたパウルの目前、その刃を横からジャックの魔剣から放たれた牙が襲う。
それにハッと気が付いたフェリアはすぐに剣を切り返して身を退いたようだ。
パウルとフェリアの間の空気を裂くようにジャックの魔刃は通り過ぎていく。それを見てパウルもやっと我に返ったように息を吸って瞬きをした。
化け物のような魔道人形二体、そして魔剣士、彼らの戦いになど、血門すら持たない魔道士は無力だ……だけど見ているだけというわけにもいかない。私もぐっと奥歯を噛んで彼らの元へ駆けた。
「母さんの邪魔をするな!」
そうあどけない声で激昂したのは、ウィルと呼ばれた少年の魔道人形だ。彼はその小さな体躯を軽く乗り出して、片手だけをジャックへと向ける……、そこに迸る魔術がどれほど恐ろしいものなのか、などと想像して怯えている場合でもなかった。
私は既に浮かべていたソル・サークルから再び破壊魔術の術式を込めて魔力を解き放つ。
パウルを襲ったフェリア、それを阻まんとするジャック、更に彼を襲ったウィルの魔術に、私がぶつけた術式は激しく火花を散らしてぶつかった。
しかしその衝突の結果は当然のごとく惨敗だ、かかっている圧力に差がありすぎる。
私の放った魔力は空に一瞬だけ火花を散らしたものの、すぐにウィルの爆炎に呑まれるように弾き飛ばされてしまった。
しかしその一瞬の間だけで、ジャックも魔剣を防御の構えに変えてウィルの魔術を見事に切り裂いて見せる。散った爆炎の熱がちりと肌を焼く、その中を当然魔道人形はものともせず、ウィルは冷めきった表情のまま素早く更に前へと踏み込んできていた。
その小さな気迫に圧されるように、ジャックはウィルへと体を向け直して魔剣を重く振る、ウィルの両手の先には大きくソル・サークルが浮かび上がり、金色の障壁が展開され、またも魔力がぶつかる火花が散る。
「神聖なるトレント、僕に力を!」
ウィルは確かにそう叫んだ。驚いて息を呑む暇すらなく、私はただやみくもに魔力を絞ってそのウィルに爆炎をぶつける。彼は躱すどころか受け身をとることすらしなかった。
横から私の魔法をまともにうけて、しかしウィルの小さな体は僅かに身じろぎをしただけだ。両手の先に展開していた魔法陣は崩れることもなく、肌を焼かれるままにその場に踏みとどまる……、ああ、こんな化け物、どうしろというのだ!
そしてウィルの魔法陣の先でもまた爆発が起こる。その熱風に息を詰まらせるあまり、私はただその場から体を引いた。
生身の人間が投じられる戦いでは到底ない。全力で身を捩ってその爆発から逃れると、体はまともに魔術を食らうことこそなかったが……そのはずみに、以前に受けた体の奥の傷がずきりと疼く。
そしてその爆発の奥に上がった黒い煙と、誰のものなのかさえ定かではない魔力が迸る衝突の向こうに、戦士達がどう揉み合っているのかはもはや目視もできなかった。
「殿下っ……!」
ただ、ジャックが苦しげに叫んだ声が聞こえた、それがぞわりと嫌な予感を呼び起こす。
やがて爆発だらけの戦場から引き剥がされるみたいに、パウルの体がふっと宙に投げ出されるように浮いたのが見えた……。
その胸元を確かに、しなやかな腕が掴んでいる。フェリアはパウルを押して焼け焦げた地面の上にその体を叩きつけた。それと同時にすかさず、右手に握った剣をずしと地面に突き立てる。……その下にあった、パウルの腕ごとを突き抜けて。
「兄様ああ!」
思わず私も叫び声を上げた、だけどただそれだけだ。傷に痛む体は、圧倒的な敵の前に怯える心は……、もはや思うようにも動かない。
パウルは息もできずにただ痛みのあまりに悶絶する、その体の上にのしかかってフェリアは彼を制圧した。
「安心してね、殿下……。あなたはまだ殺しはしない。私達の大望のためにトレントの血が……、その血門が刻まれた心の蔵が必要なのよ。邪魔する者を全て滅ぼしてからゆっくりと食ってやるわ!」
声高に叫ぶフェリアの言葉に答える者はもはや誰もいない。ジャックとてパウルの元へ駆けつけることすら叶わず、ただ目の前の少年から繰り出される魔術を防ぐばかりに魔剣は囚われていた。
「ようやく父さんを引き離せたか。じゃあこの二人はもう殺してしまうよ?」
ウィルがそう冷めた声で言う、人形らしい無感情な表情でも、そこに紛うことなき殺気が満ちていることは考えるまでもない。
「……駄目だっ! グロリア、ジャック、逃げろ! 頼むからっ……」
パウルは腕を剣に貫かれてもなお、空に向かってそう叫んだ。この期に及んでなお心配するのは自分の身ではないらしい……、しかしそんな命令を勇猛なるフォスが聞くわけもない。ジャックは一層猛々しく戦意を奮わせて、その魔剣に殺気を迸らせる。
そうして彼らがまた交わる、だけどあの化け物のような魔道人形をどうするというのだ。私が全力をかけてぶつけた爆炎魔法で焼けた肌は、まるでその場で回復魔術にでもかかったかのように光で覆われ、瞬く間に再生している。
そんな戦いの行く末を、私は見ていることにさえ恐怖した。しかし他でもない主人の危機を前にして、この男は……、勇猛なるフォスはきっと、本当に死ぬまで戦い続けるだろう。
「……神聖なるトレント、汝が子の、祈りを……っ」
刃物によって腕に深く穴を開けられ、そこから血を流れ出るままで、なおもパウルはその血門を開く。
……もう、やめてくれ。それ以上血を流せばみんな死んでしまう……。そんな悲痛な叫びさえも、私は絞り出すことができないでいた。
ジャックの魔剣とウィルの魔術が激しく衝突する、その攻防を目で追うことすらせずに、私はその場にへたり込んでしまった。その耳に、パウルの呟くような声はいやに鮮やかに届く。
「……ミョーネ、私が悪かった。お前のことを不幸にした、全部私の罪だ! だけど赦されてはいけない、これ以上……、ヨハンの生きる道を、穢さないでくれ……。だから、なあミョーネ、こんなことで罪滅ぼしにしようなんて馬鹿馬鹿しいかな……、だけど馬鹿なのはお互い様だからな、せめて、なあ……!」
その声に呼応するように、割れた地面の奥から金色の光が立ち昇ってくる。あの傷でなおも術式を作るのか、この男は。
「せめて、一緒に死のう」
そう言い切ったパウルの言葉に、フェリアさえも息を呑んだ。
「ふざけないでっ!」
そう激昂して彼女はパウルの胸ぐらを掴み、襟元の布を引きちぎってその拳を上げた。衣服を破って胸をはだけさせた、その先にある、血門の刻まれた心の蔵を抉り出そうとでも言うのだろうか。
「もうやめて兄様! それ以上は……ほんとに死んでしまう……!」
やっと私が張り上げた声は果たして彼に届くのだろうか。離れた場所で倒れている彼の顔を見ることすら私にはできない。
しかしそれに応えるみたいにして、地面からの光は強さを増した。黒焦げた地面の上に走るその金色の光は余計に鮮明に、美しくさえ浮かび上がる。
それが書いた魔法陣の上に踊る魔道文字は……しかし、目の前でくるりと形を変えていった。
「……え?」
思わず呆けたような呟きが漏れた。これはパウルが起こした魔術……のはずだ、しかし、違う、直感的に分かったのは、その魔力の流れを肌に感じたから。“外側”から、何か別の魔力が流れ込むように混じっている……。
しかし目まぐるしい戦況の中、それを冷静に観察している暇もない。苦しげな叫び声にはたと振り向けば、ウィルの魔術に押し負けたのだろう……、ジャックの体が爆炎の中から倒れていく様子があった。
思わず私は叫び声をあげた、どんな声が出ていたのかさえ分からない。目の前で彼が傷付いていく、それを眺めてさえ私は動けなかった。こんな状況の中で、どうすればいいのかなんて分からない。
だけどそんな私を当然待つことはなく、地面に光っていた魔法陣は瞬く間にその術式を結ぶ。そこに流れていたのは確かにトレントの血門術だ、曲りなりにも本家に生まれた魔道士である私が、見間違えるはずはない。
だけどそこに別の何かが混ざっているのも確かだった。外部からの術式への干渉、咄嗟の血門術にさえそんなことをして見せる何者か……、ウィルなのか?
だけど、何かがおかしい。混乱と恐怖の中で制御を失っていた頭の中に、その瞬間涼しい風がひゅと入り込んできたような気がした。
曰く、魔法は心の力を具現化したものである。その魔法陣から立ち昇ってくる魔力の気配は、そこにある感情が、決して私を害しようとはしていなかったから。
この苛烈な戦いの中で、それなのにその途端安息のようなものさえ感じた、それは体の中で疼いていた痛みが吸い込まれるようにして消えていったからなのだと、そう気付くまでにもしばらくかかった。
魔法陣から立ち昇り、満ちていくのはまるで癒やしの力……、その場にいる全てを包み込むような……。
その温かさの中に浸って、失っていた我に返った時、既に戦況は様変わりしていた。
パウルの上にのしかかっていたフェリアも、そしてジャックを殺さんと魔術を操っていたはずのウィルも、何かに縫い留められたかのように固まっている。
ウィルの炎魔法を受けたジャックは、その痛みだけで気絶していてもおかしくなかっただろうに……、しかし彼はまだ意識を保ち、魔剣で体を支えるようにしてそれを突き立てて膝をついている。
そうして唐突に静を纏った景色の中を凛と切り裂くように。突然その声は私達の中へ割って入ったのだ。
「……勝手に死ぬなよ、パウル」
誰もがそれに引きつけられて振り返る。黒焦げた戦場の上で血を浴びている私達の元へ、その存在は気付かないうちにすぐ近くまで迫ってきていた。
かの術者は焦げた地面の上に跪き、手に持った剣を地面へと突き立てていた。そこで金色に光る魔法陣を貫くように。そこに起こっているのはトレントの血門同士が共鳴しあう、連術……。
パウルが起こしたはずの魔法陣に彼は干渉し、そこに自らの魔力を流し込んで術を書き換えて、いやその術式の主体さえも乗っ取って支配している。そこに起こっていたのは巨大な“回復魔術”だった。
「……ヨハン」
彼の名前を最初に呟いたのは、その映し身であるはずの人形、ウィルだった。
冷めきった目を大きく開いて、離れた場所から一人静かに歩いてくる少年を見つめている。
それを正面から迎えて、ウィルはその小さな腕を宙に伸ばした。しかし誰もが動かなかった。彼の手の先には魔力が込められてもいなかったのだ。
やがてウィルはその唇でうわごとのように呟き出す。
「どうして君が生きているんだ……? この世に僕は一人だけでいいのに。ねえ、父さん、母さん、僕は僕だ、僕だけが僕だ、それなのに、どうして……僕を愛してくれないの……? どうして、なぜ」
何を思っているのだろう、いや、魔道人形に思いなどというものは無いはずだ。その言葉通りに浮かんだ悲哀は、しかし全部が作り物だ。その薄ら寒い被造物の言葉が、余計に背筋に嫌な寒気を走らせる。
彼はその両手をゆっくりとヨハンに向けて広げた、まるで親を求める子のように、神へと縋るただ人のように。
「なぜ僕は生まれてきたの?」
どこまでもあどけない、いたいけな声を最期に。時間が止まったかのように凪いでいた空気を、銀色の魔剣が静かに動く。
ヨハンは少しだけ目を大きく開いた。既にウィルの間近に迫っていたその顔に、人間と同じ色の返り血が数滴、ぱたと飛んでその頬を濡らす。
視線が吸い込まれたように私はそれを見つめていた。誰も何も答えなかった。その廃墟に流れた風は嘘みたいに静かだった。
我に返るようにしてフェリアの方を見た。彼女は地面に横たわったパウルの上に馬乗りになって、しかし力なくその体を彼の上に預けていた。
やがて呆気なくからりと鳴ったのは、パウルが自分の片手で、腕に突き立てられた剣を引き抜いて捨てた音らしい。
そのままの両腕で、パウルは力を失った様子のフェリアの背を愛おしそうに抱いた。流れるままになっている長い黒髪に隠されて、フェリアの表情は見ることもできない。
ウィルはそのうなじから喉元をジャックの魔剣に貫かれていた。やがてジャックがそれを引き抜くと、幼い子どもの体は、まるで人間と同じように力を失って宙に投げられた。
正面にいたヨハンが、恐らくほとんど反射的にだろう……、その小さな体を呆然として抱きとめる。奇妙な光景だった。
誰もが呆然とした廃墟の中で、やがて女の声が零れていく。
「……ね、パウル……。私ね……、寂しかったの……」
パウルを刺した時の気迫はどこへ行ってしまったのだろう、か細く、今にも消えそうな声だった。
誰の何の魔術がどう作用したのか、その経緯は全く分からない。ただ彼女は既に力を無くしていた。
「だから、会いに来てくれて……嬉しい……」
そんな弱々しい気持ちの吐露さえも、魔道人形はからくり仕掛けだ。トレント・エルフィンズ家に生まれ育った魔道士であるパウルに、それが分からないはずがない。
だけどそれでも敢えて言葉にして答えてやるのは、彼なりのけじめというものなのかもしれない。
「ああ、寂しい思いさせて、ごめんな……」
そんな穏やかな言葉を言って、パウルはそっとフェリアの額を撫でた。そこに浮かび上がったのは魔道人形の命令術式だ。
くるりと魔道文字が踊る、その魔力の流れは小さく渦を巻くように円を描き、やがてその中心へ吸い込まれるようにして収まっていった。
どれだけの時を経たのだろうか、その時の間にどれほど歪な因果を抱いてきたのだろうか。向き合う男女の間に流れた時間は、どう見たって平等ではなかった。
若く美しいズミ人の女性に、パウルは向き合い、時間が止まったかのように立ち尽くしていた。
その背中へ静かに声をかけたのは、既に魔剣を抜いているジャックだ。
「……殿下。それは誰ですか」
端的な疑問だ。パウルは振り向きもせず静かに答える。
「魔道人形だ。名前はフェリア……、私の元から逃げ去ったあと、ミョーネがこの場所で作った……。なあ、そうなんだろう?」
そしてそう彼女自身へと問いかける。
魔道人形、突然出てきたその言葉にしかし私もジャックも驚きはしなかった。彼女の佇まいが全身を以てそれを裏付けていた……。
「ええ、そうよ。フェリアは私が初めて作った人形……、いろんな術を試して、この体で魔道人形の研究を深めた。あなたも見たでしょう? 不格好で、無駄の多いコードだらけだわ。だけどだからこそ愛着も湧くというものかしらね」
フェリアは涼しげに微笑みながら、他でもない自分自身を語る。パウルはやや顔を俯けて、呆れたように首を振った。
「お前の執念じみた探究心には未だに驚かされるばかりだよ。まさか人形の中に自分の人格を埋め込んじゃうなんてな……。記憶、思考回路、感情表現、それら全てを膨大な量の言語情報のみで書き込んである、その所業にどれほどの時間と労力がかかったものか……見ただけで気が遠くなったよ。なあミョーネ、なぜそんなことをしたんだ?」
パウルに問われ、フェリアはすっと目を細めて空を見上げた。
「だって、死にたくなかったんだもの」
「人形に憑依して不老不死にでもなったつもりか……馬鹿馬鹿しい。あれだけの探求の果てに、その行為の虚しさを悟ることはできなかった、とでも言うのか? お前の師として、私まで悲しくなってくるよ」
パウルはため息まじりに言う。フェリアは同じ調子で、ただ視線を彼へ向けた。
「……あなたには分からないわ。全てが閉ざされた暗闇の中で、愛するもの全てを奪われ、ただ死んでいくだけの身を噛み締めていた、私の苦しみなんて……」
パウルはゆっくりと頷いた。
「ああ、分からないさ。だけどミョーネはもう死んだ。死んでしまえば何もできない。どれだけの執念をかけたって、人間は神にはなれない……人間が人間を作ることはできない。お前は所詮、人間の真似事をするだけの木偶人形だ。いい加減終わらせよう……」
そう呟くように語ってから、やっとパウルは歩き出した。その指先にゆらりと魔力が漂う。その人形の魔術を解除しようと、術式が込められたのだろう。
それをフェリアも冷めた目で見つめて、しかし彼女は大人しく甘んじようともしないらしい。
その細くしなやかな腕がとったのは、彼女の背中に提げられていた武器。長剣、というには小ぶりな、片手用の細い剣を握っていた。
「まだ終わらないわ。私にはまだやることがあるの。この国に……祖国に、私の子ども達に未来を示さなきゃいけない!」
その表情にも強い戦意が満ちたようだ。人形だとは到底思わせない、気分が悪くなるほど人間じみた顔……。
「殿下!」
ジャックが叫び、駆け出すのと同時にフェリアはその剣を振っていた。まるで木の枝を振るかのごとく軽々しく、目にも止まらないような素早さで……、そこに込められた腕力がどれほどのものなのか、剣が切り裂いていく空気の重さに、ただ見ている私さえ息が止まる心地がした。
その刃は、パウルが空中に張った障壁の魔法陣にぶつかりって激しく火花を散らす。
「ジャック、手を出すな! この女は……私が止める! 私が……終わらせる!」
パウルは同時にそう叫んでいた。今すぐにでもフェリアに魔剣で斬りかかろうとしていたジャックは、主人の命令を受けてびくりとして足を止めた。
フェリアの剣とパウルの魔術の衝突、その勝負は傍目には拮抗して見える。魔道人形故なのだろう、人間のものをはるか上回る怪力、しかしそれに劣らない濃度の魔力を張って見せるパウルの魔術もまた、超人的と言うべきだろうか。
そこに込められた思いの強さがそのまま魔術の強化となって現れているのだろう。曰く、魔法というのは心の力を具現したものであると……。
だが生身の人間には当然限界がある。長期戦になれば追い詰められていくのはパウルの方だ。
その前に彼はその人形を制することができるのか、一歩間違えばたちまちに絶命してしまうような勝負を前に、ジャックはしかし、「手を出すな」と言われた以上、介入を躊躇っているようだ。衝動と迷いに満ちた足取りで、彼らの対峙を見守る。
「何が……子ども達の未来だ! お前が“作った”木偶人形の子どもは……、よりによってヨハンを! お前の本当の子どもを傷付けたんだぞ! あんなものが許されてたまるか!」
込めた魔力の強さの分だけ、パウルはその声も荒げて叫んだ。その瞬間に魔術と剣との衝突は爆発するように弾けて、フェリアの体を仰け反らせる。
しかし怯むこともなく、フェリアはなおも剣を振るう。同じように張り詰めた思いを激昂しながら。
「その名前を呼ぶな! ヨハンは……、ヨハンは死んだのよ! 私だけを一人残して、私を闇の中にたった一人残して! あなたと同じよ、殿下! 私を独りぼっちにしたのはあなたじゃないの!」
「わけのわからないことを言うな! ヨハンは死んでない! それに私の元から勝手に逃げたのはお前の方だろ! なぜなんだ! なぜ私を捨てたんだ、ミョーネ・アルティーヴァ!」
そこに繰り広げられたのは、十五年を跨いだ壮大な夫婦喧嘩であった。私は石を飲むような気持ちで、ただ立ち尽くしてそれを見ている。
……どうしてこうなる前に、こんな命のやり取りではなく、ただの夫と妻として、彼らは話し合うことができなかったのだ?
「あなたが私を捨てたのよ! あんなに……あなたのことを愛していたのに! 私だけを愛していると言ったあなたの言葉を信じていたのに! あなたは他の女と結ばれる未来を選んだじゃないの!」
その言葉と共に振り下ろされた剣は一層に強かった。それはきっと、彼を殺そうとした太刀筋ではない、その思いの丈をただぶつけるだけの……。
パウルはそこに魔力の塊をぶつけて、弾くように軌道を逸らす、しかしその目は愕然として開かれていた。咄嗟の反論も彼の口からは出ないようだ。
彼女が何を言っているのかは、パウルだけじゃない、当時の王室の事情を知っている者からすれば明白だった。
パウル・イグノールは第一に迎えた妃であるミョーネとの間に数年に渡って子どもができなかった、それを受けて後からトレンティア貴族の令嬢を妃に迎え、公にはそれが后妃とされた。
しかしそれとほとんど同時にミョーネも念願の子を孕んだのだから、運命とはかくも皮肉なものだと、当時の私とて思ったのを憶えている。
パウルとミョーネの間にどれほど深い愛情があったのかは誰にも測ることができないだろう。しかし他でもない世継ぎの王子に、子どもができないという事態を無視できない人間はいくらでもいた。
そんなことは、トレンティアの貴族であれば当たり前のことだった。歴史を顧みれば妃を複数持った王の例など枚挙に暇もない。
「……そんな、ことで?」
その思いは呆けたような声とともにパウルから漏れ出した。彼はフェリアから距離を取って引き下がり、見たこともないような蒼白な顔で彼女を見つめている。
フェリアは苦しげに眉を寄せて、しかし口元は笑みの形を作る。
「そう……、あなたにとっては“そんなこと”よ。分かるわけがないでしょうね。父に言われてただひとり、この愛した大地を離れて異国へと差し出された女の気持ちなんて……。ただそこにいるだけで押し潰されるほど寂しかった……、その中であなただけが……私にとっての一筋の光だったのに。あなたの言葉だけが私の世界の全てだったのに。それを裏切られた時の私の思いなんて、あなたは何一つ……分からないのでしょうね」
ゆらりと剣を構えてフェリアはパウルに語る。
「だったら始めから愛さないでほしかった……。最初から最期まで、ただズミの王女でいたかった。だから私は祖国のための未来を選んだ、それだけのことなのよ。だからまだ……、終わらないわ。殿下、この場に現れてしまったのがあなたであったことが本当に悲しい……」
そう言い切った声の最後には、憎悪にも似た強い感情が滲み出ているように思えた。
パウルは愕然としたまま動けないでいた、それをフェリアも追って攻撃しようなどともしない様子に見えた。
睨み合う二人を見て、やがて私は苛立ちに似た思いを募らせる。私達はここまで来て、この夫婦の茶番のような喧嘩をただ見せつけられることしかできないのか?
彼らの間にどれだけ深い愛情があったのか、それを測ることは誰にもできないだろう。だけどそこにどれだけの思いがあったとしても分かるわけがない。愛しただの裏切っただの、そんな痴話喧嘩の果てにこの廃墟があると言うのか? それだけのことのために、一体どれほどの血が流れたと思っているのだ。
言葉にもならないその怒りは、しかしやがて地面を伝って足から這い上がってくるようなおぞましい悪寒にすぐに飲み込まれていった。
それはあまりに突然到来した予感だった。ハッと息を飲んで視線を上げる、その先に同じものを感じたらしいジャックと目が合った。
それが巨大な魔力のうねりだと気付いた、それと同時にパウルの叫び声が聞こえた。
「神聖なるトレント!」
それは血門を開く呪文……、何を意味するのか、それを理解するよりも早く、視界の全てを覆う光と共に、何もかもをかき消すような轟音が私の世界を支配する。思わず目を固く瞑る寸前に、私へと必死な顔で手を伸ばしてくるジャックの姿が見えた気がした。
鳴り響く地響きのような轟音に襲われた中、しかし体を痛みは襲わない。鎧も着ずに私を抱きしめたジャックの体の温かい感触の他には……、とにかく周囲を激しく魔力がうねり、ぶつかり、そうして息を呑んでいる間にさえ擦れ合って行く様子が分かった。
何かとてつもない攻撃魔法に襲われている、その衝撃は確かに感じる……だがそれでも体が傷付かないのは、恐らく保護の術式に護られているからだろう。
そう悟ってすぐに、私は目を開いて自分の両手にも魔力を込めた。突き放すようにしてジャックの体から身を離す。私達を守っているのはトレントの血門術によるパウルの魔法だ、彼に任せきりにはしておけない。
空中に張った障壁魔術はトレントの血の色……、金色の輝きを花火のように散らせている、その内側から私もぐっと力を込めて押すように、破壊魔法を外側へと放つ。衝突の中に衝突を混ぜ込み、包み込むようにそれを鎮めようと。
恐らく足元から襲い来たのだろう、割れた地から噴火のように迸った爆炎魔法は、時間にしてみれば瞬く間に過ぎ去った。
それが夏の空の奥へ抜けていった後、その一瞬にして破壊された若木の森は、それ以前にあった遺跡の景色よりも更に凄惨な戦場の様相を現していた。
「……何、これ」
思わず私が呟いた、その声は呆然としていた。
地面がぱっくりと割れて切り立った崖のように尖った、その中にぽつりと護られた小島の上に私達は立っている。その地割れの奥から爆炎が溢れ出たのだろう、そんな天変地異の如き魔術は……まるで神業だ……。
周囲に茂っていた草木は一瞬にして炭となり、幻想的だった遺跡は黒焦げた景色に塗りつぶされている。
その中でぽつりと立つ人影は数えるほどしかなく……、咄嗟の保護術で私達を守ったパウルはこちらに背を向けて、変わらずフェリアに対峙していた。
フェリアは既にその剣を体の横に下げ、灰の混じった風の中でなおも無傷で佇んでいる。そしてその後ろからゆらりと姿を現したのは、初めて見る姿だった。
十にも満たない幼い子ども……、その様は一瞬で黒焦げになってしまった廃墟に佇むにはあまりにも異様だ。短く切った髪は若々しい艶を持つ黒色、そして幼い顔立ちの上で凛と開かれたのは青い色の双眸……。
「……フェリア、ごめん、遅くなった。また街の中に敵兵が入り込んできていて……」
少年は子どもらしい、朗らかな声で言った。その場にいた誰もが、愕然としてその子の存在を出迎える。
「まさか君の元に敵襲があったなんて驚いた。……僕の魔法を耐えるなんて誰かと思えば……」
その声には、小さく笑いさえ浮かんでいる。フェリアは少しだけ目を伏せて、小さくため息をついたようだ。
「ウィル、加勢は嬉しいけど……、あわや全員消し炭になるところじゃない、もう少し状況を見てから攻撃をしてちょうだい? この人は炭にしてはだめよ、あなたの大切な……お父様なのだから……」
彼女の言葉を拾って、その瞬間に私もそれが何であるかを悟る。魔道人形を作り、その中に自らの人格まで再現したというミョーネ……、その所業はもはや闇の魔女とさえ言ってもいい。彼女にとってはトレンティアのどんな禁忌だって意味をなさなかったのだろう。
黒い髪に青い瞳、パウルを父と仰ぐべき少年には当然心当たりがある。……彼女自身は「死んだ」と言ったその名前の……それに成り代わらんとする歪な被造物が彼の正体だ。
剣を持ったままの片手で彼を愛おしそうに抱き、フェリアはもう片方の手の人差し指をすっと天に向けた。
「トレントの種、そしてほかでもないその血族、それがこのラズミルの地に揃うなんて……、ああ、私はやっと使命を果たせるのね……、サーシェ、ズミの偉大なる神々!」
彼女が口走った言葉の意味を私は理解しない。しようとも思わなかった。ただ目の前で展開されていく、現実とは思い難いほどの壮絶な様相を、受け入れることすら、精一杯で。
「ええイグノール殿下、私はまだ終わらないわ、この地で新たな物語を始めるのよ、私達ズミの民の夜明けを……この手で! 愛しいあなた、どうかそのために跪きなさい!」
勢いよく声を張り上げ、フェリアはウィルから手を離してその剣を振った。
パウルはまだ、時間が止まったかのようにその場に立ち尽くしていた。その顔は蒼白で、じっとりと滲んだ汗が顎を伝って滴り落ちていく……、咄嗟に使った血門術は、あれだけの魔法を防いで見せたのだ、どれほどの血を減らしただろうか。
「勇猛なるフォス!」
もう手出しは無用などとは言っていられない、主人の危機にジャックは血門を開いて猛進する。
フェリアが振り下ろした剣を、無防備なまでに受けようとしていたパウルの目前、その刃を横からジャックの魔剣から放たれた牙が襲う。
それにハッと気が付いたフェリアはすぐに剣を切り返して身を退いたようだ。
パウルとフェリアの間の空気を裂くようにジャックの魔刃は通り過ぎていく。それを見てパウルもやっと我に返ったように息を吸って瞬きをした。
化け物のような魔道人形二体、そして魔剣士、彼らの戦いになど、血門すら持たない魔道士は無力だ……だけど見ているだけというわけにもいかない。私もぐっと奥歯を噛んで彼らの元へ駆けた。
「母さんの邪魔をするな!」
そうあどけない声で激昂したのは、ウィルと呼ばれた少年の魔道人形だ。彼はその小さな体躯を軽く乗り出して、片手だけをジャックへと向ける……、そこに迸る魔術がどれほど恐ろしいものなのか、などと想像して怯えている場合でもなかった。
私は既に浮かべていたソル・サークルから再び破壊魔術の術式を込めて魔力を解き放つ。
パウルを襲ったフェリア、それを阻まんとするジャック、更に彼を襲ったウィルの魔術に、私がぶつけた術式は激しく火花を散らしてぶつかった。
しかしその衝突の結果は当然のごとく惨敗だ、かかっている圧力に差がありすぎる。
私の放った魔力は空に一瞬だけ火花を散らしたものの、すぐにウィルの爆炎に呑まれるように弾き飛ばされてしまった。
しかしその一瞬の間だけで、ジャックも魔剣を防御の構えに変えてウィルの魔術を見事に切り裂いて見せる。散った爆炎の熱がちりと肌を焼く、その中を当然魔道人形はものともせず、ウィルは冷めきった表情のまま素早く更に前へと踏み込んできていた。
その小さな気迫に圧されるように、ジャックはウィルへと体を向け直して魔剣を重く振る、ウィルの両手の先には大きくソル・サークルが浮かび上がり、金色の障壁が展開され、またも魔力がぶつかる火花が散る。
「神聖なるトレント、僕に力を!」
ウィルは確かにそう叫んだ。驚いて息を呑む暇すらなく、私はただやみくもに魔力を絞ってそのウィルに爆炎をぶつける。彼は躱すどころか受け身をとることすらしなかった。
横から私の魔法をまともにうけて、しかしウィルの小さな体は僅かに身じろぎをしただけだ。両手の先に展開していた魔法陣は崩れることもなく、肌を焼かれるままにその場に踏みとどまる……、ああ、こんな化け物、どうしろというのだ!
そしてウィルの魔法陣の先でもまた爆発が起こる。その熱風に息を詰まらせるあまり、私はただその場から体を引いた。
生身の人間が投じられる戦いでは到底ない。全力で身を捩ってその爆発から逃れると、体はまともに魔術を食らうことこそなかったが……そのはずみに、以前に受けた体の奥の傷がずきりと疼く。
そしてその爆発の奥に上がった黒い煙と、誰のものなのかさえ定かではない魔力が迸る衝突の向こうに、戦士達がどう揉み合っているのかはもはや目視もできなかった。
「殿下っ……!」
ただ、ジャックが苦しげに叫んだ声が聞こえた、それがぞわりと嫌な予感を呼び起こす。
やがて爆発だらけの戦場から引き剥がされるみたいに、パウルの体がふっと宙に投げ出されるように浮いたのが見えた……。
その胸元を確かに、しなやかな腕が掴んでいる。フェリアはパウルを押して焼け焦げた地面の上にその体を叩きつけた。それと同時にすかさず、右手に握った剣をずしと地面に突き立てる。……その下にあった、パウルの腕ごとを突き抜けて。
「兄様ああ!」
思わず私も叫び声を上げた、だけどただそれだけだ。傷に痛む体は、圧倒的な敵の前に怯える心は……、もはや思うようにも動かない。
パウルは息もできずにただ痛みのあまりに悶絶する、その体の上にのしかかってフェリアは彼を制圧した。
「安心してね、殿下……。あなたはまだ殺しはしない。私達の大望のためにトレントの血が……、その血門が刻まれた心の蔵が必要なのよ。邪魔する者を全て滅ぼしてからゆっくりと食ってやるわ!」
声高に叫ぶフェリアの言葉に答える者はもはや誰もいない。ジャックとてパウルの元へ駆けつけることすら叶わず、ただ目の前の少年から繰り出される魔術を防ぐばかりに魔剣は囚われていた。
「ようやく父さんを引き離せたか。じゃあこの二人はもう殺してしまうよ?」
ウィルがそう冷めた声で言う、人形らしい無感情な表情でも、そこに紛うことなき殺気が満ちていることは考えるまでもない。
「……駄目だっ! グロリア、ジャック、逃げろ! 頼むからっ……」
パウルは腕を剣に貫かれてもなお、空に向かってそう叫んだ。この期に及んでなお心配するのは自分の身ではないらしい……、しかしそんな命令を勇猛なるフォスが聞くわけもない。ジャックは一層猛々しく戦意を奮わせて、その魔剣に殺気を迸らせる。
そうして彼らがまた交わる、だけどあの化け物のような魔道人形をどうするというのだ。私が全力をかけてぶつけた爆炎魔法で焼けた肌は、まるでその場で回復魔術にでもかかったかのように光で覆われ、瞬く間に再生している。
そんな戦いの行く末を、私は見ていることにさえ恐怖した。しかし他でもない主人の危機を前にして、この男は……、勇猛なるフォスはきっと、本当に死ぬまで戦い続けるだろう。
「……神聖なるトレント、汝が子の、祈りを……っ」
刃物によって腕に深く穴を開けられ、そこから血を流れ出るままで、なおもパウルはその血門を開く。
……もう、やめてくれ。それ以上血を流せばみんな死んでしまう……。そんな悲痛な叫びさえも、私は絞り出すことができないでいた。
ジャックの魔剣とウィルの魔術が激しく衝突する、その攻防を目で追うことすらせずに、私はその場にへたり込んでしまった。その耳に、パウルの呟くような声はいやに鮮やかに届く。
「……ミョーネ、私が悪かった。お前のことを不幸にした、全部私の罪だ! だけど赦されてはいけない、これ以上……、ヨハンの生きる道を、穢さないでくれ……。だから、なあミョーネ、こんなことで罪滅ぼしにしようなんて馬鹿馬鹿しいかな……、だけど馬鹿なのはお互い様だからな、せめて、なあ……!」
その声に呼応するように、割れた地面の奥から金色の光が立ち昇ってくる。あの傷でなおも術式を作るのか、この男は。
「せめて、一緒に死のう」
そう言い切ったパウルの言葉に、フェリアさえも息を呑んだ。
「ふざけないでっ!」
そう激昂して彼女はパウルの胸ぐらを掴み、襟元の布を引きちぎってその拳を上げた。衣服を破って胸をはだけさせた、その先にある、血門の刻まれた心の蔵を抉り出そうとでも言うのだろうか。
「もうやめて兄様! それ以上は……ほんとに死んでしまう……!」
やっと私が張り上げた声は果たして彼に届くのだろうか。離れた場所で倒れている彼の顔を見ることすら私にはできない。
しかしそれに応えるみたいにして、地面からの光は強さを増した。黒焦げた地面の上に走るその金色の光は余計に鮮明に、美しくさえ浮かび上がる。
それが書いた魔法陣の上に踊る魔道文字は……しかし、目の前でくるりと形を変えていった。
「……え?」
思わず呆けたような呟きが漏れた。これはパウルが起こした魔術……のはずだ、しかし、違う、直感的に分かったのは、その魔力の流れを肌に感じたから。“外側”から、何か別の魔力が流れ込むように混じっている……。
しかし目まぐるしい戦況の中、それを冷静に観察している暇もない。苦しげな叫び声にはたと振り向けば、ウィルの魔術に押し負けたのだろう……、ジャックの体が爆炎の中から倒れていく様子があった。
思わず私は叫び声をあげた、どんな声が出ていたのかさえ分からない。目の前で彼が傷付いていく、それを眺めてさえ私は動けなかった。こんな状況の中で、どうすればいいのかなんて分からない。
だけどそんな私を当然待つことはなく、地面に光っていた魔法陣は瞬く間にその術式を結ぶ。そこに流れていたのは確かにトレントの血門術だ、曲りなりにも本家に生まれた魔道士である私が、見間違えるはずはない。
だけどそこに別の何かが混ざっているのも確かだった。外部からの術式への干渉、咄嗟の血門術にさえそんなことをして見せる何者か……、ウィルなのか?
だけど、何かがおかしい。混乱と恐怖の中で制御を失っていた頭の中に、その瞬間涼しい風がひゅと入り込んできたような気がした。
曰く、魔法は心の力を具現化したものである。その魔法陣から立ち昇ってくる魔力の気配は、そこにある感情が、決して私を害しようとはしていなかったから。
この苛烈な戦いの中で、それなのにその途端安息のようなものさえ感じた、それは体の中で疼いていた痛みが吸い込まれるようにして消えていったからなのだと、そう気付くまでにもしばらくかかった。
魔法陣から立ち昇り、満ちていくのはまるで癒やしの力……、その場にいる全てを包み込むような……。
その温かさの中に浸って、失っていた我に返った時、既に戦況は様変わりしていた。
パウルの上にのしかかっていたフェリアも、そしてジャックを殺さんと魔術を操っていたはずのウィルも、何かに縫い留められたかのように固まっている。
ウィルの炎魔法を受けたジャックは、その痛みだけで気絶していてもおかしくなかっただろうに……、しかし彼はまだ意識を保ち、魔剣で体を支えるようにしてそれを突き立てて膝をついている。
そうして唐突に静を纏った景色の中を凛と切り裂くように。突然その声は私達の中へ割って入ったのだ。
「……勝手に死ぬなよ、パウル」
誰もがそれに引きつけられて振り返る。黒焦げた戦場の上で血を浴びている私達の元へ、その存在は気付かないうちにすぐ近くまで迫ってきていた。
かの術者は焦げた地面の上に跪き、手に持った剣を地面へと突き立てていた。そこで金色に光る魔法陣を貫くように。そこに起こっているのはトレントの血門同士が共鳴しあう、連術……。
パウルが起こしたはずの魔法陣に彼は干渉し、そこに自らの魔力を流し込んで術を書き換えて、いやその術式の主体さえも乗っ取って支配している。そこに起こっていたのは巨大な“回復魔術”だった。
「……ヨハン」
彼の名前を最初に呟いたのは、その映し身であるはずの人形、ウィルだった。
冷めきった目を大きく開いて、離れた場所から一人静かに歩いてくる少年を見つめている。
それを正面から迎えて、ウィルはその小さな腕を宙に伸ばした。しかし誰もが動かなかった。彼の手の先には魔力が込められてもいなかったのだ。
やがてウィルはその唇でうわごとのように呟き出す。
「どうして君が生きているんだ……? この世に僕は一人だけでいいのに。ねえ、父さん、母さん、僕は僕だ、僕だけが僕だ、それなのに、どうして……僕を愛してくれないの……? どうして、なぜ」
何を思っているのだろう、いや、魔道人形に思いなどというものは無いはずだ。その言葉通りに浮かんだ悲哀は、しかし全部が作り物だ。その薄ら寒い被造物の言葉が、余計に背筋に嫌な寒気を走らせる。
彼はその両手をゆっくりとヨハンに向けて広げた、まるで親を求める子のように、神へと縋るただ人のように。
「なぜ僕は生まれてきたの?」
どこまでもあどけない、いたいけな声を最期に。時間が止まったかのように凪いでいた空気を、銀色の魔剣が静かに動く。
ヨハンは少しだけ目を大きく開いた。既にウィルの間近に迫っていたその顔に、人間と同じ色の返り血が数滴、ぱたと飛んでその頬を濡らす。
視線が吸い込まれたように私はそれを見つめていた。誰も何も答えなかった。その廃墟に流れた風は嘘みたいに静かだった。
我に返るようにしてフェリアの方を見た。彼女は地面に横たわったパウルの上に馬乗りになって、しかし力なくその体を彼の上に預けていた。
やがて呆気なくからりと鳴ったのは、パウルが自分の片手で、腕に突き立てられた剣を引き抜いて捨てた音らしい。
そのままの両腕で、パウルは力を失った様子のフェリアの背を愛おしそうに抱いた。流れるままになっている長い黒髪に隠されて、フェリアの表情は見ることもできない。
ウィルはそのうなじから喉元をジャックの魔剣に貫かれていた。やがてジャックがそれを引き抜くと、幼い子どもの体は、まるで人間と同じように力を失って宙に投げられた。
正面にいたヨハンが、恐らくほとんど反射的にだろう……、その小さな体を呆然として抱きとめる。奇妙な光景だった。
誰もが呆然とした廃墟の中で、やがて女の声が零れていく。
「……ね、パウル……。私ね……、寂しかったの……」
パウルを刺した時の気迫はどこへ行ってしまったのだろう、か細く、今にも消えそうな声だった。
誰の何の魔術がどう作用したのか、その経緯は全く分からない。ただ彼女は既に力を無くしていた。
「だから、会いに来てくれて……嬉しい……」
そんな弱々しい気持ちの吐露さえも、魔道人形はからくり仕掛けだ。トレント・エルフィンズ家に生まれ育った魔道士であるパウルに、それが分からないはずがない。
だけどそれでも敢えて言葉にして答えてやるのは、彼なりのけじめというものなのかもしれない。
「ああ、寂しい思いさせて、ごめんな……」
そんな穏やかな言葉を言って、パウルはそっとフェリアの額を撫でた。そこに浮かび上がったのは魔道人形の命令術式だ。
くるりと魔道文字が踊る、その魔力の流れは小さく渦を巻くように円を描き、やがてその中心へ吸い込まれるようにして収まっていった。
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