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第30話 アテネ、幸せになる。
――それから二年後――
王城でのあの夜から、もう二年が経った。
あの日、王妃――お母さまと心を通わせた瞬間から、私の世界は大きく変わった。
王族としての生活は、思っていたよりずっと忙しくて、難しいことも多かった。けれど、学院生活と並行して、少しずつ“ダイアナ”としての自分を受け入れられるようになった。
学院では魔道具研究に夢中になり、実験室にこもって夜遅くまで作業をする日もあった。
時には爆発を起こして寮監のエリザおばさんに叱られ、廊下の掃除をさせられたこともある。
それでも私のまわりには、いつもカテリー二とパトラがいた。
カテリー二は変わらず凛とした公爵令嬢。授業の合間にお茶会へと引っ張ってくれるし、試験前にはきっちり計画表を作らされる。
パトラは相変わらずクールな雰囲気だけど、私が研究で行き詰まると無言で手を貸してくれる。実は誰よりも面倒見がいい人だ。
――そんな学院生活も、ついに終わりの時を迎えた。
卒業式の日、講堂の外には花飾りが並び、春の光があふれていた。
私は深呼吸をして、自分の胸元のリボンをそっと触る。
それは、レオナルドさんからもらった魔道具の小さなブローチ。普段は研究室でしか見られないのに、この日は「記念だから」と笑って渡してくれた。
「おい、ダイアナ」
振り向けば、レオナルドさんがそこに立っていた。金色の髪が陽光を受けて輝き、その手には花束がある。
「卒業、おめでとう」
「……ありがとうございます」
顔が熱くなるのを感じながら、花束を受け取った。
学院での努力の日々を見ていてくれた人が、こうして祝ってくれる――それだけで胸がいっぱいになる。
そして、その日から数か月後。
私は王都の聖堂で、レオナルドさんと結婚式を挙げた。
白いドレスに身を包み、王妃や国王陛下、学院時代の友人たち、そして孤児院のみんなまで参列してくれた。
カテリー二は涙ぐみながら「叔父をよろしくね」と笑い、パトラは「やっと二人がくっついたわね」とからかうように囁いた。
式のあと、レオナルドさんは私の耳元で小さく言った。
「これからも、一緒に研究してくれるだろう?」
「もちろんです。……でも、家事も手伝ってくれますよね?」
彼は一瞬きょとんとして、それから少し照れくさそうに笑った。
私たちの新しい家は、研究所とつながる小さな邸宅。
朝は一緒に朝食をとり、昼間はそれぞれ研究に没頭し、夜はたまにトミーがふらりと遊びに来る。
「いやあ、お前ら、相変わらず仲いいなあ」
彼は笑いながら新しい発明品を見せろと言ってくる。時々は、昔みたいに遺跡探索にも付き合ってくれる。
友人たちも、それぞれの幸せを手に入れていた。
カテリー二は、騎士団のロドスと結婚した。
式の日、二人は互いを見つめて微笑むだけで周囲が暖かい空気に包まれるようだった。ロドスはいつも穏やかな瞳で彼女を見守り、彼女もまたその瞳に応える。
パトラは、ギルベルトと結ばれた。
おおらかで面倒見のいいギルベルトと、落ち着いていて聡明なパトラ――性格は正反対なのに、ぴたりと寄り添って歩く姿は、不思議なほど自然だった。
みんなで集まると、笑い声が絶えない。
誰かが紅茶を淹れ、誰かが甘いお菓子を焼き、トミーが冒険話で場を盛り上げる。
気づけば、あの日の学院の食堂みたいに、賑やかで温かい空間が広がっている。
夜、窓から月を見上げると、あの王城での再会の日が思い出される。
孤児院で育った私が、こうして家族や友人に囲まれて暮らしているなんて――あの頃の私には想像できなかった。
でも、今はわかる。
どこに生まれたかじゃなく、どんな人たちと出会い、どんな時間を過ごしたかが大切なんだと。
私はにこりと笑う。
これからも、大切な人たちと一緒に、たくさんの魔道具を作り、たくさん笑って生きていこう。
そして、物語はここでひとまず――めでたし、めでたし。
王城でのあの夜から、もう二年が経った。
あの日、王妃――お母さまと心を通わせた瞬間から、私の世界は大きく変わった。
王族としての生活は、思っていたよりずっと忙しくて、難しいことも多かった。けれど、学院生活と並行して、少しずつ“ダイアナ”としての自分を受け入れられるようになった。
学院では魔道具研究に夢中になり、実験室にこもって夜遅くまで作業をする日もあった。
時には爆発を起こして寮監のエリザおばさんに叱られ、廊下の掃除をさせられたこともある。
それでも私のまわりには、いつもカテリー二とパトラがいた。
カテリー二は変わらず凛とした公爵令嬢。授業の合間にお茶会へと引っ張ってくれるし、試験前にはきっちり計画表を作らされる。
パトラは相変わらずクールな雰囲気だけど、私が研究で行き詰まると無言で手を貸してくれる。実は誰よりも面倒見がいい人だ。
――そんな学院生活も、ついに終わりの時を迎えた。
卒業式の日、講堂の外には花飾りが並び、春の光があふれていた。
私は深呼吸をして、自分の胸元のリボンをそっと触る。
それは、レオナルドさんからもらった魔道具の小さなブローチ。普段は研究室でしか見られないのに、この日は「記念だから」と笑って渡してくれた。
「おい、ダイアナ」
振り向けば、レオナルドさんがそこに立っていた。金色の髪が陽光を受けて輝き、その手には花束がある。
「卒業、おめでとう」
「……ありがとうございます」
顔が熱くなるのを感じながら、花束を受け取った。
学院での努力の日々を見ていてくれた人が、こうして祝ってくれる――それだけで胸がいっぱいになる。
そして、その日から数か月後。
私は王都の聖堂で、レオナルドさんと結婚式を挙げた。
白いドレスに身を包み、王妃や国王陛下、学院時代の友人たち、そして孤児院のみんなまで参列してくれた。
カテリー二は涙ぐみながら「叔父をよろしくね」と笑い、パトラは「やっと二人がくっついたわね」とからかうように囁いた。
式のあと、レオナルドさんは私の耳元で小さく言った。
「これからも、一緒に研究してくれるだろう?」
「もちろんです。……でも、家事も手伝ってくれますよね?」
彼は一瞬きょとんとして、それから少し照れくさそうに笑った。
私たちの新しい家は、研究所とつながる小さな邸宅。
朝は一緒に朝食をとり、昼間はそれぞれ研究に没頭し、夜はたまにトミーがふらりと遊びに来る。
「いやあ、お前ら、相変わらず仲いいなあ」
彼は笑いながら新しい発明品を見せろと言ってくる。時々は、昔みたいに遺跡探索にも付き合ってくれる。
友人たちも、それぞれの幸せを手に入れていた。
カテリー二は、騎士団のロドスと結婚した。
式の日、二人は互いを見つめて微笑むだけで周囲が暖かい空気に包まれるようだった。ロドスはいつも穏やかな瞳で彼女を見守り、彼女もまたその瞳に応える。
パトラは、ギルベルトと結ばれた。
おおらかで面倒見のいいギルベルトと、落ち着いていて聡明なパトラ――性格は正反対なのに、ぴたりと寄り添って歩く姿は、不思議なほど自然だった。
みんなで集まると、笑い声が絶えない。
誰かが紅茶を淹れ、誰かが甘いお菓子を焼き、トミーが冒険話で場を盛り上げる。
気づけば、あの日の学院の食堂みたいに、賑やかで温かい空間が広がっている。
夜、窓から月を見上げると、あの王城での再会の日が思い出される。
孤児院で育った私が、こうして家族や友人に囲まれて暮らしているなんて――あの頃の私には想像できなかった。
でも、今はわかる。
どこに生まれたかじゃなく、どんな人たちと出会い、どんな時間を過ごしたかが大切なんだと。
私はにこりと笑う。
これからも、大切な人たちと一緒に、たくさんの魔道具を作り、たくさん笑って生きていこう。
そして、物語はここでひとまず――めでたし、めでたし。
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