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閑話2 エリザベート編 十九年越しの再会
王妃エリザベート視点 ――十九年越しの再会
――王城の大広間。
黄金のシャンデ麗しく輝くその場にあっても、私の胸はこれほどまでに高鳴ったことはなかった。
十九年。
あの日から十九年もの歳月が、私の心を苛み続けてきた。
初めての子を抱いた喜び。小さな泣き声に未来を託そうとした矢先、その温もりは奪われた。私の腕に残ったのは、空虚と絶望だけ。
アンジェリーナの狂気。
侍女アテネ=グレイの裏切り。
――そして、川へ投げ捨てられたと知らされた我が子。
その時の衝撃は、十九年を経てもなお、胸の奥で傷口を開き続けていた。
夜毎に夢に見る。泣き声、掴めぬ小さな手、呼びかけても返ってこない声。
私は王妃として毅然と振る舞わねばならなかった。だが、母としての心は決して癒えることなく、ただ「生きている」と信じることでしか立っていられなかった。
だから――この瞬間を迎えるまで、何度も胸の内で祈った。
どうか。どうか私の直感が、信じ続けた想いが、間違いではありませんように、と。
やがて、黄金の魔道具がアテネの血を受け取り、澄んだ音を響かせた。
白銀の光が広間を満たし、息を呑むほどの輝きが私たちを包み込む。
私は無意識に両手を胸に当て、震える声を押し殺した。
――どうか。どうか。
レオナルドが目を見開き、淡く浮かぶ文字を読み上げる。
「……父、リチャード=ファン=フリューゲル……母、エリザベート=ファン=フリューゲル……」
その瞬間、私の世界が音を立てて揺らいだ。
視界が涙で滲み、耳に入った言葉が夢のように遠ざかる。
でも確かに聞こえた。私の名。王の名。――それは、目の前の少女が、我が子であるという何よりの証。
「……え?」
あの子は驚いた顔で立ち尽くしていた。
戸惑い、信じられないという瞳。十九年前には赤子だったはずのその子が、今こうして、自分の足で立ち、息をしている。
「ダ、ダイアナ……っ!」
堪えきれず、私は立ち上がった。
椅子が後ろに倒れる音も、周囲のどよめきも耳に入らない。
ただ娘の元へ――十九年待ち続けた我が子の元へと駆け寄った。
銀糸のような髪が揺れる。
蒼いドレスの裾が床をかすめる。
そのすべてが霞んで、ただあの子の姿だけがはっきりと見えた。
私は――彼女を抱きしめた。
細い肩を、驚きに固まったその身体を、力の限り腕に抱き寄せた。
「やっぱり……あなたはダイアナだったのね……! 良かった……生きていてくれて……!」
声は震え、胸の奥から熱が溢れてくる。
頬を伝う涙は止められなかった。王妃としてではなく、ただ一人の母として、私は嗚咽を漏らしていた。
十九年。
たとえ誰に嘲られても、諦められなかった。信じ続けて良かった。
ようやく娘に会えた。
「え……え……?」
困惑しきった声が耳に届く。
戸惑うのも無理はない。突然、自分が王女だと知らされたのだから。
けれど、その頬の温かさ、この髪の色、そして血が示した真実――全てが物語っている。
この子は確かに、私の娘。
「わ、わたしのお、お母様……」
かすかに絞り出されたその言葉に、私はさらに強く抱きしめた。
そうだ。私はあなたの母。ずっと、ずっと会いたかったの。
玉座から降りてきたリチャード陛下の姿が視界に映る。
厳格な王の顔も、その瞳に熱が宿っていた。
彼もまた、十九年もの間、失った娘を胸に抱え続けてきた。
「ここにいる娘は――十九年前、我が王家から誘拐された第一子、ダイアナ=ファン=フリューゲル王女に間違いない。国王の名において、ここに宣言する!」
堂々と響いたその言葉に、大広間は歓声で震えた。
「万歳」の声がいくつも重なり、拍手が万雷となる。
けれど、私には遠くのざわめきよりも、腕の中の娘の鼓動がすべてだった。
小さな鼓動が生きている。
失ったはずの命が、ここに戻ってきた。
その奇跡を抱きしめながら、涙は尽きることなく頬を濡らした。
十九年――長すぎる年月だった。
だが、この瞬間のために、私は信じ続けてこられたのだ。
これから先、あの子が何を思い、どんな道を選ぶとしても、もう二度と離さない。私は母として、その傍にいる。
歓声の中で、娘はまだ困惑していた。
けれど私の手を振り払うことはなかった。
その小さなぬくもりが、私の胸に確かに伝わっていた。
――ありがとう、女神様。
私に、もう一度娘を抱く機会を与えてくださって。
こうして、十九年の空白は涙で満たされ、ようやく一つの愛が結ばれた。
私はもう迷わない。
アテネ=グレイではなく、ダイアナ=ファン=フリューゲル。
私の娘は、確かにここに帰ってきたのだ。
――王城の大広間。
黄金のシャンデ麗しく輝くその場にあっても、私の胸はこれほどまでに高鳴ったことはなかった。
十九年。
あの日から十九年もの歳月が、私の心を苛み続けてきた。
初めての子を抱いた喜び。小さな泣き声に未来を託そうとした矢先、その温もりは奪われた。私の腕に残ったのは、空虚と絶望だけ。
アンジェリーナの狂気。
侍女アテネ=グレイの裏切り。
――そして、川へ投げ捨てられたと知らされた我が子。
その時の衝撃は、十九年を経てもなお、胸の奥で傷口を開き続けていた。
夜毎に夢に見る。泣き声、掴めぬ小さな手、呼びかけても返ってこない声。
私は王妃として毅然と振る舞わねばならなかった。だが、母としての心は決して癒えることなく、ただ「生きている」と信じることでしか立っていられなかった。
だから――この瞬間を迎えるまで、何度も胸の内で祈った。
どうか。どうか私の直感が、信じ続けた想いが、間違いではありませんように、と。
やがて、黄金の魔道具がアテネの血を受け取り、澄んだ音を響かせた。
白銀の光が広間を満たし、息を呑むほどの輝きが私たちを包み込む。
私は無意識に両手を胸に当て、震える声を押し殺した。
――どうか。どうか。
レオナルドが目を見開き、淡く浮かぶ文字を読み上げる。
「……父、リチャード=ファン=フリューゲル……母、エリザベート=ファン=フリューゲル……」
その瞬間、私の世界が音を立てて揺らいだ。
視界が涙で滲み、耳に入った言葉が夢のように遠ざかる。
でも確かに聞こえた。私の名。王の名。――それは、目の前の少女が、我が子であるという何よりの証。
「……え?」
あの子は驚いた顔で立ち尽くしていた。
戸惑い、信じられないという瞳。十九年前には赤子だったはずのその子が、今こうして、自分の足で立ち、息をしている。
「ダ、ダイアナ……っ!」
堪えきれず、私は立ち上がった。
椅子が後ろに倒れる音も、周囲のどよめきも耳に入らない。
ただ娘の元へ――十九年待ち続けた我が子の元へと駆け寄った。
銀糸のような髪が揺れる。
蒼いドレスの裾が床をかすめる。
そのすべてが霞んで、ただあの子の姿だけがはっきりと見えた。
私は――彼女を抱きしめた。
細い肩を、驚きに固まったその身体を、力の限り腕に抱き寄せた。
「やっぱり……あなたはダイアナだったのね……! 良かった……生きていてくれて……!」
声は震え、胸の奥から熱が溢れてくる。
頬を伝う涙は止められなかった。王妃としてではなく、ただ一人の母として、私は嗚咽を漏らしていた。
十九年。
たとえ誰に嘲られても、諦められなかった。信じ続けて良かった。
ようやく娘に会えた。
「え……え……?」
困惑しきった声が耳に届く。
戸惑うのも無理はない。突然、自分が王女だと知らされたのだから。
けれど、その頬の温かさ、この髪の色、そして血が示した真実――全てが物語っている。
この子は確かに、私の娘。
「わ、わたしのお、お母様……」
かすかに絞り出されたその言葉に、私はさらに強く抱きしめた。
そうだ。私はあなたの母。ずっと、ずっと会いたかったの。
玉座から降りてきたリチャード陛下の姿が視界に映る。
厳格な王の顔も、その瞳に熱が宿っていた。
彼もまた、十九年もの間、失った娘を胸に抱え続けてきた。
「ここにいる娘は――十九年前、我が王家から誘拐された第一子、ダイアナ=ファン=フリューゲル王女に間違いない。国王の名において、ここに宣言する!」
堂々と響いたその言葉に、大広間は歓声で震えた。
「万歳」の声がいくつも重なり、拍手が万雷となる。
けれど、私には遠くのざわめきよりも、腕の中の娘の鼓動がすべてだった。
小さな鼓動が生きている。
失ったはずの命が、ここに戻ってきた。
その奇跡を抱きしめながら、涙は尽きることなく頬を濡らした。
十九年――長すぎる年月だった。
だが、この瞬間のために、私は信じ続けてこられたのだ。
これから先、あの子が何を思い、どんな道を選ぶとしても、もう二度と離さない。私は母として、その傍にいる。
歓声の中で、娘はまだ困惑していた。
けれど私の手を振り払うことはなかった。
その小さなぬくもりが、私の胸に確かに伝わっていた。
――ありがとう、女神様。
私に、もう一度娘を抱く機会を与えてくださって。
こうして、十九年の空白は涙で満たされ、ようやく一つの愛が結ばれた。
私はもう迷わない。
アテネ=グレイではなく、ダイアナ=ファン=フリューゲル。
私の娘は、確かにここに帰ってきたのだ。
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