45 / 56
閑話3 国王リチャード視点 ――十九年越しの再会
国王リチャード視点 ――十九年越しの再会
――王城・大広間。
高い天井に吊るされたシャンデリアの光が、今ほど眩しく感じられたことはない。
だがその光よりも強烈に、私の心を照らしたのは――あの瞬間だった。
十九年。
我が胸を締め付け続けた苦痛と悔恨が、たった一つの名の出現で音を立てて崩れ去った。
「父、リチャード=ファン=フリューゲル……母、エリザベート=ファン=フリューゲル」
金色の魔道具が告げた真実。
それは、目の前の少女――アテネ=グレイが、失われた第一子、ダイアナであることを示していた。
私は息を呑んだ。
この十九年間、エリザベートは「ダイアナは生きている」と信じ続けてきた。
しかし、私は違った。
いや、違わざるを得なかったのだ。
十九年という歳月は、あまりにも長い。
赤子が川へと捨てられ、生き延びる可能性など――そう考える方が自然だった。
希望を抱いたままでは、王としての務めを果たせない。国を治める私が、夢と幻想に縋るわけにはいかなかった。
だから私は、娘を諦めた。
自らを守るために、そして国を守るために。
エリザベートが夜毎に祈りを捧げる姿を見ても、慰めの言葉をかけることしかできなかった。
本心では「無駄なことを」と思っていた。
だが、今――。
「ダ、ダイアナ……っ!」
妻が叫び、駆け寄る。
私はそれを呆然と見ていた。
十九年前の赤子が、今こうして十九歳の娘となり、私たちの前に立っている。
エリザベートの直感は正しかったのだ。
私はなんと愚かな男だったのか。信じ続けた妻に寄り添うこともできず、ただ現実から逃げていたのだ。
だが、そんな悔いすらも今は喜びにかき消されていく。
嗚呼、これ以上に嬉しいことがあるだろうか。
王妃の腕に抱かれる娘の姿を見て、私の胸は熱くなった。
「ここにいる娘は――十九年前、我が王家から誘拐された第一子、ダイアナ=ファン=フリューゲル王女に間違いない!」
私は宣言した。
それは王としての責務であると同時に、父としての叫びだった。
この瞬間を、どれほど待ち望んでいたことか。
心の奥底では、私だって願い続けていたのだ。
大広間を揺らす歓声。
「万歳」の声が幾重にも重なり、祝福の拍手が鳴り響く。
しかし私の耳には、そのすべてが遠く感じられた。
ただ娘の瞳、戸惑いと涙を浮かべた表情、それだけが鮮烈に映っていた。
――十九年。
私は彼女に父として何一つしてやれなかった。
成長を見守ることも、誕生日を祝うことも、病に伏した時に傍にいることも。
すべてを失ったと思っていた。
だが、これからだ。
娘の人生はまだ始まったばかり。
私は父として、その道を助けていこう。
王女としての務めを果たすことを強いるつもりはない。
この十九年、彼女は「アテネ=グレイ」として生きてきたのだ。
ならばまず、その人生を尊重しよう。
けれど、同時に伝えたい。――私はお前の父であり、家族である、と。
エリザベートの涙に濡れた笑顔を見て、胸が締め付けられる。
十九年もの間、彼女は孤独な信仰心で娘を信じ抜いた。
その姿を、私は理解しながらも受け入れられず、ただ見守るしかなかった。
だが今日、妻は報われた。
そして私もまた、父として救われたのだ。
……ありがとう、ダイアナ。
生きていてくれて。
この国に戻ってきてくれて。
十九年分の空白は、すぐには埋まらぬだろう。
それでも、これからの日々を重ねていけばいい。
家族として、国として、共に歩んでいけばいい。
私はゆっくりと娘に歩み寄り、震える手でその肩に触れた。
小さなぬくもり。だが確かに、我が血を継ぐ娘の温もり。
「ダイアナ――おかえり」
そう告げた時、私の頬を熱いものが伝った。
王としての威厳など、今はどうでもよかった。
私はただ、一人の父として、十九年ぶりに娘と再会したのだ。
大広間を満たす祝福の音の中、私は心に誓った。
これからは共に歩もう。
たとえどんな困難が待ち受けていようとも、もう二度と手放しはしない。
十九年を超えて取り戻した奇跡を、この先は私が守り抜くのだ。
――王城・大広間。
高い天井に吊るされたシャンデリアの光が、今ほど眩しく感じられたことはない。
だがその光よりも強烈に、私の心を照らしたのは――あの瞬間だった。
十九年。
我が胸を締め付け続けた苦痛と悔恨が、たった一つの名の出現で音を立てて崩れ去った。
「父、リチャード=ファン=フリューゲル……母、エリザベート=ファン=フリューゲル」
金色の魔道具が告げた真実。
それは、目の前の少女――アテネ=グレイが、失われた第一子、ダイアナであることを示していた。
私は息を呑んだ。
この十九年間、エリザベートは「ダイアナは生きている」と信じ続けてきた。
しかし、私は違った。
いや、違わざるを得なかったのだ。
十九年という歳月は、あまりにも長い。
赤子が川へと捨てられ、生き延びる可能性など――そう考える方が自然だった。
希望を抱いたままでは、王としての務めを果たせない。国を治める私が、夢と幻想に縋るわけにはいかなかった。
だから私は、娘を諦めた。
自らを守るために、そして国を守るために。
エリザベートが夜毎に祈りを捧げる姿を見ても、慰めの言葉をかけることしかできなかった。
本心では「無駄なことを」と思っていた。
だが、今――。
「ダ、ダイアナ……っ!」
妻が叫び、駆け寄る。
私はそれを呆然と見ていた。
十九年前の赤子が、今こうして十九歳の娘となり、私たちの前に立っている。
エリザベートの直感は正しかったのだ。
私はなんと愚かな男だったのか。信じ続けた妻に寄り添うこともできず、ただ現実から逃げていたのだ。
だが、そんな悔いすらも今は喜びにかき消されていく。
嗚呼、これ以上に嬉しいことがあるだろうか。
王妃の腕に抱かれる娘の姿を見て、私の胸は熱くなった。
「ここにいる娘は――十九年前、我が王家から誘拐された第一子、ダイアナ=ファン=フリューゲル王女に間違いない!」
私は宣言した。
それは王としての責務であると同時に、父としての叫びだった。
この瞬間を、どれほど待ち望んでいたことか。
心の奥底では、私だって願い続けていたのだ。
大広間を揺らす歓声。
「万歳」の声が幾重にも重なり、祝福の拍手が鳴り響く。
しかし私の耳には、そのすべてが遠く感じられた。
ただ娘の瞳、戸惑いと涙を浮かべた表情、それだけが鮮烈に映っていた。
――十九年。
私は彼女に父として何一つしてやれなかった。
成長を見守ることも、誕生日を祝うことも、病に伏した時に傍にいることも。
すべてを失ったと思っていた。
だが、これからだ。
娘の人生はまだ始まったばかり。
私は父として、その道を助けていこう。
王女としての務めを果たすことを強いるつもりはない。
この十九年、彼女は「アテネ=グレイ」として生きてきたのだ。
ならばまず、その人生を尊重しよう。
けれど、同時に伝えたい。――私はお前の父であり、家族である、と。
エリザベートの涙に濡れた笑顔を見て、胸が締め付けられる。
十九年もの間、彼女は孤独な信仰心で娘を信じ抜いた。
その姿を、私は理解しながらも受け入れられず、ただ見守るしかなかった。
だが今日、妻は報われた。
そして私もまた、父として救われたのだ。
……ありがとう、ダイアナ。
生きていてくれて。
この国に戻ってきてくれて。
十九年分の空白は、すぐには埋まらぬだろう。
それでも、これからの日々を重ねていけばいい。
家族として、国として、共に歩んでいけばいい。
私はゆっくりと娘に歩み寄り、震える手でその肩に触れた。
小さなぬくもり。だが確かに、我が血を継ぐ娘の温もり。
「ダイアナ――おかえり」
そう告げた時、私の頬を熱いものが伝った。
王としての威厳など、今はどうでもよかった。
私はただ、一人の父として、十九年ぶりに娘と再会したのだ。
大広間を満たす祝福の音の中、私は心に誓った。
これからは共に歩もう。
たとえどんな困難が待ち受けていようとも、もう二度と手放しはしない。
十九年を超えて取り戻した奇跡を、この先は私が守り抜くのだ。
あなたにおすすめの小説
悪役令嬢にされたので婚約破棄を受け入れたら、なぜか全員困っています
かきんとう
恋愛
王城の大広間は、いつも以上に華やいでいた。
磨き上げられた床は燭台の光を反射し、色とりどりのドレスが揺れるたびに、まるで花畑が動いているかのように見える。貴族たちの笑い声、楽団の優雅な旋律、そして、ひそやかな噂話が、空気を満たしていた。
その中心に、私は立っていた。
――今日、この瞬間のために。
「エレノア・フォン・リーベルト嬢」
高らかに呼ばれた私の名に、ざわめきがぴたりと止む。
「通訳など辞書で足りる」と追放された令嬢——三国会談で、婚約者は一言も話せなくなった
歩人
ファンタジー
宮廷通訳官エレノーラは五つの言語を操り、婚約者クラウスの外交を陰で支えてきた。
だがクラウスは言った。「通訳など辞書で足りる。お前は要らない」
追放されたエレノーラは隣国で新たな道を歩み始める。
一方、クラウスは三国会談の場で辞書片手に立ち往生。
誤訳が外交問題に発展し、窮地に陥ったその場に、隣国の通訳官として現れたのは——。
「その言葉は、もう翻訳できません」
家族から冷遇されていた過去を持つ家政ギルドの令嬢は、旦那様に人のぬくもりを教えたい~自分に自信のない旦那様は、とても素敵な男性でした~
チカフジ ユキ
恋愛
叔父から使用人のように扱われ、冷遇されていた子爵令嬢シルヴィアは、十五歳の頃家政ギルドのギルド長オリヴィアに助けられる。
そして家政ギルドで様々な事を教えてもらい、二年半で大きく成長した。
ある日、オリヴィアから破格の料金が提示してある依頼書を渡される。
なにやら裏がありそうな値段設定だったが、半年後の成人を迎えるまでにできるだけお金をためたかったシルヴィアは、その依頼を受けることに。
やってきた屋敷は気持ちが憂鬱になるような雰囲気の、古い建物。
シルヴィアが扉をノックすると、出てきたのは長い前髪で目が隠れた、横にも縦にも大きい貴族男性。
彼は肩や背を丸め全身で自分に自信が無いと語っている、引きこもり男性だった。
その姿をみて、自信がなくいつ叱られるかビクビクしていた過去を思い出したシルヴィアは、自分自身と重ねてしまった。
家政ギルドのギルド員として、余計なことは詮索しない、そう思っても気になってしまう。
そんなある日、ある人物から叱責され、酷く傷ついていた雇い主の旦那様に、シルヴィアは言った。
わたしはあなたの側にいます、と。
このお話はお互いの強さや弱さを知りながら、ちょっとずつ立ち直っていく旦那様と、シルヴィアの恋の話。
*** ***
※この話には第五章に少しだけ「ざまぁ」展開が入りますが、味付け程度です。
※設定などいろいろとご都合主義です。
※小説家になろう様にも掲載しています。
所詮、わたしは壁の花 〜なのに辺境伯様が溺愛してくるのは何故ですか?〜
しがわか
ファンタジー
刺繍を愛してやまないローゼリアは父から行き遅れと罵られていた。
高貴な相手に見初められるために、とむりやり夜会へ送り込まれる日々。
しかし父は知らないのだ。
ローゼリアが夜会で”壁の花”と罵られていることを。
そんなローゼリアが参加した辺境伯様の夜会はいつもと雰囲気が違っていた。
それもそのはず、それは辺境伯様の婚約者を決める集まりだったのだ。
けれど所詮”壁の花”の自分には関係がない、といつものように会場の隅で目立たないようにしているローゼリアは不意に手を握られる。
その相手はなんと辺境伯様で——。
なぜ、辺境伯様は自分を溺愛してくれるのか。
彼の過去を知り、やがてその理由を悟ることとなる。
それでも——いや、だからこそ辺境伯様の力になりたいと誓ったローゼリアには特別な力があった。
天啓<ギフト>として女神様から賜った『魔力を象るチカラ』は想像を創造できる万能な能力だった。
壁の花としての自重をやめたローゼリアは天啓を自在に操り、大好きな人達を守り導いていく。
【完結】転生したぐうたら令嬢は王太子妃になんかになりたくない
金峯蓮華
恋愛
子供の頃から休みなく忙しくしていた貴子は公認会計士として独立するために会社を辞めた日に事故に遭い、死の間際に生まれ変わったらぐうたらしたい!と願った。気がついたら中世ヨーロッパのような世界の子供、ヴィヴィアンヌになっていた。何もしないお姫様のようなぐうたらライフを満喫していたが、突然、王太子に求婚された。王太子妃になんかなったらぐうたらできないじゃない!!ヴィヴィアンヌピンチ!
小説家になろうにも書いてます。
『お前の針仕事など誰でもできる』——なら社交界のドレスの裏地を、めくってごらんなさい
歩人
ファンタジー
「地味な針仕事しかできない令嬢は要らない」——公爵家の嫡男にそう言い渡された伯爵令嬢ティナは、
裁縫道具だけを持って屋敷を出た。その翌週、社交界が凍りつく。王妃の夜会服も、公爵令嬢の舞踏会
ドレスも、第一王女の外交用ローブも——仕立てた職人が消えたのだ。しかもティナが十年かけて縫った
全てのドレスの裏地には、二重縫いで隠された署名が残されていて——。
辺境の小さな仕立て屋で穏やかに暮らすティナの元に、王都から使者がやってくる。
悪女役らしく離婚を迫ろうとしたのに、夫の反応がおかしい
廻り
恋愛
第18回恋愛小説大賞にて奨励賞をいただきました。応援してくださりありがとうございました!
レジーナブックス様から書籍が4月下旬に発売されます!
王太子妃シャルロット20歳は、前世の記憶が蘇る。
ここは小説の世界で、シャルロットは王太子とヒロインの恋路を邪魔する『悪女役』。
『断罪される運命』から逃れたいが、夫は離婚に応じる気がない。
ならばと、シャルロットは別居を始める。
『夫が離婚に応じたくなる計画』を思いついたシャルロットは、それを実行することに。
夫がヒロインと出会うまで、タイムリミットは一年。
それまでに離婚に応じさせたいシャルロットと、なぜか様子がおかしい夫の話。
厄災烙印の令嬢は貧乏辺境伯領に嫁がされるようです
あおまる三行
恋愛
王都の洗礼式で「厄災をもたらす」という烙印を持っていることを公表された令嬢・ルーチェ。
社交界では腫れ物扱い、家族からも厄介者として距離を置かれ、心がすり減るような日々を送ってきた彼女は、家の事情で辺境伯ダリウスのもとへ嫁ぐことになる。
辺境伯領は「貧乏」で知られている、魔獣のせいで荒廃しきった領地。
冷たい仕打ちには慣れてしまっていたルーチェは抵抗することなくそこへ向かい、辺境の生活にも身を縮める覚悟をしていた。
けれど、実際に待っていたのは──想像とはまるで違う、温かくて優しい人々と、穏やかで心が満たされていくような暮らし。
そして、誰より誠実なダリウスの隣で、ルーチェは少しずつ自分の居場所を取り戻していく。
静かな辺境から始まる、甘く優しい逆転マリッジラブ物語。
【追記】無事完結できました。ありがとうございました。