【この魔力量は貴族の血筋では?】婚約破棄された孤児のアテネは、魔道具屋の息子と結婚しなくなったので魔法学院に進学することにした。

山田 バルス

文字の大きさ
53 / 56

閑話11 カミラの国外追放後

しおりを挟む
――カミラの国外追放後――

 果てしない街道を揺られ続け、カミラを乗せた馬車はようやく国境を越えた。そこからさらに二日、ようやく到着したのは、荒れ果てた小さな領地の片隅にある屋敷だった。外壁の漆喰は剥がれ、窓はひび割れ、庭の花壇は荒れ放題。王都で過ごしていた煌びやかな日々とは、あまりにもかけ離れていた。

 屋敷の主は、後家となった中年女性――リュドミラ夫人だった。重苦しい黒衣に身を包み、薄い唇を歪めてカミラを迎え入れる。

「あなたが……あのハインツベルク侯爵の娘ね」

 言葉は丁寧だが、その目には侮蔑がありありと浮かんでいた。カミラは震える声で名乗ろうとしたが、夫人は冷たく手を振った。

「名など不要です。今日からあなたは侯爵令嬢ではない。ただの下働きにすぎません」

 その言葉は刃のように突き刺さった。侯爵令嬢であることが誇りだったカミラにとって、それを否定されることは存在そのものを否定されるに等しい。

 ◆ ◆ ◆

 新しい生活は、地獄だった。朝は夜明けとともに叩き起こされ、厨房の掃除、水汲み、洗濯、家畜の世話まで押しつけられる。王都では召使いに命じていた雑務を、自分がやらねばならない。慣れない作業に手は荒れ、足は泥にまみれ、爪も割れてしまった。

「何をしているの、その手つきは! 侯爵家の娘だか何だか知らないけど、役立たずね!」

 夫人の怒声が飛ぶ。食器を洗う手を震わせながら、カミラは奥歯を噛みしめた。心の中で何度も叫ぶ――わたしは侯爵令嬢、こんな扱いを受けるはずじゃない、と。しかし現実は残酷で、どれほど泣き叫んでも誰も助けてはくれなかった。

 使用人たちの態度も冷たかった。最初は物珍しげに眺めていたが、次第に「都落ちのお嬢様」と嘲笑し、わざと重い荷物を押しつけたり、食事を抜いたりした。食卓に並ぶのは硬いパンと水。王都で味わった華やかな料理など、遠い夢のようだった。

「……どうして、こんなことに……」

 夜、粗末な藁の寝床に横たわりながら、カミラは涙を流した。冷たい風が隙間風として入り込み、体を震わせる。抱きしめてくれる母も、庇ってくれる兄弟も、ここにはいない。ただ孤独と屈辱だけが、彼女の隣にあった。

 ◆ ◆ ◆

 季節が巡るにつれ、カミラの姿は変わっていった。艶やかだった髪は埃と油でくすみ、白い肌も日に焼けて荒れていく。豪奢なドレスはもうなく、古びた粗末な服に身を包み、手には幾つもの傷が走っていた。

 かつて彼女を憧れの眼差しで見ていた令嬢たちは、今や王都で「ざまあみろ」と嘲笑しているだろう。その想像だけで、胸が締めつけられる。だが同時に、どうしようもない敗北感が押し寄せた。

「……わたしは、ただ……愛されたかっただけなのに」

 声に出した瞬間、涙が頬を伝った。レオナルドの優しい瞳を思い出すたび、胸が張り裂けそうになる。隣に立つのは自分のはずだった。けれど今、その座はダイアナ王女のものとなり、二人は人々から祝福を受けている。

 自分は冷たい床に膝をつき、誰にも顧みられずに生きるしかない。

 それが、カミラ=フォン=ハインツベルクの辿った結末だった。
しおりを挟む
感想 13

あなたにおすすめの小説

無魔力の令嬢、婚約者に裏切られた瞬間、契約竜が激怒して王宮を吹き飛ばしたんですが……

タマ マコト
ファンタジー
王宮の祝賀会で、無魔力と蔑まれてきた伯爵令嬢エリーナは、王太子アレクシオンから突然「婚約破棄」を宣告される。侍女上がりの聖女セレスが“新たな妃”として選ばれ、貴族たちの嘲笑がエリーナを包む。絶望に胸が沈んだ瞬間、彼女の奥底で眠っていた“竜との契約”が目を覚まし、空から白銀竜アークヴァンが降臨。彼はエリーナの涙に激怒し、王宮を半壊させるほどの力で彼女を守る。王国は震え、エリーナは自分が竜の真の主であるという運命に巻き込まれていく。

婚約破棄されたので昼まで寝ますわ~白い結婚で溺愛なんて聞いてません

鍛高譚
恋愛
「リュシエンヌ・ド・ベルナール、お前との婚約は破棄する!」 突然、王太子フィリップから婚約破棄を告げられた名門公爵家の令嬢リュシエンヌ。しかし、それは義妹マリアンヌと王太子が仕組んだ策略だった。 王太子はリュシエンヌが嘆き悲しむことを期待するが—— 「婚約破棄ですね。かしこまりました。」 あっさり受け入れるリュシエンヌ。むしろ、長年の束縛から解放され、自由な生活を満喫することに! 「これでお昼まで寝られますわ! お菓子を食べて、読書三昧の生活ができますのよ!」 しかし、そんな彼女の前に現れたのは、王太子のライバルであり冷徹な公爵・ヴァレンティン・ド・ルーアン。 「俺と婚約しないか?」 政略的な思惑を持つヴァレンティンの申し出に、リュシエンヌは「白い結婚(愛のない形式的な結婚)」ならと了承。 ところが、自由を満喫するはずだった彼女の心は、次第に彼によって揺さぶられ始め——? 一方、王太子と義妹は社交界で次々と醜態をさらし、評判は地に落ちていく。 そしてついに、王太子は廃嫡宣告——! 「ええ? わたくし、何もしていませんわよ?」 婚約破棄された令嬢が、のんびり自由を謳歌するうちに、 いつの間にか勝手にざまぁ展開が訪れる、痛快ラブストーリー! 「婚約破棄……むしろ最高でしたわ!」 果たして、彼女の悠々自適な生活の行方は——?

騎士団長を追放した平和ボケ王国は、七日で滅びました

藤原遊
ファンタジー
長らく戦のなかった王国で、 騎士団長の父を病で失った令嬢は、その座を引き継いだ。 だが王城に呼び出された彼女に告げられたのは、 騎士団の解体と婚約破棄。 理由はただ一つ―― 「武力を持つ者は危険だから」。 平和ボケした王子は、 非力で可愛い令嬢を侍らせ、 彼女を“国の火種”として国外追放する。 しかし王国が攻められなかった本当の理由は、 騎士団長家が持つ“戦況を覆す力”への恐れだった。 追放された令嬢は、即座に隣国帝国へ迎えられ、 軍人として正当に評価され、安泰な地位を得る。 ――そして一週間後。 守りを捨てた王国は、あっけなく陥落した。 これは、 「守る力」を理解しなかった国の末路と、 追放された騎士団長令嬢のその後の物語。

ネグレクトされていた四歳の末娘は、前世の経理知識で実家の横領を見抜き追放されました。これからはもふもふ聖獣と美食巡りの旅に出ます。

旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
アークライト子爵家の四歳の末娘リリアは、家族から存在しないものとして扱われていた。食事は厨房の残飯、衣服は兄姉のお下がりを更に継ぎ接ぎしたもの。冷たい床で眠る日々の中、彼女は高熱を出したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。 前世の彼女は、ブラック企業で過労死した経理担当のOLだった。 ある日、父の書斎に忍び込んだリリアは、ずさんな管理の家計簿を発見する。前世の知識でそれを読み解くと、父による悪質な横領と、家の財産がすでに破綻寸前であることが判明した。 「この家は、もうすぐ潰れます」 家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。 手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。

目覚めたら公爵夫人でしたが夫に冷遇されているようです

MIRICO
恋愛
フィオナは没落寸前のブルイエ家の長女。体調が悪く早めに眠ったら、目が覚めた時、夫のいる公爵夫人セレスティーヌになっていた。 しかし、夫のクラウディオは、妻に冷たく視線を合わせようともしない。 フィオナはセレスティーヌの体を乗っ取ったことをクラウディオに気付かれまいと会う回数を減らし、セレスティーヌの体に入ってしまった原因を探そうとするが、原因が分からぬままセレスティーヌの姉の子がやってきて世話をすることに。 クラウディオはいつもと違う様子のセレスティーヌが気になり始めて……。 ざまあ系ではありません。恋愛中心でもないです。事件中心軽く恋愛くらいです。 番外編は暗い話がありますので、苦手な方はお気を付けください。 ご感想ありがとうございます!! 誤字脱字等もお知らせくださりありがとうございます。順次修正させていただきます。 小説家になろう様に掲載済みです。

辺境のスローライフを満喫したいのに、料理が絶品すぎて冷酷騎士団長に囲い込まれました

腐ったバナナ
恋愛
異世界に転移した元会社員のミサキは、現代の調味料と調理技術というチート能力を駆使し、辺境の森で誰にも邪魔されない静かなスローライフを送ることを目指していた。 しかし、彼女の作る絶品の料理の香りは、辺境を守る冷酷な「鉄血」騎士団長ガイウスを引き寄せてしまった。

不貞の子を身籠ったと夫に追い出されました。生まれた子供は『精霊のいとし子』のようです。

桧山 紗綺
恋愛
【完結】嫁いで5年。子供を身籠ったら追い出されました。不貞なんてしていないと言っても聞く耳をもちません。生まれた子は間違いなく夫の子です。夫の子……ですが。 私、離婚された方が良いのではないでしょうか。 戻ってきた実家で子供たちと幸せに暮らしていきます。 『精霊のいとし子』と呼ばれる存在を授かった主人公の、可愛い子供たちとの暮らしと新しい恋とか愛とかのお話です。 ※※番外編も完結しました。番外編は色々な視点で書いてます。 時系列も結構バラバラに本編の間の話や本編後の色々な出来事を書きました。 一通り主人公の周りの視点で書けたかな、と。 番外編の方が本編よりも長いです。 気がついたら10万文字を超えていました。 随分と長くなりましたが、お付き合いくださってありがとうございました!

婚約破棄された幼い公爵令嬢、目覚めたら絶世の美女でした

鍛高譚
恋愛
『幼すぎる』と婚約破棄された公爵令嬢ですが、意識不明から目覚めたら絶世の美女になっていました 幼すぎる、頼りない――そんな理由で婚約者に見限られた公爵令嬢シルフィーネ。 心ない言葉に傷ついた彼女は、事故に遭い意識不明となってしまう。 しかし一年後、彼女は奇跡的に目を覚ます。 そして目覚めた彼女は――かつての面影を残しつつも、見る者すべてを惹きつける絶世の美女へと変貌を遂げていた! 周囲の反応は一変。婚約破棄を後悔する元婚約者、熱視線を送る他家の令息たち、さらには王太子からの突然の縁談まで舞い込み――? 「もう、誰にも傷つけられたくない。私は私の幸せを手に入れるの」 これは、冷たく突き放された少女が美しく咲き誇り、誇りと自由を手に入れる、ざまぁ&逆転恋愛劇。

処理中です...