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閑話4 エリオット編 密やかな協力の始まり
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調査員たちの渡航 ― 密やかな協力の始まり
夜の小屋で交わされた誓いのあと、調査員たちは翌朝から慎重に動き出した。
彼らの手に入れたのは――公爵家に仕えていた使用人たちからもたらされた、いくつかの隠された道や合図、そして密かな協力者の存在だった。
灰色の空の下、村を抜ける風は冷たい。だが、彼らの胸にはわずかな熱が宿っていた。
「……まさか、本当に使用人の人たちと繋がれるとは思わなかった」
カレンが歩きながらつぶやく。肩に掛けた小さな荷袋の中には、今朝方こっそり渡されたパンと干し肉が入っていた。
「それだけ、みんなお嬢様を慕ってるってことだ」
リバプールが低く言った。彼は普段寡黙だが、この時ばかりは瞳に強い光を宿している。
「処刑された公爵は、民にとっては重税の象徴だったかもしれない。だが、その娘のことを――あの人柄を知る者は、決して忘れてはいないんだろう」
「ふむ。問題は、どう動くかだな」
ランスは村の外れにある林を見やり、声を落とした。
「使用人たちが言っていた“森に逃げた”という情報。あれが正しいなら、どこかに隠れ家があるはずだ」
エリオットは顎に手をあて、少し考え込んだ。
「でも、兵士たちも探してるんだろ? 正面から森に入れば、逆に目立っちゃうんじゃ……」
「だからこそ、村人の協力が必要なんだ」
リバプールが短く答える。
――協力。
その言葉に、カレンの胸は自然と高鳴った。
この領地に差し込んだわずかな光を、大きな炎に変えることができるのかもしれない。
昼過ぎ、彼らは昨日の老婆に案内され、村の納屋へと入った。
そこには麦袋に偽装して置かれた古い地図が広げられていた。
「これは……」
ランスが目を凝らす。
「公爵家に仕えていた兵士が、密かに残していったものだそうです」
老婆は声を潜め、震える手で地図の一点を指した。
「この森の奥、谷間に“避難小屋”があると……。昔、戦の時に民を匿うために使った場所です。もしかすると……」
エリオットの顔がぱっと明るくなる。
「そこにリース様が!」
だがリバプールは首を横に振った。
「決めつけるのはまだ早い。ただ、兵士が血眼で探しているのに見つかっていないなら――確かに、何か理由があるはずだ」
カレンは地図を見つめながら、唇を引き結ぶ。
「だったら、確かめに行こう。ただし慎重に。私たちは旅商人の姿なんだから」
その夜。
彼らは村人から「安全な抜け道」を教わった。井戸の下に古い横穴があり、そこから森へと通じる獣道に出られるという。
「すげぇ……井戸の下にこんな仕掛けがあるなんて」
エリオットが感心して声を漏らすと、案内役の若者が慌てて制した。
「声を落とせ! ここが兵士に知られたら終わりだ。井戸なんて、毎日見回りがあるんだから」
若者の目は真剣そのもので、彼らも息をのんだ。
この領地で生きる人々にとって、秘密を守ることは命を守ることと同義なのだ。
カレンはそっと若者に礼を告げた。
「ありがとう。必ず、この恩に報いるわ」
翌朝、調査員たちは抜け道を通って森へ向かった。
冷たい朝靄が木々の間に漂い、鳥の鳴き声すらほとんど聞こえない。
「……重い空気だな」
ランスが呟く。
「兵士が探し回ってるって言ってたし、罠もあるかも」
カレンは腰の短剣に手をやりながら辺りを見渡した。
森の奥へ進むごとに、道は険しくなる。けれども、ところどころに人の手が入った跡があった。枝が切られ、石が積まれて目印のように置かれている。
「……誰かが、ここを歩いたんだ」
エリオットの声は、確信に満ちていた。
やがて、谷へと続く細道に差し掛かった時だった。
前方で、不意に人影が動いた。
「止まれ!」
リバプールが小声で制し、全員が身を伏せる。
木陰から現れたのは、二人の兵士。槍を携え、険しい顔つきで辺りを見回している。
「……谷に向かってるな」
ランスが低くつぶやく。
エリオットは拳を握った。
「ってことは、やっぱり何かあるんだ!」
「焦るな」
リバプールの冷静な声に、場の緊張が少しだけ緩む。
「奴らが何を探しているのか見極める。戦えば一気に警戒されるぞ」
四人は静かに木々の間に身を隠し、兵士たちの後を追った。
やがて、谷底に小さな小屋が見えてきた。
古びてはいるが、煙突からはかすかに煙が立ちのぼっている。
「……人が、いる」
カレンの声は震えていた。
兵士たちは扉の前に立ち、乱暴に叩いた。
「開けろ! 検分だ!」
だが中からは返事がない。
エリオットは思わず飛び出しそうになったが、リバプールが腕をつかんだ。
「待て。……今は、機をうかがう」
緊張が張り詰める中、扉がきしみを上げて開いた。
そこから現れたのは、痩せた若い女だった。顔色は悪いが、毅然とした態度を崩さない。
カレンが思わず息を呑む。
「……あの人、もしかして……」
「クララかもしれない」
リバプールの声も低く震えていた。
女は兵士の問いに淡々と答えていたが、その背後――小屋の奥から、誰かの影が一瞬揺れた。
確かに、小柄な少女の姿があったのだ。
カレンの胸は高鳴った。
「リース様……!」
しかし、その瞬間。
兵士の一人が目ざとく影を見つけ、叫んだ。
「中に誰かいるぞ!」
扉を押し破ろうとする兵士たち。
クララの顔色が変わる。
「今だ!」
リバプールが叫び、四人は木陰から飛び出した。
剣を抜いたエリオットが兵士の槍を弾き、ランスが即座に背後を取る。
カレンは小屋の前に立ちはだかり、兵士の侵入を阻んだ。
「悪いけど――ここは通さない!」
狭い谷間で火花が散る。
リバプールは重い拳を叩き込み、一人の兵士を地面に沈めた。
もう一人は逃げようとしたが、ランスが素早く後ろから押さえ込む。
短いが激しい戦いのあと、谷間に静寂が戻った。
クララは驚いた顔で彼らを見つめていた。
「……あなたたちは?」
カレンが息を整え、はっきりと答える。
「私たちは調査員です。――リース様を、お救いに参りました」
その言葉に、クララの目が大きく見開かれる。
そして、震える声で小屋の奥を振り返った。
「……お嬢様」
ゆっくりと、影が現れる。
そこに立っていたのは――淡い金の髪と蒼い瞳を持つ少女。
疲れ切った表情の中に、気品と強い意志を宿した顔。
調査員たちは息を呑んだ。
彼女こそ、行方を追っていた公爵令嬢――リース=グラスゴーだった。
夜の小屋で交わされた誓いのあと、調査員たちは翌朝から慎重に動き出した。
彼らの手に入れたのは――公爵家に仕えていた使用人たちからもたらされた、いくつかの隠された道や合図、そして密かな協力者の存在だった。
灰色の空の下、村を抜ける風は冷たい。だが、彼らの胸にはわずかな熱が宿っていた。
「……まさか、本当に使用人の人たちと繋がれるとは思わなかった」
カレンが歩きながらつぶやく。肩に掛けた小さな荷袋の中には、今朝方こっそり渡されたパンと干し肉が入っていた。
「それだけ、みんなお嬢様を慕ってるってことだ」
リバプールが低く言った。彼は普段寡黙だが、この時ばかりは瞳に強い光を宿している。
「処刑された公爵は、民にとっては重税の象徴だったかもしれない。だが、その娘のことを――あの人柄を知る者は、決して忘れてはいないんだろう」
「ふむ。問題は、どう動くかだな」
ランスは村の外れにある林を見やり、声を落とした。
「使用人たちが言っていた“森に逃げた”という情報。あれが正しいなら、どこかに隠れ家があるはずだ」
エリオットは顎に手をあて、少し考え込んだ。
「でも、兵士たちも探してるんだろ? 正面から森に入れば、逆に目立っちゃうんじゃ……」
「だからこそ、村人の協力が必要なんだ」
リバプールが短く答える。
――協力。
その言葉に、カレンの胸は自然と高鳴った。
この領地に差し込んだわずかな光を、大きな炎に変えることができるのかもしれない。
昼過ぎ、彼らは昨日の老婆に案内され、村の納屋へと入った。
そこには麦袋に偽装して置かれた古い地図が広げられていた。
「これは……」
ランスが目を凝らす。
「公爵家に仕えていた兵士が、密かに残していったものだそうです」
老婆は声を潜め、震える手で地図の一点を指した。
「この森の奥、谷間に“避難小屋”があると……。昔、戦の時に民を匿うために使った場所です。もしかすると……」
エリオットの顔がぱっと明るくなる。
「そこにリース様が!」
だがリバプールは首を横に振った。
「決めつけるのはまだ早い。ただ、兵士が血眼で探しているのに見つかっていないなら――確かに、何か理由があるはずだ」
カレンは地図を見つめながら、唇を引き結ぶ。
「だったら、確かめに行こう。ただし慎重に。私たちは旅商人の姿なんだから」
その夜。
彼らは村人から「安全な抜け道」を教わった。井戸の下に古い横穴があり、そこから森へと通じる獣道に出られるという。
「すげぇ……井戸の下にこんな仕掛けがあるなんて」
エリオットが感心して声を漏らすと、案内役の若者が慌てて制した。
「声を落とせ! ここが兵士に知られたら終わりだ。井戸なんて、毎日見回りがあるんだから」
若者の目は真剣そのもので、彼らも息をのんだ。
この領地で生きる人々にとって、秘密を守ることは命を守ることと同義なのだ。
カレンはそっと若者に礼を告げた。
「ありがとう。必ず、この恩に報いるわ」
翌朝、調査員たちは抜け道を通って森へ向かった。
冷たい朝靄が木々の間に漂い、鳥の鳴き声すらほとんど聞こえない。
「……重い空気だな」
ランスが呟く。
「兵士が探し回ってるって言ってたし、罠もあるかも」
カレンは腰の短剣に手をやりながら辺りを見渡した。
森の奥へ進むごとに、道は険しくなる。けれども、ところどころに人の手が入った跡があった。枝が切られ、石が積まれて目印のように置かれている。
「……誰かが、ここを歩いたんだ」
エリオットの声は、確信に満ちていた。
やがて、谷へと続く細道に差し掛かった時だった。
前方で、不意に人影が動いた。
「止まれ!」
リバプールが小声で制し、全員が身を伏せる。
木陰から現れたのは、二人の兵士。槍を携え、険しい顔つきで辺りを見回している。
「……谷に向かってるな」
ランスが低くつぶやく。
エリオットは拳を握った。
「ってことは、やっぱり何かあるんだ!」
「焦るな」
リバプールの冷静な声に、場の緊張が少しだけ緩む。
「奴らが何を探しているのか見極める。戦えば一気に警戒されるぞ」
四人は静かに木々の間に身を隠し、兵士たちの後を追った。
やがて、谷底に小さな小屋が見えてきた。
古びてはいるが、煙突からはかすかに煙が立ちのぼっている。
「……人が、いる」
カレンの声は震えていた。
兵士たちは扉の前に立ち、乱暴に叩いた。
「開けろ! 検分だ!」
だが中からは返事がない。
エリオットは思わず飛び出しそうになったが、リバプールが腕をつかんだ。
「待て。……今は、機をうかがう」
緊張が張り詰める中、扉がきしみを上げて開いた。
そこから現れたのは、痩せた若い女だった。顔色は悪いが、毅然とした態度を崩さない。
カレンが思わず息を呑む。
「……あの人、もしかして……」
「クララかもしれない」
リバプールの声も低く震えていた。
女は兵士の問いに淡々と答えていたが、その背後――小屋の奥から、誰かの影が一瞬揺れた。
確かに、小柄な少女の姿があったのだ。
カレンの胸は高鳴った。
「リース様……!」
しかし、その瞬間。
兵士の一人が目ざとく影を見つけ、叫んだ。
「中に誰かいるぞ!」
扉を押し破ろうとする兵士たち。
クララの顔色が変わる。
「今だ!」
リバプールが叫び、四人は木陰から飛び出した。
剣を抜いたエリオットが兵士の槍を弾き、ランスが即座に背後を取る。
カレンは小屋の前に立ちはだかり、兵士の侵入を阻んだ。
「悪いけど――ここは通さない!」
狭い谷間で火花が散る。
リバプールは重い拳を叩き込み、一人の兵士を地面に沈めた。
もう一人は逃げようとしたが、ランスが素早く後ろから押さえ込む。
短いが激しい戦いのあと、谷間に静寂が戻った。
クララは驚いた顔で彼らを見つめていた。
「……あなたたちは?」
カレンが息を整え、はっきりと答える。
「私たちは調査員です。――リース様を、お救いに参りました」
その言葉に、クララの目が大きく見開かれる。
そして、震える声で小屋の奥を振り返った。
「……お嬢様」
ゆっくりと、影が現れる。
そこに立っていたのは――淡い金の髪と蒼い瞳を持つ少女。
疲れ切った表情の中に、気品と強い意志を宿した顔。
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2024年12月追記
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