冤罪で家が滅んだ公爵令嬢リースは婚約破棄された上に、学院の下働きにされた後、追放されて野垂れ死からの前世の記憶を取り戻して復讐する!

山田 バルス

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閑話3 クローリー編 メアリーからの手紙

 メアリーからの相談の手紙

 夜更けの女子寮の部屋。
 窓の外からは虫の声と、遠くの酒場から聞こえる笑い声が混じってくる。
 机の上には、まだ白紙の便箋。
 インク壺の中に映った自分の顔は、不安と高揚で紅潮していた。

「……本当に、これでいいのね」

 あの男――エックスと名乗ったチンピラ風の男に提案した作戦。
 リースを呼び出して、誰もいない場所で手籠めにする。
 そのためには、彼女が信じる人物を装って誘い出す必要がある。

 幸い、学院時代のリースの交友関係ならよく知っていた。
 その中でも一番適しているのは――メアリー。
 リースが唯一、心を許していた平民の友人。
 彼女からの頼みなら、どんな警戒心も解けてしまうだろう。

 わたしは羽ペンを取り上げ、便箋に文字を走らせた。


 リースへ

 突然の手紙、ごめんなさい。
 実は家のことで、どうしても誰にも言えない秘密の悩みができてしまったの。
 人に知られるわけにはいかなくて……だから、リースにだけ相談したい。

 お願い、一人で来て。
 町はずれの倉庫通りにある小さな物置小屋で待っている。
 日にちは二十五日の午後三時。
 どうか、約束を守ってね。

 メアリーより


 読み返してみると、震えるような期待が胸に広がった。
 これなら完璧だ。
 リースの性格を知っていれば、必ず一人で駆けつけるはず。
 それに、この物置小屋はクローリー伯爵家の所有。鍵だって家の倉庫から簡単に持ち出せた。
 誰も怪しまない。

「ふふ……」

 インクが乾くのを待ちながら、笑いがこぼれた。
 これでリースは終わる。
 どんなに騎士団で笑っていても、どんなに輝いて見えても、汚されてしまえば何も残らない。
 レスター様だって、彼女を愛妾に迎えようなんて二度と思わなくなる。

 手紙を封筒に入れ、赤い蝋で封をした。
 封印に押したのは、あえて伯爵家の印ではなく、無地のシンプルなもの。
 メアリーが使っていてもおかしくないように細工した。



 翌朝、わたしは街の郵便局へと足を運んだ。
 人通りの少ない裏通りにある小さな局。
 カウンターにいる局員に、エックスから受け取った宛先を告げ、手紙を差し出す。

「局留めでお願いします」

 局員は慣れた手つきで受け取り、控えの紙を渡してきた。
 その小さな紙を握りしめたとき、ぞくりと背筋が震えた。
 もう後戻りはできない。これで歯車が回り始めたのだ。



 二日後――。

 寮に戻ると、女子寮の受付に手紙が届いていると告げられた。
 差出人はもちろんエックス。
 部屋に駆け戻り、震える手で封を切る。


 了解。感謝する。これで完了だ。


 それだけ。たった二行。
 けれど、その短い文がわたしの胸を大きく揺さぶった。

 終わった……いや、まだ始まったばかり。
 リースは必ず物置小屋に来る。
 そして彼女は二度と立ち上がれなくなる。

 頭の中で想像が広がっていく。
 リースの泣き顔、必死に助けを求める声、それを誰も聞かず、ただエックスの腕に押さえつけられる姿……。
 その瞬間、彼女の輝きは完全に砕け散るだろう。

 わたしは机に頬杖をつき、ゆっくりと目を閉じた。
 胸の奥から湧き上がるのは、罪悪感ではなく――甘美な期待。

「……こっそり、見に行ってみようかしら」

 リースがどんな顔をするのか。
 絶望に染まるその瞬間を、この目で見てみたい。

 そう思っただけで、心臓が高鳴った。
 わたしは唇を噛みしめ、頬に熱を覚えながら、窓の外に広がる夜の闇をじっと見つめた。

 闇は深く、静かに広がっている。
 まるでこれから訪れる破滅の舞台を、隠すように。

 ――二十五日の午後三時。
 すべてが決まる。
 リース=グラスゴーの運命は、その日を境に終わるのだ。
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