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第46話 王城での再会 ― 公爵の遺言
王城での再会 ― 公爵の遺言
◇
ダイエー王国の王都ポーツマス。
白い城壁に囲まれた王城は、いつ訪れても圧倒される威容を誇っていた。
けれど今、リースの胸は不安と緊張でいっぱいだった。
(ついに……この場所にきたんだ)
父グラスゴー公爵の影武者であったアリータに伴われ、騎士団から王城へ。
長い回廊を進むほどに、足取りは重くなっていく。
扉が開かれると、謁見の間に広がる冷ややかな空気が全身を包んだ。
大勢の貴族が集まり、その最奥に座すのは、まだ四十代半ばの現国王――アリフレッド=ダイエー。
深い瞳には、苦悩の影と、どこか寂しげな光が宿っていた。
「……お入りなさい」
低くも優しい声に背中を押され、リースは一歩を踏み出した。
◇
玉座の横には、年老いた前国王チャールズが杖をつき、静かに見守っていた。
彼の目にリースの姿が映った瞬間、その頬を涙が伝った。
「……マリアンヌ。いや、違う……リース……なのだな」
「え……?」
祖父の口にされた名に、リースは思わず立ちすくんだ。
マリアンヌ。それは、国王アリフレッドの最愛の妹であり、リースの母の名。
「そなたにはすまないことをした。わしは意地を張りすぎてしまった……。城を駆け落ちするように出て行ったマリアンヌが許せなくて……そのせいで皆がわしがリースを憎んでいると誤解しておったようじゃ。リースよ、わしはお前をずっと、大切な孫と思っている。すまなかった」
その言葉に、リースの胸は熱くなった。
涙をこらえながら深く頭を下げる。
「……お祖父様」
その一言で、空気がやわらぎ、国王アリフレッドもまた、優しい眼差しを向けた。
「母上に似ているな。本当に……マリアンヌに」
国王の声はどこか震えていた。
彼にとってマリアンヌは最愛の妹。そして今、彼女の面影をそのまま宿す少女が目の前に立っているのだ。
◇
その場にいた王妃エレオノーラが、ふわりと裾を揺らして歩み寄った。
穏やかな笑みを浮かべ、リースの手を取る。
「まあ……あなたがリース嬢なのね。わたしのことはお母様と呼んでもよくてよ」
その声は温かく、包み込むようだった。
けれどその奥に、未来を見透かすような深い光を宿しているのをリースは感じた。
(王妃様は……何かを知っている?)
胸がざわつく。
◇
そして、アリータが進み出た。
彼女は懐から一枚の羊皮紙を取り出し、深々と頭を下げる。
「――これは、亡きグラスゴー公爵の遺言にございます」
謁見の間に緊張が走った。
「公爵は最期まで、国を想い、未来を案じておられました。玉璽――王国の軍を動かすための印璽。その在り処はただ一つ、リース様に託す、と」
重い言葉に、場にいる者たちが息を呑む。
「そして……玉璽は、リース様と婚姻を結ぶ者へと継がれるべきだと」
アリータの声が静まり返った空間に響き渡った。
王族も重臣もざわつく。
王国の軍を動かす鍵――それが少女の手にあり、さらにその未来が「婚姻」と結びつけられたのだ。
リースは思わず足を震わせた。
(わたしが……そんな重いものを……?)
◇
だが、国王アリフレッドは静かに立ち上がり、壇を降りてリースの前に歩み寄った。
その瞳は苦悩を湛えながらも、優しい光を宿していた。
「リース。そなたはもう逃げることはできぬ。だが、恐れる必要もない。……母上にも、わたしにも似ている。きっと、導いていけるはずだ」
「国王様……」
思わず漏れた声に、国王の目が驚きに揺れた。
けれど次の瞬間、静かに頷き、彼女の肩に手を置いた。
「これからは、わたしの姪として、道を選ぶのじゃ」
◇
その瞬間、王妃エレオノーラがまた微笑んだ。
まるで、これからの運命をすでに知っているかのように。
「リース。あなたの未来は、きっと幸せに繋がるわ」
その言葉に込められた意味を、リースはまだ知らない。
だが彼女の心の片隅には、別の影が浮かんでいた。
――ロベルト。
騎士団で共に過ごした青年。
もし、婚姻が未来を決めるのだとしたら……。
リースの胸は不安と希望でいっぱいになりながらも、新たな一歩を踏み出す覚悟を固めていた。
◇
そして、謁見の間の扉が静かに開く。
そこに立っていたのは――ロベルトの姿だった。
◇
ダイエー王国の王都ポーツマス。
白い城壁に囲まれた王城は、いつ訪れても圧倒される威容を誇っていた。
けれど今、リースの胸は不安と緊張でいっぱいだった。
(ついに……この場所にきたんだ)
父グラスゴー公爵の影武者であったアリータに伴われ、騎士団から王城へ。
長い回廊を進むほどに、足取りは重くなっていく。
扉が開かれると、謁見の間に広がる冷ややかな空気が全身を包んだ。
大勢の貴族が集まり、その最奥に座すのは、まだ四十代半ばの現国王――アリフレッド=ダイエー。
深い瞳には、苦悩の影と、どこか寂しげな光が宿っていた。
「……お入りなさい」
低くも優しい声に背中を押され、リースは一歩を踏み出した。
◇
玉座の横には、年老いた前国王チャールズが杖をつき、静かに見守っていた。
彼の目にリースの姿が映った瞬間、その頬を涙が伝った。
「……マリアンヌ。いや、違う……リース……なのだな」
「え……?」
祖父の口にされた名に、リースは思わず立ちすくんだ。
マリアンヌ。それは、国王アリフレッドの最愛の妹であり、リースの母の名。
「そなたにはすまないことをした。わしは意地を張りすぎてしまった……。城を駆け落ちするように出て行ったマリアンヌが許せなくて……そのせいで皆がわしがリースを憎んでいると誤解しておったようじゃ。リースよ、わしはお前をずっと、大切な孫と思っている。すまなかった」
その言葉に、リースの胸は熱くなった。
涙をこらえながら深く頭を下げる。
「……お祖父様」
その一言で、空気がやわらぎ、国王アリフレッドもまた、優しい眼差しを向けた。
「母上に似ているな。本当に……マリアンヌに」
国王の声はどこか震えていた。
彼にとってマリアンヌは最愛の妹。そして今、彼女の面影をそのまま宿す少女が目の前に立っているのだ。
◇
その場にいた王妃エレオノーラが、ふわりと裾を揺らして歩み寄った。
穏やかな笑みを浮かべ、リースの手を取る。
「まあ……あなたがリース嬢なのね。わたしのことはお母様と呼んでもよくてよ」
その声は温かく、包み込むようだった。
けれどその奥に、未来を見透かすような深い光を宿しているのをリースは感じた。
(王妃様は……何かを知っている?)
胸がざわつく。
◇
そして、アリータが進み出た。
彼女は懐から一枚の羊皮紙を取り出し、深々と頭を下げる。
「――これは、亡きグラスゴー公爵の遺言にございます」
謁見の間に緊張が走った。
「公爵は最期まで、国を想い、未来を案じておられました。玉璽――王国の軍を動かすための印璽。その在り処はただ一つ、リース様に託す、と」
重い言葉に、場にいる者たちが息を呑む。
「そして……玉璽は、リース様と婚姻を結ぶ者へと継がれるべきだと」
アリータの声が静まり返った空間に響き渡った。
王族も重臣もざわつく。
王国の軍を動かす鍵――それが少女の手にあり、さらにその未来が「婚姻」と結びつけられたのだ。
リースは思わず足を震わせた。
(わたしが……そんな重いものを……?)
◇
だが、国王アリフレッドは静かに立ち上がり、壇を降りてリースの前に歩み寄った。
その瞳は苦悩を湛えながらも、優しい光を宿していた。
「リース。そなたはもう逃げることはできぬ。だが、恐れる必要もない。……母上にも、わたしにも似ている。きっと、導いていけるはずだ」
「国王様……」
思わず漏れた声に、国王の目が驚きに揺れた。
けれど次の瞬間、静かに頷き、彼女の肩に手を置いた。
「これからは、わたしの姪として、道を選ぶのじゃ」
◇
その瞬間、王妃エレオノーラがまた微笑んだ。
まるで、これからの運命をすでに知っているかのように。
「リース。あなたの未来は、きっと幸せに繋がるわ」
その言葉に込められた意味を、リースはまだ知らない。
だが彼女の心の片隅には、別の影が浮かんでいた。
――ロベルト。
騎士団で共に過ごした青年。
もし、婚姻が未来を決めるのだとしたら……。
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◇
そして、謁見の間の扉が静かに開く。
そこに立っていたのは――ロベルトの姿だった。
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