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第47話 伯爵家の没落 ― ざまあの結末
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伯爵家の没落 ― ざまあの結末
謁見の間の空気は、ぴんと張り詰めていた。
リース=グラスゴーは一歩前に立ち、静かに頭を垂れている。
かつては誇り高き公爵令嬢、今は没落し、追放され、居場所すら奪われた少女だ。
だが、その沈黙を破ったのは、思いもよらぬ声だった。
「リースは俺の婚約者です!」
銀髪をかきあげ、緑の瞳を輝かせた少年が名乗りを上げる。
レスター=ブラッドフォード。伯爵家の長男、十六歳。
唐突な宣言に、場内はざわついた。
「……え?」
リースは思わず顔を上げた。
レスターは得意げに顎を上げ、堂々と続ける。
「リース嬢は元公爵令嬢とはいえ、俺の許嫁。だから、彼女を迎えるのは当然の権利です!」
それに呼応するように、父のブラッドフォード伯爵が進み出た。
恰幅のいい体を揺らしながら、恭しく頭を下げる。
「陛下、妃殿下。息子の言うとおりでございます。リース嬢が没落したとしても、我が家が彼女を受け入れることで、彼女の身分も守られるのです」
――その瞬間、リースの胸に冷たい怒りが走った。
(何を言っているの……?)
忘れもしない。
公爵家が断罪されたその日、レスターは真っ先に駆け寄ってきて、嘲るように笑い、こう言ったのだ。
――「婚約破棄だ。落ちぶれた女など要らない」
それが今になって「婚約者」だと?
リースの拳は小刻みに震えた。
さらにレスターは調子づいて、人垣の中を指さした。
「それに……! あそこにいる騎士団の男! そいつが俺を倒したんです! 父上、あれこそ我らに恥をかかせた無礼者です。今すぐ捕まえましょう!」
名を呼ばれたのは――ロベルト。
毅然と立ち、リースを守るように前に出る。
伯爵はにやりと笑った。
「ほう……なるほど。では陛下、この者を捕らえ、処罰する許可をいただければ」
空気が凍りつく。
だが次の瞬間、朗らかな笑い声が響き渡った。
「おほほほほ!」
王妃がゆるやかに立ち上がり、扇を口元に添えた。
その声は、会場全体を震わせるほどの威厳を宿していた。
「なるほど。息子が騎士団に負けた腹いせに、王族の名を汚そうとするとは。伯爵、あなた方はどこまで愚かなのでしょう」
レスターと伯爵の顔が真っ青になる。
王妃は鋭く言い放った。
「ロベルトは我が息子です。王族に拳を向けたなどという虚言を弄し、今この場で罪人に仕立てようとした――これは明確な反逆行為!」
周囲の貴族たちがざわつき、誰もがブラッドフォード親子に冷たい視線を向けた。
「さらに……リース嬢を婚約者だと? 笑わせますね!」
王妃は声を張り上げる。
「公爵家が失脚した日に、あなた方は真っ先に彼女を見捨て、婚約を破棄した。証人は山ほどおります。都合のいい時だけ『婚約者』を名乗るなど、恥知らずにもほどがあります!」
その一言に、場が爆笑に包まれた。
「破棄したくせに婚約者?」
「伯爵家も地に落ちたな」
貴族たちが次々と嘲笑を浴びせる。
レスターは顔を真っ赤にし、必死に叫んだ。
「ち、違う! あれは一時の感情で……本心では……!」
だが誰も信じない。
伯爵も怒鳴った。
「これは陰謀だ! 王妃殿下、我らを陥れるための……!」
しかし、近衛の騎士たちがすでに動いていた。
ガシャン、と鉄の鎖が響き、レスターと伯爵の両腕が縛られる。
「離せ! 俺は伯爵家の嫡男だぞ!」
「ふざけるな! 我らがどれほど王家に尽くしてきたと……!」
必死の叫びもむなしく、二人は引き立てられていった。
その姿は、惨めで哀れ、そして何より滑稽だった。
こうして、ブラッドフォード伯爵家に調査が入り、後日、王家に対する大きな不正が発覚し、取り潰しとなった。
静けさを取り戻した謁見の間で、リースは肩を震わせていた。
安心か、感謝か、それとも長年の苦痛から解放された涙か。
そんな彼女の前に、ロベルトが歩み寄る。
蒼い瞳をまっすぐに向け、ひざまずいた。
「リース。俺は君を守りたい。もう誰にも傷つけさせない。だから……」
剣を抜いた時よりも真剣な表情で、彼は言った。
「俺と結婚してほしい。ずっと、隣にいてほしい」
リースの胸に、熱いものがこみ上げる。
レスターに裏切られ、家を失い、孤独に沈んでいた自分を救ってくれたのは、この青年だった。
涙を浮かべながら、彼女は小さく頷いた。
「……はい。わたしでよければ」
場内に歓声が上がり、王妃は満足げに微笑む。
王も深く頷き、二人の未来を祝福した。
伯爵家の傲慢は潰え、レスターの野望は笑い者となった。
そして――リースの新しい人生は、ロベルトと共に始まろうとしていた。
【完結】
謁見の間の空気は、ぴんと張り詰めていた。
リース=グラスゴーは一歩前に立ち、静かに頭を垂れている。
かつては誇り高き公爵令嬢、今は没落し、追放され、居場所すら奪われた少女だ。
だが、その沈黙を破ったのは、思いもよらぬ声だった。
「リースは俺の婚約者です!」
銀髪をかきあげ、緑の瞳を輝かせた少年が名乗りを上げる。
レスター=ブラッドフォード。伯爵家の長男、十六歳。
唐突な宣言に、場内はざわついた。
「……え?」
リースは思わず顔を上げた。
レスターは得意げに顎を上げ、堂々と続ける。
「リース嬢は元公爵令嬢とはいえ、俺の許嫁。だから、彼女を迎えるのは当然の権利です!」
それに呼応するように、父のブラッドフォード伯爵が進み出た。
恰幅のいい体を揺らしながら、恭しく頭を下げる。
「陛下、妃殿下。息子の言うとおりでございます。リース嬢が没落したとしても、我が家が彼女を受け入れることで、彼女の身分も守られるのです」
――その瞬間、リースの胸に冷たい怒りが走った。
(何を言っているの……?)
忘れもしない。
公爵家が断罪されたその日、レスターは真っ先に駆け寄ってきて、嘲るように笑い、こう言ったのだ。
――「婚約破棄だ。落ちぶれた女など要らない」
それが今になって「婚約者」だと?
リースの拳は小刻みに震えた。
さらにレスターは調子づいて、人垣の中を指さした。
「それに……! あそこにいる騎士団の男! そいつが俺を倒したんです! 父上、あれこそ我らに恥をかかせた無礼者です。今すぐ捕まえましょう!」
名を呼ばれたのは――ロベルト。
毅然と立ち、リースを守るように前に出る。
伯爵はにやりと笑った。
「ほう……なるほど。では陛下、この者を捕らえ、処罰する許可をいただければ」
空気が凍りつく。
だが次の瞬間、朗らかな笑い声が響き渡った。
「おほほほほ!」
王妃がゆるやかに立ち上がり、扇を口元に添えた。
その声は、会場全体を震わせるほどの威厳を宿していた。
「なるほど。息子が騎士団に負けた腹いせに、王族の名を汚そうとするとは。伯爵、あなた方はどこまで愚かなのでしょう」
レスターと伯爵の顔が真っ青になる。
王妃は鋭く言い放った。
「ロベルトは我が息子です。王族に拳を向けたなどという虚言を弄し、今この場で罪人に仕立てようとした――これは明確な反逆行為!」
周囲の貴族たちがざわつき、誰もがブラッドフォード親子に冷たい視線を向けた。
「さらに……リース嬢を婚約者だと? 笑わせますね!」
王妃は声を張り上げる。
「公爵家が失脚した日に、あなた方は真っ先に彼女を見捨て、婚約を破棄した。証人は山ほどおります。都合のいい時だけ『婚約者』を名乗るなど、恥知らずにもほどがあります!」
その一言に、場が爆笑に包まれた。
「破棄したくせに婚約者?」
「伯爵家も地に落ちたな」
貴族たちが次々と嘲笑を浴びせる。
レスターは顔を真っ赤にし、必死に叫んだ。
「ち、違う! あれは一時の感情で……本心では……!」
だが誰も信じない。
伯爵も怒鳴った。
「これは陰謀だ! 王妃殿下、我らを陥れるための……!」
しかし、近衛の騎士たちがすでに動いていた。
ガシャン、と鉄の鎖が響き、レスターと伯爵の両腕が縛られる。
「離せ! 俺は伯爵家の嫡男だぞ!」
「ふざけるな! 我らがどれほど王家に尽くしてきたと……!」
必死の叫びもむなしく、二人は引き立てられていった。
その姿は、惨めで哀れ、そして何より滑稽だった。
こうして、ブラッドフォード伯爵家に調査が入り、後日、王家に対する大きな不正が発覚し、取り潰しとなった。
静けさを取り戻した謁見の間で、リースは肩を震わせていた。
安心か、感謝か、それとも長年の苦痛から解放された涙か。
そんな彼女の前に、ロベルトが歩み寄る。
蒼い瞳をまっすぐに向け、ひざまずいた。
「リース。俺は君を守りたい。もう誰にも傷つけさせない。だから……」
剣を抜いた時よりも真剣な表情で、彼は言った。
「俺と結婚してほしい。ずっと、隣にいてほしい」
リースの胸に、熱いものがこみ上げる。
レスターに裏切られ、家を失い、孤独に沈んでいた自分を救ってくれたのは、この青年だった。
涙を浮かべながら、彼女は小さく頷いた。
「……はい。わたしでよければ」
場内に歓声が上がり、王妃は満足げに微笑む。
王も深く頷き、二人の未来を祝福した。
伯爵家の傲慢は潰え、レスターの野望は笑い者となった。
そして――リースの新しい人生は、ロベルトと共に始まろうとしていた。
【完結】
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