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第28話 キリト伯爵家の終焉とカールの妹レティーナ、リリスに出会う。
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◆キリト伯爵家の灯火――父と娘の夜◆
夜が、しんと静まり返っていた。
王都ルメリアの北端。かつて名門と呼ばれたキリト伯爵家の屋敷は、今やその威厳の面影も薄れ、古びた外壁と、塗装の剥げかけた門が時の流れを語っていた。
レティーナ=キリトは、馬車から降りると、小さな包みを胸に抱えて屋敷の中へと駆け込んだ。
「お父様!」
彼女の呼びかけに応えるように、広間の椅子から立ち上がった男――それが、ガロウス=キリトだった。
かつては王都に名を轟かせた政治家にして騎士でもあった。白髪混じりの髪と厳格な表情、そして背筋を伸ばしたその立ち姿は、今なお威厳を失ってはいない。
「……レティーナか。こんな夜更けに、どうした」
レティーナは包みをほどき、テーブルの上に二つの素材を丁寧に並べた。
一つは《古代竜の鱗》。もう一つは《蒼銀狼の牙》。王都でも滅多に見られない、極めて希少な素材である。
「これを……換金すれば、伯爵家の借金は帳消しになります。領地も……爵位も、守れます」
そう言って、レティーナは顔を上げた。
「カールお兄様から、預かりました。“使っていい”って……ギルドに持っていけば、証明書も通るようにしてくれてます」
言葉に力がこもっていた。
ガロウスは無言で、素材をじっと見つめた。その瞳の奥には、深い感情の波が揺れていた。だが、次の瞬間――
「……その必要はない」
重く、静かな声だった。
レティーナは目を見開く。
「な、なに言ってるの……!? このままだと、わたしたちは……伯爵家は……!」
「レティーナ。おまえの気持ちは嬉しい。だが、これは……カールからのものだろう?」
そう言って、父はゆっくりと首を左右に振った。
「追放した息子の“情け”を受けて生き延びるなど……誇りが許さん。家名の重みとは、誇りを守ることだ。……命をつなぐことではない」
その言葉は、静かに、けれど確かにレティーナの胸に突き刺さった。
「……でも、それじゃあ……終わっちゃうのよ? キリト伯爵家が……わたしたちが……!」
レティーナの声が震える。
父はふっと微笑んだ。かつて厳格すぎるがゆえに、家族から恐れられた男とは思えないほど、穏やかに。
「終わるのも、また貴族の宿命だ。そして、おまえは違う」
レティーナは戸惑いながら父を見つめた。
「……どういう、こと?」
「カールの金で、伯爵家を救うのではない。おまえが、それで“新しい人生”を始めるのだ。もう家名に囚われるな。貴族という鎖を、自分で断ち切って、自由に生きろ。……おまえにはそれができる」
ガロウスの目は、かつて誰よりも冷徹で、誇り高く、そして――家族には不器用だった父親の、まっすぐな“親”の目だった。
レティーナは堪えきれず、涙を落とした。
「父さん……お願い、考え直して……! わたし、伯爵家を……この家を守りたいの……!」
「それは“おまえの責任”じゃない。すべての元凶は、私の無能だ」
父は静かに椅子に腰を下ろし、両手を膝に乗せた。
「……思えば、カールを追放したのも、私の誤りだった。彼の忠言を無視し、家の名ばかりを守ろうとした。それが、すべての始まりだったのだろう」
その声は、老いた戦士が自らの敗北を受け入れるかのようだった。
「だからこそ、私にはもう、立ち上がる力はない。だが……おまえにはある。だから、今ここで“キリト家”を捨てていい。……父として、それを許す」
レティーナは泣きながら首を振った。
「そんなの、嫌よ……! 捨てるなんて、そんなこと……!」
「……わたしは、おまえの未来を祈る。それが、最後の父としての役目だ」
月明かりが、窓から差し込んでいた。
その光に照らされた父の背中は、どこまでも遠くて、どこまでも誇り高かった。
「……おまえの幸せだけは、どうか守ってくれ」
その言葉は、まるで遺言のように重かった。
レティーナは、声もなく泣き崩れた。気高い家に育ちながら、誰よりも人間らしい痛みを知った父の涙を、彼女は生涯忘れることはなかった。
そして、翌朝――
レティーナはひとり、屋敷を発った。
手にはカールから預かった換金証明と、父から受け取った小さな手紙。
それには、こう記されていた。
「レティーナ。どんな名よりも、おまえ自身が誇れる人生を選べ」
背後に残した屋敷には、もはや灯りもなく、静かな風だけが通り抜けていた。
キリト伯爵家は、ここに幕を閉じた――だが、レティーナの物語は、今始まったばかりだった。
◆灯火の名残、王都のざわめき◆
翌朝の王都ルメリアは、いつもより眩しかった。
レティーナ=キリトは、旅装を整えると、静かにキリト伯爵家の屋敷をあとにした。鍵は、かけなかった。誰も入らないと分かっているから。いや、もう――誰も、いないから。
手には、小さな封筒と、兄カールから預かった素材の証明書。それを、直接兄に返すために、王都の冒険者ギルド近くの宿へ向かうつもりだった。
「……お兄様」
口の中でそっと呼ぶ。けれど、返事はない。
彼女は、王都の石畳を、しずかに歩いた。いつもなら気にならない商人の声や、街角の賑わいが、今日はどこか遠く感じる。
そして――それは、不意に起きた。
宿へと続く川沿いの並木道。向こうから歩いてくる二つの人影が見えた。
片方は、見慣れた背中。黒い外套を肩にかけ、剣を腰に下げた――あの人。カール=キリト。彼女の兄。
その隣には、銀髪の女性がいた。
髪は光を受けてきらめき、涼しげな瞳と笑みをたたえてカールの隣を歩いている。何かを楽しげに語っているようだった。
(……誰? あの人は……)
レティーナは、無意識のうちに足を止めた。そして、思わず声をかけようとした――そのときだった。
「まあ、レティーナさんではありませんか。お久しぶりですわね」
背後から聞き慣れた、けれど苦手な声が響いた。
振り返ると、そこには桃色のドレスを着た令嬢が立っていた。
リリス=ヴァレンタイン。三年前まで、兄カールの婚約者だった女性。けれど、カールを裏切り、婚約を破棄したことで知られている――レティーナにとっては、あまり話したくない相手だった。
「リリス様……」
自然と、声が硬くなる。
「おや、そんな警戒なさらずに。たまたまお見かけして。あら……あちら、カール様では?」
レティーナが振り返ったときには、すでにカールと銀髪の女性は角を曲がって姿を消していた。
「……あっ、行っちゃった」
「ふふ、いいタイミングですわ。わたくし、あなたと少しだけお話したくて」
リリスが微笑む。だがその瞳の奥には、かつて王侯貴族の社交界で鍛え抜かれた、冷ややかな光が宿っていた。
「近くに、良いカフェがありますの。少し、時間をいただけますか?」
「……少しだけ、なら」
渋々、レティーナは頷いた。
カフェは、王都の広場近くの静かな路地にあった。店内は空いており、窓際の席に案内される。
「ここ、あの方とよく来ていたんですのよ」
「あの方……?」
「カール様のことですわ。わたくしと婚約していた頃……よく、お忍びでね」
レティーナは、ぎゅっと膝の上の手を握りしめた。
(なぜ、そんな話を……)
「レティーナさん。あなた、ご存じなかったのかしら?」
リリスが、紅茶を口に運びながら静かに告げた。
「カール様の本当の血筋。あの方の母上は、北方ノルドの王家のご令嬢。つまり、平民どころか、れっきとした“王族の血”を継ぐお方なのです」
「……!」
言葉を失うレティーナを見て、リリスはうっとりと微笑んだ。
「だから、わたくし……あの方にはふさわしくなかったのでしょうね。私たち、つり合わなかったのよ」
「そんなの……!」
「でも、あなたなら、どう思います? カール様のような方には、王族の姫のような女性こそ、ふさわしいのではなくて?」
言いながら、リリスは紅茶のカップを優雅に傾けた。
レティーナは、胸の奥がざわざわと波立つのを感じた。兄を裏切った相手が、なぜ今さらこんなことを語るのか――
(わたしの気持ちなんて、どうでもいいくせに)
そんな感情が、喉元までせり上がる。
「……あの、リリス様。わたし、これから兄に会いに行きます。ですので――」
「まぁ、ご一緒させていただきますわ。わたくしも、久しぶりにお会いしたいですし」
その提案に、レティーナは一瞬固まった。けれど、断る言葉が見つからない。
(ついてくるなんて、思わなかった……!)
二人で歩く道中。話題はほとんどリリスが主導していた。ドレスの流行、貴族界の噂話、そして――カールの話題。
レティーナは、ただ黙ってそれを聞いていた。
そして、ようやく宿に着いたとき。
受付で名を告げると、宿の主人が申し訳なさそうに言った。
「カール殿なら、今朝から依頼に出ておりまして……夜までは戻らんかと」
レティーナは思わず安堵の息をついた。
「そうですか。では……また改めて、参ります」
「レティーナさん。あなた、変わりましたわね」
外に出たところで、リリスが呟いた。
「昔は、もっと従順で、ただ家の名に縛られていたのに。今は……少しだけ、強くなった気がします」
「……そう見えますか?」
「ええ。だから、わたくし……少しだけ、羨ましいのかもしれません」
意外な言葉に、レティーナは驚いた。
リリスはふわりと微笑み、そしてすっと踵を返した。
「また、王都でお会いしましょう。次は、三人で、お茶でも」
その背中は、まるで舞台の幕が下りる女優のように、美しく、そしてどこか寂しげだった。
レティーナは、宿の前に立ち尽くしたまま、小さく息を吐いた。
(お兄様……)
あの人の隣にいた銀髪の女性――その笑顔を思い出す。
なぜか、胸が少しだけ、きゅっと締めつけられた。
「……早く、会って、返さなきゃ」
その手には、まだ重たいままの包みが握られていた。
夜が、しんと静まり返っていた。
王都ルメリアの北端。かつて名門と呼ばれたキリト伯爵家の屋敷は、今やその威厳の面影も薄れ、古びた外壁と、塗装の剥げかけた門が時の流れを語っていた。
レティーナ=キリトは、馬車から降りると、小さな包みを胸に抱えて屋敷の中へと駆け込んだ。
「お父様!」
彼女の呼びかけに応えるように、広間の椅子から立ち上がった男――それが、ガロウス=キリトだった。
かつては王都に名を轟かせた政治家にして騎士でもあった。白髪混じりの髪と厳格な表情、そして背筋を伸ばしたその立ち姿は、今なお威厳を失ってはいない。
「……レティーナか。こんな夜更けに、どうした」
レティーナは包みをほどき、テーブルの上に二つの素材を丁寧に並べた。
一つは《古代竜の鱗》。もう一つは《蒼銀狼の牙》。王都でも滅多に見られない、極めて希少な素材である。
「これを……換金すれば、伯爵家の借金は帳消しになります。領地も……爵位も、守れます」
そう言って、レティーナは顔を上げた。
「カールお兄様から、預かりました。“使っていい”って……ギルドに持っていけば、証明書も通るようにしてくれてます」
言葉に力がこもっていた。
ガロウスは無言で、素材をじっと見つめた。その瞳の奥には、深い感情の波が揺れていた。だが、次の瞬間――
「……その必要はない」
重く、静かな声だった。
レティーナは目を見開く。
「な、なに言ってるの……!? このままだと、わたしたちは……伯爵家は……!」
「レティーナ。おまえの気持ちは嬉しい。だが、これは……カールからのものだろう?」
そう言って、父はゆっくりと首を左右に振った。
「追放した息子の“情け”を受けて生き延びるなど……誇りが許さん。家名の重みとは、誇りを守ることだ。……命をつなぐことではない」
その言葉は、静かに、けれど確かにレティーナの胸に突き刺さった。
「……でも、それじゃあ……終わっちゃうのよ? キリト伯爵家が……わたしたちが……!」
レティーナの声が震える。
父はふっと微笑んだ。かつて厳格すぎるがゆえに、家族から恐れられた男とは思えないほど、穏やかに。
「終わるのも、また貴族の宿命だ。そして、おまえは違う」
レティーナは戸惑いながら父を見つめた。
「……どういう、こと?」
「カールの金で、伯爵家を救うのではない。おまえが、それで“新しい人生”を始めるのだ。もう家名に囚われるな。貴族という鎖を、自分で断ち切って、自由に生きろ。……おまえにはそれができる」
ガロウスの目は、かつて誰よりも冷徹で、誇り高く、そして――家族には不器用だった父親の、まっすぐな“親”の目だった。
レティーナは堪えきれず、涙を落とした。
「父さん……お願い、考え直して……! わたし、伯爵家を……この家を守りたいの……!」
「それは“おまえの責任”じゃない。すべての元凶は、私の無能だ」
父は静かに椅子に腰を下ろし、両手を膝に乗せた。
「……思えば、カールを追放したのも、私の誤りだった。彼の忠言を無視し、家の名ばかりを守ろうとした。それが、すべての始まりだったのだろう」
その声は、老いた戦士が自らの敗北を受け入れるかのようだった。
「だからこそ、私にはもう、立ち上がる力はない。だが……おまえにはある。だから、今ここで“キリト家”を捨てていい。……父として、それを許す」
レティーナは泣きながら首を振った。
「そんなの、嫌よ……! 捨てるなんて、そんなこと……!」
「……わたしは、おまえの未来を祈る。それが、最後の父としての役目だ」
月明かりが、窓から差し込んでいた。
その光に照らされた父の背中は、どこまでも遠くて、どこまでも誇り高かった。
「……おまえの幸せだけは、どうか守ってくれ」
その言葉は、まるで遺言のように重かった。
レティーナは、声もなく泣き崩れた。気高い家に育ちながら、誰よりも人間らしい痛みを知った父の涙を、彼女は生涯忘れることはなかった。
そして、翌朝――
レティーナはひとり、屋敷を発った。
手にはカールから預かった換金証明と、父から受け取った小さな手紙。
それには、こう記されていた。
「レティーナ。どんな名よりも、おまえ自身が誇れる人生を選べ」
背後に残した屋敷には、もはや灯りもなく、静かな風だけが通り抜けていた。
キリト伯爵家は、ここに幕を閉じた――だが、レティーナの物語は、今始まったばかりだった。
◆灯火の名残、王都のざわめき◆
翌朝の王都ルメリアは、いつもより眩しかった。
レティーナ=キリトは、旅装を整えると、静かにキリト伯爵家の屋敷をあとにした。鍵は、かけなかった。誰も入らないと分かっているから。いや、もう――誰も、いないから。
手には、小さな封筒と、兄カールから預かった素材の証明書。それを、直接兄に返すために、王都の冒険者ギルド近くの宿へ向かうつもりだった。
「……お兄様」
口の中でそっと呼ぶ。けれど、返事はない。
彼女は、王都の石畳を、しずかに歩いた。いつもなら気にならない商人の声や、街角の賑わいが、今日はどこか遠く感じる。
そして――それは、不意に起きた。
宿へと続く川沿いの並木道。向こうから歩いてくる二つの人影が見えた。
片方は、見慣れた背中。黒い外套を肩にかけ、剣を腰に下げた――あの人。カール=キリト。彼女の兄。
その隣には、銀髪の女性がいた。
髪は光を受けてきらめき、涼しげな瞳と笑みをたたえてカールの隣を歩いている。何かを楽しげに語っているようだった。
(……誰? あの人は……)
レティーナは、無意識のうちに足を止めた。そして、思わず声をかけようとした――そのときだった。
「まあ、レティーナさんではありませんか。お久しぶりですわね」
背後から聞き慣れた、けれど苦手な声が響いた。
振り返ると、そこには桃色のドレスを着た令嬢が立っていた。
リリス=ヴァレンタイン。三年前まで、兄カールの婚約者だった女性。けれど、カールを裏切り、婚約を破棄したことで知られている――レティーナにとっては、あまり話したくない相手だった。
「リリス様……」
自然と、声が硬くなる。
「おや、そんな警戒なさらずに。たまたまお見かけして。あら……あちら、カール様では?」
レティーナが振り返ったときには、すでにカールと銀髪の女性は角を曲がって姿を消していた。
「……あっ、行っちゃった」
「ふふ、いいタイミングですわ。わたくし、あなたと少しだけお話したくて」
リリスが微笑む。だがその瞳の奥には、かつて王侯貴族の社交界で鍛え抜かれた、冷ややかな光が宿っていた。
「近くに、良いカフェがありますの。少し、時間をいただけますか?」
「……少しだけ、なら」
渋々、レティーナは頷いた。
カフェは、王都の広場近くの静かな路地にあった。店内は空いており、窓際の席に案内される。
「ここ、あの方とよく来ていたんですのよ」
「あの方……?」
「カール様のことですわ。わたくしと婚約していた頃……よく、お忍びでね」
レティーナは、ぎゅっと膝の上の手を握りしめた。
(なぜ、そんな話を……)
「レティーナさん。あなた、ご存じなかったのかしら?」
リリスが、紅茶を口に運びながら静かに告げた。
「カール様の本当の血筋。あの方の母上は、北方ノルドの王家のご令嬢。つまり、平民どころか、れっきとした“王族の血”を継ぐお方なのです」
「……!」
言葉を失うレティーナを見て、リリスはうっとりと微笑んだ。
「だから、わたくし……あの方にはふさわしくなかったのでしょうね。私たち、つり合わなかったのよ」
「そんなの……!」
「でも、あなたなら、どう思います? カール様のような方には、王族の姫のような女性こそ、ふさわしいのではなくて?」
言いながら、リリスは紅茶のカップを優雅に傾けた。
レティーナは、胸の奥がざわざわと波立つのを感じた。兄を裏切った相手が、なぜ今さらこんなことを語るのか――
(わたしの気持ちなんて、どうでもいいくせに)
そんな感情が、喉元までせり上がる。
「……あの、リリス様。わたし、これから兄に会いに行きます。ですので――」
「まぁ、ご一緒させていただきますわ。わたくしも、久しぶりにお会いしたいですし」
その提案に、レティーナは一瞬固まった。けれど、断る言葉が見つからない。
(ついてくるなんて、思わなかった……!)
二人で歩く道中。話題はほとんどリリスが主導していた。ドレスの流行、貴族界の噂話、そして――カールの話題。
レティーナは、ただ黙ってそれを聞いていた。
そして、ようやく宿に着いたとき。
受付で名を告げると、宿の主人が申し訳なさそうに言った。
「カール殿なら、今朝から依頼に出ておりまして……夜までは戻らんかと」
レティーナは思わず安堵の息をついた。
「そうですか。では……また改めて、参ります」
「レティーナさん。あなた、変わりましたわね」
外に出たところで、リリスが呟いた。
「昔は、もっと従順で、ただ家の名に縛られていたのに。今は……少しだけ、強くなった気がします」
「……そう見えますか?」
「ええ。だから、わたくし……少しだけ、羨ましいのかもしれません」
意外な言葉に、レティーナは驚いた。
リリスはふわりと微笑み、そしてすっと踵を返した。
「また、王都でお会いしましょう。次は、三人で、お茶でも」
その背中は、まるで舞台の幕が下りる女優のように、美しく、そしてどこか寂しげだった。
レティーナは、宿の前に立ち尽くしたまま、小さく息を吐いた。
(お兄様……)
あの人の隣にいた銀髪の女性――その笑顔を思い出す。
なぜか、胸が少しだけ、きゅっと締めつけられた。
「……早く、会って、返さなきゃ」
その手には、まだ重たいままの包みが握られていた。
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