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第59話 セリア視点 カールという男
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◆カールという男◆セリア視点
初めて彼に出会った時、私は“何も感じなかった”――そう言うつもりだった。
けれど、本当は、最初の一閃で心を揺さぶられていた。
黒衣に身を包み、まるで影のように静かなその男は、剣を抜いた瞬間に風景を変えた。
研ぎ澄まされた刃。重ねた修羅の道。その背にあるのは、名誉でも、義務でもない。
ただ「生き抜くため」に振るわれる、本物の剣。
私は、試した。
試さずにはいられなかった。
自分が失った“何か”を、彼が持っている気がしたから。
それが「羨望」なのか「嫉妬」なのか――それとも、ただ「憧れ」だったのか。
その時の私は、まだわからなかった。
あの夜、焚き火を囲んで二人で過ごした時、彼が黙って外套を肩にかけてくれた。
その手の温もりに、私は戸惑った。
戦場で交わす剣は、冷たいのに。
彼の手は、驚くほど、あたたかかった。
「……あなたって、本当は優しいの?」
思わず口にしたその言葉に、彼は少しだけ笑った。
私は、彼の笑顔を初めて見た気がした。
カールという男は、言葉が少ない。
感情をあまり顔に出さないし、何を考えているのかも分からない。
けれど、彼の背中を見ていると――わかる。
この人は、誰よりも不器用で、誰よりも真っ直ぐだと。
裏切られて、捨てられて、それでも歩き続けている。
剣を握り続けている。
誰かを守るために。
それが、誰かのためではなく、自分自身の誇りのためだと、私は知っている。
だから、私は彼についていこうと決めた。
その先が地獄でも構わない。
彼がいるなら、私はそこに意味を見出せる。
時折、彼は私を見て、小さく息を吐く。
きっと、まだ私を“仲間”とは呼べていないのだろう。
それでもいい。
いずれ、呼ばれる日が来るなら――それでいい。
カールの剣は、鋭く、美しい。
その中に、彼の生き様がある。
人の弱さ、哀しみ、怒り、そして……誰かを守りたいという願い。
それらすべてが交わって、あの剣は振るわれている。
私も、いつかそうなりたい。
誰かを守れる剣になりたい。
彼と肩を並べて戦えるように。
そのためなら、私は何度でも立ち上がる。
何度でも、自分の心と向き合う。
カール。
あなたは、私の“剣”を目覚めさせた人。
そして――私の“心”を溶かし始めた人。
もし、これが“恋”というものなら――
私はきっと、生まれて初めて、人を愛し始めているのかもしれない。
けれど、まだ言葉にはできない。
不器用なあなたに似て、私もまた、不器用だから。
いつか、あなたが誰かに心を開く時。
その隣に私がいられるように。
そう願って、今日も剣を磨く。
あなたに、恥じない自分であるために。
◆ルゥの日記:あの人の背中◆
ボクは、ルゥ。フェンリル族の末裔で、まだまだ子ども。森の奥で一人で生きてたんだけど、ある日「カール」っていう人間に出会ったんだ。
最初は、怖かった。
黒いマントに鋭い目、まるで闇そのものみたいな雰囲気だったから。でも、不思議だった。殺気も、敵意も……ない。むしろ、静かで優しい空気が流れていた。
「お前……怪我してるのか?」
カールは、倒れていたボクを見て、そう言った。
普通なら、フェンリル族なんて見つけたら、真っ先に狩られる。母さんがそう言ってたから。だけど、カールは違った。そっと膝をついて、ボクに手を差し伸べた。
「動くな。薬草を使う。」
怖かったのに……その手は、温かかった。
それから、ボクは彼と一緒に旅をすることになった。いや、正確に言うと、勝手について行ったんだけどね。
彼は強かった。剣を抜いた瞬間、空気が変わる。魔獣だって、敵の騎士だって、みんな震える。でも、カールは決して無駄に剣を振らない。
それが、ボクにはすごく不思議だった。
「ねぇ、なんで戦うの? 強いなら、全部倒しちゃえばいいじゃん。」
そう聞いた時、カールは少しだけ遠くを見た。
「……それじゃ、“あいつら”と変わらないからな。」
“あいつら”。たぶん、カールが昔、信じて裏切られた人たちのことだ。
彼の目はときどき、すごく遠くて……悲しい色になる。
だけどね、ボクにはわかるんだ。
カールは、本当はとっても優しい。
傷ついた村人を見捨てないし、困ってる子どもにパンを分けてくれるし。セリアさんが疲れてると、何も言わずに焚き火を起こして、あったかいスープを作る。
「言葉にしない優しさ」って、たぶんカールのことだと思う。
でも、ボクにはその優しさが……ちょっとだけ、寂しく見える。
ある晩、みんなが寝静まったころ、ボクはこっそり起きて、カールのそばに行った。
彼は、剣を手入れしてた。月明かりに照らされた横顔は、いつもの無表情で、でもどこか……壊れそうだった。
「ねぇ、カール」
「……起きてたのか。どうした、ルゥ?」
「ボクさ、あんたのこと、だいすきだよ。」
その言葉に、カールは少しだけ驚いた顔をした。ほんの一瞬だけ。
「……そうか。」
それだけ言って、頭をポンポンってしてくれた。その手が、あったかくて、ボクはちょっと泣きそうになった。
ボクにとって、カールはただの“剣聖”じゃない。
父親でもなく、兄でもない。だけど、世界で一番信じられる背中。
その背中に、何があってもついていきたいって、心から思ってる。
いつかボクも、大きくなって、彼のように強くなりたい。
でも、ただ強いだけじゃなくて、人の痛みがわかる強さ――
それを教えてくれたのは、カールなんだ。
だから、誓うよ。
この命が尽きるその時まで、ボクはあの人の隣を走る。
氷の剣士セリアがいても、王国が敵に回っても、世界が滅びようとしても。
ボクの“牙”は、あの人のためにある。
ボクの“心”は、あの人の剣の隣にある。
それが、ボク――フェンリルの子・ルゥの誇りだ!
初めて彼に出会った時、私は“何も感じなかった”――そう言うつもりだった。
けれど、本当は、最初の一閃で心を揺さぶられていた。
黒衣に身を包み、まるで影のように静かなその男は、剣を抜いた瞬間に風景を変えた。
研ぎ澄まされた刃。重ねた修羅の道。その背にあるのは、名誉でも、義務でもない。
ただ「生き抜くため」に振るわれる、本物の剣。
私は、試した。
試さずにはいられなかった。
自分が失った“何か”を、彼が持っている気がしたから。
それが「羨望」なのか「嫉妬」なのか――それとも、ただ「憧れ」だったのか。
その時の私は、まだわからなかった。
あの夜、焚き火を囲んで二人で過ごした時、彼が黙って外套を肩にかけてくれた。
その手の温もりに、私は戸惑った。
戦場で交わす剣は、冷たいのに。
彼の手は、驚くほど、あたたかかった。
「……あなたって、本当は優しいの?」
思わず口にしたその言葉に、彼は少しだけ笑った。
私は、彼の笑顔を初めて見た気がした。
カールという男は、言葉が少ない。
感情をあまり顔に出さないし、何を考えているのかも分からない。
けれど、彼の背中を見ていると――わかる。
この人は、誰よりも不器用で、誰よりも真っ直ぐだと。
裏切られて、捨てられて、それでも歩き続けている。
剣を握り続けている。
誰かを守るために。
それが、誰かのためではなく、自分自身の誇りのためだと、私は知っている。
だから、私は彼についていこうと決めた。
その先が地獄でも構わない。
彼がいるなら、私はそこに意味を見出せる。
時折、彼は私を見て、小さく息を吐く。
きっと、まだ私を“仲間”とは呼べていないのだろう。
それでもいい。
いずれ、呼ばれる日が来るなら――それでいい。
カールの剣は、鋭く、美しい。
その中に、彼の生き様がある。
人の弱さ、哀しみ、怒り、そして……誰かを守りたいという願い。
それらすべてが交わって、あの剣は振るわれている。
私も、いつかそうなりたい。
誰かを守れる剣になりたい。
彼と肩を並べて戦えるように。
そのためなら、私は何度でも立ち上がる。
何度でも、自分の心と向き合う。
カール。
あなたは、私の“剣”を目覚めさせた人。
そして――私の“心”を溶かし始めた人。
もし、これが“恋”というものなら――
私はきっと、生まれて初めて、人を愛し始めているのかもしれない。
けれど、まだ言葉にはできない。
不器用なあなたに似て、私もまた、不器用だから。
いつか、あなたが誰かに心を開く時。
その隣に私がいられるように。
そう願って、今日も剣を磨く。
あなたに、恥じない自分であるために。
◆ルゥの日記:あの人の背中◆
ボクは、ルゥ。フェンリル族の末裔で、まだまだ子ども。森の奥で一人で生きてたんだけど、ある日「カール」っていう人間に出会ったんだ。
最初は、怖かった。
黒いマントに鋭い目、まるで闇そのものみたいな雰囲気だったから。でも、不思議だった。殺気も、敵意も……ない。むしろ、静かで優しい空気が流れていた。
「お前……怪我してるのか?」
カールは、倒れていたボクを見て、そう言った。
普通なら、フェンリル族なんて見つけたら、真っ先に狩られる。母さんがそう言ってたから。だけど、カールは違った。そっと膝をついて、ボクに手を差し伸べた。
「動くな。薬草を使う。」
怖かったのに……その手は、温かかった。
それから、ボクは彼と一緒に旅をすることになった。いや、正確に言うと、勝手について行ったんだけどね。
彼は強かった。剣を抜いた瞬間、空気が変わる。魔獣だって、敵の騎士だって、みんな震える。でも、カールは決して無駄に剣を振らない。
それが、ボクにはすごく不思議だった。
「ねぇ、なんで戦うの? 強いなら、全部倒しちゃえばいいじゃん。」
そう聞いた時、カールは少しだけ遠くを見た。
「……それじゃ、“あいつら”と変わらないからな。」
“あいつら”。たぶん、カールが昔、信じて裏切られた人たちのことだ。
彼の目はときどき、すごく遠くて……悲しい色になる。
だけどね、ボクにはわかるんだ。
カールは、本当はとっても優しい。
傷ついた村人を見捨てないし、困ってる子どもにパンを分けてくれるし。セリアさんが疲れてると、何も言わずに焚き火を起こして、あったかいスープを作る。
「言葉にしない優しさ」って、たぶんカールのことだと思う。
でも、ボクにはその優しさが……ちょっとだけ、寂しく見える。
ある晩、みんなが寝静まったころ、ボクはこっそり起きて、カールのそばに行った。
彼は、剣を手入れしてた。月明かりに照らされた横顔は、いつもの無表情で、でもどこか……壊れそうだった。
「ねぇ、カール」
「……起きてたのか。どうした、ルゥ?」
「ボクさ、あんたのこと、だいすきだよ。」
その言葉に、カールは少しだけ驚いた顔をした。ほんの一瞬だけ。
「……そうか。」
それだけ言って、頭をポンポンってしてくれた。その手が、あったかくて、ボクはちょっと泣きそうになった。
ボクにとって、カールはただの“剣聖”じゃない。
父親でもなく、兄でもない。だけど、世界で一番信じられる背中。
その背中に、何があってもついていきたいって、心から思ってる。
いつかボクも、大きくなって、彼のように強くなりたい。
でも、ただ強いだけじゃなくて、人の痛みがわかる強さ――
それを教えてくれたのは、カールなんだ。
だから、誓うよ。
この命が尽きるその時まで、ボクはあの人の隣を走る。
氷の剣士セリアがいても、王国が敵に回っても、世界が滅びようとしても。
ボクの“牙”は、あの人のためにある。
ボクの“心”は、あの人の剣の隣にある。
それが、ボク――フェンリルの子・ルゥの誇りだ!
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