婚約破棄された上に、追放された伯爵家三男カールは、実は剣聖だった!これからしっかり復讐します!婚約破棄から始まる追放生活!!

山田 バルス

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第70話  レーナの娘ティナのひみつ日記

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『闇を裂く剣』―レーナの想い―


 あの人の背中には、静かな強さがある。

 初めて会ったときから、それは変わらなかった。鋼のように冷たいわけでもなく、威圧感を放つわけでもない。それでも、彼がそこに立っているだけで、安心できるのだ。まるで、荒れた風を遮ってくれる一本の大樹のように。

 ――カール様。

 私たち母娘が、命からがら逃げ延びたあの森の中で、あの人に出会わなければ、きっと今頃ここにはいなかった。

 ティナを背に庇い、震える指でナイフを握っていた私の前に現れた黒衣の剣士。剣を抜くことすらなく、迫ってきた魔獣を一閃で斬り伏せたその姿は、今でもはっきりと覚えている。

 だけど、私が驚いたのはその後だった。

「怪我はないか?」

 そう言って、すぐに手を差し伸べてくれたこと。

 剣士というのはもっと無骨で、冷たいものだと思っていた。助けた後は無言で去っていくか、見返りを求めるのが常だと。けれどカール様は、まるでそれが当たり前のことのように、優しく微笑んでくれた。

 あの微笑みを、私は忘れられない。

 それから、私たちは一緒に旅をした。森を抜け、村を経て、ついにはこの王都ルメリアまで。そして今、こうして住み込みで家の仕事を任せてもらえるようになった。

 夢みたいだ、と何度思ったかわからない。

 でも、それは私だけじゃない。ティナもそうだ。あの子があんなに無邪気に笑えるようになったのは、カール様のおかげだ。

 もちろん、彼は口数が多いわけじゃない。気さくに世間話をするタイプでもないし、感情をあらわにすることも滅多にない。けれど、言葉にしなくても伝わるものがある。疲れているのに誰よりも遅くまで訓練を続けたり、朝早くから買い出しに付き合ってくれたり。そんな日常のひとつひとつが、彼の優しさを教えてくれる。

 ……時々、思うのだ。あの人は、どれだけ孤独な道を歩いてきたのだろう、と。

 夜、食後の片付けを終えてリビングを覗くと、ティナに絵本を読み聞かせるカール様の姿が見える。膝に乗ったティナの頭をそっと撫でる仕草が、どこかぎこちなくて、でもとても丁寧で……それがかえって胸にしみる。

 人の温もりに飢えていたのは、私たちだけじゃなかったんだ。

 セリア様も、きっと同じ思いを抱いている。王族としての立場や過去を捨てて、今この家に「ひとりの女性」としているその姿に、私は少し憧れてしまう。いや――少しどころじゃないかもしれない。

 私は、カール様の隣に並べる存在じゃない。それは分かっている。あの方には、もっと相応しい誰かがいる。けれどそれでも、願わずにはいられない。

 どうか、この場所があの人の安らぎになりますように。

 剣を置き、戦いを忘れ、ただ温かな食卓の輪の中にいられるように。

 私にできることは少ないけれど、せめてこの家を「帰る場所」にしたい。今日もおいしいごはんを作って、疲れを癒してもらえるように――それが、今の私の戦い。

 そして、願わくば……。

 いつかほんの一瞬でいいから、カール様が微笑んで「おかえり」と言ってくれる日が来たら。

 その時私は、どんな顔をすればいいのだろう。

 きっと泣いてしまう。嬉しくて、安心して、胸がいっぱいになって。

 それでもいい、そう思える。

 それほどまでに、私にとってカール様は大切な人になっていたのだ。

『闇を裂く剣』 ―ティナのひみつ日記―


だいすきなカールおじちゃんのこと、かきます!

わたしがカールおじちゃんにあったのは、すっごくこわい日でした。まっくらな森の中で、おかあさんが「にげて!」っていって、でも足がいたくてうごけなくて――
そのとき、バサッて風がふいて、カールおじちゃんが来たの。

黒いふくをきて、ながい剣をもってて、すごーくこわいおじちゃんかと思ったけど、魔物をバシッ!ってやっつけたあとのカールおじちゃんは、ちっともこわくなかった。

やさしいめで、わたしを見て、「よかった、生きてるな」って言ってくれたんだ。

それから、いっしょに旅をして、いまはルメリアの新しいおうちに住んでるの。カールおじちゃんと、おかあさんと、セリアおねえちゃんと、ルゥもいて、毎日がたのしい!

カールおじちゃんは、いつもおっきな剣をもってるけど、ぜったいにむやみにふらない。やさしい目をしてるし、ちゃんと「ありがとう」と「ごめんね」も言えるの。

わたし、おとうさんってどんな人だったか、あんまりおぼえてない。小さいころにいなくなっちゃったから。でも、カールおじちゃんといっしょにいると、「おとうさんって、こんなかんじなのかな?」って思うときがあるの。

だってね、朝になると「おはよう」って頭をなでてくれるし、おなかがすいたら「食べすぎるなよ」って言ってくれるし、夜ねる前には絵本も読んでくれるの。

あっ! この前なんて、わたしがルゥといっしょに外でころんじゃって、ひざをすりむいちゃったとき、すぐにかけよってきて、「大丈夫か?」ってすっごくしんぱいしてくれたの。

やさしくて、つよくて、いつもみんなをまもってくれて――でもね、ちょっとだけさびしそうなときもあるの。

とくに、だれも見てないと思ってるとき。
おひるねしてるルゥを見てたり、セリアおねえちゃんと話してるのをよこから見てたり、ふとしたときに、すごくとおくを見てる目になる。

そのときのカールおじちゃんの顔は、なんだか「さみしい」ってかんじがして、わたしまできゅーってなるの。

だから、わたし、決めたんだ。
カールおじちゃんがさびしい顔をしないように、いっぱい笑わせてあげようって!

ごはんのときには「おいしい!」って元気に言うし、失敗してもわざとじゃないけど「てへへ~」って笑ってごまかすのも、カールおじちゃんが笑ってくれるから。

このまえ、おかあさんがカールおじちゃんに「プロの料理人みたい」って言われて、ちょっとてれてたの。
でもね、わたしは見てた。おかあさんより先に、カールおじちゃんがわたしのお皿ににんじんを多めに入れてたのを!

うわーん、にんじんきらいー! ……でも、おいしかった。
カールおじちゃんがつくってくれたおうちのなかの、あったかいにおいと、みんなの笑い声といっしょに食べたら、にんじんだって食べられるんだもん。

カールおじちゃん、いつもありがとう。
あのね、わたし、おおきくなったら「カールおじちゃんのおよめさんになる!」って言ったら、おかあさんとセリアおねえちゃんに「それはムリよ」って笑われた。

でも、いいの。
わたしはずーっと、このおうちで、みんなといっしょにいたいの。
カールおじちゃんとルゥと、おかあさんとセリアおねえちゃんと、これからもいっぱい笑って、いっぱいごはん食べて、いっぱい「おかえり」が言えるような毎日にしたいんだ。

あ、でも……もし、また「たたかい」に行くことになったら……
わたし、ちょっとだけがんばって泣かないようにする。

だってカールおじちゃんは、「ひとをまもるために剣をにぎってる」って言ってたから。
だから、わたしも「まもられるだけの子」じゃなくて、「まってる子」になりたい。

いつか「おかえり」って言うときに、いちばんにカールおじちゃんをぎゅーってできるように――わたし、がんばるんだから!
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