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第8話 エリーゼ、悲しみと苦痛、3日間の地獄
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エリーゼ流刑──絶望の三日間
命じられるまま、エリーゼは連行された。
両手を無慈悲に兵士たちに縛られ、まるで重罪人のように。
細い手首には、皮紐が食い込んだ。痛みが走る。けれど、声を上げることも許されなかった。
周囲には冷たい視線ばかり。
かつて彼女に笑いかけていた廷臣たちも、侍女たちも、今は遠巻きに嘲るばかりだった。
──なぜ。
心が軋む。
何も、していない。
ただ、必死に生きていただけだった。
王子に恥をかかせたこともなければ、陰謀を企てたことなどなおさらない。
それなのに。
なぜ、誰も信じてくれないの。
無情な現実に、エリーゼは押し潰されそうだった。
輿に押し込まれる。
重く鉄の打たれた扉が、がしゃりと閉まった。
暗闇。
狭苦しい空気。
絶望だけが、胸を満たしていった。
──それから、地獄のような三日間が始まった。
***
馬車は、休むことなく北へ向かった。
王都を出た瞬間から、扱いはさらに酷くなった。
兵士たちは誰一人、エリーゼに敬意を払わなかった。
彼女を"流刑囚"、"国家の裏切り者"としか見ていなかった。
ガタガタと揺れる車輪。
荒れた田舎道。
冷たい雨が容赦なく降り注ぎ、馬車の隙間から水滴が垂れた。
「ほら、起きろ。飯だ」
投げつけられるのは、乾ききった黒パン。
手で受け取ろうとすると、縄に縛られた腕ではうまく掴めず、パンは泥の中に落ちた。
兵士たちは嘲笑った。
「貴族様にしては、ずいぶんと無様だな」
その嘲りが、胸に突き刺さる。
泣きたかった。
助けを求めたかった。
でも──誰に?
父も、母も、王子さえも。誰一人、手を伸ばしてはくれなかった。
夜は最悪だった。
輿から引きずり出され、雨に濡れた大地の上に放り出される。
冷たい土。冷えきった空気。
粗末な毛布一枚すら与えられなかった。
星のない夜空を見上げながら、エリーゼは凍える体を抱きしめた。
唇が震える。
それでも、誰も見向きはしなかった。
──私は……本当に、必要なかったんだ。
世界から見捨てられたような孤独。
心がじくじくと、痛んだ。
***
二日目。
足元に絡みつく泥と、ひび割れた唇。
まともに食事も与えられず、体は弱りきっていた。
それでも、馬車は容赦なく進み続ける。
「なぁ、あの女……捨てる場所、決まってんのか?」
兵士たちの話し声が耳に入る。
「北の辺境の森だとよ。魔物の巣だ」
「へえ、そりゃ死ぬな」
無邪気に笑い合う声。
エリーゼの背筋に、冷たいものが走った。
──捨てられる。
人里からも遠く離れた、誰も助けに来ない場所へ。
死ねということだ。
明確な、"死刑宣告"だった。
体の震えは、寒さのせいだけではない。
心の芯から、恐怖がにじみ出していた。
***
三日目。
朝焼けが、遠く地平線を染める。
凍えるような朝だった。
エリーゼは、朦朧とする意識の中で、かすかに馬の嘶きを聞いた。
ぼろぼろのドレスは泥だらけ。髪も乱れ、かつての面影はどこにもなかった。
馬車が止まる。
「降りろ」
乱暴な手に引きずられる。
目の前に広がるのは、荒れ果てた草原だった。
風が鳴り、腐臭混じりの空気が漂う。
遠くには、黒々とした森が見える。
木々はまるで、獲物を待ち受ける魔物のように口を開けていた。
ここが──私の、墓場。
膝が震える。
それでも、兵士たちは容赦しなかった。
「さあ、行け。二度と戻ってくるなよ」
背中を押され、地面に転がる。
縛られた手首に、鋭い痛み。
唇を噛み、声を殺して立ち上がる。
振り返った。
けれど、兵士たちはすでに背を向け、馬車へと戻っていた。
──誰も、助けない。
自分の名前すら、ここには残らない。
ポツリと、空に小雨が落ちた。
冷たさに、ふと目を閉じる。
このまま、森に飲まれて、誰にも知られず、朽ちていくのか。
それが、自分の"最期"なのか。
そんな恐怖が、心を締めつける。
──でも。
エリーゼは、奥歯を噛みしめた。
倒れるわけにはいかなかった。
ここで諦めたら、すべてが無意味になる。
涙で滲む視界の中、エリーゼは、一歩を踏み出した。
森の闇へと向かって。
ぼろぼろになったドレスを引きずりながら、彼女は進んだ。
死を待つためではない。
生き延びるために。
──たとえ、世界がすべて敵でも。
たとえ、誰にも愛されなくても。
自分だけは、自分を見捨てない。
エリーゼは、震える体に鞭打って歩き続けた。
小さな、小さな、命の火を守るために。
命じられるまま、エリーゼは連行された。
両手を無慈悲に兵士たちに縛られ、まるで重罪人のように。
細い手首には、皮紐が食い込んだ。痛みが走る。けれど、声を上げることも許されなかった。
周囲には冷たい視線ばかり。
かつて彼女に笑いかけていた廷臣たちも、侍女たちも、今は遠巻きに嘲るばかりだった。
──なぜ。
心が軋む。
何も、していない。
ただ、必死に生きていただけだった。
王子に恥をかかせたこともなければ、陰謀を企てたことなどなおさらない。
それなのに。
なぜ、誰も信じてくれないの。
無情な現実に、エリーゼは押し潰されそうだった。
輿に押し込まれる。
重く鉄の打たれた扉が、がしゃりと閉まった。
暗闇。
狭苦しい空気。
絶望だけが、胸を満たしていった。
──それから、地獄のような三日間が始まった。
***
馬車は、休むことなく北へ向かった。
王都を出た瞬間から、扱いはさらに酷くなった。
兵士たちは誰一人、エリーゼに敬意を払わなかった。
彼女を"流刑囚"、"国家の裏切り者"としか見ていなかった。
ガタガタと揺れる車輪。
荒れた田舎道。
冷たい雨が容赦なく降り注ぎ、馬車の隙間から水滴が垂れた。
「ほら、起きろ。飯だ」
投げつけられるのは、乾ききった黒パン。
手で受け取ろうとすると、縄に縛られた腕ではうまく掴めず、パンは泥の中に落ちた。
兵士たちは嘲笑った。
「貴族様にしては、ずいぶんと無様だな」
その嘲りが、胸に突き刺さる。
泣きたかった。
助けを求めたかった。
でも──誰に?
父も、母も、王子さえも。誰一人、手を伸ばしてはくれなかった。
夜は最悪だった。
輿から引きずり出され、雨に濡れた大地の上に放り出される。
冷たい土。冷えきった空気。
粗末な毛布一枚すら与えられなかった。
星のない夜空を見上げながら、エリーゼは凍える体を抱きしめた。
唇が震える。
それでも、誰も見向きはしなかった。
──私は……本当に、必要なかったんだ。
世界から見捨てられたような孤独。
心がじくじくと、痛んだ。
***
二日目。
足元に絡みつく泥と、ひび割れた唇。
まともに食事も与えられず、体は弱りきっていた。
それでも、馬車は容赦なく進み続ける。
「なぁ、あの女……捨てる場所、決まってんのか?」
兵士たちの話し声が耳に入る。
「北の辺境の森だとよ。魔物の巣だ」
「へえ、そりゃ死ぬな」
無邪気に笑い合う声。
エリーゼの背筋に、冷たいものが走った。
──捨てられる。
人里からも遠く離れた、誰も助けに来ない場所へ。
死ねということだ。
明確な、"死刑宣告"だった。
体の震えは、寒さのせいだけではない。
心の芯から、恐怖がにじみ出していた。
***
三日目。
朝焼けが、遠く地平線を染める。
凍えるような朝だった。
エリーゼは、朦朧とする意識の中で、かすかに馬の嘶きを聞いた。
ぼろぼろのドレスは泥だらけ。髪も乱れ、かつての面影はどこにもなかった。
馬車が止まる。
「降りろ」
乱暴な手に引きずられる。
目の前に広がるのは、荒れ果てた草原だった。
風が鳴り、腐臭混じりの空気が漂う。
遠くには、黒々とした森が見える。
木々はまるで、獲物を待ち受ける魔物のように口を開けていた。
ここが──私の、墓場。
膝が震える。
それでも、兵士たちは容赦しなかった。
「さあ、行け。二度と戻ってくるなよ」
背中を押され、地面に転がる。
縛られた手首に、鋭い痛み。
唇を噛み、声を殺して立ち上がる。
振り返った。
けれど、兵士たちはすでに背を向け、馬車へと戻っていた。
──誰も、助けない。
自分の名前すら、ここには残らない。
ポツリと、空に小雨が落ちた。
冷たさに、ふと目を閉じる。
このまま、森に飲まれて、誰にも知られず、朽ちていくのか。
それが、自分の"最期"なのか。
そんな恐怖が、心を締めつける。
──でも。
エリーゼは、奥歯を噛みしめた。
倒れるわけにはいかなかった。
ここで諦めたら、すべてが無意味になる。
涙で滲む視界の中、エリーゼは、一歩を踏み出した。
森の闇へと向かって。
ぼろぼろになったドレスを引きずりながら、彼女は進んだ。
死を待つためではない。
生き延びるために。
──たとえ、世界がすべて敵でも。
たとえ、誰にも愛されなくても。
自分だけは、自分を見捨てない。
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小さな、小さな、命の火を守るために。
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