婚約者を姉に奪われ、婚約破棄されたエリーゼは、王子殿下に国外追放されて捨てられた先は、なんと魔獣がいる森。そこから大逆転するしかない?怒りの

山田 バルス

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第19話 獣人の村 村長からの依頼 今は……人間は入れない

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金色の髪を揺らしながら、アリスターは満面の笑みを浮かべて馬の手綱を引いた。自称「ボク」、ナルシスト気質の魔法使い。かつてテオドリック王国の王子であった彼は、婚約破棄のうえ冤罪によって国外追放された、いわくつきの人物である。だが、そんな過去さえも誇らしげに語るのが、彼という男の厄介なところだった。

「そろそろ日も傾いてきたし、今日は途中の村で休んでいかない? さすがに黒魔の森のど真ん中で野宿なんて、ボクはイヤだなぁ」

 アリスターが、どこか上品な仕草であくび混じりにそう言うと、隣を歩く少女がふっと笑った。

「わたしも、虫に刺されたり、獣に襲われたりは遠慮したいかな。野宿じゃなければ、それでいいよ」

 桃色の髪を揺らしながら、エリーゼ=アルセリアは軽やかに頷いた。剣聖の名を持ち、前世の記憶を宿す転生者。かつては剣道三段の女子高生だったが、交通事故で命を落とし、異世界に転生してきた。彼女もまた、冤罪による国外追放の身。レインハルト王国の元・令嬢にして婚約破棄の被害者である。

 その右腕は金に輝き、左足は銀色に光る。金龍とフェンリル——二柱の精霊の力を宿した、異端の戦士。その力を知る者は少ない。何より、転生者であるという事実は、今も彼女の胸の奥に秘められたままだ。

「黒魔の森は、四つの国の国境地帯なんだ。人間の村は存在しないけれど、獣人や亜人の集落が点在している。ボクたちが向かうのは、そのひとつさ。今の時期なら交易で賑わっているはずだよ」

 アリスターは地図を広げ、指先で目的地を示す。夕陽が地平線に沈みかける頃、ふたりは森の中を進み、やがて石垣で囲まれた小さな獣人の村にたどり着いた。

 木造の門の前には、槍を持った門番が立っていた。毛並みのよい狼耳の青年が、警戒心を隠さず二人を睨む。

「ここから先は立ち入り禁止だ。今は……人間は入れない」

「理由を聞かせてもらえるかな?」
 と、アリスターがやんわり尋ねると、門番は口をつぐんだ。代わりに、村の奥から壮年の獣人が現れる。彼こそが村長だった。

「すまない。最近、外からの客には慎重になっているのだ。特に人間にはな」

 その声には、長年の苦労と、今なお消えぬ不信の色がにじんでいた。

 だが、村長の目がエリーゼに向いたとき、空気が変わった。

「……その腕と脚、まさか」

 金に輝く右腕と、銀に光る左足。エリーゼが袖をまくり、軽く地を踏み鳴らすと、金龍とフェンリルの精霊の気配が確かに空気に伝わった。

「お見受けしたところ……フェンリル様と古龍様に選ばれし方。ならば、話は別だ」

 村長は深く頭を下げた。

「申し訳ない。我々のような辺境の民に、神々の加護を受けた方が訪れるとは思いもせなんだ。よろしければ、今夜は村に泊まっていっていただきたい」

 こうして二人は、獣人の村に招かれることとなった。

 村の民は最初こそ人間を警戒していたが、エリーゼの異形の腕足とアリスターの礼儀正しさに次第に心を開き、夕食には香草焼きの肉や木の実をふんだんに使った料理が振る舞われた。焚き火のそばで談笑するうち、村長がふと顔を曇らせた。

「実は、少し頼みがあるのだ」

 彼の言葉に、アリスターとエリーゼは静かに耳を傾ける。

「最近、森の奥に“バジリスク”が現れるようになってな。村の狩人が二人、石にされて帰ってこなかった。このままでは、村の暮らしが成り立たぬ」

「バジリスクか……確かに、普通の冒険者じゃ歯が立たないね」

 アリスターは顎に手を当て、思案する素振りを見せた。

「どうする? わたしは、放っておけないと思うけど」

 エリーゼが静かに言うと、アリスターは金髪をかき上げて笑った。

「まったく……ボクってば、優しいから困るなあ。もちろん、やってあげるよ。フェンリル様と古龍様に選ばれた剣聖と、ボクがいれば、バジリスクなんて朝飯前さ」

 かくして、二人は翌朝、森の奥へと向かい、バジリスク討伐へと挑むことを決めたのだった。
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