婚約者を姉に奪われ、婚約破棄されたエリーゼは、王子殿下に国外追放されて捨てられた先は、なんと魔獣がいる森。そこから大逆転するしかない?怒りの

山田 バルス

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第26話 ダリルから見たエリーゼとアリスター

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この旅が始まってから、もう何日が経ったのだろうか。

 拙者は、青髪に丸眼鏡、そして猫背気味の神官――自信のない声と覇気のない態度は、昔からよく笑いのネタにされたものだ。聖教国では「誠実な補佐役」と呼ばれ、裏では「いてもいなくても同じ」とも言われた。まあ、否定はしない。

 けれど、その拙者が今、一体なぜこんな目立つ二人と旅をしているのだろうか。運命のいたずらというには悪趣味すぎる。最初はただの偶然だったはずなのに、気づけば拙者はその渦の中心にいる。

 エリーゼと、アリスター。

 光と影。熱と冷。天と地……いや、そういう比喩はやめておこう。無理にカッコつけても滑稽だ。

 でも、確かに二人は、拙者にとっては眩しすぎる存在だった。

◇ ◇ ◇

 まず、エリーゼ。桃色の髪を風になびかせる剣聖。

 その姿は、まるで桜の花が戦場に咲いたように美しく、しかし一度剣を抜けば、すべてを両断する鬼神のような鋭さを持つ。

 彼女の剣は速く、重く、正確だった。無駄のない所作に、一分の隙もない。それでいて、どこか儚げな雰囲気を纏っているのが、彼女らしいと言えばらしい。

 過去に何かあったのだろう。時折、夜の焚き火の前で一人で剣を磨く横顔は、まるで戦いの記憶に取り憑かれた幽鬼のようで。

 彼女が拙者に言ったことがある。

「ダリル。あなた、何かを見ても、見なかったことにするタイプでしょ」

 図星だった。見てしまったことを、なかったことにしたくなる。それが、僕の弱さ。見たことを告げたら追放されたので、そこはトラウマになっているが……。

 でも、エリーゼは違う。彼女は見てしまったものから目を逸らさない。それが正義であれ、醜さであれ。

 彼女の剣は、そういう覚悟から来ているんだと思う。

 ……ああ、なんて強い人なんだ。拙者とは違う。拙者が逃げ出した現実を、彼女は切り裂いて前に進む。

 ――でも、たまにふとした瞬間に、エリーゼの肩が揺れているのを見ると、なぜだかほっとする。ああ、この人も人間なんだ、って。

◇ ◇ ◇

 そしてアリスター。

 金髪碧眼、自称「至高の美と叡智を兼ね備えた天才魔導師」。その姿は常に完璧を追い求め、髪の流れからマントの揺れ方にまでこだわっている徹底ぶりだ。

「ふっ、この世に美しさが存在するのは、我が存在が前提なのだな」

 いや、何言ってるの? って本気で思う。毎日が寸劇。しかも本人は至って真剣だから余計にタチが悪い。

 けれど……その実力は本物だった。

 一度杖を振るえば、大気は震え、天地の理すら捻じ曲がるかのような魔力の奔流が迸る。その詠唱速度、魔法の精度、どれを取っても一級品。中でも氷と光の魔法に長け、その魔術はまるで芸術の域だった。

 ただのナルシストではない。誇りと、自信と、そして孤独が混ざり合っている。

 「美しさ」で全てを語る彼の中に、僕はいつも見えない痛みを感じていた。

 拙者が「自分なんて……」と呟くたび、彼は決まってこう言った。

「だからこそ、君の役目があるのだよ、ダリル。美しきものを引き立てる影。君がいるから、我が美もまた輝くのだ」

 それは慰めか? 皮肉か? いや、たぶん、どちらでもない。本気でそう思っているのだろう。そんな彼の傲慢さが、時には救いになるから困る。

◇ ◇ ◇

 この二人の間にいて、拙者はよく思う。

 拙者は一体、何者なんだろう。

 弱い神官。逃げ出した裏切り者。何一つ信じきれず、守れず、そして今も迷い続けている。

 けれど、少しだけ……本当に少しだけ、今の旅では自分の居場所があるような気がしている。

 傷だらけのエリーゼが、苦しそうに眉をひそめながらも仲間のために剣を振るうとき。

 アリスターが、冗談のような台詞の奥にほんの少しだけ優しさをにじませるとき。

 その隣で拙者は、呪文を唱えている。震えながらも、逃げ出さずに。

「ダリル、任せた!」

 エリーゼの声が飛ぶ。

「我が美を守る盾よ、君の力を信じている!」

 アリスターが魔法陣を浮かべる。

 その時だけは、拙者の手から放たれる回復の光が、誰かを支えているのだと信じられる。

 ……まあ、次の瞬間には自信なくなって、またうじうじ考え込むんだけど。

 でも、それでもいいじゃないか。

 誰かの後ろでも、誰かの陰でも。

 僕は、今ここに、いるのだから。
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