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♡右手をはかどらせ隊♡

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 沙織は畳に頬を寄せて新しく買った愚かな商品達を見つめながら甘やかな後悔に浸っていた。

 知らないキャラクターのシャープペンシル、安っぽいワンピース、何個目かのエコバッグetc…。

 沙織は誰もいない一軒家の一階の畳の部屋に制服のままうつ伏せになり、おしりは窓の外へと向けられている。

 その窓にはカーテンはなく、窓は開け放たれている。

 羽虫と共に秋風が部屋に入ってくる。郷愁と憂鬱を織り交ぜたような風がスカートに当たるたびにスカートは少しめくり上がり、秘密の花園が顔を覗かす。そう、

 パンツは沙織の右手の中にある。

 向かいの一軒家には公務員と、その妻の主婦と、その間に産まれた無残な小太りのうすらハゲの中年が住んでいる。

 その2階の窓は締め切られていて、分厚いカーテンで閉ざされている。

 しかし沙織は知っている。

 彼がカーテンレールと窓の間のほんの僅かな隙間からこちらを覗いていることを。

 平日の昼間に、お天道様の監視のもと、仄暗い世界から視線だけをこちらに送っていることを。

 沙織は色々なものからの間隙を縫って、閉ざされた世界に向けてエールを送っている。

 静かに、ひっそりと、エールを送っている。

 それに応えるように彼は右手をはかどらせている。



 沙織は目の前に置かれた愚かな商品達を見つめていた。

「私はこの商品達と同じだ。コモディティ化されたどこにでもある使い捨てされるだけの変えが効く商品。大した価値はない。」

 秋風がまたスカートをめくり上げた。

 そうだとしても、あなたにしか出来ないことが、あるのだ。
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