上 下
2 / 10

♡17歳、春香のヌーニ〜〜〜♡

しおりを挟む
 17歳の春香はポストカードを見ていた。

「お姉ちゃん、何見てるの?」妹の夏美が言った。

「これ、何の動物だろうね」と言いながらポストカードを妹に見せる。

「ああ、それヌーだよ。ヌーの群れだよ」と夏美が答える。

「あーこれがヌーか。変な名前の動物がいるもんだなって、昔思ってたの。そうか、これがヌーなのね」と春香が言った。

「どうしたの、そのポストカード、誰かからもらったの?」と夏美が言った。

「今日、バイト先のカフェの人にもらったの。台所のぬめりを取ってたら、いつも掃除ありがとうって、くれたの。いらないなって思ったんだけど、こうやって一つの疑問が解決することもあるから、無駄な事なんて世の中にないのかもね」と春香が言った。

「いやあるでしょ無駄な事いっぱい。あーお腹空いた。ご飯まだかな。ちょっと下行って聞いてくる」

 夏美は部屋を出て階段を降りて行った。春香はまたポストカードを見ている。干上がった沼に残った残り少ない水に浸っているヌーの群れのポストカードを。


 食事を終えて春香は部屋に戻った。夏美はお風呂に入っている。

 春香はベッドに寝転びながら、右手を下着の中に滑らした。左手はヌーのポストカードを握っている。ポストカードをくれた21歳の横溝さんのことを考えてみる。

 今まで何の意識もしたことがなかった。春香はクラスメイトのイケメンの翔に夢中だったから。だから翔に誘われた時は嬉しかった。流れで処女を捧げた時は、これから付き合って、楽しい思い出が沢山できるだろうとワクワクしていたけれど、ただの遊びだと知った時は自分の愚かさを恨んだ。不思議と翔に対して怒りは抱かなかった。どこかでわかっていたのだろう。翔みたいな人間が、私みたいな平凡な人間を相手にするわけがないと。

 私はヌーだ。大勢の中の、1人。みんな名前は知っていても、その姿は誰も知らない。対して翔はライオンだ。彼には皆が敬意を払う。

 横溝さんもヌーだ。なんの取り柄もない、大勢の中の1人。集団にいることでようやく生きていけるような、存在。決して強者に逆らわず、高望みをしない。大地が干上がって、資源が残り少なくなったとしても、外に開拓をしに行くような、そんな事は決してしない。与えられた条件の中で、死ぬまで生きる。それが私たち平凡なヌーの行く道なのだ。

 春香はポストカードを握り締めながら右手を捗らせた。

「あ…」

 横溝の手が千手観音のように春香の体を弄る姿を想像する。

「あ…だめ…そこは」

 ポストカードを握る左手に力が入る。横溝の舌がイジリー岡田のように春香の体を舐め回す姿を想像する。

「あぁ…いや…そんな…きたない…」

 力強く握り締められたポストカードに皺が寄る。

「横溝さん!!!!!!ああ!!!ダメぇぇぇぇぇえぇ!!!!!」

 ガチャ!!

「お姉ちゃんお風呂開いたよー」

 春香は呼吸をムリヤリ落ち着かせながら、濡れた右手を布団で拭いた。

「う、うん、今入る」

 春香はクシャクシャになったポストカードを枕元に置いた。

 それを見た夏美は、

「やっぱりいらないんじゃない」と髪を拭きながら言った。
 

 
しおりを挟む

処理中です...