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「え?一室しか取れてない?」
とあるビジネスホテルの受付。
カウンターに手をついて驚きの声を上げた漣先輩の声音は、戸惑いはあれど、決して非難めいたものではなかった。
「はい、申し訳ございません、確かにシングルのお部屋を二つでご予約いただいていたようなのですが、こちらの手違いでダブルのお部屋を一室お取りしてしまっておりました。本日は満室で、他のお部屋も空いておらず……」
しかし、対応する受付の女性は、これ以上ないほどに恐縮した様子で、泣きそうな表情になりながら謝っている。
見ているこちらが申し訳なくなってくるほどだ、と僕は心配になった。
「あ、いえいえ、こちらも総務任せにしてしまっていて、全然確認していなかったので」
漣先輩が爽やかな笑顔で返すと、受付の女性はようやく少し安心したような表情を見せた。
「しかし、困ったな。どうしようか」
そして、不意に僕の方を振り向く。
端正な顔立ちに、少し長めの黒髪がさらりと揺れた。
二重の大きな目にまっすぐ見つめられて、思わず男の僕でもどきっとしてしまう。
受付の女性の頬がほのかに赤くなっているのは、ミスによる緊張だけではないだろう。
「えっと、そうですね、僕、ネカフェとかでも全然大丈夫ですよ」
「いや、それは悪い。というより、別に八神が良ければ、俺は一緒の部屋でもいいんだけど」
「あ、それならもちろん僕も大丈夫ですよ」
男同士なので、まったく問題はなかった。
むしろ、ネカフェを申し出たのは、どうしようかと問われたことで、漣先輩が同室に抵抗があるのかと思ったからだった。
「でも、男同士とはいえ、一応俺が上司だろ。変に気遣われて、八神がしっかり休めなかったら嫌だから、俺こそ全然ネカフェでいいし、遠慮なく言って」
「そんな、本当に大丈夫です」
眉目秀麗、知勇兼備。
まだ二十代後半ながら会社のエースとして期待され、今すぐ俳優になれそうな見た目も併さって、男女問わず圧倒的人気を誇る漣海斗先輩。
初めての出張で、かつそんな先輩と同室なんて、緊張しないと言えば嘘になる。
けれどむしろ、そんな体験ができることには、誇らしさすらあった。
同期に報告したら、きっと羨ましがられるだろう。
そもそも、一緒に出張が決まっただけで、みんなから羨望の眼差しを向けられたほどだ。
「じゃあ、大丈夫です、その部屋でお願いします」
漣先輩は振り返ると、受付の女性に柔らかく言った。
再び恐縮する女性を相手にチェックインを済ませると、鍵を受け取り、エレベータで部屋のある五階へ。
「おぉ~、けっこう広いじゃん」
部屋に入ると、漣先輩は無邪気な声を上げた。
普段はあまり見られないような、砕けた様子。
少しプライベートな一面を垣間見られたことに、僕は謎の優越感を覚えながら、あとに続いた。
確かに、思ったよりも広い部屋だった。
余裕のあるスペースにベッドが二つ並んでおり、奥の窓からは、それなりに綺麗な夜景が見えた。
僕は漣先輩のスーツケースの横に、自分のスーツケースを置いた。
「はぁぁ、最高だな」
ふと見ると、漣先輩はスーツを脱ぎもせず、ベッドに大の字になってダイブしていた。
「先輩、スーツ皺になりますよ」
その子どものような姿に、僕は苦笑しながら声をかけた。
「八神も寝転がってみろよ。起き上がれなくなるぜ」
それから漣先輩は、ふと悪戯っぽい笑みを浮かべると、僕のことをまたまっすぐに見つめた。
「今夜は二人っきりだな」
とあるビジネスホテルの受付。
カウンターに手をついて驚きの声を上げた漣先輩の声音は、戸惑いはあれど、決して非難めいたものではなかった。
「はい、申し訳ございません、確かにシングルのお部屋を二つでご予約いただいていたようなのですが、こちらの手違いでダブルのお部屋を一室お取りしてしまっておりました。本日は満室で、他のお部屋も空いておらず……」
しかし、対応する受付の女性は、これ以上ないほどに恐縮した様子で、泣きそうな表情になりながら謝っている。
見ているこちらが申し訳なくなってくるほどだ、と僕は心配になった。
「あ、いえいえ、こちらも総務任せにしてしまっていて、全然確認していなかったので」
漣先輩が爽やかな笑顔で返すと、受付の女性はようやく少し安心したような表情を見せた。
「しかし、困ったな。どうしようか」
そして、不意に僕の方を振り向く。
端正な顔立ちに、少し長めの黒髪がさらりと揺れた。
二重の大きな目にまっすぐ見つめられて、思わず男の僕でもどきっとしてしまう。
受付の女性の頬がほのかに赤くなっているのは、ミスによる緊張だけではないだろう。
「えっと、そうですね、僕、ネカフェとかでも全然大丈夫ですよ」
「いや、それは悪い。というより、別に八神が良ければ、俺は一緒の部屋でもいいんだけど」
「あ、それならもちろん僕も大丈夫ですよ」
男同士なので、まったく問題はなかった。
むしろ、ネカフェを申し出たのは、どうしようかと問われたことで、漣先輩が同室に抵抗があるのかと思ったからだった。
「でも、男同士とはいえ、一応俺が上司だろ。変に気遣われて、八神がしっかり休めなかったら嫌だから、俺こそ全然ネカフェでいいし、遠慮なく言って」
「そんな、本当に大丈夫です」
眉目秀麗、知勇兼備。
まだ二十代後半ながら会社のエースとして期待され、今すぐ俳優になれそうな見た目も併さって、男女問わず圧倒的人気を誇る漣海斗先輩。
初めての出張で、かつそんな先輩と同室なんて、緊張しないと言えば嘘になる。
けれどむしろ、そんな体験ができることには、誇らしさすらあった。
同期に報告したら、きっと羨ましがられるだろう。
そもそも、一緒に出張が決まっただけで、みんなから羨望の眼差しを向けられたほどだ。
「じゃあ、大丈夫です、その部屋でお願いします」
漣先輩は振り返ると、受付の女性に柔らかく言った。
再び恐縮する女性を相手にチェックインを済ませると、鍵を受け取り、エレベータで部屋のある五階へ。
「おぉ~、けっこう広いじゃん」
部屋に入ると、漣先輩は無邪気な声を上げた。
普段はあまり見られないような、砕けた様子。
少しプライベートな一面を垣間見られたことに、僕は謎の優越感を覚えながら、あとに続いた。
確かに、思ったよりも広い部屋だった。
余裕のあるスペースにベッドが二つ並んでおり、奥の窓からは、それなりに綺麗な夜景が見えた。
僕は漣先輩のスーツケースの横に、自分のスーツケースを置いた。
「はぁぁ、最高だな」
ふと見ると、漣先輩はスーツを脱ぎもせず、ベッドに大の字になってダイブしていた。
「先輩、スーツ皺になりますよ」
その子どものような姿に、僕は苦笑しながら声をかけた。
「八神も寝転がってみろよ。起き上がれなくなるぜ」
それから漣先輩は、ふと悪戯っぽい笑みを浮かべると、僕のことをまたまっすぐに見つめた。
「今夜は二人っきりだな」
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