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特別編

特別編1 ツインテールの日

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 校門の前に立ち尽くす僕の脇を、多くの生徒が通り過ぎていく。
 いつもは電車の都合もあり、いの一番に帰路へ着くのだけれど、今日は訳ありだ。

【後輩】先輩、今日は先に帰らないで下さいよ! 絶対ですよ! もし帰ったりしたら……分かってますよね?

 午後の休み時間に、前触れもなく送られてきたメッセージ。
 まあ、連絡に前触れなんてないものだけれど。

 もちろん一方的な要求を反故にして帰ってしまう選択肢もあったが、それなりの本気度が伝わってきたので、こうして電車を犠牲にして待ちぼうけている。
 ……後で悲しそうにされても困るしな。

「すみません! 遅くなりました!」

 などと思考を巡らせていると、小走りで後輩が駆け寄ってきた。
 ――頭に、見慣れないおさげを二つ引っ提げて。

「それじゃ、帰りましょうか先輩」

「ああ、そうだな」

 歩幅を合わせて、駅に向かって歩く。
 すると彼女はすぐに話し始める……ことなく、ちらちらと、意味ありげな視線を向けてくる。
 ほらほら、何か言うことありませんか? という意思がありありと伝わってきた。

 それでも黙っていると、ついには頭をぶんぶん振り回し始める。すると短めのツインテールもプロペラの如く回転した。……なんだこの可愛い生き物は。

 このまま眺めていたい気持ちが湧いてくるが、放っておくと髪でビンタをされかねない勢いだったので、観念して口を開く。

「その髪型、どうしたんだ?」

「鈍感な先輩が気づくなんて、さては私に興味深々ですね?」

「……あれだけ全力で主張しておいて、よく言うな?」

「な、なんのことだかさっぱりですね~」

「別に話したくないなら無理には聞かないけれど」

「何でですか⁉ もっと私に興味持ってくださいよっ!」

「僕にどうしろと?」

 相変わらず理不尽な後輩である。

「世間から隔絶された先輩はご存じないでしょうけれど……なんと今日はツインテールの日なんですよ!」

「おい、さり気なくディスを混ぜるな」

「だって、本当のことじゃないですか」

「隔絶されたんじゃなくて、僕が世間を拒否しているんだ」

「突っ込みどころはそこなんですか⁉」

 僕が一人でいるのはあくまでも能動的に、望んだ結果でしかない。
 ……何の間違いか、今は二人になってしまっているけれど。

「ちなみにSNSでも可愛いツインテールのイラストが出回っているので、是非とも検索をオススメします」

「君って二次元に興味あったっけ?」

「可愛いイラストは好きですよ? 可愛いは正義ですっ!」

 可愛いは正義、か。確かに一理ある。
 僕も甘くなりがちだしな。……誰にとは言わないが。

「そんなわけで休み時間に友達と髪を弄り合ったんですけど、結構可愛く仕上がったので、先輩に……その……見て欲しいな……って」

「そうか。自分の可愛い姿を見せたいがために、そのままにしておいたのか」

「わざわざ復唱しないで下さいよっ! ほんと、私を苛めることには容赦がないですよね……」

「今のは自爆だろうに」

「だからって死体を蹴らなくてもいいじゃないですかぁ!」

 恥ずかしさが溢れたのか、真っ赤なふくれっ面で抗議してくる。
 ほんの少しだけ潤んだ瞳で見つめられると、全面的にこちらが悪にされてしまうものだから、まったく正義ってのは厄介だ。 

「ま、なんだ、たまには違う髪型もいいな」

「……それ、褒めてるつもりですか?」

「ダメか?」

「赤点ですっ! もっとハッキリ言ってくださいよ!」

「君はいつも……」

「いつも?」

「……正義だ」

「ふぇ? ……あっ」

 意図したところが伝わったようで、彼女の表情がだらしなく緩む。
 けれどそれは一瞬で、すぐに恨みがましいものに切り替わった。

「だから回りくどいですってば!」

 それくらいは許して欲しいものだ。
 君はいつも鉄仮面やら不愛想とネタにするけれど、僕だって本心をさらけ出すのは恥ずかしいんだからな?
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