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3.入学(後)
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「それと、二人もお願いします」
「わたしは、天空神教の神官を務めておりますボーマス・アンシャルと申します」
直接の上下関係はないのだろう。トーレスがやや丁寧に促した後、まず名乗ったのは、先ほどグレイ以外にもう一人不愉快そうな気配を感じた、やや暗い金髪の痩身の少年だ。
ボーマス・アンシャル。天空神教現教皇ルーカスの長男か。
「はじめましてっ、わたしはマリア! 聖女よ!」
場違いなほどに、明るくはきはきと名乗るのは、可愛く整った容姿をしているのだが、どうも印象が強くない、没個性な茶髪の少女。本人が殊更に強調しているように、天空神教の聖女だ。
つい最近、聖女に認定された平民の少女だったか。生まれた時から聖女だったアイナもそうだが、聖女というのは、聖人の中でも唯一存命中に列聖される存在だ。地母神教の聖女は聖人の書に、天空神教の聖女は聖者の書に、聖女の称号を得ると同時に名と称号が最新部分に記載される。なので、聖女の称号の保持の申告があれば書を精査する。もちろん嘘の申告であれば重い処罰があるだろうが、すぐに確認できる事なので、嘘を吐いた者はいないから、実際どうなるかは分からない。逆に、生活の変化を嫌ったのか、聖女の称号の保持を隠した者は昔居たらしいので、書の確認は適宜行われている。最近聖女の称号を得たマリアは申告して確認したパターンで、生来の聖女のアイナは、赤子が申告できる訳もないので、書の確認で分かったパターンだ。
ここ十数年、地母神教だけに聖女が居る状況だったので、マリアの登場に天空神教の関係者は大分喜んだらしい。歴史を通して、聖女自体が存在していない時期の方が長いんだがな。
「マリアさん。『天空神教の』聖女ですよ。このクラスには地母神教の聖女も居るのですから」
「そ、そうだったわね」
ボーマスの、天空神教に対する拘りが感じられる注意に、戸惑ったようなマリア。
そういえば、彼女は何故か、今日ずっと戸惑ったように挙動不審だったな。俺や、他にも特別クラスの生徒の大部分を不思議そうに見ていたし。かと思えば、国教である天空神教の聖女だからとはいえ、つい最近までただの平民だった割に、スナトやグレイといった高位貴族どころか、皇子であるトーレスにまで、やたらと気安く接していたな。三人の方もそれを自然と受け入れていたし。どうも変な奴だ。あとでちょっとうちの国のやつに調べさせつつ、用心してあまり関わらないようにするか。
二人に挨拶を返しつつも、おかしな少女に警戒心を抱いておいた。
「あら、殿下。そちらの勇者様に、婚約者であるわたくしのことは紹介してくださらないのかしら?」
「アンジェラ……」
「ふふ。皆さま、ごきげんよう。いきなり話しかけてしまい、大変申し訳ございません。ですが、同じクラスだというのに、殿下に忘れられてしまっているようでしたので、いてもたってもいられず、つい」
扇で口元を隠しながら、言葉とは裏腹に、ひどく冷静で、それでいて面白そうな視線を向けてくる、キツイ顔立ちの、しかし華やかで美しい女性。……同年代の筈だが、少女ではなく女性と呼ぶのが相応しい成熟した美しさ。
トーレスに負けず劣らずに眩く豪奢な金髪縦ロールを腰まで伸ばし、豪奢だが趣味は良く纏めて改造した制服にメリハリの利いた艶やかな肢体を包んだ彼女はアンジェラ・ローゼンシュテルン。神聖帝国の四大公爵家が一つローゼンシュテルン公爵家のご令嬢で、彼女の言う通りトーレス第三皇子の婚約者だ。
後ろに二人の取り巻きとおぼしきご令嬢を引き連れて、傍にやって来て、声を掛けた彼女に、トーレスはなぜか僅かに苦々しさを内包した、複雑な表情を浮かべている。
意外だ。ただ無駄になれなれしい、図太いだけの人間じゃあなかったのか。などと、失礼な感想が思い浮かんでしまう。
うぉっ!?
マリアの顔を見て、思わずビビる。さっきまでの挙動不審な姿から一転、一瞬アンジェラに向けた顔は、凄い敵意に満ちていた。すぐに取り繕ったし、そもそもうつむいて隠していたから、気づいたのは俺ぐらいのものだろうが。
おー、こわ。無駄に鋭いのも考え物だな。やっぱこいつらには関わらないように気を付けよう。
その後、アンジェラに不手際を謝罪したトーレスから紹介を受け、挨拶を交わし、取り巻きの二人のご令嬢も紹介される。
ローゼンシュテルン公爵家の寄り子の貴族家のご令嬢で、金髪セミロングのロリッ子マーガレタ・ヴィストック伯爵令嬢と黒髪ポニーテールの凛々しい感じのヴィクトリア・ストリングス子爵令嬢。
ひとまず挨拶を終えた俺は、トーレスに学園の食堂に誘われたが、用事があるからと断り、ようやくその場を辞去した。既に寮に入って、何度か食堂は使ったことがあるが、高位貴族用に個室や特別メニューまであって、味はかなり良い。高位貴族はあの個室で談笑したりなどするのだろう。学園にはかなり大きく設備も整った遊戯室もあるので、食後はあそこでゲームを楽しんだりするのかね。まあ、そんな時間があれば、自己学習や自己鍛錬を行う真面目な生徒も居るだろうけど。
既に他の生徒は教室から居なくなっていた。トーレス達以外にも俺に興味を持っている生徒は居るだろうが、こういう形での関係の築き方は選択しなかった、ってことだろう。正直そっちの方が助かるが。
いや、トーレス達以外の神聖帝国の高位貴族のご令息・ご令嬢である特別クラスの生徒は、序列的にトーレス達に遠慮して動けなかっただけだろうけど。
……しかし、アイナの奴。面倒事を完全スルーしてとっとと帰ってたな。そういうのに関わるつもりはないってことか。気持ちは分かるが。あと、あっさり教室から抜け出してたあたり要領が良いのか、運が良いのか……うらやましい。
「わたしは、天空神教の神官を務めておりますボーマス・アンシャルと申します」
直接の上下関係はないのだろう。トーレスがやや丁寧に促した後、まず名乗ったのは、先ほどグレイ以外にもう一人不愉快そうな気配を感じた、やや暗い金髪の痩身の少年だ。
ボーマス・アンシャル。天空神教現教皇ルーカスの長男か。
「はじめましてっ、わたしはマリア! 聖女よ!」
場違いなほどに、明るくはきはきと名乗るのは、可愛く整った容姿をしているのだが、どうも印象が強くない、没個性な茶髪の少女。本人が殊更に強調しているように、天空神教の聖女だ。
つい最近、聖女に認定された平民の少女だったか。生まれた時から聖女だったアイナもそうだが、聖女というのは、聖人の中でも唯一存命中に列聖される存在だ。地母神教の聖女は聖人の書に、天空神教の聖女は聖者の書に、聖女の称号を得ると同時に名と称号が最新部分に記載される。なので、聖女の称号の保持の申告があれば書を精査する。もちろん嘘の申告であれば重い処罰があるだろうが、すぐに確認できる事なので、嘘を吐いた者はいないから、実際どうなるかは分からない。逆に、生活の変化を嫌ったのか、聖女の称号の保持を隠した者は昔居たらしいので、書の確認は適宜行われている。最近聖女の称号を得たマリアは申告して確認したパターンで、生来の聖女のアイナは、赤子が申告できる訳もないので、書の確認で分かったパターンだ。
ここ十数年、地母神教だけに聖女が居る状況だったので、マリアの登場に天空神教の関係者は大分喜んだらしい。歴史を通して、聖女自体が存在していない時期の方が長いんだがな。
「マリアさん。『天空神教の』聖女ですよ。このクラスには地母神教の聖女も居るのですから」
「そ、そうだったわね」
ボーマスの、天空神教に対する拘りが感じられる注意に、戸惑ったようなマリア。
そういえば、彼女は何故か、今日ずっと戸惑ったように挙動不審だったな。俺や、他にも特別クラスの生徒の大部分を不思議そうに見ていたし。かと思えば、国教である天空神教の聖女だからとはいえ、つい最近までただの平民だった割に、スナトやグレイといった高位貴族どころか、皇子であるトーレスにまで、やたらと気安く接していたな。三人の方もそれを自然と受け入れていたし。どうも変な奴だ。あとでちょっとうちの国のやつに調べさせつつ、用心してあまり関わらないようにするか。
二人に挨拶を返しつつも、おかしな少女に警戒心を抱いておいた。
「あら、殿下。そちらの勇者様に、婚約者であるわたくしのことは紹介してくださらないのかしら?」
「アンジェラ……」
「ふふ。皆さま、ごきげんよう。いきなり話しかけてしまい、大変申し訳ございません。ですが、同じクラスだというのに、殿下に忘れられてしまっているようでしたので、いてもたってもいられず、つい」
扇で口元を隠しながら、言葉とは裏腹に、ひどく冷静で、それでいて面白そうな視線を向けてくる、キツイ顔立ちの、しかし華やかで美しい女性。……同年代の筈だが、少女ではなく女性と呼ぶのが相応しい成熟した美しさ。
トーレスに負けず劣らずに眩く豪奢な金髪縦ロールを腰まで伸ばし、豪奢だが趣味は良く纏めて改造した制服にメリハリの利いた艶やかな肢体を包んだ彼女はアンジェラ・ローゼンシュテルン。神聖帝国の四大公爵家が一つローゼンシュテルン公爵家のご令嬢で、彼女の言う通りトーレス第三皇子の婚約者だ。
後ろに二人の取り巻きとおぼしきご令嬢を引き連れて、傍にやって来て、声を掛けた彼女に、トーレスはなぜか僅かに苦々しさを内包した、複雑な表情を浮かべている。
意外だ。ただ無駄になれなれしい、図太いだけの人間じゃあなかったのか。などと、失礼な感想が思い浮かんでしまう。
うぉっ!?
マリアの顔を見て、思わずビビる。さっきまでの挙動不審な姿から一転、一瞬アンジェラに向けた顔は、凄い敵意に満ちていた。すぐに取り繕ったし、そもそもうつむいて隠していたから、気づいたのは俺ぐらいのものだろうが。
おー、こわ。無駄に鋭いのも考え物だな。やっぱこいつらには関わらないように気を付けよう。
その後、アンジェラに不手際を謝罪したトーレスから紹介を受け、挨拶を交わし、取り巻きの二人のご令嬢も紹介される。
ローゼンシュテルン公爵家の寄り子の貴族家のご令嬢で、金髪セミロングのロリッ子マーガレタ・ヴィストック伯爵令嬢と黒髪ポニーテールの凛々しい感じのヴィクトリア・ストリングス子爵令嬢。
ひとまず挨拶を終えた俺は、トーレスに学園の食堂に誘われたが、用事があるからと断り、ようやくその場を辞去した。既に寮に入って、何度か食堂は使ったことがあるが、高位貴族用に個室や特別メニューまであって、味はかなり良い。高位貴族はあの個室で談笑したりなどするのだろう。学園にはかなり大きく設備も整った遊戯室もあるので、食後はあそこでゲームを楽しんだりするのかね。まあ、そんな時間があれば、自己学習や自己鍛錬を行う真面目な生徒も居るだろうけど。
既に他の生徒は教室から居なくなっていた。トーレス達以外にも俺に興味を持っている生徒は居るだろうが、こういう形での関係の築き方は選択しなかった、ってことだろう。正直そっちの方が助かるが。
いや、トーレス達以外の神聖帝国の高位貴族のご令息・ご令嬢である特別クラスの生徒は、序列的にトーレス達に遠慮して動けなかっただけだろうけど。
……しかし、アイナの奴。面倒事を完全スルーしてとっとと帰ってたな。そういうのに関わるつもりはないってことか。気持ちは分かるが。あと、あっさり教室から抜け出してたあたり要領が良いのか、運が良いのか……うらやましい。
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