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お茶会をまずは乗り越えましょう(1)
しおりを挟む「クリスティーナ様、このお菓子、本当に美味しいです」
ミュリエルがクッキーを頬張りながら、嬉しそうに笑う。
「あら、クリスと呼んでいいのよ。貴方には愛称で呼ぶ事を許すわ」
「わぁっ、ありがとうございます、クリスさまっ」
にこにこ、にこにこ。
中の上の顔立ちといったけれど、訂正。
笑顔が本当に可愛いなぁ。
思わず、頭を撫で撫でしたくなる懐っこい笑顔だ。
可愛い物好きのお姉様も、ふふっと微笑んでいる。
ミュリエルは最初こそ恐る恐るといった感じだったけれど、もともと素直で明るい性格なんだと思う。
私が笑顔で話しかければ、どんどん緊張が解れていって、その分笑顔の魅力が増していく。
侯爵令嬢たる私が気に入った子なら、当然、伯爵令嬢以下のご令嬢達も、ミュリエルを無碍には出来ない。
このお茶会の主役はルーリル=バーレンダ伯爵令嬢だけれど、一番身分が高いのは私とお姉様だ。
なので、本心はともかく、みんな男爵令嬢のミュリエルに優しく接しだす。
すると、どうなるか。
「ミュリエルはドレスが縫えますの? 素晴らしいですわ」
「えっと、お母様が、裁縫が得意だったんです。でもわたしは、お母様みたいには縫えなくて」
「刺繍も得意なのでしょう? そのハンカチはご自分で刺繍を?」
「はいっ、刺繍は、何とか出来るようになりましたっ」
含みのある笑顔とは違う、ミュリエルの心からの笑顔に、ご令嬢達が落ちた。
最初は貼り付けた笑みを浮かべていたご令嬢達が、今では普通に笑っている。
さすがヒロイン、懐っこい。
私が気にいった事を示す行動はとったけれど、さすがにこのお茶会の一日でご令嬢達の心を鷲づかみするとは思わなかった。
まぁ、いま一番ミュリエルが笑顔を向けてくれているのは私だけれどね。
ミュリエルと仲良くなっておかないと、この先、未来で色々大変なのだ。
そう、未来。
決して遠くない、来週からの学園生活を思うと、ミュリエルと仲良くなっておく事は必須といえる。
なぜなら――。
「まぁ、ミュリエルはお洋服が買えませんの? それなら、わたくしの服を差し上げてもよろしくてよ」
お姉様の言葉に、場が凍りつく。
まさに、ぴたっと皆の動きが止まった。
そう、悪気なく悪意なくお姉様がミュリエルを傷つける可能性が高いから、側で見ていないとまずいのだ。
お姉様には着ていないドレスが山ほどある。
頂き物だったり、購入したのはいいものの、着る機会がなかったり。
ほぼすべて赤系だから、どのドレスを着てもあまり変わらないから余計だと思うけれど。
だから、試着しただけで一度も着る事のないドレスが衣裳部屋に沢山眠っているのだ。
でもこれ、妹の私だからわかっているけれど、初対面のミュリエルには解らないですから。
お姉様としては、未使用のドレスをプレゼントするつもりなのでしょうけれど、言葉が足りない。
整いすぎたキツめの顔立ちもあいまって、
「わたくしのドレスを恵んであげてもよろしくてよ。お古だけれど。オーッホッホ!」
って脳内で意訳されちゃう。
お古なんて、よほど仲良くなければ喜ぶ令嬢はいませんからね?
いえ、仲が良くても屈辱じゃないかしら。
ちなみにミュリエルは正確には洋服が買えない訳じゃない。
買おうと思えば買えるけれど、節約しているのだ。
乙女ゲームの設定と同じなら、平民として暮らしていた経験のある彼女は、働きもせずに無闇にお金を使うことに抵抗があるはず。
彼女は、つい最近まで市井でアルバイトをしていたはずだから。
「お姉様。お姉様はドレスを仕立てても、一度も着ないでそのまま衣裳部屋に沢山おいてありますものね。
使わないままでしまわれているよりも、ミュリエルに着てもらった方がドレスも喜ぶでしょう。
それと、一緒に王都のドレス専門店にお誘いしませんか?
いつもはデザイナーを屋敷に招いていますけれど、たまには皆で選ぶのも新鮮ではないかしら」
着たことのないドレス、という点を強調しつつ、別の提案もしてみる。
お古じゃないんですよーというアピールだ。
「まぁ、クリスティーナ。それはいい案ね。きっと楽しい時間が過ごせると思うわ」
ふふっと上品に笑うお姉様に、ご令嬢達もふふっと笑う。
凍り付いていた場がほんわかと緩んだ。
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