モブ令嬢ですが、悪役令嬢の妹です。

霜月零

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ゲームになくともかわして見せます(2)

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 これ、このシーン……。
 思い出せたわ。
 ボーナスステージ!

 画面いっぱいのレンガの背景の上部に、三頭身のマリー様と、馬車。
 そして、画面の下のほうに、こちらもデフォルメされたお姉さまのイラスト。
 
 ボーナスステージのミニゲームは簡単で、画面上のマリー様が、下にいるお姉さまに、焼き菓子をいっぱい投げつけてくるのを受け止めるだけ。
 ただし、焼き菓子と一緒に足を踏み鳴らしながら投げつけられる罵詈雑言――『大っ嫌い!』『馬鹿!』『おに―さまはわたくしのものです!』などなど――を、すべて避けなければいけない。
 焼き菓子はたくさん集めると課金アイテムと同じ効果を持つアイテムに変えれるけれど、罵詈雑言は一個当たるごとにHPが減っていく。
 HPが0になっても死ぬことはなかったけれど、HPが回復するまで何も行動ができなくなる。
 HPはゲームだと♥マークで表示されていて、何か行動をするとハートが半分ずつ減っていく。
 時間経過で回復していくけれど、マリー様の罵詈雑言をくらうと、一気にハートが一個ずつ減っていってしまう。

 ……何のシーンかを思い出すことはできたけれど、選択肢がないじゃない。

 スチルのあるシーンなら大抵いくつかの選択肢が出てくるけれど、これはミニゲーム。
 選択肢なんてない。
 罵詈雑言を回避しなければいけないけれど、ゲームなら左右にキャラを動かすだけで避けれたあれを、現実ではどう避けるのが正解なのか。
 身体を左右に揺らす?
 いえ、あり得ないわね。

「そういえばぁ、ルシアンティーヌはお兄様とオペラを見に行くつもりでしょう? でもお兄様はわたくしと一緒に見たいと言っていたのよ。あなた、まさかついてくるつもりないわよねぇ?」

 絶対に来ないで!
 そんな強い怒りを漲らせながら、マリー様はお姉さまに詰め寄る。
 ミュリエルが心配そうに口を開きかけるのを、ビターがさっと止めた。
 うん、ビター、偉いですよ?
 ここでミュリエルにマリー様の矛先が向いたら、どうなってしまうかわからない。
 相手は公爵令嬢。
 侯爵家の私よりも立場が上の彼女にミュリエルまで睨まれたら、守り切れるとは思えない。

 そしてお姉さま。
 マリー様の罵詈雑言を一身に受け止めているように見える。
 かわせていないから、HPが、というより精神ね。
 どんどんすり減っていっているのが手に取るようにわかる。
 
 あぁ、もうっ。

「マリーゴールド様、そろそろフロランタンが焼きあがるころではないでしょうか」

「えっ、焼き立てなの?」

 お姉さまを睨みつけていた琥珀色の瞳が、くるっと私に向き直る。
 
「甘い蜂蜜の香りが漂っていますでしょう?」

「蜂蜜は、マドレーヌでしょっ。わたくしを馬鹿にしているの?!」

「確かにマドレーヌも蜂蜜ですね。マドレーヌかフロランタンか、中に入って確認してみませんか」

「どーして、あなたたちなんかと一緒に入らなければいけないのよ」

「一緒でなくともかまいませんが、ここでお話ししている間に焼き立てが冷めてしまわないとよいのですけれど」

「くっ……」

 私たちと、お店と。
 マリー様は何度も見比べて、ふんっと鼻を鳴らす。

「一緒に入ろうと思っているわけではなくってよ。勘違いしないでよねっ」

「えぇ、存じております」

 ちょっと悔しそうに、でも焼き立ての誘惑にあっさりと負けたマリー様のために、私は店のドアを開けて中に促す。
 深緑色のドアを開けた瞬間、より一層甘い焼き菓子の香りが溢れてくる。

 あ、いい香り。
 お腹が鳴ってしまいそう。

 思わず現状を忘れてしまいそうな香りだわ。

 マリー様も、甘い香りと目の前に広がる焼き菓子の誘惑に目が釘付けになっている。
 私たちのことをさくっとほっぽって、とてとてとフロランタンをショーケースに並べる店員のそばへ行く。

 あぁして目を輝かせてお菓子を見ている姿は、愛らしいんだけどなぁ……。

 口を開けばお姉さまへの悪口ばかりの彼女も、黙っていれば天使だ。
 
 マリー様に続いて、お姉さまとミュリエルとビターが店の中に入る。
 よかった、お姉さまの顔に生気が戻ってきている。
 さっきまで、明らかに顔色の悪かったお姉さまも、お菓子の香りで嬉しそうよね。
 
 マリー様の罵詈雑言をかわす選択肢がわからなくて、とっさに口をはさんでしまったけれど。
 なんとかお姉さまのHPがなくなる前にどうにかなったかな。

「美味しそうです……っ」

 ずっと固まってたミュリエルが、甘い香りにうんうんと頷く。
 ビターもそんな彼女の頭をぽふぽふとなでながら、「フロランタンも焼き立てだったね」って笑う。
 
 そう、フロランタンが焼き立て。
 本当にあるのは運がよかったとしか言いようがない。
 
 
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