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デートですが私はこれをデートだとは認めません(2)
しおりを挟むそこには、ロイスが面白そうに紫の瞳を細めて笑っている。
すっかり、存在を忘れていたわ。
というより、最後まで忘れていたかった。
「いえ、そんなことはありませんわ。素晴らしい歌声ですもの」
舞台の上では、美しいヒロインがその美声を余すことなく披露している。
澄んだ歌声は、お姉様と二人で観に来ていたなら、私も舞台に見入っていたんじゃないかしら。
ただ、ねぇ……。
どうして、ロイスと来る羽目になったのでしょうね?
私は盛大にため息をつきたいのをぐっとこらえ、舞台に集中する振りをする。
ルシアンお姉様とレーゼンベルク様も観るのを楽しみにしていたから、このオペラを私も観ることに否定はない。
でも。
ちらっと扇子の影からロイスを伺うと、やっぱり面白そうに私をみていて、居心地が悪い。
『週末楽しみにしているよ』
洋菓子店からの帰りの馬車でロイスはそう言っていたけれど、私ははっきりきっぱり断っていたし、それで済んだと思っていたのだ。
けれど昨日学園で、ロイスに捕まりこのオペラのチケットとともに言われたのだ―― お姉様とレーゼンベルクが心配じゃない?――と。
マリー様とは洋菓子店で出会ってしまったから、フロランタンではなくマドレーヌのプレゼントがどこまで有効かわからないし、マリー様がどんな嫌がらせをお姉様に仕掛けてくるかわからない。
レーゼンベルク様だってお姉様一筋の人だけれど、それ故に、お姉様を独占しようとしすぎてトラブルを起こす可能性は十分にある。
そして肝心のお姉様は無自覚天然令嬢だ。
不安しかないし、側で見守れるなら、見守りたい。
何か起こったら、偶然を装って止めに行きたい。
破滅の運命を回避するという目標が私にはあるけれど、お姉様とは双子の姉妹。
お姉様が傷つけられたりするのは、正直言って避けたい。
大事な家族なのだから。
それには、同じ場所にいる必要があるわけで……。
ぐぬぬと悩む私の前に、ロイスはぴらっと座席表を見せた。
お姉様たちをばっちり見れて、なのにお姉様たちからは気付かれ辛い絶妙な座席の位置と、チケットの席番を示されて、私は渋々、本当に渋々ロイスとのデートに応じることになったのだ。
お姉様たちを見守れるのはありがたいけれど、なぜにロイスといなければならないのか。
ロイスがかまうのは、本来はヒロインであるミュリエルでしょう。
庶民育ちのミュリエルは、表情豊かで愛くるしい。
あまり感情を表さないことが基本である貴族令嬢に囲まれているロイスにとって、ミュリエルは興味深い相手になるのだ。
ゲームならだんだんとフラグを回収して、興味から恋愛感情へ変わっていくのだけれど、現実ではちょっかい出されているのはなぜか私。
ビタールートを進みつつあるミュリエルに興味をもたれるよりは、いいと言えばいいのだけれど。
私に婚約者はいませんし、モブの私が攻略対象のロイスといようと、おそらく、いえ、絶対、破滅ルートとは関係ないでしょうから。
そうでなければ、この世界は破滅しかないはず。
だって、すべての人が清く正しく真っ当なカップルとして生きているなんて、そんな幻想、ありはしないのですから。
パーティーに行けば、否が応でもいろいろと噂が入ってきますからね。
どこそこの伯爵夫人と男爵家の……とか。
噂が真実とは限らないけれど、そのいくつかの現場を見た事のある私としては、ロイスが私にかまっていても、破滅は無いと信じたい。
でも、私にロイスの興味を引くような、面白い要素なんて何もないと思う。
子供の頃から知った仲だし、昔は一緒に木登りしたりなんだり、一緒にメイド達を困らせたりしていたけれど、今の私は当然、木登りなんてしませんし。
表情だってそう。
お姉様よりは表情が出やすいとは思うけれど、それでも、一般貴族令嬢の域を超えたりはしていないはず。
ミュリエルのように、愛くるしい笑顔なんてしていないはず。
乙女ゲームの中でも私の立ち位置はモブだったから、これといって特徴的な特技もない。
双子だから、悪役令嬢たるお姉様と顔がそっくりだというだけ。
私の何がロイスの興味をひいてしまったのか、まるで分らない。
破滅エンドを逃れるためにも、お姉様とミュリエルのこと以外で頭を悩ませたくないのだけれど。
何度目かの溜息をググっと押し殺し、私は扇子を握りしめる。
――ロイスの視線は、劇の間中ずっと感じることになった。
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こんばんは(⌒▽⌒)
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ご感想、ありがとうございました!