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みんないっしょのなのかめそのさーん!
しおりを挟む朝食を終えたので、そのままキッチンのダイニングテーブルの椅子に腰掛けながら話し合うことにした。
「んじゃ、ギルドハウスの間取り決めよ」
「はーい」
ドラゴさんは相変わらずいいお返事である。
おかげでハーツさんの声かき消されてるんよな。仕方ない気はするけど。
「……間取りって言っても何が必要なんでしょう」
「客間とか、応接室とか?」
「いるのそれ」
いるよ。
何言ってんのドラゴさん。
「今後どんな人が来るかわかんねェんだから、そゆの一個ずつはあるべきじゃね」
「なるほど、お客さんが来ないとも限らないもんね」
「そうそう」
そんな訳で、普段ギルドハウスの内装作る時みたいに好き勝手されるとちょっと困るんよね。
それでも、ある程度は好き勝手していいんだけど、来た人が怯えるような内装はやめてほしいというか。
ドラゴさんがそんなヒトじゃないことは分かってるんだけど、天然で職人気質だからね。一応の保険です。
「うーん、二階ですと案内するのもめんどくさいですよね」
「いっそ余裕のある地下室を改造するとかどうすか」
「なんで地下?」
不思議そうなドラゴさんに、ドヤ顔で言い放つ。
「そいつらがクソだった場合そのまま扉を封鎖して地下に収納」
「それ独房っていわない?」
「バレたか」
そんなしょうもないやり取りをしながらの話し合いの結果、大体の方針が決まった。
一階右手側はキッチンとトイレとお風呂で埋まっているので、左手側に応接室と客間を二つ。二階の三部屋は三人の個人部屋に、随時改装予定とした。
ちなみに今寝床にしてる部屋は三人の部屋が完成するまで使って、その後は予備の客間、または住人が意図せず増えてしまった場合の部屋にする予定である。
人生どうなるか分からんから、もしかしたら誰か彼女や恋人作っ…………いや、それは無いな……。
出来ても弟子みたいなそんなんだわ。うん。
……よし、なにも考えなかった。それでいい。
複雑な気持ちをどこか空中を見ることで誤魔化しつつ、ふと、とあることを思い出した。
「そういやアレはどうなったんだろ」
「アレってなんです?」
曖昧すぎる表現だったのは自覚があったので、改めて言い直すことにする。
「えーと、ほら、ケット・シーさん」
「あぁ、別名アイテム倉庫さん」
ゲーム内で持ちきれない所持品やお金を預かってくれたり、連れて歩けば一緒に戦ってくれたり、周囲からアイテムを採取してくれたり、ギルドハウスに専用家具を設置すれば、プレイヤー専用フリーマーケットに要らないものを売りに出して来てくれるようになる、とても素晴らしい子達である。
プレイヤーが好きに毛色や毛量を変えたり様々なカスタムが出来るのが最大の魅力で、なんならゲームでは主力マスコットキャラとしてグッズが出たりもしていた。
「かわいい猫なんだからそんな呼び方したくない」
「そういや猫好きだったねドラゴさん」
お猫様って呼んだ方がいいンかなこの場合。
一応ゲーム内では基本的にマイキャットって呼ばれてたけど。
なお、一人一匹までしか持てないのが難点かもしれないが、アイテム倉庫と呼ばれるだけはある程度には持ち物欄が大容量で、外見カスタムは課金すれば何度でも出来る。基本的に一匹居るだけでめちゃくちゃ便利なので、気にする人はサブキャラを作ってマイキャットを増やすのが定番だった。
『わたくしの出番ですね!』
そして案の定、どこからともなくワタナベさんが飛び出してくる。
いつも思うんだが、お前普段どこにいンの?
『ケット・シー呼び出しベルですが、ギルドハウスの家具のひとつとして置いてあったのでそのまま倉庫に入れてあります!』
「おぉ」
まじかぁ。
「……それ使えばゲームではマイキャットが出て来たけど、こっちでも出てくンの?」
『出て来ますよ! 皆さんすぐ所持品いっぱいにしそうだったので、ギルドハウスの地下倉庫じゃ追いつかない気がしまして』
「間違いない」
アイテムって気付いたらめちゃくちゃ溜まってるしどんどん増えてくもんね。
……ん?
「ってことは、マイキャットにマジでこっちで会えるん?」
『会えますよ! こちらの世界でも使い魔とか従魔とかそういうのがありましたので、そういう感じです!』
「なるほど」
「ちょっと行ってくる!」
「いてらー」
話を聞き終わるか終わらないくらいのタイミングで、ドラゴさんが勢いよくキッチンの出入口から駆け出して行った。
「ただいまー!」
そしてすぐに戻ってきた。
「早っ」
「なんか地下倉庫入ってすぐそこにあった」
「なるほど」
そりゃ早い。
ちなみに地下倉庫は玄関から見える正面の階段を挟むようにある二つの扉のうち、右側の扉から階段を降りた先にある。
なお左手側の扉は地下部屋なので、また内装を色々とドラゴさんが頑張る予定なんだと思う。
「とりあえずここに置くね」
ゴトン、と重厚感のある音を立てながら置かれたそれは、黄緑色した大きなふわふわのエノコログサ、つまり猫じゃらしで、モフモフのすぐ下に金色の大きなベルがピンクのリボンで括り付けられているという、不思議な形をした家具だった。
これを鳴らす時は、棒の部分を掴んで前後に揺らしたりするだけなのだが、しかし。
「…………ゲームで見てた時も思ってたけどさ」
「うん」
「無駄に可愛いですよね、このベル」
「それな」
シックな作りのギルドハウスにこんなファンシーなのが置いてあるとか、めちゃくちゃ浮いて見える。
ゲームだと、バグを利用して壁の中に埋め込んだりしてたからそんなに気にしてなかったけど、現実だとどこに置いたら良いのか不明だ。
談話室とか作ってそこに置くべきなのかね。それはそれでめんどくせェな。
今はこのままキッチンに設置しといて、またあとでみんなで考えよ……。
「とりあえずみんな一回ずつ鳴らしてみよう!」
「それもそうですね」
ドラゴさんがいつになくめちゃくちゃはしゃいでいる。楽しそうでなによりです。
「じゃあまずはハーツさんからどうぞ」
「わかりました」
「やったー! ハーツさんとこのマイキャットかわいいんだよなぁ……!」
どうせアタシんとこのマイキャット、デフォルトだから面白みとか無いし、一番あとでいいや。
そんな考えでハーツさんを最初に指名してみたら、ドラゴさんは予想外に大賛成してくれた。
へえー、ハーツさんのマイキャットかわいいんだ。
「鳴らしますね。よいしょ」
ハーツさんが、エノコログサの棒の部分を掴んで揺らす。
するとフサフサしたエノコログサがフワンフワン揺れるのと同時に金色のベルから、チリンチリーンと澄んだ音が響いた。
『にゃー!』
元気で可愛い声が聞こえたその時、ポンッと小さな音を立てながら、真っ白な仔猫が空中から飛び出した。
「……かわいい……」
『ごしゅじんですー?』
しゅたっと着地したのは、生後三ヶ月くらいのぱやぱやした毛の白い仔猫だ。ちょんっと座りながらショタボイスで喋っている。背中の小さな水色のリュックが更なる可愛さを醸し出していた。
仔猫はそのまま、アイスブルーの綺麗な目でハーツさんをみつめながら不思議そうに首を傾げた。
「えっ、かわいい」
『はいですー。かわいいかわいいつくねちゃんなのですー!』
ゲーム内だと簡単なテキストのみなのでボイスが付くとものすごく新鮮だ。それが理由だからなのか、ハーツさんの語彙力が死んだ。
つーか、ハーツさんこの子の名前付けるときお腹空いてただろ絶対。なんで鍋とかおでんの具なんよ。めっちゃかわいいな?
「やだかわいい」
「かわいいの権化かよ」
小さな仔猫がショタボイスで表情豊かに喋っているからか、みんなデレデレだ。しかたないね。
『あれぇー? ごしゅじん、なんだか老けましたですー? シワふえてるですー。元がイケメンでよかったですー、ただのおっさんになるとこだったですー、よかったですー』
「まさかの毒舌キャラ」
「子猫だから許される」
「かわいいは正義」
そんな口調の毒舌仔猫とかキャラ濃いけど、かわいいから許せる不思議。
『ごしゅじん、ごようはなんですー? できればめんどうくさいのはやめてほしいのですー』
「あんまりかわいいから忘れてましたね。所持品の整理をさせてください」
『わかりましたですー。はやく寝たいからさっさと終わらせるですー。あとついでにボクの頭撫でるですー、ボクを褒め称えるですー』
「……かわいい……」
なぜだろう。ものすごく傲岸不遜なことしか言ってない仔猫なのに、ものすごくかわいい。
理由の分からない可愛さにドラゴさんは困惑しているが、しかし、このアタシの目にァその理由は明らかだった。
このつくねちゃん、ハーツさんのことが大好きなのだ。
なぜなら、ハーツさんの足元でノドごろごろうろうろすりすりおててぐっぱぐっぱしているからだ。
どれも甘えてる時にしか出ない行動である。
何だこの子かわいいなぁ!!
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