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No.1
21 奴隷って名前が無いの?
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氷を薄く敷き詰めたそこそこ大きなガラスの器にソーメンを一口サイズに丸めて置く。飾り用のシダ類の葉をいい感じに添えて、とりあえず10人ぐらいが食えそうな量を用意してみた。
そしてハバキ達3人がわんこそばでも食ってそうな速さであっという間に食べてしまい、マリアとシルビィに怒られていた。
「めんつゆってアリだな」
「あぁ、あれだけでも飲めそうなぐらいにアリだ」
「ソーメンを食べた後に少し薄くなって冷えためんつゆは美味しかったですね」
「あんた達のせいでこっちはあまり食べられなかったんだけど…」
「今度から麺類を作る時は個別に用意しないとダメだな」
「やっぱり暑い日は冷たい食べものがイイネ♪」
ファウストの街の辺りは冬場でもそこそこ暖かいらしいが、今は夏に近づいている季節らしく、日々暑くなってきている。
「街の門番とか夏場は大変だからなぁ」
「確かに。半日立ってたら倒れる奴も出てきますからね」
「でもここは海の上だし装備が金属鎧じゃないからかなり楽だろうな」
セルビスが壁と床の境目辺りに視線を向けて実感のこもった様子で言った。確かその視線の辺りの壁の先には浮き桟橋の警備の任に就いている兵士達がいるはず。
そう言えば街中で見かけた兵士はこの間までセルビスとラルクアが着ていた金属の鎧を使っていたが、浮き桟橋の警備をしてくれている兵士は皮の鎧を使っている。やっぱり海に落ちたら溺れる可能性があるから変えてるのだろうな。
「そう言えばセルビスとラルクアの装備も変わったけど、それも海に落ちた時に対処する為なのか?」
このあいだまでは金属鎧を身に付けていたが、今は少し鋭角的なデザインでスタイリッシュなイメージの布製の服を身に付けている。
「これは魔法で強化された装備でな、素材も魔物由来の強靭なものを惜しみもなく大量に使って作られているらしいぞ」
「一応この装備は領主が王都に出向く時などに親衛隊が装備する為に作られているもので、かなり高価なんですが、今回マサルさんとマリアさんを護衛する私達には必要だろうという事になって配備されました」
「領主のヨーセフ様がマサルとマリアの2人と大黒丸の事をかなり重要な存在と考えているみたいでな、少し先の話になるが、浮き桟橋の近くまで護岸工事をして堤防を延ばすような事まで検討していたぞ」
「大黒丸を堤防に横付けできる様になったら、荷を運び出すのも載せるのもかなり楽になるからそれは助かるな」
実際にそれが完成するのは何年も先の話になりそうだが。
「そう言えばマサルとマリアは奴隷の名前は考えてるのか?そろそろ決めておかないと、その場で決めるとなると大変だぞ」
ハバキがいきなり話題を変えてきた。名前を決めるって…奴隷ちゃんの?
「なぁ、猫とか犬の子供を拾ってくる訳じゃないのになんで名前を付ける必要があるんだ?」
「…そうか、マサルは知らないか」
「奴隷を買った事のある人か売った事のある人ぐらいしか名前の事は知らないでしょう」
「そうだな。俺もそれを知ったのってけっこう最近だったな」
なんか名前を付ける必要があるのは間違いないらしい。
「ハバキ隊長、とりあえずお二人が困っておられるので、詳しく教えて差し上げてください」
シルビィがマリアと俺に少し視線を向けながらハバキに説明する様に促した。
「あぁ。実は奴隷を売買する為にはそれまで使っていた名前を捨てなければならない。理由は簡単で、それまでの名前で呼ばれていたら、いつまでたっても奴隷は自分のそれまでの生活の事を忘れられないらしくて、元の生活に戻る事を諦められずに反抗的な態度を取ったり逃げたりするような事があるそうでな。だから奴隷になった時に名前を魔法で封印されて買われる時に名前を新しく付けて新しい人生を始められる様にする事になったんだ。確か500年ぐらい前にそんな法律が出来てずっとその様に扱われてきてるから、奴隷の子達には、今、名前が無いはずだ」
名前を封印するなんて事は俺達の元々いた場所では暴力的な行為でしか成り立たない。それか質に取った何かを盾に強要するなどしなければそもそも無理だろう。でも完全な状態で名前を取り上げるなんて事は出来ない。でも、魔法であれば、それが出来るのか。
人の名前は生まれた時に付けられる唯一無二のもの。それを取り上げられたら…どんな境地になるのか想像もつかないな。でも、それまでその名前で呼んでいた人も呼ばれていた人もその繋がりが確実に阻害されそうなのは分かる。どこか見知らぬところで知り合いに出会ったとしても名前が変わっていれば本人認定が出来ないかもしれない。
「なるほど、その決まり事を考えた奴ってかなり頭の切れる奴だな」
「そうなの?」
「あぁ、それは間違いないな。その法律ができる前と後では奴隷の扱いが全く違ってるらしいぞ」
「…よく分からないなぁ。名前が取り上げられるってのがそもそも想像もできない」
「マリア、人って何かを記憶する時に名前をキーにしているのってなんとなく分からないか?俺が料理する姿を思い出す時名前がキーになるだろ?『マサル』『料理』『大黒丸』『厨房』なんてワードが合わさると俺のいつもの姿がパッとイメージできると思うが、そこから俺の名前を抜いてイメージしてみたら一気に輪郭がぼやけないか?」
「うん。マサルが料理してるイメージもあるけどそれ以外にあたしが何かしてる姿とかハバキがビールとって来る姿なんかもチラチラ頭の中に見える気がする」
「ハバキ、お前もうちょっと飲むの控えた方がいいんじゃないか?」
「ん?そうか?」
ビールは何ヶ所ものコンテナの中から見つかってるから、好きに飲んでも構わないんだけどね。
「まぁそんな感じに個人を特定する名前って記憶の精査をする場合にかなり大きなウェイトを占めてるんだ。だからそれが封印されると親しい者達でもお互いを認識しづらくなってしまうかもしれない」
「ふーん…何かそれって怖いね」
記憶を勝手に覗かれなくなる封印のペンダントに指を添えて眉をひそめるマリア。
「そこまでの考察が出来るマサルさんって今までどんな仕事をしてこられたのですか?料理人になる前の話ですが」
「ん?俺の前歴?」
「えぇ。そこまで深く考察できるのは王都の各分野の分析官などの王立教導院をかなり良い成績で卒業した人でないと出来ないと思います」
「確かにそうだな」
「あの人達って頭が良すぎてたまに何を言ってるのか分からない。なんて人もいるそうですから」
「マサルの言ってる感じの理由があるからか知らんが、その魔法が使われるようになってからはほとんどの奴隷が元々住んでいた所に戻ろうとしなくなった、なんて話がある」
「マサルさんは一回ぐらい最近立ち上がったばかりの燃料研究室のミライさんと話をしたらいいかもしれませんね」
「あー確かにな。あいつも急に何を言い出したのか分からなくなることがあるな。今俺と話してたって時にいきなり独り言をつぶやき始めるような事をよくして気持ち悪いんだ。確かにマサルなら話について行けるかもしれねぇ」
シルビィとセルビスの言うミライって奴は、今の説明だと早口オタク脳でも持っている感じに聞こえる。
「まぁその何某さんがどんな奴なのか知らんが、俺は大学を出て一回普通に就職したけどその仕事が合わなくて辞めて、大学行ってた頃にアルバイトしていたファミレスの仕事を認められて船に乗る様になったって感じで、それほどいい所でいい成績を残したって訳でもないんだがね」
「でもニッポンってすごく頭のいい人が多いってよく聞いてたよ?」
「一握りの天才ってのはどこにでもいるもんだぞ?そんな人のイメージに引っ張られてるんじゃないか?」
その後少しの間奴隷の名前の案をみんなで出しつつ食事を終え、午後から領主の館に行きヨーセフさんにEVビークルの話を匂わせておいて、マリアの侍女と奴隷ちゃんズの教育係を船に派遣してもらう話をして、その日は終わった。
ちなみに船に戻るのがちょっと遅くなったので、特別な料理ってのはレトルトのカレーになってしまったが、今回も3人が涙を流しながらウマイを連呼しつつ、それにシルビィさんも混ざって喜んでいたのでそこそこ満足してもらえたと思う。
次の日…
「さぁとりあえず救命ボートも一応2台引っ張り出してきたし、獣車も確保した。忘れ物はないよな?」
「奴隷を迎えに行くのに奴隷を運ぶ専用の獣車を用意するとか前代未聞なんだが、大丈夫だからさっさと入れ」
奴隷商の建物の前に獣に引かれた車両が3台ほど並んでいる。ちなみにこの獣車を引いているのはここらでビバーって名前で呼ばれているそこそこ巨大な爬虫類。コモドオオトカゲを3倍ぐらい大きくして長さを半分ぐらいにギュッと縮めたスタイルといえばイメージできるだろうか。こいつはここらあたりのけっこう広い範囲に野生で生息しているらしく、家畜としても育てられているぐらいにおとなしい性格らしい。
大黒丸の上で飼うのはさすがに無理だけど、ファウストの街のはずれ辺りに土地を手に入れてそのうち飼ってみたいと思う程度には愛くるしい姿だったりする。
「ほら、マサル。ビバーはまた今度じっくり見たらいいから早く入ってよ」
買うビバーの名前をどうしようとか考えていたらマリアに腰の辺りを押されて奴隷商の中に押し込まれた。
そしてゴドウィンに案内された部屋の中には、このあいだ見た痩せ細った子達と獣肌の少女がここらでよく着られているワンピース姿で壁際に並んで立っていた。
そしてすごく注目されている気がする。
「とりあえずマサル様、ご購入される商品に関しては間違いない事をご確認いただけますでしょうか?」
「ご確認も何も10m程度の距離からチラッと見ただけの子達の顔とか正直覚えてないが」
「こちらに小部屋を用意しておきましたので一人ずつご確認ください。ハバキ様、準備をお願いします」
俺の言葉は完全にスルーされた。
「ん?ハバキも一緒に見るのか?」
「護衛も連れずに命名前の奴隷と二人っきりに出来る訳ないだろ。常識だ」
護衛が必要な常識?もしかして暗殺とかの懸念があるって事か?
俺とハバキがゴドウィンに案内されて、つい先ほど俺達が入ってきたドアの部屋を挟んで反対側にあるドアの先に案内された。
部屋の中にはベッドとソファーが置いてある。ナイトテーブルの上にはトレーに水差しとグラスが1つ置かれている。なんでベッドがあるんだ?それにソファーとベッドの間のかなりでかい間仕切りは…?
部屋の調度品に疑問を持っていたら最初に獣肌の少女が部屋に入ってきた。
「今日から誠心誠意命の限りマサル様とマリア様にお仕えさせていただきます」
なんかかなり重い宣言をして彼女が服を脱いだ。
「服脱ぐのはなんで?」
「なんで?こうする様に言われました」
「決まりだ」
決まりらしい。
「何も隠してないのを見せて生まれ変わる為に必要らしいぞ。いわゆる通過儀礼って奴だ。ほら、彼女に名前を付けてやらないといつまでたってもこの姿のままでいないといけないんだ。早くしてやれ」
なんとなくマリー・アントワネットが嫁ぐ時のエピソードを感じさせる話だ。
「ここで名前を付けるのか。…そうだな。お前は今日からラムだ俺はラムちゃんと呼ぶんでよろしくな」
「ラム…はい。ステキな名前をありがとうございます」
ラムはそう言って俺に近づいてきて足元に跪き、見上げた。
ハバキに頭を撫でる様にジェスチャーで促されたのでそうしたらラムは服を着始めた。今何か頭に手を置いたらこう…何かが俺の手を伝って入ってきた感じがあったが…もしかして魔法的な何かが起きてる?
ふむ…いやしかし…全裸の少女にこんな事されたら…困るなぁ♡
俺はほぼ全身が獣肌の少女を見てそんな事を考えていたが、その後に続く子達の事が頭の中から完全に消えていた。
そう、ここから先の子が服を脱げば、まぁ人の子だから、マッパになっちゃう訳でね?そんな子が俺の足元でひざまずいて見上げるなんて事をすれば絵面が非常にマズいんです。しかも、命名が終わって下着(パンツのみ)と服を着る間、全身あますことなく完全に無修正で見えてしまうんですね。
いやね、俺も子供に欲情するなんて性癖を持ってる訳ではないんですよ?でもね?こんなに何人も…なんなら膨らみかけた胸とかうっすら生えている子達の全裸を見続けさせられれば…俺の言わんとする事が諸兄にはなんとなくでも伝わってると思うのですよ。
少しの間非常に居心地の悪い時間を過ごし、何なら今からマリアと別行動をしてどこかの娼館あたりに飛び込みたい衝動を抱えつつ命名を終えた俺は褒めてもらってもいい気がする。
「とりあえずこれで確認と命名がすんだから戻ろう」
ハバキに促され、部屋を出る時に、この部屋にベッドがなぜ用意されていたのかを、俺はやっと理解した。そしてソファーとベッドが間仕切りで仕切られていたのがなぜかも理解した。
「そう言えば奴隷の仕事って閨の相手なんてのがあるみたいに言ってたな」
「女性の奴隷を買う奴のほとんどがそんな事をさせてるんじゃないか?」
まぁ、そんな事をして、そこらへんの具合を確かめるのが、この部屋の本来の使い方なんだろうな。
とりあえず奴隷少女達の名前が決まった。トラ柄毛皮の少女がラム、人族の一番年上でマリアに近い背の少女がサクラ、次に背の高い、ちょっとあれこれ育ち始めている子がおユキ、次に目が大きくてなみだ目が似合いそうな子がラン、そして小さい方の3人がそれぞれソラ、ミウ、ヒナと命名された。
なんとなく2種類のアニメのキャラクターの名前に似た命名になってしまったのは、俺の好みとマリアの好みが反映された結果だった。
参考までにララ、ナナ、モモなんて名前も候補にあったし、ハルカ、カナ、チアキなんて候補もあった。マリアは結構古いアニメが好きだったみたいだな。
そしてハバキ達3人がわんこそばでも食ってそうな速さであっという間に食べてしまい、マリアとシルビィに怒られていた。
「めんつゆってアリだな」
「あぁ、あれだけでも飲めそうなぐらいにアリだ」
「ソーメンを食べた後に少し薄くなって冷えためんつゆは美味しかったですね」
「あんた達のせいでこっちはあまり食べられなかったんだけど…」
「今度から麺類を作る時は個別に用意しないとダメだな」
「やっぱり暑い日は冷たい食べものがイイネ♪」
ファウストの街の辺りは冬場でもそこそこ暖かいらしいが、今は夏に近づいている季節らしく、日々暑くなってきている。
「街の門番とか夏場は大変だからなぁ」
「確かに。半日立ってたら倒れる奴も出てきますからね」
「でもここは海の上だし装備が金属鎧じゃないからかなり楽だろうな」
セルビスが壁と床の境目辺りに視線を向けて実感のこもった様子で言った。確かその視線の辺りの壁の先には浮き桟橋の警備の任に就いている兵士達がいるはず。
そう言えば街中で見かけた兵士はこの間までセルビスとラルクアが着ていた金属の鎧を使っていたが、浮き桟橋の警備をしてくれている兵士は皮の鎧を使っている。やっぱり海に落ちたら溺れる可能性があるから変えてるのだろうな。
「そう言えばセルビスとラルクアの装備も変わったけど、それも海に落ちた時に対処する為なのか?」
このあいだまでは金属鎧を身に付けていたが、今は少し鋭角的なデザインでスタイリッシュなイメージの布製の服を身に付けている。
「これは魔法で強化された装備でな、素材も魔物由来の強靭なものを惜しみもなく大量に使って作られているらしいぞ」
「一応この装備は領主が王都に出向く時などに親衛隊が装備する為に作られているもので、かなり高価なんですが、今回マサルさんとマリアさんを護衛する私達には必要だろうという事になって配備されました」
「領主のヨーセフ様がマサルとマリアの2人と大黒丸の事をかなり重要な存在と考えているみたいでな、少し先の話になるが、浮き桟橋の近くまで護岸工事をして堤防を延ばすような事まで検討していたぞ」
「大黒丸を堤防に横付けできる様になったら、荷を運び出すのも載せるのもかなり楽になるからそれは助かるな」
実際にそれが完成するのは何年も先の話になりそうだが。
「そう言えばマサルとマリアは奴隷の名前は考えてるのか?そろそろ決めておかないと、その場で決めるとなると大変だぞ」
ハバキがいきなり話題を変えてきた。名前を決めるって…奴隷ちゃんの?
「なぁ、猫とか犬の子供を拾ってくる訳じゃないのになんで名前を付ける必要があるんだ?」
「…そうか、マサルは知らないか」
「奴隷を買った事のある人か売った事のある人ぐらいしか名前の事は知らないでしょう」
「そうだな。俺もそれを知ったのってけっこう最近だったな」
なんか名前を付ける必要があるのは間違いないらしい。
「ハバキ隊長、とりあえずお二人が困っておられるので、詳しく教えて差し上げてください」
シルビィがマリアと俺に少し視線を向けながらハバキに説明する様に促した。
「あぁ。実は奴隷を売買する為にはそれまで使っていた名前を捨てなければならない。理由は簡単で、それまでの名前で呼ばれていたら、いつまでたっても奴隷は自分のそれまでの生活の事を忘れられないらしくて、元の生活に戻る事を諦められずに反抗的な態度を取ったり逃げたりするような事があるそうでな。だから奴隷になった時に名前を魔法で封印されて買われる時に名前を新しく付けて新しい人生を始められる様にする事になったんだ。確か500年ぐらい前にそんな法律が出来てずっとその様に扱われてきてるから、奴隷の子達には、今、名前が無いはずだ」
名前を封印するなんて事は俺達の元々いた場所では暴力的な行為でしか成り立たない。それか質に取った何かを盾に強要するなどしなければそもそも無理だろう。でも完全な状態で名前を取り上げるなんて事は出来ない。でも、魔法であれば、それが出来るのか。
人の名前は生まれた時に付けられる唯一無二のもの。それを取り上げられたら…どんな境地になるのか想像もつかないな。でも、それまでその名前で呼んでいた人も呼ばれていた人もその繋がりが確実に阻害されそうなのは分かる。どこか見知らぬところで知り合いに出会ったとしても名前が変わっていれば本人認定が出来ないかもしれない。
「なるほど、その決まり事を考えた奴ってかなり頭の切れる奴だな」
「そうなの?」
「あぁ、それは間違いないな。その法律ができる前と後では奴隷の扱いが全く違ってるらしいぞ」
「…よく分からないなぁ。名前が取り上げられるってのがそもそも想像もできない」
「マリア、人って何かを記憶する時に名前をキーにしているのってなんとなく分からないか?俺が料理する姿を思い出す時名前がキーになるだろ?『マサル』『料理』『大黒丸』『厨房』なんてワードが合わさると俺のいつもの姿がパッとイメージできると思うが、そこから俺の名前を抜いてイメージしてみたら一気に輪郭がぼやけないか?」
「うん。マサルが料理してるイメージもあるけどそれ以外にあたしが何かしてる姿とかハバキがビールとって来る姿なんかもチラチラ頭の中に見える気がする」
「ハバキ、お前もうちょっと飲むの控えた方がいいんじゃないか?」
「ん?そうか?」
ビールは何ヶ所ものコンテナの中から見つかってるから、好きに飲んでも構わないんだけどね。
「まぁそんな感じに個人を特定する名前って記憶の精査をする場合にかなり大きなウェイトを占めてるんだ。だからそれが封印されると親しい者達でもお互いを認識しづらくなってしまうかもしれない」
「ふーん…何かそれって怖いね」
記憶を勝手に覗かれなくなる封印のペンダントに指を添えて眉をひそめるマリア。
「そこまでの考察が出来るマサルさんって今までどんな仕事をしてこられたのですか?料理人になる前の話ですが」
「ん?俺の前歴?」
「えぇ。そこまで深く考察できるのは王都の各分野の分析官などの王立教導院をかなり良い成績で卒業した人でないと出来ないと思います」
「確かにそうだな」
「あの人達って頭が良すぎてたまに何を言ってるのか分からない。なんて人もいるそうですから」
「マサルの言ってる感じの理由があるからか知らんが、その魔法が使われるようになってからはほとんどの奴隷が元々住んでいた所に戻ろうとしなくなった、なんて話がある」
「マサルさんは一回ぐらい最近立ち上がったばかりの燃料研究室のミライさんと話をしたらいいかもしれませんね」
「あー確かにな。あいつも急に何を言い出したのか分からなくなることがあるな。今俺と話してたって時にいきなり独り言をつぶやき始めるような事をよくして気持ち悪いんだ。確かにマサルなら話について行けるかもしれねぇ」
シルビィとセルビスの言うミライって奴は、今の説明だと早口オタク脳でも持っている感じに聞こえる。
「まぁその何某さんがどんな奴なのか知らんが、俺は大学を出て一回普通に就職したけどその仕事が合わなくて辞めて、大学行ってた頃にアルバイトしていたファミレスの仕事を認められて船に乗る様になったって感じで、それほどいい所でいい成績を残したって訳でもないんだがね」
「でもニッポンってすごく頭のいい人が多いってよく聞いてたよ?」
「一握りの天才ってのはどこにでもいるもんだぞ?そんな人のイメージに引っ張られてるんじゃないか?」
その後少しの間奴隷の名前の案をみんなで出しつつ食事を終え、午後から領主の館に行きヨーセフさんにEVビークルの話を匂わせておいて、マリアの侍女と奴隷ちゃんズの教育係を船に派遣してもらう話をして、その日は終わった。
ちなみに船に戻るのがちょっと遅くなったので、特別な料理ってのはレトルトのカレーになってしまったが、今回も3人が涙を流しながらウマイを連呼しつつ、それにシルビィさんも混ざって喜んでいたのでそこそこ満足してもらえたと思う。
次の日…
「さぁとりあえず救命ボートも一応2台引っ張り出してきたし、獣車も確保した。忘れ物はないよな?」
「奴隷を迎えに行くのに奴隷を運ぶ専用の獣車を用意するとか前代未聞なんだが、大丈夫だからさっさと入れ」
奴隷商の建物の前に獣に引かれた車両が3台ほど並んでいる。ちなみにこの獣車を引いているのはここらでビバーって名前で呼ばれているそこそこ巨大な爬虫類。コモドオオトカゲを3倍ぐらい大きくして長さを半分ぐらいにギュッと縮めたスタイルといえばイメージできるだろうか。こいつはここらあたりのけっこう広い範囲に野生で生息しているらしく、家畜としても育てられているぐらいにおとなしい性格らしい。
大黒丸の上で飼うのはさすがに無理だけど、ファウストの街のはずれ辺りに土地を手に入れてそのうち飼ってみたいと思う程度には愛くるしい姿だったりする。
「ほら、マサル。ビバーはまた今度じっくり見たらいいから早く入ってよ」
買うビバーの名前をどうしようとか考えていたらマリアに腰の辺りを押されて奴隷商の中に押し込まれた。
そしてゴドウィンに案内された部屋の中には、このあいだ見た痩せ細った子達と獣肌の少女がここらでよく着られているワンピース姿で壁際に並んで立っていた。
そしてすごく注目されている気がする。
「とりあえずマサル様、ご購入される商品に関しては間違いない事をご確認いただけますでしょうか?」
「ご確認も何も10m程度の距離からチラッと見ただけの子達の顔とか正直覚えてないが」
「こちらに小部屋を用意しておきましたので一人ずつご確認ください。ハバキ様、準備をお願いします」
俺の言葉は完全にスルーされた。
「ん?ハバキも一緒に見るのか?」
「護衛も連れずに命名前の奴隷と二人っきりに出来る訳ないだろ。常識だ」
護衛が必要な常識?もしかして暗殺とかの懸念があるって事か?
俺とハバキがゴドウィンに案内されて、つい先ほど俺達が入ってきたドアの部屋を挟んで反対側にあるドアの先に案内された。
部屋の中にはベッドとソファーが置いてある。ナイトテーブルの上にはトレーに水差しとグラスが1つ置かれている。なんでベッドがあるんだ?それにソファーとベッドの間のかなりでかい間仕切りは…?
部屋の調度品に疑問を持っていたら最初に獣肌の少女が部屋に入ってきた。
「今日から誠心誠意命の限りマサル様とマリア様にお仕えさせていただきます」
なんかかなり重い宣言をして彼女が服を脱いだ。
「服脱ぐのはなんで?」
「なんで?こうする様に言われました」
「決まりだ」
決まりらしい。
「何も隠してないのを見せて生まれ変わる為に必要らしいぞ。いわゆる通過儀礼って奴だ。ほら、彼女に名前を付けてやらないといつまでたってもこの姿のままでいないといけないんだ。早くしてやれ」
なんとなくマリー・アントワネットが嫁ぐ時のエピソードを感じさせる話だ。
「ここで名前を付けるのか。…そうだな。お前は今日からラムだ俺はラムちゃんと呼ぶんでよろしくな」
「ラム…はい。ステキな名前をありがとうございます」
ラムはそう言って俺に近づいてきて足元に跪き、見上げた。
ハバキに頭を撫でる様にジェスチャーで促されたのでそうしたらラムは服を着始めた。今何か頭に手を置いたらこう…何かが俺の手を伝って入ってきた感じがあったが…もしかして魔法的な何かが起きてる?
ふむ…いやしかし…全裸の少女にこんな事されたら…困るなぁ♡
俺はほぼ全身が獣肌の少女を見てそんな事を考えていたが、その後に続く子達の事が頭の中から完全に消えていた。
そう、ここから先の子が服を脱げば、まぁ人の子だから、マッパになっちゃう訳でね?そんな子が俺の足元でひざまずいて見上げるなんて事をすれば絵面が非常にマズいんです。しかも、命名が終わって下着(パンツのみ)と服を着る間、全身あますことなく完全に無修正で見えてしまうんですね。
いやね、俺も子供に欲情するなんて性癖を持ってる訳ではないんですよ?でもね?こんなに何人も…なんなら膨らみかけた胸とかうっすら生えている子達の全裸を見続けさせられれば…俺の言わんとする事が諸兄にはなんとなくでも伝わってると思うのですよ。
少しの間非常に居心地の悪い時間を過ごし、何なら今からマリアと別行動をしてどこかの娼館あたりに飛び込みたい衝動を抱えつつ命名を終えた俺は褒めてもらってもいい気がする。
「とりあえずこれで確認と命名がすんだから戻ろう」
ハバキに促され、部屋を出る時に、この部屋にベッドがなぜ用意されていたのかを、俺はやっと理解した。そしてソファーとベッドが間仕切りで仕切られていたのがなぜかも理解した。
「そう言えば奴隷の仕事って閨の相手なんてのがあるみたいに言ってたな」
「女性の奴隷を買う奴のほとんどがそんな事をさせてるんじゃないか?」
まぁ、そんな事をして、そこらへんの具合を確かめるのが、この部屋の本来の使い方なんだろうな。
とりあえず奴隷少女達の名前が決まった。トラ柄毛皮の少女がラム、人族の一番年上でマリアに近い背の少女がサクラ、次に背の高い、ちょっとあれこれ育ち始めている子がおユキ、次に目が大きくてなみだ目が似合いそうな子がラン、そして小さい方の3人がそれぞれソラ、ミウ、ヒナと命名された。
なんとなく2種類のアニメのキャラクターの名前に似た命名になってしまったのは、俺の好みとマリアの好みが反映された結果だった。
参考までにララ、ナナ、モモなんて名前も候補にあったし、ハルカ、カナ、チアキなんて候補もあった。マリアは結構古いアニメが好きだったみたいだな。
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