船と共に

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No.1

24 大黒丸の住人

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★ハバキ★

「爺さん、これの分かる事を教えてくれ」
魔法管理組合に行き、爺さんの部屋へ向かうと、いつも通りラウリーがいつもの場所で本を読んでいた。
「おまえはもう少しワシを敬ったらどうなんじゃ?これでも一応組合の長じゃぞ?」
「そんな事は知ってるから安心しろ。で?これは座標になるのか?それとも召喚儀式を記録された呪物か?」
「お前が忘れとるかどうかなんぞ聞いてはおらぬわ。…こいつはどこで手に入れた?ずいぶんと珍しい魔素の波動が感じられるが?」
「それはついさっき…1時間程度前か。例の船に積まれた箱の中から人型モンスターが出てきた場所にあったのを、セルビスが確保した」
「ふむ。一応おぬしとセルビスの魔力の残滓が残っておるな…他には魔力を持った者が触れた形跡がないのぉ…」
ラウリーが封印の目を解いて石板に手をかざしながら魔力探査の魔法で確認しているのが、魔力の流れで感じられる。
「やはり師匠の言っていた、魔力の強い照射を受けた人がモンスターになるというのは間違いなさそうだ。ただ、それには魔素流脈の相当太い奴を掘り抜いてまったく魔素を体に蓄積してない奴に注ぎ込むような事をしないと無理じゃないかと感じた」
「…ハバキにはモンスターになった奴らに魔素が吸収されるのが見えたのか?」
「私達の持つ目の力で運よく確認する事が出来ました。3体のマサルと似た人種の生物が特に魔素の蓄積されていない場所に移送されて来たのですが、転送時にあふれ出した魔素を一気に吸い込み異形化するのを確認しました」
「それではモンスターが人のいない場所にいきなり湧き出る理由とネームレスの発生に関する考察もそこそこ的を射ておったという事か」
「それでその石板ですが、マサル達の居た世界から持ち込まれているのは間違いないのですが、マサルに聞く限りにおいて、その辺りには魔素が全く存在しない様です。…そんな世界で移送の魔法が…儀式などが行えるものなのでしょうか?」
「ワシらの知る魔法の技術形態では無理じゃろうなぁ。もっと違う技術形態でそれを成し遂げたのか、それともこちらから魔素を多量に含んだ何かを送り込んだ者が居たのか…ここから先は推論にしかならぬが…でもこの石板がマサル殿の居た世界から持ち込まれたというのであれば、これをわしらの居る世界から何者かが送り込んだのじゃろうな」
ラウルが先日までキルリアン鉱石の結晶が置かれていた収納棚のその辺りを見ながら思考に沈んでいった。

考えるのは爺さんに任せるとして、俺は領軍と領主に報告しないといけない訳だが…時間的には昼を少し過ぎた頃か…大黒丸に戻って食うのは怒られるかもしれない…と。ハァ…

ハバキはため息とともに動き出す。次は領主に報告をしなければならない。おそらく食事にありつけるのは早くて夕刻だろうとの算段をしつつ、脳裏に今まで食べたマサルの作った料理がいくつも浮かんでは消えて行った。

魔法管理組合から領主館まで飛び、家令のサタナスに大黒丸にモンスターが湧いた事を伝え、近くにいた侍女に領主のヨーセフの元に案内してもらう。
「大黒丸にモンスターが現れたのか?」
執務机に着き書類精査をしていたヨーセフのペンが止まり、ハバキに視線を向け眉間に強く皺が寄る。
「はい。セルビスとラルクアがちょうど現場近くにいた時に空振現象が発生しました」
「人の多い環境では湧く事がほとんど無いモンスターがこの距離で湧くか…原因は?」
「今の所はどこかから送り込まれたか、転送呪具による転移術にて移動した可能性が高いと魔法管理組合の長が言ってました」
「そうか…ラウリーがそのような事を…」
「一応次のモンスターの発生に備えて領軍から1小隊を大黒丸に送る様に団長に要請しておきました」
「うむ。では一度領軍の主要な者達を集めて話し合わねばなるまいな」
ヨーセフが執務机から立ち上がり、一緒に来ていた侍女に家令のサナタスを呼ぶように指示を出し、ハバキは領軍の詰め所へ伝達に飛ばされた。

★マサル★

セルビスとラルクアに世界で一番食べられてるカップラーメンを食わせたらあのCMでよく見た笑顔が見られた。
「これって湯を入れるだけでこうなるんだろ?できれば領軍であるだけ確保しておきたいな」
「確かにそうですね。この味が何年経っても味わえるってちょっと普通じゃないです。これってけっこう大量にあるって言ってましたよね?」

※カップラーメンの消費期限は基本的に6カ月間だそうです。勘違いしない様に!ここではマサルの言った「半年ぐらいは食えるらしいぞ」という言葉を聞いて、魔法的な保存方法を意識したラルクアが、勝手に何年も食べられると言っています。

確か、船の備蓄庫にコンテナ2個分くらいの保存食が入っていた。日本の会社の船だからかどうか知らんが、無洗米や水を入れるだけで食えるようになる米とか、他にもフリーズドライの味噌汁やコーンポタージュなどの汁物の元になる物などが大量にあった気がする。それらと共にインスタント麺やカップ麺なども結構な量があった。
「そのカップラーメンは俺の故郷で積んだのが緊急時用に備蓄されてるぐらいで、今の所は荷の中には存在してるのを見つけてないが…見つけたら領軍に放出するのは構わないぞ」
「それならマリアに確認してもらったらいいのか?」
「あぁ。確かこのあいだ船の積み荷のテキストデータをタブレットPCに取り込めたとか言ってたから、見つけるのは簡単になったはずなんで、時間が取れる時にでも聞いてみてくれ」
「わかった。とりあえず物資の交渉になるから俺の方で確認してみるな」
最近箸に慣れてきた2人は普通に食堂の備え付けの竹製の箸を使ってラーメンをすすっている。
最初はすする事も出来なかったのにこいつら順応するのが早いよなぁ…

☆ファイーナ☆

「そういえばラムはこれまで貴族の家で仕事をした事は無いと言ってましたね?」
「はい。私は奴隷商で侍女の心得から挨拶、仕事の仕方などを一から教えていただきました」
おそらくラムは、デュシェーヌ奴隷商で教育を受けたのでしょう。あの奴隷商の人材は質が良いと評判ですからね。
「では、シャワーやトイレを使う方法をマリア様から直接実地で教えて頂く事になりますので、その役目をラムに頼みたいのですが、どうかしら?」
「…その、私がそんな大役を任せて頂いてもよろしいのでしょうか?それって教えていただいた私が皆様に教えることになると思うのですが…」
「マリア様が、私やパロマやアイヤに教えるよりも、あなたの方が教えるのに抵抗が少ないと思うのです。それに他の子達ではまだ不安があるのでラムに頼みたいと思っていますが、どうかしら?それと何度も言ってますが、様付けで私や教育係を呼んではなりません。ここで様付けで呼んでいいのはマサル様、マリア様、ハバキ様、セルビス様までとなります。ラルクアは…一応平民ですので、さん付けで呼ぶようになさい」
「申し訳ございません。…では、ファイーナさん、とお呼びすればいいですか?」
「そうですね。今の所は他の子の教育が終わるまでそれでいいでしょう。教育が終わったらそれ以降は私も呼び捨てにするように切り替えますのでそのつもりで」
ラムがちょっと困った顔をしていますが、これは徹底しておかないと、上下の区別が曖昧になってしまいます。慣れてもらうしかありません。
「とりあえずラム、マリア様の部屋まで行って使い方を教えていただく日時を確認してきてください」
「はい。行ってまいります」
侍女待機室からラムが礼儀作法に則った動作で出て行った。

☆ラム☆

「シャワーとトイレの使い方を教えたらいいの?」
「はい。ここの設備は私達が今まで使っていたものと全く違うので、間違って壊す前にしっかりと教えていただいた方がよいだろうとファイーナさんが言っていました」
「壊すって…まぁでも温度調節とか間違ったらやけどしたりする事もありそうだものね。いいわよ。今からでもいいけど、あたし、いつも朝起きた時と寝る前にシャワー使ってるから、もしよければその時に一緒に入って教えてあげるのでもいいわよ?」
「マリア様に無理してお時間を取らせるわけにはいきませんので、就寝前にご一緒させていただき教えていただくのでお願いします」
「分かったわ。それとトイレの使い方は…目の前でして見せるってのはさすがに乙女として受け入れられないので、ラムが使う時にあたしが一緒に行って教えるって感じでもいい?」
「はい。それは私は構わないのですが…そんな所にマリア様にお越しいただくのは恐れ多い気がするのですけど…」
ちょっとの間、私とマリア様はお互い見合わせてましたが、マリア様の『トイレに女の子同士一緒に行くのは普通なのよ!』というお言葉でご一緒する機会に教えて頂く事になりました。

一緒に行く…そんな事をする習慣をマリア様達はお持ちなのでしょうか?村では小さい子と一緒に草むらにしゃがんで一緒に用を足すなんて事をよくしていましたが、奴隷になってからは1人で行くのが普通だと教えられたのですけど…?

とりあえずこれで今日の夜にマリア様にシャワーの使い方を教えて頂く事が出来そうです。
私の様な毛皮を身に纏う種族の者にとって沐浴は毎日欠かせないので、正直、早めに教えていただけるのは助かります。裸で居られるのであればそれほど臭いが気になる訳ではないのですが、服を着こんでいたらどうしても汗が蒸れてしまうので…うん。ちょっとクチャイ。昨日は自分の部屋に戻ってから毛づくろいをしたけど、直接舐められない腰の辺りとか背中とかお尻の辺りがなんだかちょっと気になる。
もう一人同じ毛皮を身に纏う種族の子が居たら、お互いの舌の届かない所を毛づくろいし合う事が出来るんだけど、ここには私だけ…これってファイーナさんにお願いしたらもう一人侍女を雇ってもらえたりしないかなぁ…でも毛づくろいさせる為だけに人を雇えとか言えないよなぁ…かと言ってサクラとかユキとかランにはさせられないし、だからって年下のソラ、ミウ、ヒナの3人にそんな事覚えさせたらそれはそれで同族にヘンタイ認定されちゃうし…それにそもそも私の種族は人族とか他の種族とは、舌の構造が違うから舐めてもらってもそんなにスッキリできないのがね。私と同じ猫種族の子がもう一人ここに来る様に祈っておくしかないかぁ…ハァ…

☆奴隷ちゃんズ☆

「今私達は試されています。どういう意味か分かりますね?」
「はい!!はい!はい!はい!」
「ユキ、はいは一回ですよ?」
「はい!!!」
「声の大きさもそんなに必要無いのよ?」
「…ハイ」
「話を戻します。ゴドウィンさんが言ってた、『仕事ができるものは、住む環境もそれ以降の居心地も良くなるので、しっかり励みなさい』って言葉の意味が今私達の目の前に見えています。そう!一緒に買われたラムだけがお仕事を任されているのです!このまま何もせずにラムと私達の格差が広がるのを見ているだけではもっと差が開いてしまうでしょう!」
「それはまぁそうなんだろうけど、だからって今私達に出来る事とか何も無いんだから焦っても仕方がないんじゃないの?」
「ラン、あなた危機感が足りてないわよ。こんな時に教育係のお二人に何か教えて欲しいって言っていく程度のやる気を見せないでどうするのですか」
「あたしパロマさんすきー!」
「あたしはアイヤさんが好き!」
「ヒナはみんなすきぃ!」
「ソラ、ミウ、ヒナ、誰が好きとかあまり大きな声で言わない様にね。好きって言われなかった人が寂しくなっちゃうでしょ?」
「「「…わかった!みんな大好き!」」」
年少組の3人がサクラ、ユキ、ランの3人に走り寄って飛びつくと少しの間笑い声が部屋に響いた。

そして侍女部屋の中でパーテーションで仕切られた場所で、テーブルを挟んで座っていたファイーナ、パロマ、アイヤの3人は、ちょっと困った顔でお互いを見あい、ヤレヤレなんて感じのジェスチャーをしつつ紅茶を楽しんでいた。
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