船と共に

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No.1

23 ネームレスとモンスターの正体

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「コンテナのドアは内側から開けられないはずなんだが…」
窓越しに見えるコンテナのドアのロックが勝手に開くのが遠目に見える。この仕事に就いた時に最初に携帯無線機を渡されてそんな話を聞かされた。その後、俺が仕事に慣れてきた頃に、船のある程度主だった場所を覚えて、コンテナのある辺りに行く必要が無くなった頃に、そろそろ事故も起きないだろうと言われたので、それ以降俺は無線機を持ち歩かなくなった。

ロックが完全に解除され、ドアがゆっくりと開く。
「人型モンスターだ!セルビス前へ!ラルクアは側面から掛かれ!」
ハバキの指示の下、2人が慣れた感じにドアに近付いて行く。ハバキはその場で目を閉じ、何かをつぶやいている。
「まずい!飛び道具を扱うタイプだ!」
「マサル!廊下まで下がれ!」
セルビスの声に反応してハバキから指示が来た。
ハバキの指示に従い待機室から廊下に出てドアを閉めたとほぼ同時に銃声が響いた。
そして何かが爆発するような音と人の叫び声の様な音が何度か響き、静かになった。
ドアをそっと押し開けると船倉は完全に暗闇に閉ざされている。
「ハバキ、大丈夫か?」
「…あぁ。とりあえず敵は排除したが、まだ中に何か潜んでいるかもしれないのでまだこっちには入って来るなよ」
ハバキの声が聞こえてすぐにセルビスとラルクアの頭の上の辺りに光を放つ球体が現れた。2人が手のひらサイズの筒の様な物を握っているのが見える。おそらく光を出すアイテムか何かを使ったのだろう。
「セルビスどうだ?」
セルビスがコンテナの中に入り、その近くでラルクアが短槍を構えて周囲に視線を巡らせている。
「一応敵対生物は確認できませんが、何か破損した呪物らしきものがあります」
ハバキが俺の方を見て頷き手招きをしたので、待機室から船倉に移動すると倉庫内がさっきと比べてかなり暑くなっていた。
「これは…魔法で倒したのか?」
「あぁ。飛び道具を使うタイプのモンスターは戦いを長引かせればそれだけ危険なのでな、一気に片付けた。まだ熱いからそいつらには近づくなよ」
焼け焦げた人型の死体が3体ほどコンテナの近くに転がっている。

…見た感じアサルトライフルって言ったかな。なにかそんな形のものが腕に癒着したような姿のモンスター。頭はまるでヘルメットでもかぶっている様な形で目元はスキー用かバイク用のゴーグルでもつけている感じに見えるが、それらは体と一体化している様に見える。モンスターの皮膚は迷彩柄で、足元はコンバットブーツでも履いている様な…

これは…まるでアメリカの海兵隊が原型になったモンスター…そして今セルビスが中に入っているコンテナの側面にはあの時見たアメリカの何かの軍のエンブレムが描かれている。
俺とマリアがここに送り込まれたのは何かの実験なのか?それとも事故?

全く動かない死体になったモンスターの姿を見下ろしながら、マサルは今何が起きているのか思考を巡らせていた。

ハバキと俺がコンテナから少し離れた場所で待っていると、セルビスとラルクアが戻ってきた。
「一応封印の目で覆ってますので大丈夫だと思いますが、隊長、管理をお願いします」
「分かった。こちらで預かろう」
ハバキがセルビスから薄い油膜の様な何かに包まれた、両手のひらを繋げて広げた程度の幅と長さの石板の様な物を渡された。
石板はまだうっすらと虹色の光を放っているようにも見えるし覆われた油膜がそう見せている様にも見える。
「この石板がさっきの現象の元凶なのか?」
「おそらくそうだろう。さっき感じた魔法のイメージは何かを召喚する波動によく似ていた。ただそれは、どこかから何かを移送する場合にも似たような反応がおきるので、これは転送に使う座標キーか何かかもしれないが…一応私はこれを師匠に見せて領主に報告する必要があるのでセルビスとラルクアにここは任せる。死体は例の場所に運んで確認させておいてくれ。それと領軍からここの倉庫を見張る為の人員を派遣してもらうので…マサル、人員の受け入れ確認を頼む」
ハバキはそう言って船倉から出て行った。

「マサルは上に戻っていてもいいぞ。それと先に戻るなら皆に一応安全になった事とこの辺りには入らない様に説明しておいてくれ」
「分かった。ここは頼むな」
「ラルクア、一応道中何か沸いてるかもしれないから護衛に着け」
「了解」
俺はラルクアに守られながら廊下と階段を移動して操舵室まで戻った。

操舵室にはファイーナとシルビィがソファーに座ったマリアの近くに所在なさげに集まっている。
「マサル様、さきほどハバキ隊長に聞いたのですが、モンスターが沸いたそうですね」
「あぁ、とりあえず船倉の辺りは安全が確認できるまで立ち入り禁止になる。それと後で領軍から管理の人員が来るそうだからとりあえずシルビィはその時一緒にいてくれるか?」
「お任せください。ラルクアはこれからまた現場に行くのですか?」
「あぁ。モンスターの死体を早めに監察に移送しなければなりません。それをセルビスだけにさせる訳にはいかないので」
「では私はマリアさんとマサルさんを護衛していればいいですね」
「こっちは頼む」
ラルクアが部屋から出て行った。
「マサル、どうなったの?あの部屋から強い光が漏れていたって、さっきファイーナさんに聞いたんだけど」
「あぁ。虹色の光が船倉を強く照らしていた」
マリアが眉をひそめて何か考えてる。
「なぁマリア、あの日…虹色の光を見てないか?」
俺の声にハッとした表情を浮かべるマリア。
「あたしは…うん。コンテナの中で壁から漏れ出てくる光を感じて目が覚めたわ。でもその光ってすぐに見えなくなって…そうだ、その時はドアが開かなかったんだけど、少しして外で音がした気がしてドアに近付いたらロックが開いてて押したらドアが開いたの」
「マリアの入れられていたコンテナも勝手にロックが開いたのか…」
あの光…俺が見た虹色の海はなんだったのか、そして俺はあの時強い揺れを感じて目が覚めたが、マリアはその事には全く言及しなかった。おそらくマリアは船が揺れていた事に気付いてない。それと今回現れたのはハバキ達の認識ではモンスター。そして俺達がここに来た時はネームレスが現れた。というよりも、あの時は船員がネームレスになった。今回は海兵隊の兵士らしき者がモンスターになった。のではないかと思う。

…まだ何が起きているのかを筋道をつけて検討できる段階ではないな。でも、キーになるのはあのコンテナとハバキが持って行った呪物って言われていた物なんだろな。

その後30分程度過ぎた頃に領軍の兵士が5名ほど船に乗り込んで来たのを門番の兵士が報告に来たので、船に入る許可を出して、侍女のラムに案内をさせた。

とりあえずファイーナさんに奴隷ちゃんズが侍女としてどの程度仕事ができるのか聞いてみたところ、ラムを除いて全く使い物にならないそうだ。言葉遣いと礼をする程度はなんとかさまになってきているそうだが、内向きも外向きも今から全部教え込まなければならないと、腕まくりでもしそうな感じで報告してくれた。一応教育係として2名のベテラン侍女が領主館より派遣されてきているので、その2人に3人ずつ付けて、掃除、洗濯、設備のメンテナンスなどを教えて行くと言っていたが、全ての作業に関してまずは俺が教育係とファイーナさんに教える必要があるだろうな。

「そういえば…料理どうする?少しばかりバタバタしてたが一応時間的にはそろそろ食べたほうがいい頃だけど?」
「そう言えば…モンスターが出た事に驚いてたけどそんな時間だったのね」
「マサル様、もしよろしければこの船の調理場を使うお姿を私と教育係の者達にお見せ願えませんか?」
「外から買ってきてもらってもいいかと思ったが、どうせ教える必要もあるしそれでもいいが…マリア、あと30分ぐらい待てるか?」
「それぐらいならまだ2時を超えないぐらいだから待つよ」
そういう事になり、俺達は一回侍女の待機室に行ってそこで待っていた全員を引き連れて食堂に移動した。

「さて、ここでどんな料理を作れば侍女の皆が厨房での作業が簡単に覚えられるか…」
「何にしてもまずはお湯を沸かす事が先決ですので、その辺りから教えていただければ助かります」
俺が独り言をつぶやいていたらファイーナさんが提案してきた。
「お湯?あぁそうか、薪を使う厨房に慣れていたらそこが基本になるか、ただここではお湯だけを沸かすのであれば、これで出るんだ」
俺が温水の出る蛇口をひねると大きなシンクの中にお湯が流れ出し、湯気が大量に上がった。
「「「…」」」
ファイーナさんと教育係の2人の口が大きく開いてかなり驚いている。
「ここで出る温水は内圧を高めた120度程度の状態の湯をこの裏のタンクで98度程度まで下げて出しているので、一応やけどに気を付けてくれ」
奴隷ちゃんズとラムが特に驚いていない感じなのは、奴隷商でこの船が普通の所じゃないって教えられていたからかもしれない。
「お湯に関してはとりあえずこれでいいとして、かまどを基本に知識として覚えていくなら…蒸気調理器と電子レンジと保温器辺りを先に覚えてもらって、あぁフライヤーの使い方ぐらいまで教えておけばそれなりに調理できるな」
口を開けたままのファイーナさんと教育係の侍女を厨房に招き入れて、俺は順にそれらの設備の使い方を教えながら、カツ丼を全員分作る作業を進めた。
ちなみにここ最近、ハバキ達が日に最低でも一食程度ご飯を食べたがる様になったので、ご飯に関しては専用の釜を使って炊き、余った分を電子ジャー(保温専用)に移動させて2~3日に一回炊くようになったので、今日はそこらの作業はカット。
蒸気調理器を使って大きなフライパンにダシ醤油とみりんと調理酒を適量入れ、スライサーで大量に刻んでおいた玉ねぎを今日から一緒に生活する全員分になりそうな量を入れて温度を上げる。その間に常時温度調節がかかっているフライヤーのカバーを開けて温度を確認したら食料庫から持ってきた豚肉を人数分揚げる。その間に蒸気調理器にかけていたフライパンがイイ感じに湯気を上げ始めたので油を切るところに上げておいた豚カツをざっくり程よい大きさに切り分け、薄型フライパンに5人分程度の玉ねぎ入りの汁を入れ、再度沸騰した頃に必要量のブタカツをある程度塊を作る様に投入。その後、卵入れから黄身と白身を今回使う分だけボールに入れ、塩コショーで味を調えイイ感じに汁が染みたブタカツの上に溶き卵を投入。20秒程度蒸らしたらマリアが用意してくれたどんぶりにある程度卵でとじられた塊の状態のままカツを移動させる。その作業を3回ほど繰り返して全員分のカツ丼が出来上がった。
作業を始めてから大体20分ぐらいかな?
「まぁこんな感じに作業をすればこの程度の料理が出来るので、各調理具の使い方を食べた後でもう一回詳しく教えるよ。今回使ってない設備も含めてね。マリア、みんなに丼を一つずつ運ばせてやってくれ」
「はーい」
調理具の洗浄をしてくれていたマリアと変わって調理の後片付けをしている間に4カ所のテーブルに全員が座って俺が来るのを待っていた。
「マリア、待たせなくていいだろ?どうした?」
フライパンを洗いながら聞いたらマリアがファイーナさんをチラっと見て答えてくれた。
「マサルに仕事をさせてるのに勝手に食べられないって」
なるほどね。侍女の心得辺りが待たせる選択を強いてると。
「ファイーナさん。まだこれから覚えていく仕事場だから、美味しいうちに食べて味を覚えるのも仕事の内だぞ。俺はそうおやっ…師匠に教えられたんだ。だから美味い間に食べてくれ。冷めたらおいしさ半減だからな」
「なるほど。味を覚えるのも仕事ですか。分かりました。では皆さんご主人様が作ってくださったお食事を楽しみましょう」
ファイーナさんがそう言ってハバキ達がよくする食べる前の祈りみたいな仕草をして食べ始めた。
カツ丼を食べている姿を横目に見ながら作業をしていると、最初にハバキ達に親子丼を出してやった時と似たような驚いた顔が量産されていた。そして目をキラキラさせながらがっつく様な食べ方を始めた奴隷ちゃんズの6人を、ラムを含めた侍女4名がため息を吐きつつ困った顔で眺めながら自分の丼を食べていた。
やっぱり驚かれるのは嫌ではないけど、美味しそうに食ってくれる姿を見れたら料理をしたかいがあるってものだ。

その後俺も、厨房の隅っこで自分用に作っておいたかつ丼を立ったまま食い、食器を洗い専用シンクに置きに行った時、ハバキ達の飯を作ってなかった事に気付いて自分の失敗を悟った。

とりあえずあいつらにはカップ麺食わせればいいか。その代わりに夕食でそこそこ手の込んだものを作ってやればいいだろう。
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