楽園・ゲーム

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第四章 死んだ原因?

96 楽園ゲームとリアルの差1/4

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俺は今、トット製洋式便器に座り、とあるフォローしているVtuverの少女?のコラ動画を再生している。
あのジャングルチックな雰囲気の笑い声に特徴のある子のあの動画だ。

そして俺はそのコラ動画を再生し終わり何事も無かった風を装い自分の姿が人前に出ても大丈夫な状態になったのをざっと確認して個室のドアを開けた。

ガチャッ!

あっ…同期の黒田くろだが口にハンカチを咥えた状態で手を洗いながら俺の方を見ていた。
「なぁ、佐藤さとう…何か悩んでるのか?あまり森の奥深い所に1人で行くなよ?」
「ん?あぁ、それは大丈夫だ。何か心配させたみたいだな、すまない。」
手を拭きながらそれでも心配そうな顔をしている黒田。
「まぁそれなら良いが…もしアレならどうだ?今日一緒に飲みにでも行かないか?可愛い子が居る店を見つけたんだが誘える奴が居なくてな♪」
黒田は何かを両手で持ち上げるような動作をしながら、少しばかりエロ風味を感じさせる顔で指をワシャワシャさせつつ聞いてきた。

…たぶん女の子のおっぱいとかいろんな場所をナマで触れる様な店の事を言ってるんだろうな。
こいつこの手の店に行くのが大好きだからなぁ…見た目だけはエリート会社員(インテリ系&身長185&体重70kg台&ジムで週一程度で鍛えているらしくそこそこ細マッチョらしい)なのに内部がなんでここまでエロ特化なんだろうか…毎週末に入り浸っているらしい飲み屋と女の子に触れたり遊べたりする店に行かなければすぐにでも貯金が3000万を超えるんじゃないかって言われてる奴なんだけど…やっぱり天は二物を与えずって言うことわざって本当なのだろうか…そんな奴なのにそろそろどこかの部署の部長に内定してるとかって噂も聞こえてきてるし…ん~…不思議だ…

「まぁ、今俺の担当してる案件がうまく進めば少しは時間も取れるんだがなぁ…」
「そう言えば佐藤の部署はそっち系のライブの舞台に掛かりっきりだって聞いたな。何かまずい状態なのか?」
「そうだなぁ…一応ライブとは言っても実際には3Dデータを動かすパソコンとモーションキャプチャ用のカメラのリンクに問題が無ければ後は3Dデータだけしっかり作りこんであれば問題無いはずなんだが…それに、舞台もスクリーンを張るだけで出来上がるからそっち側の問題は特に無いんだけど人の方にちょっとなぁ…あー…まぁこれ以上は詳しくは言えない部分になるんでな。」
「あぁ、それは分かってる。じゃぁもし時間が取れる様になったら夜の…えーっと…8時ぐらいまでなら俺も仕事をしてるはずだから例の番号まで1回連絡をくれ。」
「あぁ、分かった。じゃぁまた。」
「おうっ。」
俺は手を洗いハンドクリーナーで手を乾かしトイレの前で黒田と別れて自分の部署に戻った。

俺…やっぱりあの日をやり直してるよな。

俺はあのサンバイザーの所に隠してあったメッセージを見つけた後、いつもの出社時間まで車の中で待機して、その後いつも通りの時間に自分の部署まで来て自分のデスクに着き、すぐにあの付箋以外のメッセージが無いか手近な場所を確認してみたのだが、特にそれらしき物は発見できなかった。

俺をこの時間帯に戻した奴…俺の考えが正解であるならば、あのメッセージを残した『消されたかもしれない俺』の目的は、今の段階では達成出来ていると考えても良いかもしれないが…俺がこの時間を繰り返す事にどんな意味があるのだろうか?

生き返った俺と死ぬ前の俺…大きな違いは幾つかあると思う。

一つは…今の俺は自分の死ぬ理由を知っている。
今日の夜にあの時…俺の車に追突して来る…たぶんトラックかダンプカーらしき車の光は今この瞬間にもはっきりと思い出せる。
たぶん今の俺なら簡単にあの事故を回避できるだろう。

もしかしたら歴史の収束効果などと言う現象が有るのであればあの事故を回避しても他の何かで死ぬかもしれないが…

それともう一つ…今の俺は身体能力がそれまでの俺と比べてかなり上がっているのが実感として感じられた。
身体能力とは別に五感に関してもかなり敏感になっている様な気もする。
それらに関しては、車から会社に来る間で確認できた。
うちの会社では朝の出社時に、『エレベーターに乗らずに階段を自分の脚力を使って上がり、自分の健康に意識を向けて幸せな生活を♡』みたいなキャッチフレーズを掲げて運動するのを推奨していたりする。
もちろん体力的に問題無い奴は仕事中でも階段を使えって感じに言われているが、移動時間がネックになり、ほとんどの奴はエレベーターを使っている。

まぁ、そんな言い訳を使う奴が多いのも、俺は現場に近い感覚で知ってる訳なのだが…

一応この建物は自社ビルなのでそんな事をしても変な目で見られる事は無いのだが、都内にある営業所などは高層ビルに賃貸でフロアを借りていたりするので、たまに階段を息を切らせながら上っている姿を他社の人に見られてしまうらしい。
そうしたら、大体の人が可哀相な人を見る様な目で見てくると忘年会の席でよく愚痴をこぼされたりしたものだが…

あぁ、そんな話は今は関係無いな。

とりあえず4階分の階段を歩いて上がってみて、自分の体力が向上しているのを強く感じた。
階段を上がっている途中で後輩の奴らを何人も抜かして上ってもまったく息切れもしなかったぐらいなのでたぶん間違いないだろう。
他にもデスクの上に置いていた書類が袖に当たって落ちそうになった時にもバラバラになって落ちそうになっていた紙を全部片手で落とさずに回収できたし。

この身体能力と感覚器官の鋭敏さを持ってすればこっちの世界で俺は死なずに生き延びる事が出来てしまうのではないだろうか?

「そう言えば佐藤さん。最近体を鍛え始めたんですか?」
俺は今、もう少ししたら始まる会議の会場に向かう途中であり、一緒に会議に出席する部下の1人の佐々木ささき 美月みつき君が傍を歩いているのだが、急に今まで聞かれた事の無い様な話を振られた。
「んっ?体?…特に何かした訳ではないが…何か変わってる様に見えるか?」
「そうですねぇ…特に体形が変わったって訳ではありませんが…なんだかこう…少し違って見えますね。」
違って見える?
「そうなのか?ふむ…あぁそう言えば昨日夜中にパソコンでサバイバル系の動画を見たから何かそんな気分になってるのかもしれないな。悪いね。」
少しだけ軽く見られる様な言い方を意識して笑いながら答えたら彼女の顔が少しばかり驚いた感じになった。
「佐藤さんってサバイバル系の動画とか見るんですね。いろんな人に聞いた話の感じだともっと違うのを見てるのかと思ってました…ほら、目の大きな少女とかが出てる系のとか?…今期ってそんなアニメの新作とかがあったとかって話では無いのですよね?」
あー、そう言えば…俺の夜のいつもの行動はうちの部署の連中には何度も慰労会などで話してたねぇ…そのおかげで俺は重度のアニメオタクだと思われていて部下の女の子達は俺の事を男としてまったく見ない感じになっていたんだったなぁ…なんだかこんな日常的な記憶も俺は意識から除外していたみたいだな。

あの世界は毎日がすごく濃かったからまぁしょうがないとは思うが…♡

「コホン。まぁ、アニメ系のモノではないな。どっちかと言うと野生動物とかが出て来る様なリアル系サバイバルみたいな奴だな。」
とりあえず間違ってないよな?獣耳獣尻尾搭載ぺったん子とかビーストモード搭載少女達と精子を色々かける?戦いを何度も繰り広げてきたんだから♡
「あっ…佐藤さんなんかエッチな事を考えてますね?駄目ですよ?今から大事な会議が始まるんですからそんな変な妄想は後でしてください。」
「君も言うなぁ…まぁ後で妄想しても良いと言うならそうするとしよう。今は会議を無事済ませる事に注力した方が良さそうだ。そうしておかないと今日いつ帰れるか分からないからなぁ。」
意識して無いのに佐々木君と気負わずに話が出来ているな…これはニナ達との実地の訓練が実を結んでいるという事なのだろうか?
「私、この部署に来たおかげでそろそろ彼氏に別れ話を切り出されそうなんですけど…今日一応デートの予定になってますが…本当に頼みますからね?」
「君の幸せは君と君の彼氏で何とかしてくれ。私もけっこう限界まで会社に拘束されていて自由になる時間が無いものでね。中間管理職と言うのもなかなか大変なんだよ?それに君達の為に時間を割くぐらいなら自分の寝る時間を増やしたいと思っているよ。」
「まぁ…そんな事を言うならば…最悪佐藤さんに色々責任とってもらっても良いかもしれませんね?ふふっ♪」
「そして私は馬車馬の如く働かされて搾り取られるのか?その役目は君の彼氏に全てを担っていただきたいと切に願っているので、もし良ければ1回その彼氏と話をさせてくれ。あぁ、悪いようにはしないから。自分の幸せな睡眠時間を確保する為であれば私も少しばかり頑張るよ?」
「それは今のところは結構です。…それにしても佐藤さんってこんな感じの話も出来たんですね。ちょっと以外でした。」
なんとなく好感度が上がっている様な顔で俺を見上げて来る佐々木君だが…そんなに俺の対応があの頃生前死後では違っているのだろうか?

あの頃の俺の女性に対する考え方…あぁ、そう言えば…俺あの頃って一瞬でも侮られたら負けって感情が少なからず有ったな。
今は…うん。特にそんな感情が無い…

これはニナとソフィーが俺を求めてくれた事で俺の中の何かが満たされたからそう思っているのか、それとも脳内領域をテラスちゃんに弄られた事で認識が変わったせいなのか…まぁどっちものせいかもしれないか。

あっ…そう言えば今ふと思ったのだが…俺もしかしたらこっちで生きていく事になったとすれば…もうニナ達とは会えないって事か?
それは…イヤだなぁ…どうにかして戻る方法を考える必要が有りそうだな。

何にしても今から会議なので少しばかりあの世界に関する事を考えるのは止めておいて、そっちに注力するとしようか。

「あっ、佐藤さん。そろそろ時間が近いですけど、いつもの缶コーヒーは飲んでいかないのですか?」
佐々木君が俺が通り過ぎた自動販売機の前で止まって声をかけてきた。
そう言えば俺、何かと言えばこの自動販売機の缶コーヒーを飲んでたな…
「…少しは時間があるか…会議は長くなるはずだから少しぐらいいいかな。佐々木さんも何か飲むか?」
俺は自分がいつも飲んでいる一番安い缶コーヒーを買い、まだ料金チャージ状態の自動販売機を視線で促しつつ聞いてみた。
「佐藤さんがそんな事を言うなんて驚きました♪じゃぁ私はコ~レッ♪」
俺の缶コーヒーの値段(40円)の3倍の値段(120円)の小さなペットボトル飲料を買う佐々木君に小さくため息を漏らした俺はそこまで変じゃないよな?
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