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カテーテル検査②
しおりを挟む——翌日
祥子「……ひなちゃん。……ひなちゃーん」
朝7時。
祥子さんに起こしてもらって目が覚めた。
祥子「おはよう。ごめんね、お薬飲んだからまだ眠いね」
昨日の夜はあまり眠れなかった。
朝も早いししっかり寝ないといけないからって、消灯時間より早く寝かせてもらったのに、23時を過ぎても眠れず。
結局、睡眠薬を飲ませてもらって眠りについたから、今朝は逆に眠い。
ひな「おはよぅ、ござぃます……」
祥子「おはよう。起きられそう?」
ひな「はぃ……大丈夫です」
祥子「うん。そしたら検査の準備しようか」
と、まずはトイレに行き、戻ってきたら検査着に着替えて、点滴も入れてもらう。
祥子「ひなちゃん、お腹大丈夫?空き過ぎて気持ち悪くなったりしてない?」
と、わたしの血管を探りながら言う祥子さん。
検査が終わるまでは絶食だから、今朝は朝ごはんが食べれない。
それに加え、昨日の夜も軽食だったから、普通ならお腹が空くはず。
でも、緊張のせいかお腹なんてまったく空いてない。
ひな「緊張してて、大丈夫です……」
祥子「そうよね、それどころじゃないよね。もし気持ち悪くなってくることがあれば、我慢しないで伝えてね。よし、ちょっとチクっとするよ~」
ひな「ぇ、ぁ、はいっ……」
チクッ……
祥子「もう力抜いて大丈夫よ」
やっぱり祥子さんの注射は1番痛くない。
手際が良くて血管を見つけるのも早いから、針を刺されるまでの緊張の時間も短いし、痛いのも一瞬で終わる。
祥子「腕痛くない?」
ひな「大丈夫です」
祥子「うん。そしたら、このまま1時間くらい休んでから検査室に移るね。また迎えに来るから寝ててもいいよ」
ひな「わかりました」
と言って、わたしはもう一度目を閉じた。
そして、1時間後。
祥子さんに迎えに来てもらって、いよいよ検査室へ。
車椅子に乗せてもらい連れて来られたのは、大きなモニターや機械がある手術室みたいな部屋。
わたしはビビりまくって、
祥子さん……
と、助けを求めようかと思ったけど、すぐに検査室の看護師さんに引き継がれ祥子さんは行ってしまい、一層不安な気持ちに。
そんな状態でベッドへ上がると、身体にいろんな機械をつけられて、尿道カテーテルも入れられて、おまけに肩のところへ注射もされて、もう検査が終わったくらいの気分。
最後に足の付け根を消毒されて、ブルーの布を身体に被されて、準備が整ったところで工藤先生と藤堂先生が入ってきた。
工藤「おはよう、ひなちゃん」
ガウンにマスクに帽子までして、これから手術ですか……という姿な先生たち。
そんな格好でもマスクの下では、焼けた肌に真っ白な歯をニカッと見せる、工藤先生のいつもの笑顔なんだとわかる。
工藤「ひなちゃんどうした。もう泣きそうな顔してるな……」
ひな「先生たち目しか出てない……」
工藤「目しか出てないって(笑)」
ひな「だって……」
藤堂「怖いね。手術みたいで嫌だよね」
ひな「藤堂先生……」
やっぱり藤堂先生はすごい。
わたしの気持ちを代わりに声に出してくれる。
でも、ただの代弁にはなってなくて、その柔らかい声と頭を撫でる優しい手、そして、語尾につけられた"ね"の絶妙なニュアンスによって、ものすごく安心感を得られてしまう。
そんな藤堂先生の後に続けられるほどの言葉がなくて、半泣きになりながらコクッと小さく頷いた。
藤堂「大丈夫だよ。麻酔が終わったら痛くないからね」
ひな「本当に痛くないですか……?」
藤堂「うん、大丈夫。それに、さっきひなちゃん注射しなかった?」
ひな「しました。痛かったです」
藤堂「その注射は、ドキドキしないように気持ちを和らげるためのもので、少し眠くなる成分も入ってるよ。もう少ししたらそれも効いてくるからね」
言われてみれば、確かに少し眠いようなぼーっとする感じはある。
でも、まだ恐怖心が勝っちゃってる……。
工藤「ひなちゃん、今身体は寒くない?」
ひな「はい。大丈夫です」
工藤「よし。そしたら始めて行こうか。よろしくな」
と、いよいよ工藤先生が足の方へ移動して、カチャカチャ、ピッピッといろんな音が響き始めた。
ひな「と、藤堂先生……」
足元は見えない。
わたしの目に映るのは、天井とブルーの布と大きな機械くらい。
首を思いっきり持ち上げればモニターも見えるかもしれないけど、そんなことできないし見るつもりもない。
そんな状態で機械や器具の音がしたら、そりゃ恐怖心はMAXになるわけで、藤堂先生に助けを求めた。
藤堂「うん?怖くなっちゃった?」
と、また頭を撫でてくれる藤堂先生。
ひな「コクコクコクッ……」
藤堂「大丈夫大丈夫。一緒に深呼吸してみようか。はい、吸って~……吐いて~……吸って~……」
藤堂先生の誘導でゆっくりと深呼吸を繰り返していると、
工藤「ひなちゃ~ん、そしたら麻酔するからな。チクッとするからここだけ少し頑張ろう。行くぞー……」
って、工藤先生の手が足の付け根に触れて、
待って!!
と言う暇もなく針を刺された。
ひな「ん"ーーっ!!い"っっだぃ!!」
足の付け根という場所のせいか、今までしてきた注射の中で1番痛い。
ブスッと。
いや、グサッと?
とにかくチクッなんてものではない痛みが走る。
ひな「痛いー……っ!!」
この麻酔の注射、本当にとんでもなく痛いけど、工藤先生ってたしか注射が上手なはずで……
前に祥子さんや先生たちが上手って言ってたから、どこかで痛くないと期待してた自分がいたのに、全然そんなことなかった。
藤堂「痛いね、すぐ終わるからね」
身体は固定されて動かせなくて、藤堂先生に手も握ってもらえない。
代わりに頭はずっと撫でてくれてるけど、残念ながら今は痛すぎて気休めにならず……
工藤「ひなちゃん、もう終わるぞー」
と麻酔が終われば、わたしの目からは涙がぽろぽろ。
藤堂「頑張ったね。あとはもう痛くないからね」
工藤「ひなちゃん、これからカテーテル入れていくからな。何かあったらすぐ教えてな」
と、検査が始まったけど、
ひな「んぐ……っ」
すぐに、何かをすごい力で押し込まれてるような感覚がした。
工藤「ひなちゃん大丈夫ー?」
ひな「痛い……っ」
工藤「痛い??」
藤堂「ひなちゃん落ち着いてごらん。本当に痛い?どんな感じする?」
ひな「足がグッて……押されるみたいな、なんかググッ入ってるの、足が……入ってる。痛い……っ、グスッ」
伝えるのに必死で日本語も変になる。
でもそのくらい、初めて感じるこの重たい変な痛みにちょっとパニック。
工藤「よしよし。そしたら麻酔足そう。大丈夫だぞ」
藤堂「ひなちゃんひなちゃん、僕のこと見て。泣いたら心臓がびっくりしちゃうから落ち着いてリラックスしてようね。大丈夫大丈夫」
麻酔を追加で入れてもらい、頭を撫でてもらい、少し休憩してもう一度カテーテルが入る。
工藤「ひなちゃんどう?大丈夫?今順調に入ってるぞ」
さっきよりはマシだけど、まだ少し痛い。
血管の中をカテーテルが突き進んでる感覚がすごくある。
でも、なんだかぼーっと、身体がふわふわしてきたのもあって、痛みが徐々に引いてる感じがする。
最初に打たれた注射、藤堂先生が眠くなるって言ってたからそれが効いてるのかな~。
と思いながら、
ひな「大丈夫……」
呟いたのも束の間……。
……ん?
違う……これ、気持ち悪い……。
ふわふわする感覚は一気に目眩と吐き気に変わっていき、途端に気持ち悪くなってしまった。
もちろん、そんなわたしの異変を先生たちも見逃さずすぐに気づいてくれる。
藤堂「ひなちゃん気持ち悪い?気持ち悪いね」
助手「先生、血圧下がってます……!」
工藤「メイン全開にして。薬すぐ入れて」
工藤先生の指示のもと、検査室にいるスタッフたちがバタバタと動き出す。
ひな「怖い……気持ち悪ぃ……」
工藤「大丈夫だぞ。今お薬入れるからな。気持ち悪いのすぐに止まるから少し我慢しててな」
吐きそうとまではいかないけど吐き気がすごい……
でも、カテーテル検査中のこの状態で、恐らく吐くわけにはいかないんだろう。
藤堂「つらいね。気持ち悪いよね。すぐ治るからね」
藤堂先生に励まされながらなんとか耐えてると、気持ち悪さがなくなってきて、またぼーっとし始めた。
そこからは順調に進んだみたいで、工藤先生や藤堂先生にちゃんと返事もしながら、眠らない程度にぼーっとしてたら、
工藤「ん。ひなちゃーん、検査はもう終わりだぞ。最後カテーテル抜こうな」
と、検査が終わった。
そして、カテーテルが抜かれると、工藤先生に思いっきり足の付け根を押さえられたんだけど、これがまたすごい痛くって……。
工藤先生のそのムキムキな腕で手加減なしに押さえてくるから、もう骨が折れるんじゃないかと思い、
ひな「い、痛い!折れるっ!!」
って言ったら、
工藤「ははっ。大丈夫大丈夫。折れはしないくらいで押さえてるから」
と、まだ本気じゃなくて力が有り余ってる余裕な感じで言われて、この人は指2本でりんごを握り潰せるのではないかと思った。
だけど、どうやらこんなに足を圧迫するのは、しっかり止血しないと血が溢れちゃうからだって。
太い血管だからとにかくちゃんと止血しないと大変なことになるようで、散々手で押さえられた後に、ものすごいきつく何かを巻かれて、ようやく全て終了。
予定では1時間だったところ、2時間かかって検査が終わり、ストレッチャーで病室に帰ってきた。
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