ひなとDoctors 〜柱と呼ばれる医師たち〜

はな

文字の大きさ
172 / 253

デート①

しおりを挟む


*五条side





五条「よし、終わり。縫合頼む」





交通事故で運ばれて来た子どものオペが終わった。

オペは4時間近くかかり、時計を見るともう13時前。





五条「悪いが後任せる。宇髄先生に引き継いどくから、ICU入ったら宇髄先生に指示もらって」


助手「かしこまりました」





早くひなのところに帰らないと……。



縫合は助手に頼んで、術後のことも宇髄先生に引き継がせてもらった。





宇髄「気にせんでいいから。早く帰ってやれ」


五条「ありがとうございます。すみません、よろしくお願いします」





今日、ひなとデートだったことはみんな知っている。

宇髄先生もこう言ってくれて、俺は急いで家に帰った。










ガチャッ——





五条「ひな!ただいっ……ま……」





リビングのドアを開けると、ソファーで眠るひなが。





五条「ひな……」





スヤスヤ眠るひなの目元が赤い。

服も所々濡れていて、ローテーブルには丸まったティッシュが無造作に散らかっている。





ごめん……。





ひなは今日のデートをすごく楽しみにしてた。

今朝の電話、ひなの声がどんどん震えて、早口になって、泣くのを堪えているのだと気付かないわけがない。

ひなも医者になろうとする身で、医者である俺のことをいつも理解してくれる。

だけど、もう主治医でもない。

ひなにとって今の俺は、医者である前に彼氏だ。

何度もリスケになった上に、デート当日、それも約束の時間直前にドタキャンされるなんて、悲しくて怒りたくて仕方なかったはず。

どれだけ泣いたのか、相当な涙を流して疲れ果てたんだろう。





五条「ひな……ごめんな、本当に悪かった……」





そう呟きながら、ひなの頬にそっと手を伸ばすと、





……熱い





今度はおでこや首を触ってみるが、やっぱり熱い。





なんで……





そんなに高くないと思いつつ、体温計で測ってみると37度6分。

すぐに聴診して、ひなのおでこに冷たいタオルと身体にブランケットをかけた。



それから、俺は着替えてキッチンへ。

朝食を一緒に食べる約束だったから、ひなは絶対に朝から何も食べてない。





何か食べさせないと……





と、ちょうどひなの好きなさつまいもがあったんでさつまいも粥を。

そしてお粥を作り終え、おでこのタオルを取り替えようとすると、





ひな「ん……」





ひなが目を覚ましかけたので、





トントン……





五条「ひな?」





軽く肩を叩き声をかけたら、ひなはゆっくり目を開けた。





ひな「五条先生……」


五条「ただいま。ごめんな、遅くなって。デート、行けなくなって本当にごめん……」





言いながら頭を撫でると、ひなの目からポロポロと涙が溢れ出す。





ひな「うぅ……ヒック、五条先生……グスン」





ひな……





五条「約束守れなくて悪かった。ずっと楽しみにしてたのにな。ごめん、ごめんな……」





ひなの涙を見ると、より一層、自分の不甲斐なさを感じてやまない。

何度も謝りながら、ひなの止まらない涙を拭った。

けれどひなは、





ひな「違ぅ……グスン、五条先生は悪くない……ヒック、ヒック」





と首を振るばかりで、決して俺が悪いということにしようとしない。

言葉を変えて俺が悪いと伝えてみるも、一生懸命それを否定される。

そして、そうこう言ってるうちに、





ひな「悲しいの……自分のせいだかっ……コホッ……コホコホ、コホッ!」





ひなが咳き込み始めた。





五条「大丈夫か?ごめんな、ひなしんどいな……」





そう言いながら、ひなの身体を横に向けて背中をさする。





ひな「コホコホッ……コホッ……グスン……コホッ!」


五条「咳出てきちゃったな……ひな?今な、ひなお熱が出てるんだ。少しだけ、もしもししてもいいか?」





と言うと、ひなは熱があると思っていなかったようで、一瞬、驚きと不安が入り混じる顔を見せたが、素直にコクッと頷いてくれた。





五条「そのまま楽にしててな。すぐ終わるから」





と、服の隙間から手を入れて聴診する。



熱、上がってきてるな……。



着替えた服を脱衣所に持って行った時、洗濯カゴにバスタオルが入っていて、浴室も濡れていた。

ひなは今朝シャワーを浴びて、そのせいで熱が出てる。

その後、ソファーでずっと寝ていたことも追い討ちをかけたんだろう。

冬の寒い朝にシャワーするなんて、いつもなら間違いなく叱るけど、今日は叱れない。

デートのためにそうしたんだろうし、俺のせいで、心も身体もしんどい思いをさせてしまったから。





ひな「コホッコホッ……五条先生……病院行くの……?」





聴診を終えひなの胸元から手を抜くと、ひなが不安そうに尋ねる。

さっきよりも身体が熱くて咳も出てきたが、胸の音は今のところ大丈夫。

ただ、これから酷くなる……かもしれないが、ならない可能性だってなくはない。

であれば、今日はひなの嫌いなところになんて連れて行きたくない。

そう思い、





五条「少し風邪引いちゃっただけだから、お家で一緒にゆっくりしよう。俺がそばにいるから大丈夫」





と言うと、ひなは表情を緩めてくれた。

そして、





五条「ひなお腹空いてないか?お粥作ったんだ。朝から何も食べてないから、少しだけでも食べないか?」


ひな「おかゆ?」


五条「うん。ひなの好きなさつまいも粥。前に、お母さんに作ってもらっただろ?遅くなっちゃったけど、今から一緒に食べよう」





せめて、一緒にご飯を食べる約束だけでも果たしたい。

それに、薬も飲ませておきたいし。

というのは後付けで、俺のわがままな思いでそう言ったけど、





ひな「コクッ……食べる」





頷いてくれたので、ひなの身体を起こしてそのままリビングで一緒に食べた。





五条「食べられるだけでいいぞ。無理しなくていいからな」





食欲はあまりないだろうと、お茶碗に半分だけお粥をよそって渡したが、





ひな「これ、お母さんの味と一緒だよ。おいしい……もうちょっと食べる」





って、少しだけおかわりもしてくれて、思いの外しっかり食べてくれた。










それから、ご飯の後にもう一度熱を測って、聴診をして、首を触るとリンパが腫れてるんで、





五条「ひな、あーって言いながらお口開けて」


ひな「あー……」





喉を見てみると、案の定こっちもやられてる。





五条「喉も痛いか?」


ひな「……少し、コホコホ」


五条「よし、そしたらお薬飲もう。その咳も、喘息じゃなくて風邪のせいだ。お薬飲んだら、たくさん寝て早く治そうな」





と、家に置いてあった薬をいくつかひなに飲ませたら、俺も一緒にベッドへ入り、ひなの寝かしつけ。





ぽん……ぽん……ぽん……





俺は涅槃像の体勢で、しっかり布団を掛けた上から、ひなのお腹の辺りをリズム良く叩く。

するとひなは、すぐによく眠ってくれて、次に目を覚ましたのは夜の9時を過ぎてから。










***



五条「美味しいか?」


ひな「うん。冷たくて、おいしい」





6時間近く寝た甲斐あってか、熱は少し下がってくれて、ひなも起きて早々にお腹が空いたと、またさつまいも粥を食べてくれた。

ただ、喉の痛みが強いようでお茶碗半分しか食べられず、『アイス食べるか?』と言うと、ひなはご機嫌でアイスを頬張った。





五条「お熱はちょっと下がったけど、喉が痛いんだな……まだしんどいな」





そう言いながら、ベッドの上で嬉しそうにアイスを食べるひなのおでこに手を当てる。





ひな「ちょっとしんどいけど、アイス食べたら元気になるよ。すごく美味しいの、五条先生も食べる?」





って、いつも食べるアイスなのに、熱が出た時に食べるアイスの特別感を覚えてしまったようで、嬉しそうに俺にあーんとスプーンを向けてくる。

真っ赤なほっぺをして、無邪気な笑顔を見せるひながかわいい。





五条「そんなにアイス気に入ったのか?これから熱出たら毎回食べるって言い出しそうだな(笑)」





と言いながら、ひなにひと口アイスを食べさせてもらい、





五条「美味い。ありがとう」





頭をぽんぽんすると、ひなの赤いほっぺがさらに赤くなった。



それから、また薬を飲ませて、少し診察して、ひなを寝かしつける。

スースー寝息を立てたことを確認したら、俺は一旦ベッドを抜けて、洗い物やらシャワーを済ませて再びベッドへ。



はぁ……



今日、予定通りデートをしていたら、こうして眺めるひなの寝顔は幸せそうな顔だったはず。

まだしんどそうに眠るひなを見てると、改めて申し訳なくなって、



ごめんな、ひな……



心の中で呟きながら、そっと頭を撫でて、ひなの隣で俺も眠りについた。










でも、その数時間後……


しおりを挟む
感想 11

あなたにおすすめの小説

月弥総合病院

僕君☾☾
キャラ文芸
月弥総合病院。極度の病院嫌いや完治が難しい疾患、診察、検査などの医療行為を拒否したり中々治療が進められない子を治療していく。 また、ここは凄腕の医師達が集まる病院。特にその中の計5人が圧倒的に遥か上回る実力を持ち、「白鳥」と呼ばれている。 (小児科のストーリー)医療に全然詳しく無いのでそれっぽく書いてます...!!

怒られるのが怖くて体調不良を言えない大人

こじらせた処女
BL
 幼少期、風邪を引いて学校を休むと母親に怒られていた経験から、体調不良を誰かに伝えることが苦手になってしまった佐倉憂(さくらうい)。 しんどいことを訴えると仕事に行けないとヒステリックを起こされ怒られていたため、次第に我慢して学校に行くようになった。 「風邪をひくことは悪いこと」 社会人になって1人暮らしを始めてもその認識は治らないまま。多少の熱や頭痛があっても怒られることを危惧して出勤している。 とある日、いつものように会社に行って業務をこなしていた時。午前では無視できていただるけが無視できないものになっていた。 それでも、自己管理がなっていない、日頃ちゃんと体調管理が出来てない、そう怒られるのが怖くて、言えずにいると…?

お兄ちゃんはお兄ちゃんだけど、お兄ちゃんなのにお兄ちゃんじゃない!?

すずなり。
恋愛
幼いころ、母に施設に預けられた鈴(すず)。 お母さん「病気を治して迎えにくるから待ってて?」 その母は・・迎えにくることは無かった。 代わりに迎えに来た『父』と『兄』。 私の引き取り先は『本当の家』だった。 お父さん「鈴の家だよ?」 鈴「私・・一緒に暮らしていいんでしょうか・・。」 新しい家で始まる生活。 でも私は・・・お母さんの病気の遺伝子を受け継いでる・・・。 鈴「うぁ・・・・。」 兄「鈴!?」 倒れることが多くなっていく日々・・・。 そんな中でも『恋』は私の都合なんて考えてくれない。 『もう・・妹にみれない・・・。』 『お兄ちゃん・・・。』 「お前のこと、施設にいたころから好きだった・・・!」 「ーーーーっ!」 ※本編には病名や治療法、薬などいろいろ出てきますが、全て想像の世界のお話です。現実世界とは一切関係ありません。 ※コメントや感想などは受け付けることはできません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 ※孤児、脱字などチェックはしてますが漏れもあります。ご容赦ください。 ※表現不足なども重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけたら幸いです。(それはもう『へぇー・・』ぐらいに。)

大嫌いな歯科医は変態ドS眼鏡!

霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
……歯が痛い。 でも、歯医者は嫌いで痛み止めを飲んで我慢してた。 けれど虫歯は歯医者に行かなきゃ治らない。 同僚の勧めで痛みの少ない治療をすると評判の歯科医に行ったけれど……。 そこにいたのは変態ドS眼鏡の歯科医だった!?

大丈夫のその先は…

水姫
恋愛
実来はシングルマザーの母が再婚すると聞いた。母が嬉しそうにしているのを見るとこれまで苦労かけた分幸せになって欲しいと思う。 新しくできた父はよりにもよって医者だった。新しくできた兄たちも同様で…。 バレないように、バレないように。 「大丈夫だよ」 すいません。ゆっくりお待ち下さい。m(_ _)m

とある男の包〇治療体験記

moz34
エッセイ・ノンフィクション
手術の体験記

身体検査

RIKUTO
BL
次世代優生保護法。この世界の日本は、最適な遺伝子を残し、日本民族の優秀さを維持するとの目的で、 選ばれた青少年たちの体を徹底的に検査する。厳正な検査だというが、異常なほどに性器と排泄器の検査をするのである。それに選ばれたとある少年の全記録。

人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている

井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。 それはもう深く愛していた。 変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。 これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。 全3章、1日1章更新、完結済 ※特に物語と言う物語はありません ※オチもありません ※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。 ※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。

処理中です...