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デート①
しおりを挟む*五条side
五条「よし、終わり。縫合頼む」
交通事故で運ばれて来た子どものオペが終わった。
オペは4時間近くかかり、時計を見るともう13時前。
五条「悪いが後任せる。宇髄先生に引き継いどくから、ICU入ったら宇髄先生に指示もらって」
助手「かしこまりました」
早くひなのところに帰らないと……。
縫合は助手に頼んで、術後のことも宇髄先生に引き継がせてもらった。
宇髄「気にせんでいいから。早く帰ってやれ」
五条「ありがとうございます。すみません、よろしくお願いします」
今日、ひなとデートだったことはみんな知っている。
宇髄先生もこう言ってくれて、俺は急いで家に帰った。
ガチャッ——
五条「ひな!ただいっ……ま……」
リビングのドアを開けると、ソファーで眠るひなが。
五条「ひな……」
スヤスヤ眠るひなの目元が赤い。
服も所々濡れていて、ローテーブルには丸まったティッシュが無造作に散らかっている。
ごめん……。
ひなは今日のデートをすごく楽しみにしてた。
今朝の電話、ひなの声がどんどん震えて、早口になって、泣くのを堪えているのだと気付かないわけがない。
ひなも医者になろうとする身で、医者である俺のことをいつも理解してくれる。
だけど、もう主治医でもない。
ひなにとって今の俺は、医者である前に彼氏だ。
何度もリスケになった上に、デート当日、それも約束の時間直前にドタキャンされるなんて、悲しくて怒りたくて仕方なかったはず。
どれだけ泣いたのか、相当な涙を流して疲れ果てたんだろう。
五条「ひな……ごめんな、本当に悪かった……」
そう呟きながら、ひなの頬にそっと手を伸ばすと、
……熱い
今度はおでこや首を触ってみるが、やっぱり熱い。
なんで……
そんなに高くないと思いつつ、体温計で測ってみると37度6分。
すぐに聴診して、ひなのおでこに冷たいタオルと身体にブランケットをかけた。
それから、俺は着替えてキッチンへ。
朝食を一緒に食べる約束だったから、ひなは絶対に朝から何も食べてない。
何か食べさせないと……
と、ちょうどひなの好きなさつまいもがあったんでさつまいも粥を。
そしてお粥を作り終え、おでこのタオルを取り替えようとすると、
ひな「ん……」
ひなが目を覚ましかけたので、
トントン……
五条「ひな?」
軽く肩を叩き声をかけたら、ひなはゆっくり目を開けた。
ひな「五条先生……」
五条「ただいま。ごめんな、遅くなって。デート、行けなくなって本当にごめん……」
言いながら頭を撫でると、ひなの目からポロポロと涙が溢れ出す。
ひな「うぅ……ヒック、五条先生……グスン」
ひな……
五条「約束守れなくて悪かった。ずっと楽しみにしてたのにな。ごめん、ごめんな……」
ひなの涙を見ると、より一層、自分の不甲斐なさを感じてやまない。
何度も謝りながら、ひなの止まらない涙を拭った。
けれどひなは、
ひな「違ぅ……グスン、五条先生は悪くない……ヒック、ヒック」
と首を振るばかりで、決して俺が悪いということにしようとしない。
言葉を変えて俺が悪いと伝えてみるも、一生懸命それを否定される。
そして、そうこう言ってるうちに、
ひな「悲しいの……自分のせいだかっ……コホッ……コホコホ、コホッ!」
ひなが咳き込み始めた。
五条「大丈夫か?ごめんな、ひなしんどいな……」
そう言いながら、ひなの身体を横に向けて背中をさする。
ひな「コホコホッ……コホッ……グスン……コホッ!」
五条「咳出てきちゃったな……ひな?今な、ひなお熱が出てるんだ。少しだけ、もしもししてもいいか?」
と言うと、ひなは熱があると思っていなかったようで、一瞬、驚きと不安が入り混じる顔を見せたが、素直にコクッと頷いてくれた。
五条「そのまま楽にしててな。すぐ終わるから」
と、服の隙間から手を入れて聴診する。
熱、上がってきてるな……。
着替えた服を脱衣所に持って行った時、洗濯カゴにバスタオルが入っていて、浴室も濡れていた。
ひなは今朝シャワーを浴びて、そのせいで熱が出てる。
その後、ソファーでずっと寝ていたことも追い討ちをかけたんだろう。
冬の寒い朝にシャワーするなんて、いつもなら間違いなく叱るけど、今日は叱れない。
デートのためにそうしたんだろうし、俺のせいで、心も身体もしんどい思いをさせてしまったから。
ひな「コホッコホッ……五条先生……病院行くの……?」
聴診を終えひなの胸元から手を抜くと、ひなが不安そうに尋ねる。
さっきよりも身体が熱くて咳も出てきたが、胸の音は今のところ大丈夫。
ただ、これから酷くなる……かもしれないが、ならない可能性だってなくはない。
であれば、今日はひなの嫌いなところになんて連れて行きたくない。
そう思い、
五条「少し風邪引いちゃっただけだから、お家で一緒にゆっくりしよう。俺がそばにいるから大丈夫」
と言うと、ひなは表情を緩めてくれた。
そして、
五条「ひなお腹空いてないか?お粥作ったんだ。朝から何も食べてないから、少しだけでも食べないか?」
ひな「おかゆ?」
五条「うん。ひなの好きなさつまいも粥。前に、お母さんに作ってもらっただろ?遅くなっちゃったけど、今から一緒に食べよう」
せめて、一緒にご飯を食べる約束だけでも果たしたい。
それに、薬も飲ませておきたいし。
というのは後付けで、俺のわがままな思いでそう言ったけど、
ひな「コクッ……食べる」
頷いてくれたので、ひなの身体を起こしてそのままリビングで一緒に食べた。
五条「食べられるだけでいいぞ。無理しなくていいからな」
食欲はあまりないだろうと、お茶碗に半分だけお粥をよそって渡したが、
ひな「これ、お母さんの味と一緒だよ。おいしい……もうちょっと食べる」
って、少しだけおかわりもしてくれて、思いの外しっかり食べてくれた。
それから、ご飯の後にもう一度熱を測って、聴診をして、首を触るとリンパが腫れてるんで、
五条「ひな、あーって言いながらお口開けて」
ひな「あー……」
喉を見てみると、案の定こっちもやられてる。
五条「喉も痛いか?」
ひな「……少し、コホコホ」
五条「よし、そしたらお薬飲もう。その咳も、喘息じゃなくて風邪のせいだ。お薬飲んだら、たくさん寝て早く治そうな」
と、家に置いてあった薬をいくつかひなに飲ませたら、俺も一緒にベッドへ入り、ひなの寝かしつけ。
ぽん……ぽん……ぽん……
俺は涅槃像の体勢で、しっかり布団を掛けた上から、ひなのお腹の辺りをリズム良く叩く。
するとひなは、すぐによく眠ってくれて、次に目を覚ましたのは夜の9時を過ぎてから。
***
五条「美味しいか?」
ひな「うん。冷たくて、おいしい」
6時間近く寝た甲斐あってか、熱は少し下がってくれて、ひなも起きて早々にお腹が空いたと、またさつまいも粥を食べてくれた。
ただ、喉の痛みが強いようでお茶碗半分しか食べられず、『アイス食べるか?』と言うと、ひなはご機嫌でアイスを頬張った。
五条「お熱はちょっと下がったけど、喉が痛いんだな……まだしんどいな」
そう言いながら、ベッドの上で嬉しそうにアイスを食べるひなのおでこに手を当てる。
ひな「ちょっとしんどいけど、アイス食べたら元気になるよ。すごく美味しいの、五条先生も食べる?」
って、いつも食べるアイスなのに、熱が出た時に食べるアイスの特別感を覚えてしまったようで、嬉しそうに俺にあーんとスプーンを向けてくる。
真っ赤なほっぺをして、無邪気な笑顔を見せるひながかわいい。
五条「そんなにアイス気に入ったのか?これから熱出たら毎回食べるって言い出しそうだな(笑)」
と言いながら、ひなにひと口アイスを食べさせてもらい、
五条「美味い。ありがとう」
頭をぽんぽんすると、ひなの赤いほっぺがさらに赤くなった。
それから、また薬を飲ませて、少し診察して、ひなを寝かしつける。
スースー寝息を立てたことを確認したら、俺は一旦ベッドを抜けて、洗い物やらシャワーを済ませて再びベッドへ。
はぁ……
今日、予定通りデートをしていたら、こうして眺めるひなの寝顔は幸せそうな顔だったはず。
まだしんどそうに眠るひなを見てると、改めて申し訳なくなって、
ごめんな、ひな……
心の中で呟きながら、そっと頭を撫でて、ひなの隣で俺も眠りについた。
でも、その数時間後……
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