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麻疹①
しおりを挟む*ひなのside
それから、数日後。
例の検査結果が陽性との連絡が入り、わたしの感染も確実に。発症は時間の問題となった。
とはいえ、特に症状もないまま1週間が過ぎ、貧血の治療はしていたものの、
藤堂「いい?咳が出たり熱が出たりしたらすぐ言うんだよ。わかった?」
ひな「どうせ今日も何もないです……。毎日聞かれても……やっぱり感染してないんじゃ……」
藤堂「ひなちゃん~……?」
ひな「うっ……はい、わかりました……」
なんて言うくらい、病室で元気に過ごしていた。
でも、隔離から10日を過ぎ。
ひな「ケホッ……」
……ん?
なんか、今の咳……
……いや、気のせいかな。
なんとなく違和感を覚えた突然の空咳。
これがはじまりの合図だったようで、
ひな「ゲホ、ゲホッ……ゴホゴホッ!」
あれよあれよと症状が現れてしまった。
***
コンコンコン——
五条「ひな大丈夫か? ごはん来てるぞ」
お昼の時間、五条先生が病室に来てくれて、わたしの身体を起こしてくれる。
五条「ん、あーん」
メニューはおかゆ。
スプーンにすくって、五条先生が食べさせてくれるけど、
パクッ……
……っ。
喉の痛みが強いせいで飲み込むのがとてもつらい。
五条「ん」
わたしが飲み込んだのを見て、五条先生は2口目を口元に運んでくる。
だけどわたしは、
ひな「フリフリ……」
首を横に振った。
五条「ん? もう食べられないか? 朝もほとんど食わなかったんだろ。体力落ちるから、もう少し頑張りな。な?」
五条先生に励まされて、もうひとくち食べるものの、
ゴクン……、……っッ。
飲み込むのが痛くて痛くて、今度は涙がぽろぽろ溢れてきた。
五条「どうしたひな……」
スプーンを置いて、わたしの手を握る五条先生。
五条「食欲ないか?」
ひな「グスン……ぅぅ」
五条「ん? しんどい?」
ひな「おかゆたべたい……けど……グスン」
五条「けど?」
ひな「のど……いたくて……食べられなぃ……っ、ゴホッ……ゴホゴホッ!!」
麻しんが治ったらすぐポリクリに戻る。
その時のために、わたしだってちゃんと食べたい。
でも、あまりに喉が痛くて正直に言うと、
五条「よしよし、わかった。しんどいな。泣かなく……ん? ひな、もしかしてまた熱上がっ……うわっ」
わたしを抱きしめかけた五条先生はおでこに手を当てると、ポケットからスマホを取り出して、すぐに藤堂先生を呼んだ。
ピピッ……
藤堂「いくつ?」
五条「40度あります。40.2℃」
藤堂「高いな……。ひなちゃんちょっとごめんね、もしもしするね」
ひな「コクッ……」
初めはいわゆる風邪症状。
咳が出るようになり、喉が痛くなり始めるのと、熱が出始めるのと。
それでも、これくらいなら……と思っていたのに、症状は日に日に強くなり、予想以上にわたしを苦しめる。
藤堂「……うん、胸の音はそこまで酷くない。それにしても身体が熱いな……」
五条「喉がかなり痛むようで、嚥下出来ないと」
藤堂「今朝も喉の腫れはあったけど……ひなちゃん、お口あーして」
ひな「ぁ……」
藤堂「もっと大きく開けられる?あーって言ってごらん」
わたしの首に触れながら、そう口の中を覗く藤堂先生。
藤堂先生の言ってることはよくわかる。
だってそうしないと……
藤堂「無理か……。ごめんね、少し我慢するよ」
……っ、……!
舌圧子で舌を押さえられる羽目に。
ひな「……っ、ッ……!!」
藤堂「ごめんね、苦しいね。辛いけどちょっと頑張って」
わたしの目にはすでに涙が光るけど、藤堂先生は容赦なく舌圧子を押し当てて、ペンライトで喉を照らす。
ひな「……っ、……ッ、っ!」
嘔吐反射に襲われるのに、込み上げてくるものを放つことも飲み込むことも出来ず。
苦しさから逃げようにも、
五条「ひな動かないよ。鼻で息してごらん」
五条先生に頭をがっしり持たれているから、顔を背けることも叶わない。
そうして耐えること、体感1分。
実際には、まぁ、10秒くらい。
ひな「オエッ……っ、ゴホッ、ゴホゴホッ……!!」
ようやく解放してもらえると、
藤堂「喉の腫れが酷くなってる。これじゃあ痛いはずだ」
ということで、鎮痛剤と咳止めが処方され、ごはんを食べる代わりに栄養剤も点滴された。
そして、夜になると症状はさらに悪化して、
藤堂「ひなちゃん、水分は取れてる?」
ひな「フリフリ……あまり……」
藤堂「最後にいつ飲んだ?」
ひな「……おひる」
藤堂「お昼? 僕が診察来て、お薬飲んだ時?」
ひな「コクッ……」
藤堂「点滴終わってからも飲んでないの?」
ひな「コクッ……」
食事どころか水すら飲めなくなってしまい、夜通し点滴を繋げられることに。
***
それから、3日後。
五条「ひな~?」
五条先生の声がして、うっすらと目を開ける。
五条「ひな」
あれから、わたしの身体にはついに発疹ができ、それも瞬く間に全身へ広がって、動くこともままならない状態に。
いつの間にか点滴も、24時間繋がりっぱなし。
この点滴がなければ、わたしは今生命を維持できないんだろうなって、自分でもそう思う。
五条「しんどいな」
五条先生の手がわたしの頭にそっと乗る。
五条先生……。
そう呼びたいのに、声を出す力がない。
ぼーっとするけど、五条先生の優しい顔はちゃんとはっきり見えてるのに……。
五条「ひな、眠れてるか……?」
頭にあった五条先生の手が頬へと移る。
そういえば、わたしまともに眠れてない。
高熱、咳、喉の痛み、吐き気と嘔吐、そして、発疹の痛痒さ。
ぐったりしているはずなのに、目を閉じてもどこかずっと意識のあるような朦朧としている感じ。
目の下に酷いクマでもできてるのか、五条先生は少し眉をハの字にして、目の下をなぞるように頬を撫でる。
五条先生の手、冷たくて気持ちいいな……。
頬を撫でられるのが気持ちよくて、わたしは急になんだかうとうと。
一方、五条先生は、
五条「熱がこもってるか……」
頬を撫でるのと反対の手で布団の中にあるわたしの手を握り、独り言みたいに言って、
五条「ひな暑くないか? 暑いよな、ちょっと待ってな」
わたしの手足が出るように布団の位置を整えると、再びわたしの手を握り、熱を測るようにおでこにも手を。
五条「少し楽になったか?」
そう聞かれ、返事ができない代わりに、わたしはそっと目を閉じると……
……………なんか、すごく心地いいな……。
身体はぽかぽか暖かくて、でも、肌に触れる空気は少し冷たくて……。
ふかふかなベッドに乗って、雲と一緒に空を流れてるみたい。
わたし、今夢の中なのかな……?
こんなに気持ちよく眠れるの、すごく久しぶり……。
…………ん? ……あれ?
……っ。
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