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 優也を殺した犯人がアトリエも傷つけて出ていった。それが利奈の推察だった。

「その犯人が十文字省吾だと、きみは疑っているんだな」

「疑っていないわ。確信しているの」

「なら十文字はどうやって優也を殺したっていうんだ?」

「それをあなたに推理してほしいっていってるのよ」

「無責任だな」

「違うわ。優也の死に責任があるから、犯人を明らかにしたいのよ」

「あっちもこっちも確証がないじゃないか」

「少なくともこっちにはあるじゃない。この十文字の群れを見て。自己顕示欲じこけんじよく承認欲求しょうにんよっきゅう、ナルシシズム。『俺がきたんだぞ』って、十文字くん、一生懸命に威張っているわ」

「これは十文字じゃない。どう贔屓目ひいきめに見てもXだ」

「彼はデザイナー。十文字をカッコよくデザインしたんじゃないかしら」

「かりにこれが十文字だとしても、ヤツの動機はなんだ? どうしてヤツが優也を殺す必要がある? ヤツは優也を本当の身内のようにかわいがっていたんだぞ」

「ずいぶんと十文字くんの肩を持つのね」

「きみこそ、どうしても十文字を犯人あつかいしたいみたいだ」

「事実だからよ」

「何度もいわせるな。確証がない」
 
 俺たちは、Xだらけのアトリエの真ん中で、テーブルを挟んで向かい合っている。

「仕方ないわね……」
 
 利奈は小さくいって、ふとガラス戸の外に目をやった。

「口にする気はなかったけど。あなたがごねるからいうしかないわ。十文字くんには動機があるのよ。優也を殺す動機も、このアトリエを切り刻む動機もね」

「それを早くいってくれ」
 
 不機嫌な俺の抗議を無視して、利奈は逆に訊いてきた。

「もう気づいているわよね? じつはあるものがこの部屋から消えているの」

「十文字一号だろ?」
 即座に俺はこたえた。
 
「正解」
 利奈は目を細め、固い表情をちょっとだけゆるめた。

 十文字一号。

 南極にいったという愛らしい伝説の人形の名前ではない。スーパーヒーローが乗るウィングのついたカッコいいオートバイの名前でもない。

 家具デザイナー兼木工職人、十文字省吾が、学生時代に初めて作ったベッドの名だった。
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